海外進出先での安全対策の重要性

フォーカス中部
海外進出先での 安全対策 の 重要性
中経連では、企業の海外進出支援に資するセミナーの開催や後援などを通じ、
会員企 業に対して情 報 提 供を継 続 的に行っている。昨 今のISIL( I s l a m i c
State in Iraq and the Levant:イラクとレバントのイスラム国)によるテロの頻発等、不安定な世界情
勢を受け安全対策への関心が高まっていることから、中経連は、昨年度に引き続き外務省と共催で安全
対策に関するセミナーを8月に開催した(本誌11月号にセミナー要旨を掲載予定)。
本特集では、国・地域別の危険度と経済成長率予測からなる散布図を作成し、各国を4つのセグメント
に分類してみた。
この散布図が、海外進出を検討する際の参考情報の一つとなれば幸いである。
世界のテロ事件は増加している
約 1.3倍、中部圏は1.5倍に増加している
(図表2)。
過去10年間、世界のテロ事件・死者数は概ね増加
また、企業の海外駐在員も海外投資と共に増加し
傾向にある。2004年と2013年を比較すると事件数は
ている
(図表3)。特に中部圏企業は、全国平均と
約1.9倍、死者数で約1.8倍と増加している
(図表1)。
比較して海外投資件数の伸びが高いことから、他
地域よりもテロ事件に巻き込まれる可能性が高ま
中部圏企業のグローバル化は進展している
っていると考えられる。中部圏企業にとって、海外
テロ事件が増加している中、中部圏、ひいてはわ
での危機管理は極めて重要である。
そこで、各国の
が国企業のグローバル化も着実に進展している。
「危険度」
に注目し、海外進出検討の一つの要素と
全 国の企 業の海 外 投 資 件 数は 1 0 年 前と比 べて
して取り上げセグメンテーションを試みた。
図表2 全国・中部圏の海外投資件数
図表1 世界のテロ事件・死者数は増加傾向にある
2004年以降のテロ事件発生件数および死者数の推移
(件、人)
16,000
中部圏
14,000
全 国
発生件数
1.3倍
480
460
6,000
440
4,000
420
2,000
380
400
360
2004年
3,213
8,219
2005年
2,280
7,761
2006年
3,755
9,918
2007年
4,395
11,985
2008年
3,408
9,386
2009年
5,114
9,980
2010年
5,971
10,253
2011年
4,539
8,759
2012年
6,000
11,275
2013年
6,037
14,779
(出所)公安調査庁「国際テロリズム要覧」
12
1.5倍
(千人)
8,000
発生件数
死 者 数
4,259
32,039
(件)
増加率
図表3 海外長期滞在者(民間企業関係者)
10,000
0
2,818
24,799
2014年
(出所)東洋経済新報社「海外進出企業総覧」
死者数
12,000
2003年
中経連 2015.9
340
320
300
200
3年 004年 005年 006年 007年 008年 009年 010年 011年 012年 013年 014年
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
(出所)外務省「海外在留邦人数調査統計」
(出所)IMF
「World Economic Outlook Databese,April 2015」、外務省海外安全ホームページ 渡航情報(2015.7.1時点)
中経連 2015.9
13
フォーカス中部
危険度と経済成長率予測の2軸で世界を見る
一般に、 先進国は社会・治安が安定しているが
IMFが公表している2020 年までの経済成長率予
測をもとに中経連が独自に作成した散布図である。
経済は低成長 、 新興国・開発途上国は社会が不
危険度が低い国・地域(C・Dゾーン)は全般的に
安定ではあるが経済成長は先進国と比べて高い
経済成長率予測が5%以下に集中しているのに対
というイメージがあるのではないだろうか。図表4
し、危険度が高い国・地域(A・Bゾーン)の経済成
