地図と数字を使った授業 ー縮尺と統計地図ー 地図活用

やってみよう! 地図活用
地図と数字を使った授業
らせるとおよそ2cmになります。少しけたが多
ー縮尺と統計地図ー
先ほどと同じ要領で計算してみましょう。
いので,作業に時間がかかるかもしれませんが,
2cm×1,000,000=2,000,000cm
100cm=1mであることから,
富山大学人文学部 准教授 大西 宏治
2,000,000cm=20,000m
1,000m=1kmであることから,
はじめに
20,000m=20km(答え)
地図を扱うとき,縮尺を説明したり,統計を活
用したりする場面がでてきます。数字を使って地
となります。しかし,地図上の距離を計算によっ
図を考える学習活動です。社会科は好き,地図が
て把握することは現実社会ではまれです。縮尺を
好きといってくれる児童であっても地図と数字と
使って距離を計算させるのは,しくみを知り,単
の関係の取り扱い方を誤ると社会科や地図に対し
純な事例を練習するだけでよいと思います。複雑
て心理的抵抗が生まれてしまうかもしれません。
な問題を使って児童を苦しめる必要はありません。
どのような手続きでスムーズに縮尺や統計地図を
地図上の距離を読み取るとき,定規をあててそ
学習することができるのかを,今回は考えてみま
れをはかって,縮尺を使って計算する機会はほと
しょう。
んどなく,地図上のスケールバーなどを使うと思
縮尺と距離の計算
います。4,5年程度の能力を考えればスケール
縮尺を教えるとき,算数のように教える先生は
にあったものさしをプラスチック板などでつくら
少なくないと思います。縮尺5万分の1の地図上
せ,それを使って地域の中の距離をはかるのがよ
の1cmが実際には何メートルあるかを計算してみ
いのかと思います(図2)
。
ましょう。縮尺5万分の1ということは,実際のよ
うすを5万分の1に縮めて表していることなので,
1cmを5万倍すれば実際の距離になります。つまり,
1cm×50,000=50,000cm
100cm=1mであることから,
図2 自作スケールバーと地図
27年度版『楽しく学ぶ小学生の地図帳』p.31
50,000cm=500m(答え)
縮尺のしくみを教えるのであればわかりやすい
自分のくらすまちから10km,20km,100km離
数字を使って説明すればよいと思います。ただ,
れたところがどこか,東京までどのぐらいの距離
児童が普段計算しないけた数ですので,そのへん
かなど,距離を考える基準になるものを体験的に
はたいへんかもしれません。また,地図帳の地方
知ってもらうような取り組みが必要だと思います。
図の縮尺は100万分の1です。それを使って児童
統計地図の作成
のくらすまちから2cm離れたところを探させ,
地図帳の巻末には統計が掲載されています。こ
そこまでの距離を計算させてもよいでしょう。例
こでも数字を扱いながら地域のようすを考えるカ
えば図1のように地図帳の中部地方で富山市から
ギがあります。
富山県西部にある高岡市までの距離を定規ではか
27年度版『楽しく学ぶ小学生の地図帳』(以下,
地図帳)p.67に各地の水産業の統計地図があり,
数字の大きさが円や四角の記号の大きさで描かれ
20km
ています。このような統計図を児童に読み取らせ
2cm
ることはできると思いますが,つくるのは簡単で
はありません。都道府県単位であれば統計地図を
図1 地図上の距離測定
27年度版『楽しく学ぶ小学生の地図帳』p.31
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↑図3 魚かい類(2011年)
のドットマップ
→図4 GISと統計地図の例
簡単につくる方法は二つあります。一つは,数字
2)簡易の地理情報システムの活用
をドットに変換して,当該の箇所に点をうち,点
地図をコンピュータで描いたり,分析する機能の
の数で表現する方法です。もう一つは簡易の地理
ある地理情報システムは,かつては複雑な操作が
情報システムを使う方法です。
必要でとても難しいソフトウエアでしたが,現在で
1)ドットを使った地図の作成方法
は表計算ソフトが使えると,簡単な地図であればす
地図帳p.73∼74には統計地図があります。例え
ぐに作成できます。そのソフトウエアの代表例は埼
ば魚かい類に注目すると,北海道は130万tありま
玉大学の谷謙二先生が開発したMANDARA1)です。
す。少ないところから多いところまでいろいろで
47都道府県であれば,ソフトウエア内に地図が
す。そこで,都道府県の数字を5で割った結果を
存在するので,都道府県の統計値を新たに入力す
ドットの数で表す地図を作成してはどうでしょう
るだけで,次々と地図が描けます(図4)
。
か? 余りは切り捨てるというルールで行うのが
おわりに
混乱が少ないでしょう。北海道は26個,青森県は
地図を活用した授業をする場合,数字を扱わな
3個,岩手県は1個…,沖縄県は0個となります
ければいけない場面があり,複雑な計算を扱わな
(図3)。ドットの個数が地域の特色を表すことに
ければならないという思いをもちながら授業にの
つながり,児童の都道府県単位の地域認識を形成
ぞむ先生もいるかもしれません。しかし,私たち
することにつながります。作業自体は時間がかか
がどのように地図を使っているか考えると,縮尺
るので,班ごとに分担したり,教室に大きな日本
の問題や統計地図の作成などの授業での対処が理
地図の白地図をはって,グループ作業を集約する
解されるのではないでしょうか? 地図は現実世
などで効率よく学習を進められるかもしれません。
界を表し,さまざまな問題に対処するツールです。
また,学校の図書室にある『日本国勢図会』など
無理のない範囲で数字を取り入れながら,数字を
の統計集を使って自主学習などさせてもおもしろ
使って日本を把握できるような児童を育ててもら
いかもしれません。
いたいと思います。
注1)http://ktgis.net/mandara/
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