ユースフォーラム「青年力で開く日本の未来」 第3回 ポスト・ミレニアム開発目標を

ユースフォーラム「青年力で開く日本の未来」
第3回 ポスト・ミレニアム開発目標を考える
【出席者】
橋元太郎[創価学会男子部長]
浅井伸行[創価学会青年平和会議議長]
大野伸子[開発コンサルタント]
木下睦子[創価学会女性平和文化会議議長]
石谷寛興[創価学会目黒総区男子部副書記長]ほか
「今いる場所」から行動に移す
橋元太郎
第3回「青年部ユースフォーラム」に稲場雅紀さんをお迎えしました。稲場さ
んは世界の貧困問題の解消を目指して諸活動に取り組む国際的なNGOのネットワーク組
織、「動く→動かす」
(GCAP Japan)の事務局長をなさっています。
3・11 以降、日本人の意識、とりわけ若者の意識の変化がさまざまなところで指摘され
ていますが、確かに全国の男子部・学生部のメンバーと語り合っていても、社会貢献の意欲
が高まっているように感じます。
一方で、不安定な雇用環境もあり、自分の生活だけで精いっぱいだと考えている青年が
多いのも事実です。だからこそ私たち創価の青年が、社会貢献や国際貢献を遠い世界の話
とせず、自分たちの身の回りから地域や世界をも変革していけるという「ストーリー」を
描くべきです。
前回のユースフォーラムに参加していただいた社会起業家の駒崎弘樹さんも「自分の半
径5メートルをよくしていくことじゃないでしょうか。社会変革といっても、大きなこと
ではなくてその出発は小さな一歩です」と語っています。
「今いる場所」から自分たちの行動で地域も世界も必ず変革できるという「人間革命」の
哲学を、日本中、また世界中の青年に発信していきたいと願っています。本日は稲場さん
との交流を通じて、創価学会の民衆運動の可能性について議論を深めていきたいと思いま
す。どうぞよろしくお願いします。
稲場雅紀 2000 年に、人類共通の課題に取り組もうという世界的な機運が生まれました。
各地の紛争や内戦が「貧困」や「飢餓(きが)
」を原因としているものが多かったことから、
国連全体で世界の貧困をなくしていこうという「国連ミレニアム宣言」が採択されました。
そこから生まれたのがミレニアム開発目標(MDGs)です。貧困と飢餓の克服、初等教
育の完全実施、男女格差解消など、8つの開発目標を掲げ、達成すべき課題を数値化した
のです(※)。
現時点での成果のみを見れば、目標が達成できた分野は極めて少ないと言わざるを得ま
せん。しかしMDGsが定められたこと自体に大きな意味があるのです。2000 年当時、世
界でHIV治療薬を入手できたのはわずか22万人でした。それが 2010 年には世界で約
650 万人もの人々がHIV治療薬を入手できるようになったのです。MDGs策定の大きな
意義だといえるでしょう。
浅井伸行 仏法では「依正不二(えしょうふに)
」を説きます。人間と周囲の環境は相互に
密接に関連しており、自分の意識を変えることで他者や環境をよりよく変えていくことが
可能だと説くのです。そして創価学会は、人間自身の成長が根本であるとの考えから、展
示活動や講演会などを通し、平和や人権、環境などをテーマにしたさまざまな教育的活動
に取り組んでいます。
そうした経験を有する私たちとしても、MDGsの現状や今後について関心を持ってい
ます。
稲場さんのお話を伺い、具体的な目標を掲げてチャレンジしていくことの大切さをあら
ためて実感しています。2015 年にはMDGsがひとまず終了しますが、今後の途上国支援
のあり方はどのように変わっていくのでしょうか。
稲場 今後はMDGsを世界の実情に即して作り直していく必要があります。
「ポストMD
Gs」の策定です。飢餓や感染症の爆発など、緊急性を要する課題についてはこれまでの
支援活動でどうにか小康(しょうこう)状態にまでこぎつけることができました。しかし
時間をかけて取り組むべき課題は残されたままです。
代表的なものが、途上国の人口爆発や失業問題です。また続発する異常気象や大災害に
よる食糧危機も深刻です。2030 年ごろまでには、中国を含めアジア諸国の多くは高齢化の
時代を迎え、世界経済の成長を支えられなくなると思われます。そのため「資本主義最後
の成長センター」と呼ばれるアフリカおよび中東地域の経済的自立に世界全体で取り組み、
人類共通の諸課題を克服していく必要があります。
日本には少子高齢化や広がる経済格差などいくつもの課題が横たわっています。食料自
給の問題や最近では深刻な異常気象なども発生しています。日本は世界に先駆(さきが)
けてこれらの問題を経験した「課題先進国」です。その意味で途上国に対して有意義な「教
訓」を提供できる立場にあるともいえます。また私たち一人ひとりが途上国の課題を遠い
ものと考えず、自分たちの問題として受け止めることで、日本社会をよくしていく経験も
得られるはずです。
浅井
日本における諸問題の解決が世界に貢献できるという考え方は、「ポストMDGs」
を身近なものに感じさせてくれます。
大野伸子
これまでJICA(国際協力機構)やNGOのアフリカ支援事業に携(たずさ
わ)ってきました。MDGsの策定で課題を明確化し、全世界が共通で取り組む目標を定
めた点はとても有意義だったと思います。一方で支援の受け皿となる途上国側ではさまざ
まな問題が浮かび上がっています。人材不足や、十分な研修なしに激増し続ける職務のス
トレスで、現場サイドの士気は大きく低下しています。非効率な運営でワクチンや医療機
材が放置される例も数多く見受けられます。ずさんな会計管理による使途(しと)不明金
