日本大学文理学部自然科学研究所研究紀要 No.50(2015)pp.33−60 農業共済事業にみる園芸施設被害とその地域差 ―2014 年 2 月の降雪と雪害を事例に― 両 角 政 彦* Damage to Horticultural Facilities and its Regional Differences in the Management of Agricultural Mutual Aid ― Case Study of Snowfall and Snow Damage in February 2014 ― Masahiko MOROZUMI (Received November 17, 2014) This study attempted to identify those issues affecting agricultural mutual aid associations and farmers with respect to snow damage to horticultural facilities based on an understanding of nationwide trends in damage to agricultural facilities as observed at agricultural mutual aid associations along with regional differences in those trends. In Japan, horticultural facilities are extremely susceptible to weather-related damage, and even though they are the most common type of agricultural facility built, they have been frequently verified to continue to be subjected to the greatest levels of damage. Surveyed regions that suffered damage to horticultural facilities caused by snowfall in February 2014 were regions in which the damage rate in an average year is comparatively low. Regional differences in preliminary damage countermeasures, damage management and post-damage accommodations were observed in these regions. Important issues affecting agricultural mutual aid associations and farmers suffering damage once every several tens of years were considered to consist of the following: 1) implementation of preliminary countermeasures through sharing of costs, 2) implementation of comprehensive measures for changes in weather, 3) accommodation of recovery following weather-related disasters through mutual aid, and 4) curtailment of extraneous investments and acceptance of the potential for damage. The selection of these issues is affected by climate and weather changes in each region, the weather susceptibility, locations and placement of horticultural facilities, and circumstances surrounding the installation of horticultural facilities. Keywords : agricultural disaster compensation system, agricultural mutual aid associations, horticultural facilities, snowfall, snow damage, regional differences キーワード : 農業災害補償制度,農業共済組合,園芸施設,降雪,雪害,地域差 1.はじめに 業は,設備の導入と拡充によって,生産性の向上や市場 TPP(環太平洋経済連携協定)への参加表明と減反廃 シェアの拡大を見込むことができるが,その一方で建設 止に象徴される市場開放・規制緩和の動きは,日本農業 コストや維持管理コストが上昇する可能性もあるトレー を一層の市場経済化へとシフトし,グローバルな競争力 ドオフの関係を有する 1)。パイプハウスのように小型の の強化を加速させている。そこでは,農業の産業として 園芸施設は,比較的容易に導入できるが,気象変化等に の効率性が追求されるとともに,農産物の安全で安心な よる自然災害を被りやすい。ガラス室のように耐候性の 生産・流通・消費システムの構築も望まれる。農業生産 高い園芸施設は,気象災害の影響を受け難いが,自己資 が合理化し効率化する過程では,様々なリスクが増大す 金での建設は容易ではなく,維持管理コストも嵩む。施 る可能性もあるため,克服すべき課題は少なくない。 設型農業はこれらリスクの軽減や解消を常に求められて 日本では,土地利用型農業を国際競争力の強化へ向け きた農業部門である。 て大規模効率的経営へと転換するという主要命題がある 日本における園芸施設の面積的な拡大は,露地栽培に が,国内農業の地域的分業の側面からは多様な農業形態 よる商品性や季節性という制約条件を一部で克服しなが が維持され発展することも期待される。