JAMA.2015;313(4):365-378 慈恵医大ICU勉強会 2015.6.30 集中ケア認定看護師 小俣美紀 Introduc)on ・院内感染は、在院日数、死亡率、コストの増加を 招く J Am Geriatr Soc. 2014;62(2):306-311. Crit Care Med. 2006;34(8):2084-2089. Med Care. 2010;48(11):1026-1035. ・院内感染予防のために、手指衛生、デバイス挿入 に関するバンドルの遵守、多剤耐性菌検出患者の 隔離が重要である Am J Infect Control. 2007;35(10)(suppl 2):S65-S164. Infect Control Hosp Epidemiol. 2002;23(12)(suppl):S3-S40. Introduc)on ・クロルヘキシジンは、広域スペクトラムの局所用 消毒薬であり、皮膚の菌量を減らし、感染を減らす ・いくつかのRCTで毎日のクロルヘキシジン清拭は 多剤耐性菌獲得の減少、血流感染率の低下、CD 感染の減少が報告されている J Hosp Infect. 2012;82(2): 71-84. Introduc)on そこで過去の研究を見てみると、 <Methods> 研究デザイン:多施設クラスターランダム化 クロスオーバー試験 非盲検化 研究期間中、すべてのユニットで MRSAとVREのアクティブサーベイ ランスを実施 <Methods> 介入:1日1回消毒薬を使用せず清拭を行うコントロ -ル群と2%クロルヘキシジン清拭を行う介入群 を比較。6か月毎にクロスオーバー 研究施設:6つの病院の8つのICU(MICU, SICU, CSICU, MICU-‐CCU)と骨髄移植ユニット 研究期間:2007.8~2009.2 Outcome:多剤耐性菌の獲得率、MRSA/VRE獲得率、 血流感染率、中心静脈ライン関連血流感染率 Results ~多剤耐性菌、MRSA, VREに ついて~ IntenFon-‐to-‐treat で分析 多剤耐性菌・VRE獲得が介入群で有意に減少 Results ~血流感染について~ IntenFon-‐to-‐treat で分析 血流感染、中心静脈ライン関連血流感染が介入群で有意に減少 Introduc)on ・この結果から、クロルヘキシジン清拭はガイドライン にも組み込まれている Infect Control Hosp Epidemiol. 2014;35(7): 772-796. ・しかし、これらの結果は再現性がなく、他の感染に 対するクロルヘキシジンの効果は明らかではない ・またクロルヘキシジンを使用することは、コストの 増加と耐性ができてしまう可能性がある Infect Control Hosp Epidemiol. 2014;35(9):1183-1186. J Antimicrob Chemother. 2008;62(3):514-517. 今回の研究の目的:クロルヘキシジン清拭の院内 多重感染に対する効果を評価 をすること Methods 研究デザイン:クラスターランダム化クロスオーバー試験 清拭に使用するタオルは、研究者が提供 するもののみとし、においや見た目の違 いを盲検化 患者の割り付けも医療者には盲検化 研究開始前に適切な清拭のやり方に ついて指導 介入:1日1回、2%クロルヘキシジン清拭を行う群と 消毒薬を使用せず清拭するコントロール群を 比較 Methods 研究施設:テネシー州ナッシュビルの3次医療施設 5つのICU(neurological, surgical, trauma, cardiovascular, medical) それぞれのICUには、クリティカルケアナース、 ナースプラクティショナー、ICU専門医が24時 間勤務 研究期間:2012.7~2013.7 除外基準:クロルヘキシジンアレルギー、表皮の発赤や 壊死、Stevens-‐Johnson症候群、18歳以下、 医療者が安全ではないと判断した患者 Washout period は、2W Controlは、10W クロルヘキシジン は、10W Control群とクロ ルヘキシジン群 は、合わせて 4回実施 3回クロス オーバー Methods Primary outcome: 中心静脈ライン関連血流感染 (CLABSI) カテーテル関連尿路感染(CAUTI) 人工呼吸器関連肺炎(VAP) CD感染 全米医療安全ネットワーク(NHSN)とアメリカ疾病予防 管理センター(CDC)の定義を用い、割り付けの情報を 持たない感染対策に従事するスタッフが判定 Methods Secondary outcomes: 院内死亡率、在院日数、ICU在室日数、 多剤耐性菌の獲得率、コンタミ率、血流感染率 統計学的分析:研究は1年かけて実施 過去の結果より1年で1万例の入室が見込まれる この症例数は95%以上の検出力で感染症の発生 件数が0.1/1000患者日変化することを示すことが 可能 1人の患者に複数の感染症が発生した場合は 個別にカウント IntenFon-‐to-‐treatで分析 Results 研究登録者数:10783人 除外基準を満たした患者はいなかったが、washout periodの際に基準を守れなかったため、1443人は除外し て分析 患者背景 年齢の中央値は、 コントロール群が57.0歳、 クロルヘキシジン群が 56.0歳で有意差なし 予測死亡率はコント ロール群で、 呼吸器疾患の合併率 