選評 - 教育美術振興会

全国審査員からひとこと
山本 文彦 筑波大学 名誉教授
幼・保の作品に、「力作」が目立ちました。
子どもたちが楽しく力いっぱい描いている姿
を思い浮かべながら、なぜこんなに「息苦し
い 」 の か、 い ぶ か し い 思 い で し た。 筆 使 い、
共通の技法と色彩、表現の仕方、精一杯の力
闘……。小学校にも、同一題材、構図の作品
が散見されました。展覧会という発表の場に
向けて、指導の方向にかたよりがあるのでは
井川 精一 子どもは、自分の経験と創造の間を行った
り来たりしながら自分の思いを描きます。子
福岡県福岡市立三筑小学校長
大石 京子 子どものそのままの思いを大事に
ブラーニング』の意義等」について述べられ
中央教育審議会教育課程企画特別部会の「論
点整理」では、「学習活動の示し方や『アクティ
国立教育政策研究所教育課程調査官
岡田 京子 子どもをよく見て指導の改善を
ないかと懸念しています。
今回、初めて審査に携わりました。全国か
ら寄せられた元気あふれる作品に触れ、子ど
どもの素朴な線や形、色をみつけながらその
て い ま す。 そ こ に は、 本 来 の 目 的 を 見 失 う 特
子どもたちの視点
もたちの視点の多様さにとても驚きました。
思いに寄り添った支援をしてほしいです。
NHK制作局青少年・教育番組部チーフプロデューサー
絵を通じて子どもたちが日々感じていること
い よ う に、 指 導 方 法 の 見 直 し や 改 善 が 重 要 で
NHKでは2月 日(日)に「ぼくの絵わ
たしの絵」という番組で作品を紹介する予定
です。また全国各地で展覧会も 実施します。
清原知二 関西学院大学 教授
子どもの話に耳を傾け、
成長にそった作品を
年も期待しています。
子 ど も を よ く 見 て、 よ り よ く 生 き よ う と し て
あると説明されています。それには、先ずは、
ず笑顔にします。
しいですね。
す。
表現して人は人になる
い る 子 ど も た ち を 感 じ る こ と が 大 切 で す。 来
うみだす・あみだす・つくりだす
大坪圭輔 武蔵野美術大学 教授
表現することを楽しんだ作品は、たくさん
の作品の中でも存在感があり、みる人を思わ
石丸 良成 東京都立府中けやきの森学園 主任教諭
人は何ゆえ人となったかは永遠の問題で
す。文化人類学や生物学、哲学、宗教学など
来年もすばらしい作品を楽しみにしていま
療育的な活動内容も取り入れ、
造形活動は、
自己実現を繰り返し行う活動です。そして、
絵は認識の発達を表すものです。これは本
人の成長課題を、自ら獲得しす る過程です。
小中学生の期間を含めて続くと考えていま
様々な分野からの推論がありますが、ひとつ
りました。
ら、子ども の思いをくみ取り促 す仕事です。
の答えがここ全国教育美術展の審査会場にあ
人は表現することで人となったのです。そ
して、その表現は表現者自身のものでなけれ
先生の思いが入って作品をつくらせるような
空間認識を広げる試みであり、自我を確立す
ば な り ま せ ん。 す な わ ち、 絵 を 描 く こ と は、
絵が多くあるように感じました。子どもの話
る歩みとして意味あるものと思われます。 創 造 空 間 で は、 素 材 の 音 や 質 感、 手 応 え や
色 と 形 の 変 化 は「 創 造 の タ ネ 」 で あ り、 心 に
自ら考え、自ら想像し、自ら判断した学習の
に耳を傾け、成長にそった作品を今後も期待
す。そこにいる先生はその成長を見守りなが
残った印象や情報は「想像力のネタ」となって、
結実であり、人として成長した証です。
幼児は、全身の感覚器を総動員して、人や
物や自然や環境を感知し、感察しています。
定 の 学 習 や 指 導 の「 型 」 に 拘 泥 す る 事 態 の な
を知ることができました。
教師はどこまで子どもに任せられるか。子