とくに施設型農 ら,他産地や類似商品との競合を回避する多様な差別化 * Department of Geography, College of Humanities and Sciences, Nihon University, 3−25−40, Sakurajosui, Setagaya−ku, Tokyo, 156−8550 Japan 日本大学文理学部地理学科 : 〒 156−8550 東京都世田谷区桜上水 3−25−40 ─ 33 ─ ( 33 ) 両 角 政 彦 の手段として,政策的支援も受けて実現されてきた。産 する設計(田中ほか,1998)のほか,パイプハウスの積 地拡大政策の下で展開してきた施設園芸は,自然災害を 雪荷重の耐力評価(川上ほか,2010)などに関する研究 被った際に,経営状況によっては生産からの撤退や施設 がある。また,基礎土壌凍結と積雪荷重について実験を の撤去という課題に直面する。農業災害の中でも園芸施 基に分析した研究(深山ほか,1980)や,屋根雪重量の 設被害は,生産環境を人為的に制御しようとしてきた人 評価と屋根雪滑落に関する研究(村松,1998)のほか, 工構造物が気象変化によって被害を受けるという特質が パイプハウスの耐雪補強方法(Moriyama et al.,2008; ある。毎年全国各地で何らかの原因によって園芸施設が 森 山,2009; 渡 辺,2012) や 省 力 的 耐 雪 設 計( 森 山, 継続的に被害を受けており(村松ほか,1998) ,この発生 2014)などが注目されている。これらの研究では,一般 のメカニズムを地域ごとに解明する意義は大きい。 社団法人日本施設園芸協会による「園芸用施設安全構造 これら園芸施設被害の復旧軽減策として運用されてき たのが,農業災害補償制度における園芸施設共済であ 基準(暫定基準)」 (1997年版)の妥当性も議論の的になっ ている。 る。園芸施設共済は, 「資産保険」の性格を有する保険 積雪そのものへの対処法として,地下水を利用した散 制度として(両角,1974;山田,1974) ,施設園芸の拡大 水融雪(大谷,1982;山辺ほか,1982)や温風送風式融雪 期にあたる 1970 年代に地域単位を基礎とする農業共済 システム(古野ほか,2003,2006)と,これらを組み合わ 組合で運用が始まった。しかし,施設園芸の縮小・再編 せた多様な雪害対策(森山,2002;細野,2007)などが検 期には制度運用上の課題もみられる。自然災害では多く 討されている。とくに細野(2007)が指摘する冬季無被 の場合,ほぼ同時期に産地内が同様の被害を受けること 覆パイプハウスの被害対策の必要性も注目される。積雪 から,どのような地域単位でいかに共済制度を運用する 地帯で施設園芸を積極的に推進する立場からは,耐雪型 のかについて,産地組織・農業者のリスクマネジメント パイプハウスの周年的利用体系とその経営評価(亀田, の側面からも検討する余地がある。 2001;亀田ほか,2006)や,耐雪型パイプハウスの周年 気象変化による農業災害に関しては,これまでに多様 利用に対する意識調査(木村,2006)に関する研究もお な分野で数多くの研究が蓄積されており,伝統的なテー こなわれている。これらの研究で焦点となるのは,雪害 マになっている。とはいえ,農業災害の発生の継続性を 対策を前提とした園芸施設の建設・資材コストやランニ 考慮すると,統計資料の整備や情報の蓄積,分析手法の ングコストの削減である。 開発,異なる研究視点からのアプローチ等によって,新 園芸施設被害の復旧軽減策の一つが,園芸施設共済制 たな事前対策・発生対処・事後対応の意思決定に向けた 度の運用である。同共済制度の運用開始の初期段階から 論点を提示することも可能になると考える。 施設園芸の特性に着目して議論が進められてきた 2)(両 以下,主として降雪による園芸施設被害に関する先行 角,1974;山田,1974;湯浅,1979)。農業共済の役割を 研究とこれに関連した研究の成果について整理したい。 明らかにした研究として,とくに長谷部・吉井編(2001) まず,園芸施設への雪害の実態について,現地調査を基 は,農業共済の総合的な研究成果に位置づけることがで にその構造特性と対策までを明らかにした研究(山下・ きる。 佐藤,1982;金谷・倉田,1985;濱嵜ほか,1995;村松 これら諸研究は,農業災害全般に関わる広義のリスク ほか,1998;森山・豊田,1999)が挙げられる。この中で, マネジメント研究の中に位置づけることもでき,農業経 村松ほか(1998)が,園芸施設雪害の主な原因について, 営の不確実性とリスクマネジメントに関する研究(南 ①屋根雪と屋根面の凍結などの原因で屋根雪の滑落が阻 石,1991,2011;天野,2000)や天候リスクマネジメント 害され,積雪荷重が増加して発生する被害,②豪雪時の 研究(上原,2003;横内,2005)のほか,作物保険に関す 停電などにより融雪や消雪装置が機能しなくなり発生す る研究(Gil,2011)と農業全体のリスクマネジメント研 る被害,③屋根から滑落した雪を処理することを前提に 究(Barry,1984;Olson,2003,2010)などとの連携が求 して設置された施設でも,適正な処理が出来なかった事 められる。さらに,農業災害に対するリスクマネジメン 例,④パイプハウスは降雪する前に被覆材を撤去するな トは,産地内外から様々な知識を蓄積し活用する必要が ど,事前の対応策が不十分な事例,以上の 4 点にまとめ あり,農業経営組織のナレッジマネジメント研究(日本 た。 農業経営学会・門間編,2011)にも深く関わる。 園芸施設に関する工学的研究では,積雪荷重とその軽 近年の園芸施設被害については,東北地方太平洋沖地 減法(高橋ほか,1981)や,積雪荷重の見直しと新たな 震による園芸施設被害に関する研究(石井,2011;石井 構造を有するハウスの特性(豊田,1997) ,積雪荷重に対 ほか,2012)や,台風対策に関する総括的な研究(玉城, ( 34 ) ─ 34 ─ 農業共済事業にみる園芸施設被害とその地域差 2012)も蓄積されている。