第14 分科会 図書館を語る

第 14 分科会 図書館を語る
図書館の役割を再考する
基調報告 『図書館のめざすもの』新版と旧版
竹内悊(図書館情報大学名誉教授,元日本図書館協会理事長)
報 告 嶋田学(瀬戸内市新図書館開設準備室長)
報 告 加藤容子(津山市立北陵中学校)
報 告 濱田幸子(図書館友の会全国連絡会)
フロアトーク「参加者それぞれのめざすもの」
コーディネーター:小池信彦(調布市立図書館館長)
分科会概要
基調報告要旨
『図書館のめざすもの』新版と旧版
『中小都市における公共図書館の運営』が 1963 年に発
表され,そこに示されたモデルをもとに公共図書館振興
が図られてきた。社会が大きく変化し図書館に期待され
竹内悊
(図書館情報大学名誉教授,元日本図書館協会理事長)
る役割も変化し,あらたなモデルを求める声も多くある
なか,いくつか方向を示すものも出てきている。モデル
⒈ 旧版について
についてさまざまな意見もありそもそも図書館とはなに
1997 年,日本図書館協会発行。1990 年代に日米の図
かを考える支柱が求められている。
書館協会はそれぞれ 21 世紀の図書館像を模索した。日
『図書館のめざすもの 新版』
(竹内悊編・訳,日本図
本は図書館員の専門職制について海外調査を行い,米国
書館協会,
2014 年 10 月発行)は,
1997 年の初版では『ア
は『アメリカ社会に役立つ図書館の 12 か条』を出版した。
メリカ社会に役立つ図書館の十二か条』を紹介する本で
この 12 か条と米国の図書館友の会の『図書館協約』他
あったが,それを契機に日本各地で「めざすもの」が生
1 篇とを訳出したのが旧版である。
まれた。このたびの新版は,2010 年改訂の『十二か条』
2. 米国での改訂
に沿った改訂にとどまらず,各地の実践の紹介などを含
変転する社会情勢に対応するため,2010 年,
『12 か条』
め図書館の役割を考える材料となっている。編訳者・竹
の改訂が行われた。
内悊氏による本書に関する解説と,市立図書館,学校図
3.『めざすもの』新版
書館,住民運動の関係者による報告,その後,コーディ
2014 年出版。米国の『めざすもの』二つを対比しな
ネーターによって参加者と報告者の意見交換を行い,こ
がら,日本での『めざすもの』の実例を 4 件挙げ,相互
れからの図書館について広い観点から語る「場」とする。
に比較しながら図書館を考える手がかりを用意した。
4. 今回の分科会
(小池信彦:調布市立図書館館長)
新旧版の紹介とともに,日本の実例 3 件の起草と実践
に関わった方々の発表を聞き,討議を深め,足元を固め
たいと期待している。
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従を求める専制政治から国民を守ることを目的とする,
基調報告
唯一の機関なのです」という言葉は,そのままに残って
『図書館のめざすもの』新版と旧版
います。ここに,民主主義とは政治思想や既に確立した
竹内 悊
(図書館情報大学名誉教授,元日本図書館協会理事長)
政治体制ではなく,国民が毎日築きあげて行くものであ
り,そのためには国民すべてに公開されている「考える
材料のコレクションが必要なのだ」という主張がはっき
昨年のこの時期に『図書館のめざすもの」の新版が出
り示されています。そこに米国の図書館員の,これこそ
て,今年の大会で分科会が開かれ,皆さんのご討議を頂
自分の仕事,という意識を見る思いがするのです。
くことになりました。これは編著者として望外の幸せで
あるとともに,この本で述べた「ここで生きるための図
書館」という考え方がそれぞれの分野に根付き,人の生
活を深め,広げてゆくことを願っております。
3.『めざすもの』新版について
旧版は図書館について米国の考え方を,他の二つの文
献とともに紹介しました。新版には『われわれがここで
生きてゆくためには,こういう図書館を」という考え方
1. 旧版のこと
が集まっています。それは編著者がそうしたというより
