建設工事の現場から 松原団地駅前施設(仮称) - 獨協大学

松原団地駅前施設(仮称)
建設工事の現場から
来春、松原団地駅前に竣工予定の「松原団地駅前施設
(仮称)
」
。
現在の女子寮
「敬和館」を継承・発展し、
さらに「地域と
子どもリーガルサービスセンター」
「獨協地域と子ども法律事務所」などを通じて地域との共生・連携を図るものと
して計画されたこの施設に込められた 思い を、設計・建設に携わる方々に伺いました。
[基本設計者]
(株)山下設計
東京本社
第4設計部 部長
石井 靖人さん
Yasuhito Ishii
◇建築の仕事の魅力とは?
「哲学的な要素、人間の心理や身体、社
会などあらゆる要素が関わる建築。
かたち
になって残ることもこの仕事の魅力です」
ことを目指した。﹁特に学生寮は、学
地域の人々にとっても誇りとなる
新たなシンボルとなるだけでなく、
と個性の両立が図られている。
記念館などキャンパスとの連続性
せる外観が検討され、また天野貞祐
ら、大学施設としての風格も感じさ
思い が込められた
デザインを具現化する
生時代の大切な時期を過ごす場所
になります。プライバシーと安全性
を保ちながら、いかに学生同士のコ
ミュニケーションのきっかけとな
る環境、交流空間をつくるかという
ことを考えました﹂︵野原さん︶
。
﹁ 実 施 設 計 者 ﹂と し て 建 設 に 向 け
あたる近藤さんが担うのは、練り上
﹁ 施 工 者 ﹂と し て 建 設 現 場 の 指 揮 に
た詳細設計に携わった窪谷さん、
階に設けられたラウンジは、寮内の
向けて開かれた大学施設。その奥に
ま す 。そ う し た な か で も 安 心 し て
こともあり、たくさんの往来があり
保 に つ い て も 重 視 し 、﹁ 駅 前 と い う
また女子寮としての安全性の確
た 設 計 図 。こ れ を 基 に 、イ ス や 壁 紙
乗せ、いくつもの過程を経て描かれ
い 、と い う こ と 。さ ま ざ ま な 思 い を
た 強 い 思 い と 意 図 ﹂を 大 切 に し た
口 に し た の は 、﹁ 設 計 図 に 込 め ら れ
げられたコンセプトと基本設計に、
建つL字形の建物が女子寮。公的空
生活できる環境づくりは、特に意識
る 。芝 生 で 覆 わ れ た 中 庭 も 、現 女 子
間と居住空間という、半ば相反する
一つに至るまで、より細かな要素の
などのインテリアやドアノブの
たせるステップ。その2人がともに
2つの要素が同居する新施設
しました﹂
︵ 石 井 さ ん ︶と 話 す 。外
検 討・選 定 を 重 ね 、﹁ 快 適 な 居 住 空
建物としての具体的なかたちを持
その建設計画には﹁人を育てる交流
部 と居住スペースの間に3箇所の
寮・敬和館でも育まれた、
寮生同士の
空 間 の 創 造 ﹂﹁ 人 を 守 る 安 心 で 快 適
間﹂がかたちづくられていく。
│
な生活環境﹂﹁地域・環境と共生する
セキュリティを設けることで、安全
Hiroaki Nohara
性 を 高 め る と 同 時 に﹁ 中 庭 、学 生 寮
◇建築は文系学生も目指せる仕事ですか?
「建築に限らず
『ものをつくる』
ことは、理系だ
けの聖域ではありません。文系の学生でも、
意欲があれば活躍できる仕事だと思います」
大学関連施設の配置、省エネへの配
それぞれの部屋までが、段階的に繋
と い う ように、公的なスペースから
施設全体のデザインと、建築物の
がっています。ドアを一枚隔てて外
れている。
基となる
﹁基本設計﹂
に携わった石井
と 内 が 断絶しているのではなく、空
さ ら に﹁ 地 域 と 子 ど も リ ー ガ ル
さんと野原さん。﹁異なるものの組み
サービスセンター﹂など外部との接
間にヒエラルキーを付けた設計で
学の施設として一体感を感じられる
点となる施設部分については、温も
す﹂︵野原さん︶
。
ことを心がけました﹂︵野原さん︶と
合わせであっても、機能や動線は明
語る。
そして松原団地駅とキャンパス
りを持ってまちなみと共存しなが
確に分けつつ、全体としては獨協大
の中間に位置する新施設が、大学の
野原 広亮さん
全 体 の ラ ウ ン ジ 、各 階 の ラ ウ ン ジ
繋がりを深める場になりそうだ。
動線が交わるポイントになってい
中庭に面した1階だけでなく、各
“
Profile
[基本設計者]
(株)山下設計
東京本社
第4設計部 主管
慮﹂という3つのキーワードが記さ
通りに面した平屋建ては地域に
暮らしを守り、
地域と繋がるデザイン
Profile
﹁勉強に集中できることはもち
ろん、寮室それぞれに洗面台や全身
が映せる姿見、小物の洗濯にも便利
な浴室の物干しを設置するなど、女
られています﹂︵窪谷さん︶
