「『メンテナンス元年』を考える ~これからのインフラ

第7回 国土文化研究所オープンセミナー
「『メンテナンス元年』を考える
~これからのインフラ管理とその社会的意義について~」
講
演
概
1.セミナー概要
要
3.藤野先生の講演要旨
日 時:平成25年7月16日(火)18時~20時
続いて、藤野先生に「インフラのメインテナンス
と事故・災害」と題して 70 分間のご講演をしてい
テーマ:「メンテナンス元年」を考える
ただきました。
~これからのインフラ管理とその社会的意義について~
場 所:日本橋浜町Fタワープラザ3階ホール
講 師:藤野 陽三特任教授
(1)インフラとその特徴
(東京大学大学院工学系研究科総合研究機構)
・インフラとは見えないものの意であり、非競争
性、非排除性という性格を有している。
2.維持管理の現場からの話題提供
・自然環境、道路などの社会的インフラストラク
今回のセミナーでは、講師の藤野先生のご講演の
チャー(社会資本)、教育や医療などの制度資
前に、当社の技術部門から以下の 3 題について、話
本(システム)を合わせて、社会的共通資本と
題提供を行いました。
する考え方もある。インフラとは、人間が人間
らしい生活を行うための文明の装置ともいえる。
「橋梁の維持管理の現状と課題」
・橋などのインフラは町のランドマークであり、
東京本社 インフラマネジメントセンター 立山次長
思い出の場所、記憶のリファレンスとなり得る。
「トンネル構造物の現状と維持管理への取り組み」
そのためには安全、長持ちが求められる。
東京本社 道路・交通部 野村部長
・インフラとは、高い公共性、長い供用期間(世
代を超える、誰がどれだけ使うか不確定、損傷
「河川管理施設の現状と今後の維持管理に向けた取組」
東京本社 水工部 小畑部長
や事故の予測が困難、古いものを相手にしなけ
ればならない)、単品性(条件が一つ一つ異な
る)などの特徴を有し、しかもそれらがネット
ワークを形成しているために影響が広域に及ぶ。
(2)インフラや災害での想定外
・インフラでは予期せぬこと、想定外のことが起
こりうる。
・想定外はしばし弁明に用いられるが、サッチャ
ー元英首相の言葉に、「予期せぬことは起こる、
準備せよ」とある。
・無駄と余裕は紙一重であり、無駄の価値を可視
化することが必要である。
当社社員による
話題提供
・守るための無駄の重要性を認識することも必要
である。経済学は合理化の視点で捉えるが、イ
ンフラをそのように見ることが逆の意味の無駄
上から
立山次長
野村部長
小畑部長
を生むことになる。
・勝手な思い込みが想定外を生む原因ともなる。
1
(3)災害と事故
(7)インフラの事故災害を無くすために
・日本は自然災害大国であり、日本のインフラは
・社会基盤のマネジメントには、アセットマネジ
これらの自然災害と隣り合わせという宿命を持
メント、リスクマネジメント、ストックマネジ
っている。
メントの側面があり、それらのバランスを考え
・近年、自然災害による人的損害は減少している
た対策が必要である。
一方で、物的被害は漸増し、欧米に比べて経済
・過去の地震などの事例から、耐震補強の必要性
的なハンディキャップとなっている。
が認識されているが、古い構造物は脆弱性が高
く、こうした既存不適格への注意が求められる。
(4)日本のインフラの安全
このため、技術基準の改定を定期的に行い、脆
・日本のインフラは経済の高度成長期に膨大なス
弱性の高いものを明確にすることが必要であり、
トックが蓄積されたが、これらが次第に高齢化
それには、点検・モニタリング・診断が重要と
を迎えている。
なる。
・それとともに人口減少社会となり、新設も困難
・政府の「成長戦略」や「総合科学技術会議」な
になっていることから、 高齢化してなおかつ
どにおいて、「次世代インフラの整備」がうた
酷使される状況にある。
われるなかで「点検技術・補修技術開発の重要
・インフラは修理しようにも、使用しながら更新
性」が示されてきている。
をしなければならないという困難さがある。
