画像解析論講義資料11

画像解析論(11)
画像解析論(11)
-MAP-MRFに基づく画像処理-
東京工業大学 長橋 宏
主な講義内容
• ビジュアルラべリング
• 近傍システムとクリーク
• MRFとGRF
• MAP-MRFについて
1
画像解析論(11)
2
ビジュアルラベリング
[Besag, J (1974)]
統計的手法による画像処理では,通常の画像処理の用語
以外にも,統計的手法の用語も用いられる.
サイト(site)
--- 画素や特徴などの配置情報識別子
(規則的配置と不規則的配置を含む)
m個のサイトのインデックス集合 S  {1,  , m}
例えば,画素,エッジ,領域などの集合
ラベル(label)
--- サイトに起きる事象.
(連続と離散,順序関係の有無などを表現)
離散ラベル集合 Ld  {l1 ,  , lM }(li  {1,  , M }) :
M種のインデックスの集合やM濃度階調の集合
画像解析論(11)
●
サイト集合の例
m個のサイトのインデックス集合 S  {1,, m}
例えば,画素,エッジ,領域などの集合
●
ラベル集合の例
離散ラベル集合Ld  {l1 ,, lM }( {1,, M }) :
M個のラベル(インデックス)集合
連続ラベル集合Lc  [ X l , X h ]  R :
実数線上の区間 : [ X l , X h ]
濃度ラベル集合L  {0, 255} :
M個の順序付きラベル集合
3
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ラベリング問題
多くの画像処理問題が,ラベル L によるサイト S の
ラベリング問題として記述される.
サイト集合 S のサイト si (i  1,  , m)に,ラベル集合
L から1つのラベルを選び,割り当てる.
L   li | i  1,  , M 
S から L への写像関数 : f ( si )  f i , f i  {l1 , l2 , , lM }
f :S L
全てのサイトが同じラベル集合を共有するならば,
m
 配置空間 : 
L

L
L

L


m
4
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近傍システム
画像処理と同様に,MRFでも近傍系という概念が
重要な役割を果たす.
サイト集合 S 内の各要素は隣接システム(N - system)に
よって互いに関係付けられる.
N - system : N  {N i | i  S }
N i は,サイト i に隣接するサイトの集合.ただし,
1) i  N i ,
2) i  N j  j  N i
規則的サイトの例
0
0 x 0
0
0 0 0
0 x 0
0 0 0
1次隣接系(NS1) 2次隣接系(NS2)
5
4
3
4
5
4
2
1
2
4
3
1
x
1
3
4
2
1
2
4
5
4
3
4
5
1~5次隣接系
5
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6
クリーク(Clique)
クリークとは
無向グラフG  (V , E ),
(V:頂点集合,E:エッジ集合)の
クリーク C とは,
𝐶 ⊆ 𝑉,かつ𝐶に属する任意の2頂点を繋ぐ辺が𝐺に存在
する(完全グラフとなる)頂点の集合
クリークに属する頂点数をクリークの
大きさと呼ぶ
2
1
6
完全グラフの例
左のグラフにおけるクリークは
{1,2,4}のみ.その大きさは3
4
5
3
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クリークの表現
NS2システムにおけるクリークの型と接続関係
(d)
C1  {{i} | i  S }
(e)
(g)
C2  {{i, i ' } | i '  N i , i  S }
(f)
(h)
(シングルサイト)
(ペアサイト)
C3  {{i, i ' , i '' } | i, i ' , i ''  Sで互いに隣接}(トリプルサイト)
全てのクリークを集めたもの:C  C1  C2  C3  
クリーク中のサイトには順序関係がある  {i, i ' }  {i ' , i}
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Markov Random Field (MRF)
物理現象における空間的,文脈的な依存
関係を解析するための確率論の1つ.
サイト集合 S 上のランダム変数の族
F  ( F1 , F2 ,  , Fm )
において,各ランダム変数 Fi はラベル集合
L内の1つの値をとる.この値をf i  {l1 , l2 ,  , lM }と
するとき, ( Fi  f i ) と表す.
結合事象 ( F1  f1 , F2  f 2 ,  , Fm  f m ) を,
F  f , f  ( f1 , f 2 ,  , f m )
と簡略表記.
8
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Fi が値 f i をとる確率:
P( Fi  f i ),P( f i )と略記.
その結合確率:
P( F1  f1 ,  , Fm  f m ), P( f )と略記.
連続なラベル集合 Lに対しては,
確率密度関数 : p ( Fi  f i ), p ( F  f )
𝑭が次の2つの条件を満たすとき,
1) P( f )  0, f  F , (F:結合事象集合) 正値性
2) P( f i | f S {i} )  P( f i | f N i ) マルコフ性
𝑓𝑁𝑖 = {𝑓𝑗 |𝑗 ∈ 𝑁𝑖 }
『𝑭は,隣接システム𝑁に関するサイト集合𝑺上の
マルコフ・ランダム場である.』
(Markov Random Field)
画像解析論(11) 10
Gibbs Random Field (GRF)
ランダム変数Fの事象配置がGibbs分布に従うとき、
Fは,Nに関するS上のGibbsランダム場と呼ばれる.
P( f ) : 特定の配置パターン f の生起確率(事前情報).
Gibbs分布:P( f )  Z 1  e
Z
e
1
 U( f )
T
1
 U ( f ')
T
f 'F
U ( f )   Vc ( f )
;正規化定数
F:結合事象(パターン)集合
; エネルギー関数
cC
Vc ( f ) : 全ての可能なC上のクリークポテンシャル
画像解析論(11) 11
あるGRFのVc ( f )が、S上のクリークCの
相対的な位置に依存しないとき,
 均一性GRF
方向に対して独立なとき,  等方性GRF .
エネルギー関数:U ( f )
U ( f )   Vc ( f )
cC