本研究の対象事例とした 2014 害状況と被害原因から明らかにする。4 章では,園芸施 年 2 月の降雪による園芸施設被害に対しては,複数の産 設雪害の地域差と諸対応の実態を個別的対応・組織的対 地における被害の実態報告とその軽減法に関する研究 応・制度的対応に分けて捉える。5 章では,全体を総括 (深澤,2014)がおこなわれている。 した上で,産地組織・農業者の園芸施設雪害に対する課 以上のように,降雪による園芸施設被害に関する研究 題とその意味について考察する。 は,①被害の実態把握と構造特性,②被災前の事前対策 としての補強法,③気象変化時の対処としての融雪法, 2.全国の園芸施設被害の発生状況と地域的特徴 ④被災後の事後対応としての共済事業の 4 つの側面から 2-1 園芸施設の設置状況と園芸施設共済制度 研究が進められてきた。ただ,実際の被害とその原因と 日本では 1960 年代以降における農業基本法農政の下 の直接的な関係性と,被害発生の同時性を踏まえて地域 で,農業構造改善事業をはじめとする政府補助事業等に 比較の視点から分析を試みた研究は,村松ほか(1998) , よって,全国各地で園芸施設の建設が進められてきた。 森山・豊田(1999) ,深澤(2014)の報告などに限られて 図 1 には,1979 年以降における園芸施設(ガラス室,ハ いる。本研究は,農業共済事業を念頭に置きながら,気 ウス)の設置実面積の推移を示している。園芸施設面積 象変化と園芸施設被害とを直接関連づけてこの問題を地 は,1970 年代後半に 3 万 ha を超え,景気の後退局面を迎 えた 1990 年代初頭を経ても増加傾向を保ってきた。1999 域的に分析するものである。 筆者らはこれまでに,農業災害補償制度下における全 国の園芸施設被害の状況を把握した上で,沖縄県で園芸 年のピーク時には 5.4 万 ha まで拡大したが,2009 年には 4.9 万 ha となり,近年は漸減傾向にある。 施設共済事業が開始された 1989 年度から園芸施設被害 園芸施設の新設面積率は,1979 年に 8.3%(2,537ha) が収束傾向にあった 2009 年度までを対象に,台風通過 を占めていたが,これ以降は 1987 年に一端上昇に転じ にともなう強風による園芸施設被害の地域差とその要因 たものの,全体としては低下する傾向にある。とくに について,自然的環境と社会的環境の相互作用 3) から明 らかにした(両角・森島,2012) 。 1990 年代半ば以降における新設面積率の急低下の状況 は,国内景気の大幅な後退や輸入農産物の増加などの影 本稿では,農業共済事業における園芸施設被害の全国 的動向と地域的特徴を把握した上で,園芸施設雪害の実 響を伺わせる。2003 年以降には新設面積率が再び低下 し,2009 年には 1.3%(659ha)まで落ち込んだ。これは, 態と産地組織・農業者をめぐる課題について,事例地域 新設面積のピークであった 1987 年の 24%に過ぎない。 の比較を通して明らかにする。研究対象として,2014 年 これらの点は,雨よけ栽培施設等を除いた比較的高額の 2 月 8 ∼ 15 日の降雪にともない発生した園芸施設の倒壊 園芸施設の新規導入や更新に対する投資を,農業者が近 被害に着目した。現地調査は,2014 年 2 ∼ 3 月に,埼玉 年選択しない傾向にあることと,施設園芸産地が総体と 県北部地域,山梨県峡東地域,長野県諏訪地域で実施し, して転換期を迎えていることを示唆している。 市町村役場,農業共済組合,農業者,解体業者等に聞き 園芸施設共済の引受状況(加入状況)を図 2 で確認す 取り調査をおこなった。これら 3 つの地域は,平年にお ると,共済開始年の 1979 年における共済引受面積は 7.9 ける園芸施設共済の金額被害率が比較的低い地域であ 千 ha であり,共済引受面積率(推計)は 26%であった 4)。 る。 1980 年代に園芸施設面積(ガラス室,ハウス,雨よけ栽 また本稿では,日本で園芸施設共済制度が本格的に運 培)が急増するのに合わせるように,共済引受面積は 用を開始された 1979 年度から 2012 年度まで対象時期を 1983 年 に 1 万 ha を 超 え, 共 済 引 受 面 積 率 も 1989 年 に 広げた上で,園芸施設被害の発生状況とその季節性と地 30%を超えた。その後,共済引受面積は 1991 年に 2 万 域性という時空間的な変化を重要視した。園芸施設への ha を超え,共済引受面積率は 1990 年代半ばから 2000 年 雪害が,どのような時間的・空間的な状況の下で発生し, 代初頭までの頭打ちの状況を経て,2003 年以降に再び上 これを事前に想定し,対策・対処・対応をとることが一 昇に転じた。共済引受面積率は 2007 年にピークの 40% 律に可能であるのか否かについても若干の考察をおこ 弱まで上昇したが,その後は停滞する傾向にある。 この中で,園芸施設面積が 2001 年をピークに減少に なった。 以下,2 章では,全国における園芸施設被害の発生状 転じたのに対し,共済への加入は一定の上昇傾向を保っ 況と地域的特徴を把握し,研究対象地域の園芸施設被害 てきた点が注目される。これには,2003 年度の園芸施設 の一般的な特徴を明確にする。3 章では,事例の 3 地域 共済制度の改正によって, 「特定園芸施設撤去費用補償 における 2014 年 2 月の降雪と園芸施設雪害について,被 方式の導入」,「多目的ネットハウス(プラスチックハウ ─ 35 ─ ( 35 ) 農業共済事業にみる園芸施設被害とその地域差 表 1 園芸施設共済における特定園芸施設の区分と引受・被害状況(2012 年度) 主要部分の材質とその他の区分標準 特定園芸施設の区分 屋根,外壁 骨格 その他 1 棟当た 1 a当た 引受戸数 引受面積 金額被害 り引受面 り共済金 (戸) (a) 率(%) 積(a) 額(千円) ガラス室I類 ガラス 木 ― 134 637 1.7 339 0.42 ガラス室Ⅱ類 ガラス 鋼材,アルミ材 ― 5,674 82,932 6.0 541 0.13 916 12,390 9.3 181 0.23 153,108 1,248,410 2.5 90 2.92 プラスチックハウスI類 プラスチックフィルム 木,竹 ― プラスチックハウスⅡ類 