・想定外を想定内に収めるためには、例えば、ア
ンカーならアンカーそのものを把握するセンサ
(5)アメリカの経験
ーではなく、アンカーがどのような環境で使わ
・アメリカでは 1960~70 年代にかけてインフラ
れているか把握することで、設計で考えていな
に関する事故が増加したことから、目視による
かったことが起こっているかどうかを見極める
検査が義務化されるなど、維持管理の重要性が
ことが必要である。
認識されるようになった。
・インフラの異常については利用者も注目する必
・ニューヨークのヤネフ博士は「橋守」と呼ばれ、
多くの橋梁について健全度の見える化をはかり、
要がある。利用者からの通報も大事である。
・カリフォルニア大学の金森教授の言葉にあるよ
維持管理投資への議会の同意を得た。彼が著し
うに、インフラは強固で粘り強いものであると
た橋梁マネジメントについての本には、「技術、
ともに、情報技術をうまく活用し、想定外に備
経済、政策、現場の統合」との副題が付けられ、
・えることが肝要である。
そこにはメンテナンスの哲学から手法までが記
されている。博士は、適切な維持管理を施せば
インフラの物理的寿命はかなり長くなるという
結果を明らかにしている。
(6)日本のインフラの維持管理
・日本のインフラの維持管理を調べた結果、維持
管理に関する自治体の予算はきわめて少なく、
またデータも限られている実態が明らかとなっ
ている。
・過去に維持管理の投資を行った自治体の方がよ
り健全であり、そうでない自治体は近いうちに
講師の藤野陽三先生
相当の投資が必要となる。
2
4.質疑応答
5.おわりに
(質問)
昨年 12 月に発生した笹子トンネルの事故以来、
社会基盤マネジメントにおける割引率設定につ
インフラの維持管理に関する社会的関心が高まって
いてどう考えるか?
きています。この事故を受け、国土交通省では今年
(回答)
を「メンテナンス元年」として位置づけ、学問とし
将来の様々な事象の不確実性を考慮すると、割
てのメンテナンスエンジニアリングを確立すること
引率はゼロでよいというのが経済学の考えにあり、 の必要性や産官学の連携の大切さを指摘しています。
完全にゼロではなくても、限りなくゼロに近くて
また、土木学会においても「社会インフラ維持管
よいと考える。この基本思想は「将来の投資は今
理・更新検討タスクフォース」を立ち上げ、7 月に
のうちに」というものである。
は「社会インフラ維持管理・更新の重点課題に対す
(質問)
る土木学会の取組み戦略」をとりまとめ、今後の活
土木建築業界は、航空事故調査と航空業界のリ
動方針を示しています。
スクマネジメントを学ぶべきではないか?
こうしたなか、当社でもこの4月の組織改編で、
(回答)
東京本社のアセットマネジメント室を発展させたイ
事故調査委員会を国土交通省以外の第三者機関
ンフラマネジメントセンターを設置し、インフラの
が担う必要性は認識している。航空業界のリスク
保全・維持管理分野への対応強化をはかっています。
マネジメント手法を土木建築業界で活用する点に
今回のオープンセミナーは、こうした背景のもと
ついては、設計思想や安全の考え方が異なるため、 にテーマやプログラムを企画したものであり、過去
両者の特性の違いから学べるところとそうでない
7回の開催のなかで最多の149名の方にご参加いただ
ところがある。
くことができました。
(質問)
株式会社建設技術研究所では、このセミナーで得
低廉だけを追求する時代から耐久性を求める時
られた知見を今後の企業活動に生かしていくととも
代の設計思想をどのように考えるか?
に、引き続き「暮らしに役立つ眼力を養う」ための
(回答)
機会としてのオープンセミナーを企画し、皆さまと
これまで、コスト面の最適化のみを考え、耐久
ともに現代社会の様々な問題を一緒に考えていきた
性を考慮しなかった反省点がある。橋梁でも最近
いと思っています。
は耐久性を考慮し、また見えない部分(維持管理
が困難な隠れた部分)を減らすための新たな設計
思想を取り入れている。
会場との質疑応答
セミナー会場全景
3