 V ( f )  V ( f , f
{i}C1
1
i
{i , j }C 2
2
i
j
)
V ( f , f
3
{i , j , k }C3
i
j
, fk )  
ペアサイトクリークまでを考慮した場合,
U ( f )   V1 ( f i )    V2 ( f i , f j )
iS
iS jN i
総和のサイト表現
画像解析論(11) 12
Markov-Gibbs Equivalence
局所的な性質で特徴付けられるMRF
等価
大局的な性質で特徴付けられるGRF 
MRFの結合確率P( f )を特定する手段の提供
同時に,MRF に基づく確率統計モデルの最適化問題を
エネルギー最適化問題とすることが可能.
画像解析論(11) 13
文脈情報の表現
画像処理・理解では,文脈情報が重要.
確率の観点からは,局所的な条件付確率
によって文脈情報を表現.
サイトi におけるラベル f i
サイトj ( j  Ni )におけるラベル f j
条件付確率 P( f i | f Ni ), f Ni  { f j | j  N i }
直接的に観測可能な局所的情報から
大局的情報を推論する.
画像解析論(11) 14
MRFによる画像特徴表現
基本的な概念:
2つのラベル間の文脈的拘束:
単純,低コスト  広く利用.
 通常,ペアサイトクリークまでを考慮.
U ( f )  V1 ( f i )   V2 ( f i , f j )
iS
iS jN i
 V1 ,V2を目的毎に選択.
特定のMRF(GRF)を構成可能.
幾つかの代表的なモデルが存在.
画像解析論(11) 15
ベイズの定理と条件付き確率
𝑃 𝑓1 , ⋯ , 𝑓𝑚 =
(𝑓1 , 𝑓2 , ⋯ , 𝑓𝑚 の結合事象の生起確率)
𝑃 𝑓𝑖 𝑓1 , ⋯ , 𝑓𝑖−1 , 𝑓𝑖+1 , ⋯ , 𝑓𝑚 𝑃(𝑓1 , ⋯ , 𝑓𝑖−1 , 𝑓𝑖+1 , ⋯ , 𝑓𝑚 )
𝑓𝑖 が,サイト𝑖の近傍値のみに依存すると仮定
𝑃 𝑓𝑖 𝑓1 , ⋯ 𝑓𝑖−1 , 𝑓𝑖+1 , ⋯ , 𝑓𝑚 = 𝑃 𝑓𝑖 𝑓𝑁𝑖 ,
𝑓𝑁𝑖 = {𝑓𝑗 |𝑗 ∈ 𝑁𝑖 }
一方,𝑃(𝑓1 , ⋯ , 𝑓𝑖−1 , 𝑓𝑖+1 , ⋯ 𝑓𝑚 )は,
𝑃 𝑓1 , ⋯ , 𝑓𝑖−1 , 𝑓𝑖+1 , ⋯ , 𝑓𝑚 =
𝑓𝑖 ∈𝐿 𝑃(𝑓1 , 𝑓2 , ⋯ , 𝑓𝑖 , ⋯ , 𝑓𝑚 )
従って,サイト𝑖における事象𝑓𝑖 の条件付き確率は,
𝑃 𝑓𝑖 𝑓𝑁𝑖
𝑃(𝑓1 , 𝑓2 , ⋯ 𝑓𝑚 )
=
𝑓𝑖 ∈𝐿 𝑃(𝑓1 , 𝑓2 , ⋯ , 𝑓𝑖 , ⋯ , 𝑓𝑚 )
画像解析論(11) 16
Auto Logistic Model
𝑓𝑖 ∈ 𝐿 = {0,1}で,ペアサイトまでの文脈を考慮.
ポテンシャル関数,条件付き確率を以下のように仮定.