プラスチックフィルム パイプ ― プラスチックハウスⅢ類 プラスチックフィルム 鋼材,鋼材とパイプ プ ラ Ⅳ 類 甲, プ ラ Ⅳ類乙以外 27,626 478,552 10.4 196 0.62 プラスチックハウスⅣ類甲 プラスチックフィルム 農水大臣が定める基 鋼材,アルミ材 準に該当,プラⅣ類 乙,プラⅤ類以外 14,504 211,004 8.9 285 0.62 農水大臣が定める プラスチックフィルム 鋼材,アルミ材 基 準 に 該 当, プ ラ (硬質フィルム) Ⅴ類以外 6,514 98,690 9.8 425 0.39 農水大臣が定める 基準に該当 3,857 44,758 7.3 443 0.48 プラⅦ類以外 6,689 122,523 2.8 64 2.31 838 51,936 27.5 23 1.61 219,860 2,351,832 3.7 164 1.10 プラスチックハウスⅣ類乙 プラスチックハウスⅤ類 合成樹脂版,プラスチック ― フィルム(硬質フィルム) プラスチックフィルム(屋 プラスチックハウスⅥ類 根面のみ),通気性を有す ― る被覆材(屋根面のみ) プラスチックハウスⅦ類 通気性を有する被覆材 鋼材,アルミ材,農 水 大 臣 が 定 め る コンクリート 基準に該当 (合計,平均) 注)引受戸数は延べ戸数。1 棟当たり引受面積と 1 a当たり共済金額は全国平均。 共済金額と被害率は 「 特定園芸施設 」「 附帯施設 」「 施設内農作物 」「 撤去費用 」 の合計で算出。 資料)農業災害補償法施行規則(最終改正:平成 23 年 6 月 22 日農林水産省令第 38 号)第 33 条 24 項関係の別表,農林水産省『平成 24 年度 園 芸施設共済統計表』より作成。 値を示している。一方,ガラス室Ⅱ類やプラスチックハ ガラス室の面積が 2,010ha に及び,全面積の 20.4%を占 ウスⅣ類乙,同Ⅴ類のように,1a 当たり共済金額の高い めている。一方,ビニルハウスなどが該当する金属パイ 園芸施設は,相対的にみて金額被害率が低くなる傾向に プハウスは,北海道から沖縄県まで全国的に設置されて ある。 いる。また,雨よけハウスは,北海道・東北・関東・九 これらの点は,プラスチックハウスⅡ類が農業者に 州地方の諸県に多く設置されており,地域ごとに偏在し とって低予算で比較的容易に導入可能である一方で,園 ている。これらハウス種類別の設置の地域差は,各地域 芸施設被害が発生しやすく共済加入の必要性も高い構造 の自然環境や主要な農作物の生産状況と,建設補助事業 特性を有することを表している。園芸施設共済への加入 の実施状況等に影響を受けていると考えられる。 さらに,図 7 の都道府県別における園芸施設共済の引 は,通常4 ヵ月以上の期間で自由に設定でき,地域によっ ては 2 ヵ月以上の短期加入が認められている。これは, 受面積と加入率(推計)をみると,共済引受面積は全国 園芸施設内で生産される野菜,果樹,花きなどの作物の 的に偏りがあることがわかる。引受面積が大きい上位の 生産形態や栽培暦(被覆期間)に合わせて,地域ごとの 都道府県として,北海道,熊本県,茨城県が挙げられ, 条件に対応する必要があるためである。 ハウスの設置実面積(図6)とおよそ対応している。一方, 図 6 には,都道府県別におけるハウス種類別の設置実 共済への加入率は,都道府県ごとに差があり,北海道が 面積を示している。全体では北海道・東北・関東・東海・ 高く,熊本県・茨城県は低くなっている。また,三重県 九州・沖縄地方の諸県でハウスが多く設置されており, や高知県では 80%を超えている一方で,近畿・中国地 山形県を除く日本海側や近畿地方の諸県で少なくなって 方の諸県で 30%以下と低くなっている。この要因とし いる。最も面積が大きいのは熊本県であり,5,947ha に て,以下のように園芸施設共済の金額被害率と面積加入 及び,全面積の 9.6%を占め,以下,北海道,茨城が続 率との関係を挙げることができる。 いている。ハウスの種類別でみると,主としてガラス室 などが該当する鉄骨ハウスは,関東・東海・九州地方の 2-4 園芸施設被害の地域性 諸県で比較的多く設置されている。とりわけ愛知県では ─ 39 ─ 図 8 に示したように,都道府県ごとに金額被害率の上 ( 39 ) 農業共済事業にみる園芸施設被害とその地域差 として 1982 年度の 4.4%を挙げられるが,2013 年度は 施設の撤去とともに樹体の撤去も必要となり(写真 7), 30.9%に達しており,この点からも 2014 年 2 月における 生産・出荷の再開までには長期間を要することになる。 図 20 には,山梨中央農業共済組合における園芸施設 園芸施設雪害の特異性を指摘できる。 (3)被害原因 被害の推移を示している。通常時において棟数被害率は 熊谷気象台によると,2014 年 2 月 8 日における降雪量 10%未満であり,金額被害率も低く推移してきた。被害 は 43cm で,最深積雪量も 43cm であった。同月 14 日に が相対的にみて大きかった 1985 年度と 2004 年度には, は降雪量が 33cm に,最深積雪量は 35cm になり,翌 15 棟数被害率が 10%前後に達したが,金額被害率は顕著 日には降雪量が 27cm に,最深積雪量は 62cm を記録し, に上昇しておらず,被害そのものは大きくならなかっ ほぼ 1 週間に集中的な降雪があった。 た。これが,2013 年度には棟数被害率が 42.0%に達し, 図 16 は,熊谷地方気象台における 1979 年以降の降雪 と積雪の年推移を示している。これによると,2014 年の 金額被害率も 43.7%に達するという過去に経験したこと のない大きな被害を受けた。 降雪と最深積雪は過去に例をみない状況であったことが (3)被害原因 わかる。例として,1984 年の降雪や 1998 年の最深積雪 甲府地方気象台によると,2014 年 2 月 8 日における降 は高い値を示しているが,これらの年に対応する棟数被 雪量は 45cm で,最深積雪量は 43cm であった。同月 14 19) 害率と金額被害率は必ずしも高くはなかった (図 15) 。 