旧版は 1997 年,日本図書館協会から発行されました。
も,手元に集まってきた材料がそういう声を上げたので
実は 1994 年に日本図書館協会は,21 世紀を前にして英,
す。しかもそれは,絶対にそうせよ,という規範的なも
米,
スエーデンの図書館の専門職制度調査を行いました。
のではなく「私たちはこういう風に考えています」とい
おそらく米国図書館協会も同様な考え方で調査研究を進
う報告なのです。それは次のように並んでいます。
めていたのでしょう。その結果 1995 年 12 月に『アメリ
(1)米国の 12 か条二つ。
カ社会に役立つ図書館の 12 か条』(12 Ways Libraries
(2)日米の図書館友の会の宣言。
are Good for the Country)を発表しました。私は,こ
(3)日本のめざすもの 4 点。
れを皆さんに読んで頂けたら,地下深く流れている図書
(4)それぞれのめざすものについて。
館への思いが,地表ににじみ出てくるであろうと思い,
編著者としては,ここに挙げた「めざすもの」それぞれ
その訳文をまとめました。驚いたことに,にじみ出るど
について,比較という目で読んでいただくことを期待し
ころか噴水のように各地の「図書館のめざすもの」が発
ています。比較というと優劣の判定ととられがちですが,
表されたのです。それはうれしいことでした。もちろん
本来は比較の対象となるものを並べて考え,そこから自
そうなるまでには,各地でそのことが考えられ,発表さ
分の考えを見直し,より深くより確かな考えを打ちたて
れてもいたのです。その上に,この本を購入して配布さ
る方法の一つなのです。米国の 12 か条二つを並べたの
れたり,購入を勧められたりした方々のお力も大きかっ
は,簡潔な説明と懇切丁寧なそれとの別々な長所を見る
たと思います。その学習会も各地で開かれました。そう
ことができましょう。また,われわれ外国人としてはあ
いう動きが,
さまざまな形で今日まで続いているのです。
まりに簡潔な表現は理解が困難です。友の会の宣言から
は,ふたつの国の間での,類似と相違とが読み取れるで
しょう。日本のめざすもの 4 点からは,それぞれの背景
2.米国での改訂
の違いが見えてくると思います。一つの読み方としては,
1990 年代からの不況,それに伴う税収不足,そして
先ず(3)から始め,(2)に至り,それから(1)に,と
緊迫した国際情勢は,米国の図書館の大きな打撃となり
いう順序を取ると,身近なところから広い世界へという
ました。公共図書館も大学図書館も分館が閉鎖され,専
旅ができるのではないでしょうか。
門図書館で廃止されたところもあります。司書の帰休措
置は生活上の問題をもたらしました。この背後には,コ
ンピュータを使えば図書館はいらない,という短絡的な
4. 今回の分科会
発想もありました。こうした状況に対応するため,旧版
4 つの実例のうち,3 件についてそれをまとめ,かつ
の懇切な説明を簡略化し,図書館界への普及度を高めよ
実践しておられる方々のお話を聞きましょう。
『未来を
うとして,2010 年に改訂が行われました。それでも,
ひらくゆふいん図書館』については次のアドレスでご覧
初版の「公共図書館はアメリカ社会において,無知と服
ください:http://www.yufuin-zaidan.jp/pg96.html
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『めざすもの』として簡潔にまとめると,読者は自分の
解釈と感性とでそれを豊かに展開することができます。
しかしその一方で,文言にとらわれてその基盤となる深
い考えを見過ごすこともあるものです。その実例がラン
ガナタンの『図書館学の五法則』だといえましょう。そ
こで今回は,それぞれの『めざすもの』を支える部分,
言葉に現れない部分についての発表を聞き,足元を固め
て「自分たちのめざすもの」を考えたいと思います。
第 101 回 全国図書館大会 東京大会
ホームページ掲載原稿
2015 年 9 月 30 日現在 ― 3 ―