U ( f )    i f i    i , j f i f j    i f i    i , j f i f j とすると,
{i}C1
{i , j }C 2
iS 
jN i

exp{ i f i   jN  i , j f i f j }
i
P( f i | f Ni ) 
 f {0,1} exp{ i f i   jN  i, j f i f j }
i

i
exp{ i f i   jN  i , j f i f j }
i
1  exp{ i   jN  i , j f j }
i
ただし,𝑓𝑁𝑖 = 𝑓𝑗 |𝑗 ∈ 𝑁𝑖
分布が均一ならば、 i   ,  i , j  として良い.
画像解析論(11) 17
Multi-Level Logistic Model
𝑓𝑖 ∈ 𝐿 = 1, ⋯ , 𝑀 とし,ペアサイトクリークまでを考慮.
(Auto Logistic Modelの一般化)
 単一サイトクリーク:
V1 ( f i )   i , もし f i  i  L
 ペアサイトクリーク:
  C , {i, j}  C2が同一ラベル
V2 ( f i , f j )  
 C , それ以外
ここで, i : ラベルiに対するポテンシャル,
 C ( 0) : ペアサイトポテンシャル.
ポテンシャル関数は
U ( f )  V1 ( f i )   V2 ( f i , f j )
iS
iS jN i
画像解析論(11) 18
クリークポテンシャルの例
i
i
j
i

1
j
2
j
i
3
i
j
4
モデルが等方性の場合, C  1   2   3   4 で,
このときのMLLにおける条件付確率は
𝑃 𝑓𝑖 = 𝑚 𝑓𝑁𝑖
𝑒𝑥𝑝{−𝛼𝑚 − 𝛽𝑐 ∙ 𝑛𝑖 𝑚 }
= 𝑀
𝑚=1 𝑒𝑥𝑝{−𝛼𝑚 − 𝛽𝑐 ∙ 𝑛𝑖 𝑚 }
ni (m) : mのラベルを持つ,近傍集合N i中のサイト数
画像解析論(11) 19
(不規則サイトの例)
a
b
h
c
p
f
q
n
i
m
近傍系の定義
e
l

g
Ni
d
k
t
o
r
u
j
s
Nj

画像解析論(11) 20
Bayes推定
あるリスクを最小化して最適値を推定する
推定値 f * のBayesリスクは,
R( f * )  
f F
C ( f * ,f ) P( f | d )df
(リスクCの期待値)
C ( f * , f ) : コスト関数, d : 観測値
p( d | f ) P( f )
P( f | d ) 
, 事後確率
p(d )
p(d | f ) : ラベリング f の尤度関数
画像解析論(11) 21
1次のコスト関数
*

0
,
||
f
 f ||  のとき
*
C( f , f )  
1, それ以外のとき
2次のコスト関数
C ( f * , f ) || f *  f || 2
C( f * , f )
C( f * , f )

(a)

f* f
f* f
(b)
画像解析論(11) 22
1次コスト関数によるBayesリスク
R( f * )  
f :|| f  f ||
*
 1 
P( f | d )df
f :|| f *  f ||
P( f | d )df
R( f * )を最小化する f * 
f :|| f * f ||
P( f | d )df を最大化
2次コスト関数によるBayesリスク
R( f * )  
f F
R( f * )
0
*
f
|| f *  f || 2 P( f | d )df
f*
f F
f  P( f | d )df
(ラベリング f の事後確率平均)
画像解析論(11) 23
1次コストによる推定では一般に  0.
従って,最小リスク推定は,f *  arg max P( f | d )
f F
MAP (maximum a posterior)推定
観測されたdに対する確率p(d )を一定とすると
P( f | d ) 
p(d | f ) P( f )
 p ( d | f ) P( f )
p(d )
MAP推定は等価的に:f *  arg max{ p(d | f ) P( f )}
f F
さらに,事前確率P( f )をフラットと仮定すると
f *  arg max p(d | f ) ;最尤推定
f F
画像解析論(11) 24
MAP-MRF Labeling
P( f | d )の導出  MRF
1 U ( f )
P( f )  e
, U ( f ):事前エネルギー
Z
P( f | d ) p(d )  p(d | f ) P( f )
p(d | f ) P( f )
P( f | d ) 
 p(d | f ) P( f )より、
p(d )
事後エネルギーU ( f | d )に関して
U ( f | d )  U (d | f )  U ( f )
MAP推定:事後エネルギーを最小化する f
f *  arg min U ( f | d )  arg min U (d | f )  U ( f )
f
f
画像解析論(11) 25
MAP-MRF法の概要
1. 与えられた問題を適切なMRFモデルで表現.
2. MAP解を定義する事後エネルギーを導く.
2  1) サイト集合S上の近接システムNと,Nに対する
クリーク集合を定義.
2  2) U ( f )を定義する事前クリークポテンシャル
VC ( f )を定義.
2  3) 尤度エネルギーU (d | f )を導く.
2  4) 事後エネルギーU ( f | d )  U ( f )  U (d | f )を得る.
3. MAP解を探す.
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MAP-MRF法と正則化
ビジョンにおける不良設定問題を良設定化する
一般的枠組み: 正則化(Regularization)
滑らかさ拘束条件の付加(事前仮説)
MAP- MRF法において
[ f ( n) ]2 の事前エネルギーを考えた場合と等価.
画像解析論(11) 27
主な参考文献
Besag, J. ;”Spatial interaction and the statistical analysis of lattice systems'‘,
Journal of the Royal Statistical Society, Series B, 36, pp192--236 (1974).
S. Geman and D. Geman, "Stochastic relaxation, Gibbs distributions, and the
Bayesian restoration of images," IEEE Trans. on PAMI, vol. PAMI-6, no. 6, pp.
721--741, (1984).
S.Z.Li, Markov Random Field Modeling in Computer Vision, Springer-Verlag,
(1995)