のだとか。
い、熱意を持った﹁つくり手﹂たち自
こ う し て 、そ れ ぞ れ の 役 割 を 担
﹁ 建 築 は 生 き 物 ﹂。竣 工 後
に期待されるもの
境づくりも心がけました。建物の随
子学生の皆さんが暮らしやすい環
所に女性スタッフの視点が生きて
身 の〝 思 い 〟も 込 め ら れ た 新 施 設 は
話す。﹁そこに暮らし、利用する人た
しかし、﹁竣工=完成﹂ではないと
次第にかたちづくられていく。
いると思います﹂︵窪谷さん︶
。
そこで暮らし、施設を利用するこ
とを意識しながら実施設計が進む。
の人たちの思いが結集していくこ
仕事の魅力は﹁建築物に携わる多く
ま た﹁ リ ー ガ ル セ ン タ ー ﹂な ど の
同じ方向を目指してつくりあげる
ま で に は﹁ 携 わ る ス タ ッ フ が 皆 で
着工前
2008年12月
1
そして建設現場では設計図に描か
での時間を、いかに﹃人間形成﹄に繋
﹁ 人 間 形 成 の 場 ﹂で も あ る 新 施 設 建
テナンス性なども考慮して、実際に
げるか。プライベートな部分を確保
と﹂だと語る皆さん。
る ﹂︵ 近 藤 さ ん ︶の だ と い う 。そ し て
使用する建材について提案を行う
しながら、集団の中で生活する環境
が 1 本 の 線 に な り 、他 の 担 当 者 と
ちの存在があって、建物は〝完成〟す
こともある﹂︵近藤さん︶
という。
を整えた上で、寮生の方々にいかに
のコミュニケーションを経て設計
れた建物の姿を忠実にかたちにす
また自然環境に配慮し省エネに
使っていただくかが、今後の施設の
設のように、〝思い〟をかたちにする
取 り 組 む 施 設 と し て 、太 陽 光 発 電
ありかたに繋がっていくのでは、と
﹁ こ の 寮 で 暮 ら し 、社 会 人 に な る ま
設 備 や 、窓 か ら の 昼 光 を 利 用 し て
図 に な る ﹂︵ 石 井 さ ん ︶。そ し て 竣 工
る一方で、﹁竣工・引き渡し後のメン
窓際の照度をコントロールする照
思います﹂︵石井さん︶とも。
楽 し さ ﹂︵ 野 原 さ ん ︶や﹁ 更 地 の 状 態
ま ず﹁ 頭 の 中 に あ っ た ア イ デ ア
明 器 具 な ど を 採 用 、屋 上 緑 化 も 行
す学生自身の地域社会への参加も
学外施設だけに留まらず、寮に暮ら
う 。さ ら に﹁ 建 設 現 場 で は 、建 設 廃
棄 物 の 発 生 を 抑 制 し 、廃 棄 物 の リ
事用の足場が外れて姿を見せる建
工 事 を 終 え 、周 囲 を 覆 っ て い た 工
物 を 前 に 、寮 生 と 利 用 者 が 見 せ る
︵ 近 藤 さ ん ︶が あ る の だ と か 。建 設
中﹂
にあることには意味がありそう。
笑顔を目指して工事が進められて
関わり合いながら発展するきっか
建築に携わる人たちだけでなく、獨
いる。
け と し て も﹁ キ ャ ン パ ス の 外 、街 の
協大学の学生もまた、新施設を完成
獨協大学で過ごす学生時代の一
部になり、また周辺地域の一部とな
る﹁松原団地駅前施設︵仮称︶﹂。その
建設に携わる人々の〝思い〟が、足場
の向こうに見えてこないだろうか。
2008年12月。
着工前の更地。
これから工事が始まる。
建物を支える大事な杭工事。地中60メートル
の深さまでなんと36本の杭が打たれる。
更に工事が進み、3・4階の床や壁をつくって
いる様子。少しずつ建物らしくなってきている。
◇建築の仕事の魅力とは?
「お客さまの要望や法規定、
そして建設地
の環境や自分の考えなども含めて
『ベストな
回答』
を見つけ、
実現する喜びがあります」
か ら 、建 物 を つ く り 上 げ る 喜 び ﹂
◇建築は文系学生も目指せる仕事ですか?
「建設技術については理系的な部分はありま
すが、生活の場をつくること、建物に思いを込め
るということには、文系も理系も変わりません」
杭工事
Naohiko Kubotani
期待されているようだ。周辺地域と
Hiroshi Kondo
2009年1月
窪谷 直彦さん
サ イ ク ル を 行 な う﹃ ゼ ロ エ ミ ッ
シ ョ ン 活 動 ﹄へ の 取 り 組 み が 進 め
近藤 宏さん
2
[実施設計者]
(株)大林組
東京本社
設計本部
建築設計 第四部
高層都市居住課
副主査
Profile
させ、大学と地域との繋がりを担う
﹁つくり手﹂
なのかもしれない。
新施設への 思い には
ものをつくる喜びも
キャンパスを越えた、もう1つの
“
躯体工事
2009年6月
3
[施工者]
(株)大林組
東京本社
東京建築事業部
獨協大学松原
工事事務所
所長
Profile
建設現場の流れを定点からキャッチ