や汚職の誘発なども深刻です。リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)など、
宗教や文化を理由とした取り組みの遅れも目立ちます。
いくつもの課題の背景には途上国側の「依存性」や「やらされている意識」もあるので
はないでしょうか。ポストMDGs策定にあたっては人間の内発性を引き出すことを重視
すべきです。これまではドナー(支援国)機関が数値達成を焦るあまり、支援者側が動い
てしまうケースが目立ちました。プロセスを軽視してしまい、途上国の自発的取り組みを
待つ余裕がないのです。これでは当事者意識を引き出すことができません。
私自身、一国、ひいては全世界の宿命転換さえも、たった一人の人間革命から成し遂げ
られるのだという池田大作SGI会長の思想を大切にしながら、途上国の人たちの内発性
をいかに引き出すことができるか、ということに心を砕いてきました。結論として、持続
的な成果を出すには、「民衆のエンパワーメント(内発的な力の開花)」しかないと思いま
す。
「励まされていた人」から「励ます人」へ
橋元
もともと創価学会は、病気や貧困を理由として戦後社会の中で疎外(そがい)され
た人々を包摂(ほうせつ)してきた歴史があります。象徴的なケースが福岡港の埋立地で
あった「ドカン(土管)
」地域です。この地域は違法建築の林立や凶悪犯罪の横行でスラム
化していました。1954 年ごろ、この地で暮らす人たちに何とか幸福になってもらいたいと、
一人の婦人部のメンバーが粘り強い弘教(ぐきょう)に立ち上がったことから蘇生のドラ
マが始まりました。人生の辛酸(しんさん)をなめつくし、生きる希望を失っていた人々
を力強く励まし続け、多くのメンバーが誕生していきました。そして信仰を根本に人生に
勝利し、「励まされていた人」たちが今度は人を「励ます人」へ変わっていきました。一人
ひとりの人間革命による民衆の蘇生のドラマこそ、創価学会の歴史的なルーツなのです。
稲場
ポストMDGsを考える場合、疎外感を抱いてしまっている人にいかに光を当てて
いけるかは焦点になると思います。助ける側と助けられる側といった硬直(こうちょく)
した枠組みではなく、援助される側の精神性を尊重することは重要です。
木下睦子
創価学会には座談会の伝統があります。地域で老若男女が集まり、お互いの悩
みや目標について発言をすることを通じて、現実の生活のなかで勝利していこう、との決
意を深めることができるのです。
稲場
地域コミュニティーの活性化というのは重要なテーマです。先ほどHIVの治療薬
について触れましたが、実は地域コミュニティーがしっかりしているところは、お互いの
意識の高まりもあってか、感染の拡大を防げることが明らかになっています。
石谷寛興 私も創価学会の励ましのなかで人生を切り開くことのできた一人です。
私は小さいころから勉強が苦手で、就職後もすさんだ日々を過ごしていました。そんな
私を地域の創価学会の先輩が熱心に励ましてくれました。会合に参加すると、夢を語り目
標に向かって挑戦する同世代の若者がいました。とても新鮮でした。自分も夢に向かって
挑戦してみようと思ったのです。
そうしたなか、友人の悩みに耳を傾け、励まさずにはいられないようにもなりました。
友のためにと行動していくなかで、苦手だった勉強の習慣も身につくようになり、仕事で
の実績や信頼にもつながっていきました。
かつての私には自分に無限の可能性があること、誰かの力になることなど遠い世界の出
来事でした。でも人間は「誰かのために」と深く決意した時に、より大きな力を発揮でき
ると実感しています。
世界には今なお希望とは無縁の人々がいます。かつての自分と同じです。だからこそ私
は地域社会を起点として、世界平和のための希望の火を一つでも灯していけるよう、池田
SGI会長の「他者を励ます生き方」に挑戦していきたいと思っています。
稲場
本日は皆さんから大変有意義なご意見をいただきました。ポストMDGsでは、先
進国が作り上げた支援プログラムを途上国へ一方的に押しつけるのではなく、一人ひとり
の意識変革を促す人間の内発性を重視すべきです。思想や信条に関係なく、自分たちの実
践が「これをやってよかった!」と実感できる価値的な仕組みに作り替えていくべきなの
です。その意味で「人間革命」の思想には非常に重要な示唆(しさ)があると感じていま
す。
本年7月にMDGsに関する国連事務総長の報告取りまとめがあります。9月の国連総
会ではMDGsに関するハイレベル会合も開かれる予定です。今、国連には市民社会の声
に耳を傾けようという機運が生まれています。ポストMDGs策定についても9つのテー
マでヒアリングが行われています。世界50カ国・地域で市民団体が参加するナショナル・
コンサルテーション(国際協議)が開催されているのです。私たちも参加を予定していま
す。本日皆さんからお寄せいただいたご意見も世界へ発信し、国際機関や各国の政府、N
GO等との連帯を深めていきたいと思います。
※MDGsで定められた8分野は以下のとおり。①極度の貧困と飢餓の撲滅(ぼくめつ)
②普遍的初等教育の達成
削減
③ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上
⑤妊産婦の健康の改善
延(まんえん)防止
④幼児死亡率の
⑥HIV/エイズ、マラリアその他疾病(しっぺい)の蔓
⑦環境の持続可能性の確保
ーシップの推進。
(月刊誌「第三文明」2013 年 4 月号より)
⑧開発のためのグローバル・パートナ