どもの発想や表現をもっと信じて見守ってほ
写っているのは、全国審査員の先生方と協力企業の株式会社サクラクレパス幹部の皆さん。このほか写真には写っていませ
んが、全国からお手伝いに集まっていただいたサクラクレパス社員のみなさん、事務局スタッフ、会場をお貸しいただいたお
茶の水女子大学附属小学校の先生方などに支えられて全国審査は行われました。
地区審査でも、全国で 300 名に及ぶ地区運営委員をはじめ、お手伝いいただいた方々のご協力で今年も全国 2,600 校あ
まりの幼稚園・保育所、小・中学校、特別支援学校、海外日本人学校などからおよそ 12 万点の作品が集まりました。それら
の作品の中から特に教育的に価値の高い約 1 万 1 千点の作品が全国審査のために会場に運び込まれました。
作品が生まれ編みだされつくり出されます。
したいと思っております。
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山本先生(全国教育美術展 担当理事)
写真(上から)
井川さん、石丸先生、大石先生、
大坪先生、岡田先生、清原先生、
全国審査員からひとこと
第75回 全国教育美術展
全国審査員からひとこと
よそゆき顔
郡司明子 群馬大学 准教授 子どものあるがままの表情と、かしこまっ
ておめかしした表情の違いは、 明らかです。
この違いは作品にも表れます。教室から外に
愛知県名古屋市立神の倉小学校長
絵から聞こえる子どもの声
鈴木三朗 信一 筑波大学 副学長・教授 教室から生まれる 表「現の芽 」
玉川
教室では、設定した目標や技法を守って指
小学校1年生から3年生までの作品を審査
子どもたちが自身で対象を詳細に観察して得
導者のねらい通りに作品を仕上げることを評
子どもたちは、題材を受け止め、思いを膨
られる驚きや作業は失敗してもそこから生ま
らませ形と色を工夫して表現します。この絵
れる思いがけない結果を積極的に経験するこ
しました。子どもたちの思いのあふれた色彩
は、先生がどんなふうに題材を提案したのだ
とでもあります。
価の基準 にしてしまいがちで す。表現とは、
ろう。子どもは、何に心を動かされたのだろ
豊かな作品がたくさんありました。
そのことを賞賛する……。もしも、このサイ
う。そんなことを想像しながら、子どもの声
予定調和ではない子どもたちの「表現の芽」
を、指導者はその都度注意深く掬い上げて欲
出ていく美術展の性 さ
(が で
) し ょ う か。 後
者のよそゆき顔をした作品の多さに驚くばか
クルにあるとしたら、私たちはその指導と審
が聞こえる作品を選びました。
しいと願っています。 表現をさておき、よそゆき顔に つくり込む、
りです。子どもが自らの感覚や活動で捉えた
査のあり方を問い直さねばなりません。「あ
りのままの〜」と歌わずにはいられない子ど
れ冒険がしにくい立場であっても、自己満足
した。私たち現場の教員は、シラバスに縛ら
が気になる」といった厳しい感想も耳にしま
先生方の「毎年、同じ指導者による同じ構図
するばかりでしたが、レギュラーの審査員の
最終審査まで来ると、この子はどれだけの
時間この絵と向き合ってきたのだろうと感心
小見山 昌子 広島県福山市立一ツ橋中学校 教諭
生徒と一緒に新しい挑戦を……
に裏付けされた指導をすることです。柔らか
たちの思いに寄り添い対応できる柔軟な思考
じ取り、大人の目線や思考ではなく、子ども
に大切なことは、子どもたちの息吹を常に感
品はどうやって生まれるのでしょう。指導者
る者に伝わってくることです。このような作
どもの心の声や姿、息吹が躍動感を持って見
心惹かれる魅力的な作品が数多くありまし
た。これらの作品に共通していることは、子
瀧聞 京子 群馬県沼田市立利南東小学校 教頭
子どもたちの想いに寄り添って
もの心に根付かせて頂きたく思います。
援助のほうがずっと大切。そうして 描
「くの