日には降雪量が 83cm に,最深積雪量は 85cm になり, 降雪と園芸施設被害の関係における差異の要因として, 翌 15 日には降雪量が 29cm に,最深積雪量は 114cm を記 降雪と積雪のあった期間とその他の気象条件が影響して 録し,ほぼ 1 週間に集中的な降雪があった。とくに最深 いるものと考えられる。 積雪量が上昇を続けた点が特徴的である。 図 17 は,熊谷地方気象台で観測された 1962 年以降に 図 21 は,甲府地方気象台における 1979 年以降の降雪 おける降雪量の上位 3 ヵ年について,1 ∼ 4 月を日ごと と積雪の年推移を示している。2014 年における降雪と最 に示したものである。これによると,1969 年には 3 月に 深積雪はともに過去最大であった。ただ,1984 年の降雪 ある程度の日数を置いて降雪があり,1984 年には比較的 は 100cm を超えており,1986 年と 1998 年の最深積雪も 長期にわたり分散して降雪があったことがわかる。これ 50cm 前後に達している。しかし,これらの年に対応す らに対して,2014 年は 2 月の短期間に集中的な降雪が る棟数被害率と金額被害率をみると,1985 年度は被害が あった。また,図 18 に示した 2 月における日ごとの降雪 相対的に大きかったが,他の年度は高いとはいえなかっ と最深積雪では,平均でほとんど降雪や積雪がみられな た 20)(図 20) 。2014 年度の園芸施設被害は,降雪をある かった。これに対して,2014 年は,2 月 8 日に降った雪が 程度経験する中で,極めて異常な規模で発生したと捉え 解けきる前に,同 14 日と翌 15 日に連続して降雪があり, ることができる。 図 22 は,甲府地方気象台で観測された 1962 年以降に 最深積雪も上昇したことが明らかである。 おける降雪量の上位 3 ヵ年について,1 ∼ 4 月を日ごと に示したものである。これによると,1969 年には 3 月に 3-2 山梨県峡東地域 (1)地域の概要 ある程度の日数を置いて降雪があり,1984 年には比較的 山梨中央農業共済組合が管轄する区域は,峡東地域 長期にわたり分散して降雪があったことがわかる。これ (笛吹市,山梨市,甲州市) ,峡中地域の甲府市と中央市, らに対して,2014 年は 2 月の短期間に集中的な降雪が 峡南地域の西八代郡市川三郷町,郡内地域の南都留郡富 あった。また,図 23 に示した 2 月における日ごとの降雪 士河口湖町であり,5 市 2 町にまたがる(表 2) 。同区域で と最深積雪をみると,平均では降雪はほとんどなく,最 は,主として峡東地域において桃やブドウ等の果樹栽培 深積雪も 1cm 程度であった。これに対して,2014 年は, が盛んであり,比較的狭小な谷底部で水稲作等がおこな 2 月 8 日に降った雪が解けきる前に,同 14 日と翌 15 日に われている。2014 年 3 月現在,園芸施設共済棟数加入率 連続して大降雪があり,最深積雪も急上昇したことが明 はおよそ 45%であるが,共済加入棟数のうち 88%が峡 らかである。 東地域に集中している(図 19) 。 (2)被害状況 3-3 長野県諏訪地域 峡東地域における園芸施設の倒壊は,単棟ビニルハウ (1)地域の概要 スや連棟ビニルハウスで発生した(写真 5,写真 6) 。施 南信農業共済組合は,諏訪地域(岡谷市,諏訪市,茅 設果樹栽培は,永年性作物の特質を反映して,被災後の 野市,下諏訪町,富士見町,原村),上伊那地域(伊那市, ─ 45 ─ ( 45 ) 両 角 政 彦 表 4 農業共済組合における園芸施設共済金支払財源(2013 年度) 埼玉北部農業共済組合 保険金 手持掛金充当額 山梨中央農業共済組合 南信農業共済組合 1,401,450,737 (90.0) 175,162,797 (90.0) 121,884,134 (90.0) 2,998,035 (0.2) 258,728 (0.1) 2,955,196 (2.2) 法定積立金充当額 54,312,305 (3.5) 7,177,763 (3.7) 10,454,109 (7.7) 特別積立金充当額 18,952,083 (1.2) 4,028,579 (2.1) 0 (0.0) 79,455,067 (5.1) 7,997,520 (4.1) 133,891 (0.1) 194,625,387 (100.0) 135,427,330 (100.0) その他 1,557,168,227 (100.0) 実支払共済金 注 )単位:円。( )内は共済金支払財源別の構成比(%)。 その他には組合業務費からの補填等を含む。 資料)各農業共済組合資料より作成。 億円を超え,共済金支払財源は通常の保険金で 90.0%ま で支払った。しかし,手持掛金(保険金残金)では補填 しきれず,法定積立金(大災害時対応資金)と特別積立 金(無事戻し金,損害防止事業費等)を使用したが,そ れでも充足することができなかった。最終的にはその他 資金(組合業務費)を使用して,5.1%を補填することに よって,共済金の支払いを完遂するに至った。これは, 2014 年 2 月の降雪による同組合管内の園芸施設被害が, 通常の共済の想定を遥かに超え,園芸施設共済事業のみ ならず,共済組合の事業運営全体に影響するほど甚大で (円) あったことを示している。 5,000 2,000 1,500 1,000 500 山梨中央農業共済組合では,支払共済金の総額が 2 億 円弱に達し,共済金支払財源は通常の保険金で 90.0%ま 0 で支払った。しかし,埼玉北部農業共済組合と同様に, 手持掛金(保険金残金)では補填しきれず,法定積立金 (大災害時対応資金)と特別積立金(無事戻し金,損害防 400km 図 30 都道府県別の園芸施設共済「プラスチックハウスⅡ 類」の 1 a当たり共済掛金 (2012 年度 ) 注)共済掛金は組合員等の費用負担を表す。 資料)農林水産省『平成 24 年度 園芸施設共済統計表』より作成。 止事業費等)を使用しても充足することができなかっ た。最終的にはその他資金(組合業務費)を使用して, 4.1%を補填することによって,共済金の支払いを完遂 するに至った。山梨中央農業共済組合管内の園芸施設被 かった。 