はクロルヘキシジン 群で有意に高い Intention-to-treat analysis コントロール群は60件、 介入群は55件の感染 が発生 Composite primary outcomeと Secondary outcomeに 有意差はなし VAPは クロルヘキシジン群 で有意に多い 事後分析で As-‐treated analysisと サブグループ解析を実施 VAPはクロルヘキシジン 群で有意に多く、 ICU在室日数はクロルヘ キシジン群で有意に長い 院内死亡率はクロルヘキ シジン群で有意に短い 院内死亡率は、 補正後は有意差なし サブグループ解析<Cardiovascular ICU> Primary outcomeに 有意差なし コンタミは有意に クロルヘキシジン群 で少ない サブグループ解析<Medical ICU> カテーテル関連尿路 感染の発生率、多剤 耐性菌獲得率はクロ ルヘキシジン群の方 が高い傾向あるが、 有意差はなし サブグループ解析<Neurological ICU> CD感染率、コンタミ率は クロルヘキシジン群の方 が高い高い傾向あるが、 有意差はなし 中心静脈ライン関連血流感染、 VAPの発生件数は両群ともに ゼロ サブグループ解析<Surgical ICU> VAP、コンタミ発生率、院 内死亡率は、クロルヘキ シジン群の方が高い高い 傾向あるが、有意差はな し サブグループ解析<Trauma ICU> クロルヘキシジン群の 感染の発生率が高いが 有意差なし 血流感染はクロルヘキ シジン群で有意に多く、 院内死亡率はクロル ヘキシジン群で有意に 短い 院内死亡率は、 補正後は有意差なし Trauma ICUでは、primary outcomeに対する クロルヘキシジン清拭の効果が得られなかった そのため、全体の結果に影響したことが考えられる Discussion ・1日1回のクロルヘキシジン清拭は、Primary outcomeである中心静脈ライン関連血流感染、カテー テル関連尿路感染、人工呼吸器関連肺炎、CD感染を 低下させない ・Secondary outcomeである血流感染、コンタミ、多剤 耐性菌獲得についても改善させない ・クロルヘキシジンはコストの増加、微生物に対する 耐性を増加させる ➡クロルヘキシジン清拭は有効ではない可能性を示唆 上記の研究では、 ・介入の期間が24Wと長期間なので、クロルヘキシジン の効果が得られやすい可能性 ・MRSA/VREのアクティブサーベイランスを感染に対して ハイリスクな骨髄移植ユニットの患者にも実施しており、 結果に影響した可能性 Discussion ・クロルヘキシジン清拭は、ウイルスや手術部位感染 (SSI)を減少させる可能性があるが、今回の研究では明 らかになっていない <今回の研究の強み> 介入群とコンロトール群を10W毎にクロスオーバー することで、季節間の差を結果に反映できる。 ユニット間で複数の感染症を分析し、患者中心の結果 となることに焦点をあてた Discussion <今回の研究の限界> ・医療スタッフへの割り付けの群についての盲検化が困 難であったが、感染の判定をするスタッフには盲検化 は維持できた ・5つのICUを対象とし、さまざまな患者群での比較は できたが、多施設研究ではなかった Conclusions 毎日のクロルヘキシジン清拭は、中心静脈ライン関連 血流感染、カテーテル関連尿路感染、人工呼吸器関連 肺炎、CD感染を含む院内感染の発生率を減少させない。 重症患者へのクロルヘキシジン清拭は推奨しない。 Editorial ・3回クロスオーバーすることで、5つのICUという小規模 の研究を代償している ・Washout periodを入れることでいろいろな患者群が対 象となり、よりよいバランスがとれている ・適切な清拭についての指導はしたが、モニタリングを 行っていなかった ・院内感染発生率が比較的低いため、他の施設で適用 できるかは不明確 ・アクティブサーベイランスを実施していないため、交差 感染が起こっている可能性がある ・研究の事前登録がされていない Editorial ・毎日のクロルヘキシジン清拭のような感染対策は、耐 性を促進する可能性がある ・殺菌的消毒薬の使用を広範囲にすると、微生物群の 選択圧に影響を与え、耐性遺伝子の伝達を容易にし、 増殖する可能性がある ➡感染対策にはリスクが伴う ・院内感染を減らすための最も有効な対策は、手指衛 生のモニタリングかもしれない J Hosp Infect. 2009;73(4):305-315. Lancet Infect Dis. 2014;14(1):31-39. Editorial ・抗菌薬や抗ウイルス薬、抗真菌薬、殺微生物薬を広 範囲に使用し治療することは、決して良い方法とは 言えない ・クロルヘキシジンの使用は、アレルギー、コスト、耐性、 安全性さえも問題となりえる ・今後は、基本的な感染対策に焦点を当てたアプローチ が臨まれる 私見 ・毎日のクロルヘキシジン清拭は院内感染に対して 効果が得られにくいことがわかった ・基本的な接触感染予防策の実施と継続の重要性 を再確認した。ICUは多くの医療者、家族など出入 が多いので、感染対策を常に心がけ関わることが 必要。手指衛生率が低下しており、Team STEPPSを 取り入れながら、感染対策を実施、院内感染が増 加しないように取り組むことが課題
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