が楽しい」「絵で自己表現する喜び」を子ど
指導より、つっかい棒的に暖かく手を添える
はとても嬉しい。幼児の場合、手を引っ張る
は一目瞭然であり、そういう絵に出合えるの
齢相応に明るい、その子が実感して描いた絵
たくさんの絵を楽しみつつ緊張して審査し
ました。造形発達を研究している私には、年
中川 織江 ハリウッド大学院大学 客員教授
もの声が響きます。
のワンパターンに陥らず、生徒たちと新しい
全ての子供たちは豊かな存在である
松山 明 子どもの豊かさをうけとめる指導の工夫
描「くのが楽しい 心
」 の根を育てる
挑戦をし続けたいものだなと思いました。
東良雅人 国立教育政策研究所教育課程調査官
全国各地から選出された、幼稚園・保育所、
小学校、中学校、特別支援学校からの作品に
い心で子どもたちと対話して下さい。
造形表現や図画工作、美術などの創造活動
を通した学びは「全ての子どもたちは豊かな
出会える機会を楽しみにしています。
自分の作品に自信を持ち、描く活動やつくる
に 出 て し ま う と ……。 改 め て 指 導 の 大 切 さ、
もう少し肩の力を抜いて、楽しく…
ています。
生徒がさらに多く育っていくことに期待をし
難しさ、やりがいを感じました。
そのバランスが崩れ、特に教師の指導が前面
子どもの思いと教師の指導が響き合った作
品は、生き生きしていて魅力的でした。反面、
ら生まれた作品を選びました。
り添い、しっかり支えている。そんな教室か
子どもたちが思いやねがいを自分なりに工
夫して表そうとしている。それに指導者が寄
元木 正史 山形県東根市立東根小学校長
子どもたちの思い・表現・学びに
寄り添う
郡司先生
小見山先生
鈴木先生
瀧聞先生
玉川先生
中川先生
活動がバランスよく表現できる、美術大好き
と指導の工夫が必要です。中学生へと成長し、
時間となるよう、指導者はさらなる教材研究
が待ち遠しい、もっと絵を描きたいと思える
入りすぎた作品があります。図画工作の時間
今年は小学校の低学年を中心に審査いたし
ました。選ばれた作品にも、教室での指導が
大阪芸術大学講師・日本教育美術連盟理事長
存在である」ことを指導者は大切にしなけれ
ばならないと思います。描くことの中で、子
どもたち一人一人が自分の中から新しい世界
を生みだし、形や色などによるコミュニケー
ションを通して子どもたちがつくりだした世
界が他の子どもたちの世界とつながるとき、
真の創造活動の意味や価値を子どもたちが受
け取るのだと思います。子どもの活動を作業
として見るのではなく学びとして見つめるこ
との大切さを、今一度考える必要があるので
はないでしょうか。
年齢相応が す て き で す
導しすぎこそ反省しなければなりません。自
んな作品より年齢相応がすてきなのです。指
う。目に白目を描かせている作品も……。そ
パの顔にチークが描き込まれているのでしょ
景に色がぬってあるのでしょう。どうしてパ
が表現できない子どもたちなのにどうして背
回を重ねるごとに年齢にふさわしくない作
品が増えていくことに驚いています。奥行き
平田智久 ばもっと楽しくかけるのにな、と考えながら。
ことができないな、もうすこし肩の力を抜け
くなりました。私は、あんなにがんばらせる
益々子どもたちが活動している様子を知りた
ん ば っ て か い た ん だ ろ う な、 ご 苦 労 様! と声をかけたくなる絵が多くて驚きました。
てみたいな、と考えながら審査しました。が
子どもたちはどんな気持ちで絵をかいてい
るのだろう、そして、作品について話を聞い
堀井
武彦 お茶の水女子大学附属小学校 教諭
ら感じ考える人間を育てているのですから。
十文字学園女子大学 教授
東良先生
平田先生
堀井先生
松山先生
元木先生
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右の列
(上から)
69
左の列
(上から)