害は,埼玉北部農業共済組合ほどの被害ではなかった 以上の 3 つの農業共済組合による共済金の支払い状況 が,通常の共済の想定を超え,共済組合の事業運営に影 には,被害状況に応じて差があるものの,いずれも組織 響するほど甚大であった点では,埼玉北部農業共済組合 的対応によって災害補償を実行した。これらの農業共済 と酷似した状況であったといえる。 組合を含めた都道府県単位における 1a 当たり共済掛金 南信農業共済組合 29) では,支払共済金の総額が 1 億円 をみると(図 30),農業者の費用負担には地域差があり, を超え,共済金支払財源は通常の保険金で 90.0%まで支 東北・北陸地方や,東海・近畿地方の諸県,中国・四国 払った。しかし,上記の 2 つの共済組合と同様に,手持 地方の諸県などで高くなっている。中でも費用負担が最 掛金(保険金残金)では補填しきれず,法定積立金(大 も大きいのが沖縄県の 5,092 円であり,費用負担が最も 災害時対応資金)とその他資金(組合業務費)を使用し 小さい山梨県の 410 円のおよそ 12 倍となっている。本研 て共済金の支払いをおこなった。南信農業共済組合管内 究の対象地域とした埼玉県,山梨県,長野県は,全国的 の園芸施設被害は,埼玉北部農業共済組合や山梨中央農 にみて 1a 当たり共済掛金が低い県であり,農業者の共 業共済組合ほどではなかったが,通常の保険金で共済支 済の費用負担が比較的小さい県であった。共済の費用負 払いを完遂できなかった点では被害が小さいとはいえな 担は過去の被災状況や共済への加入状況に左右されてお ( 52 ) ─ 52 ─ 農業共済事業にみる園芸施設被害とその地域差 り,各々の地域性を反映して園芸施設共済が組織的に運 ④農業用機械及び付帯施設の取得(被害前と同程度), 用されてきた。 ⑤倒壊した施設の撤去,以上である。補助率は,①∼④ さらに,被災後の組織的対応として,自治体や農協で は園芸施設の解体にともない発生した資材の廃棄措置を が再建・修繕補助率 10 分の 3 から 2 分の 1 へ引き上げ, ⑤が定額助成 10 分の 10 とされた。 とっている。調査対象地域においては,市町村行政によ これらは緊急的な災害補償・復旧支援となる制度的対 るパイプ類の回収(写真 22)や,農協によるビニル類の 応であり,恒常的な組織的・制度的対応となる園芸施設 回収(写真 23)がおこなわれた。これらは,農作物被害 共済のような事前の費用負担をともないなおかつ任意保 とは異なる園芸施設被害に特有の課題であり,組織的・ 険とは異なっている。緊急的な制度的対応は,政府・地 制度的対応が求められる。 方自治体による被災後の全体的な措置であり,共済への 加入の有無を問わない。大災害時にはこれら政府・地方 4-4 園芸施設雪害への制度的対応 自治体による緊急支援策が発動する可能性が高いため, 農林水産省は今回の農業被害を対象として,2014 年 2 月 24 日に決定した支援対策に追加対策を講じ,3 月 3 日 事前の費用負担をともなう共済事業との制度上の整合性 を図ることも求められる。 に以下のプレスリリース( 「農業用ハウス等の再建・修 以上の園芸施設被害への個別的・組織的・制度的対応 繕への助成」の「被災農業者向け経営体育成支援事業」 は,いずれもリスクマネジメントに向けた安全性の確保 を一部抜粋)をおこない 30),2014 年度予算と 2013 年度補 とコスト負担というトレードオフの関係をどのように調 正予算とを合わせて合計 52.29 億円を計上した。 整するのかにかかっている。消極的農業者は,園芸施設 基本方針として, 「今回の大雪により地域の基幹産業 の耐用年数が経過し,粗放的に経営をおこない,生産か である農業が壊滅的な被害を受けていることに鑑み,産 らの撤退を視野に入れる場合もある。一方,意欲的農業 地の営農再開及び食料の安定供給に万全を期すため,以 者は,園芸施設の耐雪・耐風補強や融雪設備の設置等に 下のとおり,地方公共団体の復旧支援を後押しするため よる投資と負債リスクの回避との調整が課題となる。ま の,今回の豪雪に限った特例的な措置を講ずる。再建・ た,農業者を対象とした一律の復旧支援は,地域内に不 修繕に係る補助率を 10 分の 3 から 2 分の 1 に引き上げる。 公平感を生み,新たなコンフリクトを生じる可能性があ 残りの部分に対する地方公共団体の補助に関し,その 7 る。意欲的農業者に不公平感やモチベーションの低下を 割について特別交付税措置を講ずる。これらにより,農 招きかねない制度的対応のあり方を検討していく必要が 業者の負担を最小化できる仕組みを構築する(地方公共 ある。 団体の補助が 10 分の 4 となった場合には,農業者の負担 は 10 分の 1 となる) 」としている。また,再建・修繕の 5.おわりに 場合には,「併せて自己負担で強度の向上,規模拡大等 をおこなうことは可能」とした。 本稿では,農業共済事業における全国の園芸施設被害 の発生状況と地域的特徴を把握した上で,園芸施設雪害 倒壊した園芸施設の撤去については, 「農業者負担の の実態と産地組織・農業者をめぐる課題について,事例 ないよう定額助成(地方負担を含めて 10 分の 10 相当)と 地域の比較を通して明らかにした。その際に,被害発生 する(地方公共団体が 2 分の 1 相当を負担することを前 の季節性と地域性という時空間的な変化を重要視し,気 提に,国が 2 分の 1 相当を補助。地方公共団体には特別 象変化と園芸施設被害とを直接関連づけて地域的な分析 交付税措置(地方公共団体の負担分の 8 割)を講ずる) 」 をおこなった。 とした。さらに,撤去については, 「市町村が実施する 全国における園芸施設面積は増加から減少へ転じてお 環境省の災害廃棄物処理事業の対象となるが,農業者が り,施設園芸は転換期を迎えている。園芸施設被害は全 速やかに撤去し経営を再建しようとする場合には,本事 国各地で継続的に発生している一方で,この復旧軽減策 業の利用が可能」としている。 として農業共済組合が運用してきた園芸施設共済への加 助成の対象者は, 「地方公共団体による支援・融資を 入は停滞傾向にある。園芸施設被害の発生状況を分析す 受けて,被災施設の復旧等,又は倒壊したハウス等を撤 ると,その季節性と地域性が明らかになり,比較的強度 去し農業経営を継続しようとする農業者」とし,以下の の劣る園芸施設が最も多く建設されながら,最も多く被 5 つを具体的な助成内容とした。