第2回宇宙環境利用専門委員会 資料5 2015.12.5 宇宙環境利用科学(微小重力科学/宇宙生命科学)分野 大目標統合ロードマップの検討(骨子案) 石川正道(日本マイクログラビティ応用学会) 高橋秀幸(日本宇宙生物科学会) 1.微小重力科学及び宇宙生命科学の大目標: 「宇宙惑星居住科学」 人類の宇宙開発・利用は、最近の国際宇宙ステーション(ISS)計画に代表される国際協力 に基づく有人宇宙活動の経験を経て、月、さらには火星への進出・長期居住を目標として発 展しようとしている。これまでの軌道上科学実験により、宇宙の特徴的な複合環境が広範な 物理・化学・生命現象に強く影響する事実が明らかになってきた。例えば、重力生物学分野 では、生命の基本原理やメカニズムに関する従来の知見の多くが、地球の 1G 環境に依存して いることが示された。また、物理科学分野では、宇宙での微小重力環境に注目して地上では 測定困難な現象が発見・解明されている。 「宇宙惑星居住科学」は、宇宙環境を有効に利用して、従来研究されてきた物理・化学・ 生命現象の普遍性を明らかにしてその本質の解明に迫る物理科学、生命科学を追求すると共 に、様々な応用科学、工学を惑星探査活動という観点から融合・発展させ、さらには人間科 学・社会科学とも連携して英知を結集し、人類の宇宙での長期居住を目指す。 宇宙惑星居住科学の研究成果は、地球での人類の生活・健康・医療・文化などへ還元する ことにより、地球の急激な環境変化への適切な対処を通した環境保全を可能にし、地球での 人類の永続的生存や社会福祉の向上、並びに地球の未来を担う次世代の科学技術人材の育成 に貢献する。 2.宇宙惑星居住科学の小目標 A. 月軌道周回実験・観測ステーション ・月面科学研究を補完する微小重力実験:物理科学、生命科学、応用科学研究に係る対照実 験の実施。 ・閉鎖生態系生命維持システム研究:物質循環型植物栽培実験システム、重力・放射線複合 環境生物影響評価、制御システム・解析技術の開発。 ・理工学実験:月面上での科学研究、月資源利用等に係る理工学実験。 B. 月面科学ステーション ・低重力環境を用いた応用科学研究:材料プロセシング、植物栽培実験、重力・放射線複合 環境生物影響評価、継世代発生成長データ収集、微生物生態系評価、ヒトの月面環境への 適応性評価、物質循環型生命維持・居住システムなど、これまでの微小重力研究、有人技 術開発を補完、発展する実証研究。 ・月環境に固有な科学研究:月表面は、地質的、生物的、人間活動によるノイズに起因する 外乱がない環境、例えば、弱い月磁場、太陽風及び地球磁場テールのプラズマ環境、イオ ン化放射線環境、無大気・水及び他の揮発成分無し、地球生物圏からの隔離、大規模真空・ 極低温環境などを利用した科学研究の実施。 ・月資源利用技術開発:物質循環・再利用プロセス実験、月資源利用水素・酸素製造プロセ ス開発。エネルギー開発試験。 1 3.小目標達成のための研究分野 ・物理科学:プラズマ物理学、低温物理学、生物物理学。 ・生命科学:重力生物学、放射線生物学、微生物生態学、宇宙航空環境医科学、圏外生物学。 ・応用科学:流体科学、材料科学、コロイド・ソフトマター科学、結晶成長、医学、農学。 ・システム開発:燃焼工学、熱流体工学、化学工学、材料工学、エネルギー工学、環境工学、 安全管理工学、資源工学、生態工学。 ※研究分野毎の研究課題は、JASMA/JSBSS の RFI を参照。但し、今後の見直しが必要。 4.具体的な研究手段 ・生命科学研究衛星:微生物・植物・動物系における宇宙環境暴露試験(その場観察・分析 技術、植物栽培制御・解析システム、動物飼育制御・解析システム、遺伝子発現・エピゲ ノム解析など実験技術開発を含む) 。 ・月面理工学ラボ:月環境計測・材料試験・理工学実験(月面上でのテレサイエンス実験施 設)。 5.小目標を主として月に設定する理由 (1)月が有する宇宙環境は ISS 科学研究の成果の実証・発展を可能とする 月面の重力場(0.17G)は、0G と 1G を補間する重力場であることから、ISS で行われた微小 重力科学研究の成果の実証・発展を可能とする。加えて、極低温、低磁場、太陽放射線など月環 境固有の特性と組み合わせることによって、地球環境では困難な科学研究(物理科学、生命科学、 応用科学)を推進できる。 (2)有人宇宙技術の成果を月面活動へと継続する必然性 月面環境は、ISS が晒されている宇宙環境と類似しており、地球からのアクセスも 3 日程度と 身近にある唯一の惑星であることから、太陽系惑星環境での生物生存性、閉鎖型生命維持技術な ど、宇宙空間にてヒトが持続的に生存し、探査活動を可能とするための科学研究、技術開発・実 証の場を与える。 (3)月の資源開発・利用による有人惑星探査の経済性追求 月には水素、酸素などを含む鉱物資源が存在し、月資源開発は、ヒトの生存に必要な水、推進 燃料など経済的資源の供給を可能とする。月には大気がなく、重力も小さいことから、地球から の輸送と比べて大幅なコスト低減が可能となるなど、有人惑星探査に向けた物資補給の経済性追 求の新たな選択肢を可能とする。 (4)我が国の月探査計画との整合性 「かぐや」に続く月探査計画として、小型月着陸実証機(SELENE-2)の開発に着手し、 平成 31 年度の打ち上げを目指すこととなった。これらの開発実績を踏まえ、さらに戦略的 な開発を視野に入れた次期月探査ミッションが検討されており、月面環境を利用した理工学 ミッションに向けた課題提案が期待されている。 参考資料: 国際宇宙探査協働グループ、 「国際宇宙探査ロードマップ」第 2 版(2013) . 内閣府、 「宇宙基本計画工程表」 (平成 27 年度改定) . 2
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