は外務省が公表している国・地域別の危険度と、
長率予測はばらつきが大きいことがわかる。
図表4 国・地域別 危険度×GDP成長率予測の散布図
Aゾーン
Bゾーン
Cゾーン
Dゾーン
5
4
危険度
3
2
1
-1%
0%
1%
2%
3%
4%
5%
6%
7%
8%
9%
10%
11%
12%
13%
GDP成長率予測(2013−2020年平均成長率)
高い
対象国
危険度
低い
Aゾーン
Bゾーン
Cゾーン
Dゾーン
低い
高い
GDP成長率予測
Aゾーン
Bゾーン
Cゾーン
Dゾーン
危険度3以上
GDP成長率予測5%以下
危険度3以上
GDP成長率予測5%以上
危険度2以下
GDP成長率予測5%以下
危険度2以下
GDP成長率予測5%以上
IMFが公表している2020年のGDP予測値から上位100カ国
※1を対象国とした
GDP成長率予測 IMFが公表している2013年のGDP確定値※2と
2020年のGDP予測値から8年間の年平均成長率を算出
(横軸)
危険度
(縦軸)
外務省が公表している渡航情報(2015年7月1日時点)※3
同じ国でもエリアごとに危険度が変わるが当該国で最も高い
危険度を採用した
※1 上位100カ国で全世界のGDP99%を占める
※2 多くの国・地域のGDPデータの確定値が2013年・2014年に集中しているため
2013年との比較とした
※3
危険度
図表上の表現
退避を勧告します。渡航は延期してください。
5
渡航の延期をお勧めします。
4
渡航の是非を検討してください。
3
十分注意してください。
2
表示なし。
1
(出所)IMF
「World Economic Outlook Databese,April 2015」、外務省海外安全ホームページ 渡航情報(2015.7.1時点)
12
中経連 2015.9
中経連 2015.9
13
フォーカス中部
図表5 OECD加盟国の危険度は1、経済成長率は5%以下に集中
OECD加盟国の散布図
Aゾーン
Bゾーン
トルコ
5
イスラエル
危険度
4
メキシコ
3
2
1
ポーランド
オーストリア
ルクセンブルク
スペイン
デンマーク
オーストラリア
ギリシャ スロバキア アメリカ
ドイツ
ノルウェー
ポルトガル
チェコ イタリア
Cゾーン
-1%
韓国
イギリス
カナダ
ベルギー フィンランド
ハンガリー
スウェーデン ニュージーランド
フランス
スロベニア
オランダ
スイス
チリ
アイルランド
0%
1%
2%
3%
4%
5%
Dゾーン
6%
7%
8%
9%
10%
11%
12%
13%
GDP成長率予測(2013−2020年平均成長率)
(出所)
IMF
「World Economic Outlook Databese,April 2015」、外務省海外安全ホームページ渡航情報(2015.7.1時点)
図表6 OECD非加盟国の危険度・経済成長率ともに振れ幅が大きい
OECD非加盟国の散布図
Aゾーン
5
アルジェリア
アゼルバイジャン コロンビア
ロシア
危険度
チュニジア
サウジアラビア
ペルー
エクアドル
ウガンダ
-1%
0%
1%
2%
3%
4%
ウズベキスタン
フィリピン
マレーシア
インドネシア
ヨルダン ザンビア
5%
ミャンマー
コンゴ
スリランカ
モロッコ
コスタリカ
カザフスタン
ブラジル
アルゼンチン クロアチア 南アフリカ ベラルーシ バーレーン トリニダード・トバゴ
ガーナ セルビア
クウェート
アラブ首長連邦 ラトビア ウルグアイ
オマーン
ルーマニア
Cゾーン
コートジボワール
タンザニア
アンゴラ
リトアニア カタール ドミニカ
シンガポール
Bゾーン
ケニア
エチオピア
スーダン
タイ
パラグアイ
ブルガリア
インド
レバノン
カメルーン
ベネズエラ
3
1
イエメン
イラク
ナイジェリア
4
2
イラン
リビア
トルクメニスタン
バングラデシュ
パナマ
グアテマラ
ボリビア 中国
台湾
香港
ベトナム
Dゾーン
6%
7%
8%
9%
10%
11%
12%
13%
GDP成長率予測(2013−2020年平均成長率)
(出所)
IMF