①施設の復旧又は被害 害を受け続けてきたことが改めて確認された。 前と同等の施設の取得,②施設修繕に必要な資材購入, 研究対象地域として選定した 3 つの地域は,いずれも ③①と一体的に復旧し,又は取得する附帯施設の整備, 平年における園芸施設被害率と共済掛金率が低い地域と ─ 53 ─ ( 53 ) 両 角 政 彦 して位置づけられた。以下,2014 年 2 月の降雪による園 するのか,地域ごとにとり得る対策・対処・対応が異な 芸施設被害の状況と共済の対応をまとめたい。 ると考えられる。それは,園芸施設被害を規定する基本 埼玉県北部地域(埼玉北部農業共済組合管内)では, 構造に示したように(図 31) ,地域ごとの気候・気象の 周年耕作(野菜,花き)が一般的であり,園芸施設金額 変化と園芸施設の立地・配置の違いによって園芸施設に 被害率は 31%に達した。降雪は過去にある程度経験し 求められる耐(候)性が異なり,それぞれの経緯で産地 てきたが,被害規模が甚大であり,被害想定は困難で 組織・農業者が園芸施設を設置してきたことによる。 あった。共済掛金率が低いうちは,共済加入が必須とな る。 また,被害がある一定の規模を超えた場合には,政府・ 地方自治体が緊急支援策を発動する可能性も高いため, 山梨県峡東地域(山梨中央農業共済組合管内)では, 共済制度の相互扶助の原則とその社会的意義が問われる 永年性作物(果樹)の栽培が一般的であり,園芸施設金 ことにもなる。そこでは,地域内の公平性や地域間の公 額被害率は 44%に達した。降雪は過去にある程度経験 平性をいかに調整するのか,新たな課題が浮き彫りとな してきたが,被害規模は過去に例が無く,想定は極めて る。こうした園芸施設被害に関わる課題がある一方で, 困難であった。共済掛金率が低いうちは,共済加入が妥 露地栽培による作型が雪害を回避し(写真 24) ,いち早 当である。 く生産を再開している状況は示唆的である。これは,施 長野県諏訪地域(南信農業共済組合諏訪支所管内)で は,一部で周年耕作(野菜,花き)がおこなわれ,園芸 設型農業そのもののあり方を地域ごとに再検討する時期 にきていることも示しているといえよう。 施設金額被害率は 9%であった。降雪は過去に次ぐ規模 なお,本研究では,園芸施設被害に対する降雪と積雪 で,被害は過去最大であったが,ある程度の想定も可能 に着目したが,これらの日変化と積雪に影響を及ぼす気 であった。共済加入や耐雪補強等の通常の事前対策が必 象変化(気温,風向,風速等)については分析に至らな 要となる。 かった。また,雪害を受けた園芸施設の立地・配置と分 これら 3 つの地域における被害への対策・対処・対応 布状況,さらに園芸施設の経過年数によっても耐候性が の関係について整理すると,埼玉北部農業共済組合管内 異なることが指摘されており 31),これらは産地の成長・ は,山梨中央農業共済組合管内ほど被害想定が困難で 再編過程と密接に関わっている。以上の点は今後の研究 あったとはいえないが,南信農業共済組合諏訪支所管内 課題としたい。 よりは共済加入の意思決定や降雪時の対処行動が困難で あったと捉えることができる。 このように数十年に一度の被害を受けた産地組織・農 業者が,園芸施設被害を想定し回避するのにあたり,コ ストを負担し事前対策をとるのか,気象変化への対処を 万全に整え実行するのか,共済制度に依存し被災後に復 旧対応を図るのか,諸投資を抑えて被害をある程度受容 付記 本研究をおこなうにあたり,市町村役場,農業共済組合, 農業者,解体業者の皆様に多大なるご協力をいただきまし た。厚く御礼を申し上げます。本稿の内容の一部を,日本地 球惑星科学連合 2012 年大会(於 . 幕張メッセ国際会議場) , IGU Kyoto Regional Conference 2013(於.国立京都国際会館), 2014 年経済地理学会関東支部 7 月例会(於 . 国士舘大学)で発 表した。 気候・気象 耐性 政 策 産地育成 産地組織 回避,維持 農業者 ・ 法制度 災害補償 共済組織 変化 補助事業 建設 保有 園芸施設 補償,再建 (農作物) 共済事業 耐性 変化 立地・配置 図 31 園芸施設被害を規定する基本構造(予察) 図31 園芸施設被害を規定する基本構造(予察) 注)被害原因とステークホルダーを簡略図示。 注 ) 被害原因とステークホルダーを簡略図示。 資料) 両角・森島(2012)に加筆。 資料)両角・森島(2012)に加筆。 ( 54 ) 横軸:時間軸 縦軸:空間軸 ─ 54 ─ 撤去,撤退 農業共済事業にみる園芸施設被害とその地域差 注 1)深山ほか(1980)が,寒冷地における園芸施設への積雪 荷重に対する安全性と経済性の両立による構造設計の必 要性という基本的問題を指摘している。 2)農業災害補償制度および園芸施設共済制度に関する先行 研究の成果については,両角・森島(2012)を参照。 3)自然・環境と人間・社会との相互作用系については, Matthews and Herbert(2008)を参考にした。本稿もこ の考え方を基に構成している。 4)沖縄県のみ園芸施設共済事業が 1989 年度に開始されて いる。 5)農林水産省『平成 24 年度 農業災害補償制度 園芸施設共 済統計表』による。 6)被害額=特定園芸施設の価額×損害割合+附帯施設の 価額×損害割合+施設内農作物の価額×損害割合 7)共済金=損害額×共済金額÷共済価額 8)詳しくは,農林水産省『農業災害補償制度年報』等を基 にした両角・森島(2012)を参照。 9)共済金額は,「特定園芸施設等ごとに,共済価額に共済 規程等で定めた最低割合(100 分の 40 から 100 分の 60 の 範囲内)を乗じて得た金額を下らず共済価額の 100 分の 80を超えない範囲内において園芸施設共済掛金率等一覧 表に掲げる金額のうちから組合員等が申し出た金額」 (農林水産省『平成 24 年度 農業災害補償制度 園芸施設共 済統計表』による)である。 10)共済価額は,たとえば特定園芸施設「ガラス室」の場合, 「再建築価額×時価現有率」で算出される。詳細につい ては,農林水産省『園芸施設共済統計表』を参照。 11)損害額=被害額−残存物価額−賠償金等 12)園芸施設共済において,「組合等は,特定園芸施設等ご とに,共済事故によって組合員等が被る損害の額が 3 万 円(共済価額の 10 分の 1 に相当する金額が 3 万円に満た ないときは,当該相当する額)を超える場合にそのつど 共済金を支払うもの」(農林水産省『平成 24 年度 農業災 害補償制度 園芸施設共済統計表』による)である。 13)注 8)を参照。 14)園芸施設の構造特性の多様化について,共済の試験実施 前の段階で,山田(1974)が,「施設の構造材質等が種々 区々であるほか,日進月歩で発達する施設について具体 的な事例により適正な評価方法を確立」する必要性に言 及している。 15)詳しくは,宮城県における農業共済組合の資料等の分析 によって,風水害と震災との差異を明らかにする必要が ある。 16)共済掛金率は,「園芸施設共済の共済目的等による種別 ごと及び農林水産大臣の定める地域ごとに,農林水産大 臣が過去一定年間の被害率を基礎として定める園芸施設 基準共済掛金率を下回らない範囲内において,組合等が 共済規程等で定める率」(農林水産省『平成 24 年度 農業 災害補償制度 園芸施設共済統計表』による)である。こ こでは, 「園芸施設再保険料基礎率」が「原則として過去 20 年間における地域別の被害率を基礎として」設定され ていることを考慮し,2009 ∼ 2011 年度に設定された共 済掛金率を基準に,1989 ∼ 2008 年度までの 20 年間の金 額被害率を算出し,両者の相関関係を分析した。 17)農林水産省が 2013 年 11 月∼ 2014 年 7 月におこなった調 査結果による。 18)園芸施設共済棟数加入率は, 「園芸施設」の定義によっ て異なるため,これを厳密に特定するのは困難である。 ここでは,農業共済組合への聞き取り調査に基づき,お よその数値を示した。 19)気象庁データは当該年 1 ∼ 12 月であり,農業共済組合 データは当該年 4 月∼翌年 3 月である。本稿では,気象 庁データ年を共済組合資料の前年度のデータと対応させ て分析をおこなった。 20)気象庁データと農業共済組合データの対応関係について は,注 19)を参照。 21)長 野 県 web サ イ ト http://www.pref.nagano.lg.jp/nosei/ happyou/140228press.html(2014 年 3 月 10 日検索)によ る。 22) 『長野日報』2014 年 3 月 4 日付による。 23)気象庁データと農業共済組合データの対応関係について は,注 19)を参照。 24)農業共済組合が一般に公表している統計・資料には,通 常,園芸施設被害の原因が記載されていない。南信農業 共済組合では,被害原因を「風害」 , 「火災」 , 「病害」, 「雪 害」,「落雷」,「雹害」等に区分した上で,市町村ごとに 被害棟数を記載している。同組合の資料は,農業災害の 被害原因を地域的に分析する上で重要な資料となる。 25)表 2 の園芸施設共済〔被害〕には,2014 年 2 月に発生した 降雪以外の 2013 年度内の園芸施設被害が全て含まれて いる。 26)聞き取り調査および JA 信州諏訪広報委員会(2014) 『月 刊ジャスミン 3 月号』 (121 号)による。 27)例として,埼玉県深谷市の法人経営体は,ビニルハウス が多数倒壊し,国内で園芸施設資材の調達が困難であっ たため,被災から 4 週間後に中国へ金属パイプを直接買 付けに向かった(聞き取り調査による) 。 28)注 26)を参照。 29)南信農業共済組合における園芸施設共済の共済金支払財 源は,同組合諏訪支所管内に限定した集計が困難であっ たため,組合全体の数値を示した。 30)農 林 水 産 省 web サ イ ト http://www.maff.go.jp/j/press/ keiei/saigai/140303_1.html(2014 年 3 月 21 日検索)によ る。 31)山下・佐藤(1982)が,園芸施設雪害の規模と園芸施設 の耐用年数との関係に触れ,被害の不可抗力の側面に言 及している。 ─ 55 ─ ( 55 ) 両 角 政 彦 文 献 天野哲郎(2000) 『農業経営のリスクマネジメント―畑作・露 地野菜作経営を対象として―』農林統計協会. 石井雅久(2011) 「東北地方太平洋沖地震による宮城県太平洋 岸の園芸施設の被災状況」 『畑地農業』634,2-8. 石井雅久・奥島里美・森山英樹・相澤正樹(2012)「平成 23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震による宮城県沿岸部 の園芸施設の被害状況」 『農村工学研究所技報』213,89103. 上原絢子(2003) 「農業分野への天候リスクマネジメント導入 可能性に関する一考察」『農業情報研究』12(4),337346. 大谷博実(1982) 「積雪地帯におけるパイプハウスの融雪につ いて」 『滋賀県農業試験場研究報告』24,165-168. 金谷 豊・倉田 勇(1985) 「「59 豪雪」による施設ハウスの被 害事例」 『北陸農業研究資料』12,174-179. 亀田修二(2001) 「中山間地積雪地帯における耐雪型パイプハ ウスの周年利用体系と経営評価」 『施設園芸』43(3),4246. 亀田修二・木村順二・清水達夫(2006) 「耐雪型パイプハウス を利用した野菜・花きの周年輪作体系の確立」『鳥取県 園芸試験場報告』7,9-18. 川上暢喜・鍵谷俊樹・徳原 功(2010) 「載荷実験による農業 用パイプハウスの鉛直雪荷重に対する耐力評価」『岐阜 県中山間農業研究所研究報告』6,18-25. 木村順二(2006) 「鳥取県中山間地におけるハウス野菜生産者 の耐雪型パイプハウスの冬期利用実態と周年利用に対す る意識調査」 『鳥取県園芸試験場報告』7,29-36. 高 橋 久 三 郎・ 小 林 一 雄・ 村 松 謙 生・ 大 沼 匡 之・ 鴨 田 福 也 (1981) 「園芸施設に対する積雪荷重とその軽減法」 『北陸 農業試験場報告』23,197-234. 豊田裕道(1997) 「園芸施設における積雪荷重の見直しと新構 造ハウスの傾向」 『第 12 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