「World Economic Outlook Databese,April 2015」、外務省海外安全ホームページ渡航情報(2015.7.1時点)
OECD加盟国はCゾーンに集中・非加盟国は
全てのゾーンに拡散
4つのゾーンを相対的に見て、
Dゾーンにプロット
図 表4をベースに、主に先 進 国で構 成される
された国は、社会・治安が安定しており、かつ経済
OECD加盟国のみを抽出したものが図表5、非
成長率予測が高い国であるため、有望な投資・進
加盟国のみを抽出したものが図表6である。図表
出国として考えられる。反対にAゾーンにプロットさ
5のOECD加盟国は前述の先進国のイメージ
れた国は社会・治安が不安定でかつ経済成長率
通りの図となり、ほとんどの国・地域がCゾーン内
予測も高くないため、投資・進出をより慎重に検討
に収まっている。一方、図表6のOECD非加盟
する地域と言える。Cゾーンは経済成長率予測が
国は危険度・経済成長率予測ともに振れ幅が大
さほど高くない地域であるが、社会・治安が安定し
きく、全てのゾーンに拡散した図となっていること
ているので投資・進出先として、ある程度見通しが
がわかる。
14
投資・進出先として見たそれぞれのセグメント
中経連 2015.9
読める 国として考えらえるのではないだろうか。
中経連 2015.9
15
フォーカス中部
企業の進出意欲が高い国は危険度が
高い国が少なくない
インドやアセアン諸国など、企業が今後
拡大を図る国(図表7)の中には図表6の
Bゾーンにプロットされている国が少なく
ない。投資・進出にあたっては、安全対策
に十分に配慮する事が重要であろう。
図表7 海外進出の拡大を図る国・地域ランキング
国・地域名
順位
1
中国
2
タイ
3
4
5
国・地域名
順位
順位
6
台湾
7
シンガポール
インドネシア
8
アメリカ
9
ベトナム
9
国・地域名
順位
国・地域名
11
韓国
16
ブラジル
12
マレーシア
17
ロシア
西欧
13
フィリピン
18
中・東欧
香港
14 メキシコ
インド
15 ミャンマー
※黄色はBゾーンにプロットされた国
(出所)
ジェトロ
「海外ビジネス調査」2014年
海外での危機管理・安全対策についての情報源①
外務省海外安全ホームページ
外務省が提供している海外安全情報サイト。各国のエリア別の
危険情報や感染症情報、安全対策のための冊子などが閲覧でき
る。また、大使館・総領事館等の在外公館の活用方法や、各種統計
資料が掲載されている。
サイトURL:
http://www.anzen.mofa.go.jp/
海外での危機管理・安全対策についての情報源②
RiskMap2015
RiskMapは、コントロール・リスクス社が世界各国・地域における
セキュリティ・リスクおよび政治リスクについて年次予測したもの
であり、毎年、年初に発表されている。同社は事業運営上の様々
なリスクに関して、インテリジェンスをベースとしたコンサルティ
ングおよびアドバイザリー事業をグローバルに展開している。
RiskMap2015に関する問合せ先:
同社グループ東京オフィス
tokyo@controlrisks.com
中経連の今後の取り組み
先の状況について常にアンテナを高くしておく必要
本特集では、各国のGDP成長率予測と危険度
がある。中経連は、今後とも引き続き、企業の海外
からなる散布図を作成し、傾向を探るなどのスタデ
進出に資する情報提供活動を行っていくが、外務
ィをするとともに、①世界のテロ事件が増加してい
省との共催セミナーをはじめとした危機管理に関
る中、②中部圏企業の海外展開は進んでおり、か
する情報提供活動についても精力的に行っていき
つ③企業の海外展開における興味・関心国は危
たいと考えている。
険地域が少なくないことから安全対策が重要であ
ることを述べてきた。世界中でテロが頻発しており、
その動きは日々目まぐるしく変化している。このた
め、外務省やジェトロ等の相談窓口の利用や、海外
(国際部 和田 耕一朗)
【参考文献】
外務省、公安調査庁、
ジェトロ、
IMF、
東洋経済新報社の各種統計データ等
の機関が提供している情報等を活用しながら進出
14
中経連 2015.9
中経連 2015.9
15