超小型衛星「ほどよし 4 号」用 X 帯 348Mbps 通信システムの軌道上

超小型衛星「ほどよし 4 号」用
X 帯 348Mbps 通信システムの軌道上実証
深見 友也 1
新家 隆広 4
渡邊 宏弥 1
冨木 淳史 2
小島 要 4 川元 光一 5
水野 貴秀 2
重田 修 6
齋藤 宏文 2 岩切 直彦 3
布村 仁志 6
神田 泰明 7
1
2
東京大学 〒113-8656 東京都文京区本郷 7-3-1
宇宙航空研究開発機構 3 情報通信研究機構 4 株式会社アドニクス
5
川元工業所 6 アイ電子株式会社 7 アンテナ技研株式会社
E-mail: fukami.tomoya [at] ac.jaxa.jp
あらまし 観測センサの能力向上に伴い,質量 50 kg クラスの超小型衛星においても 100 Mbps 以上の高速ダウン
リンク通信が求められている.小型衛星の限られた電力,質量等のリソースで高速通信を実現するため,これまで
に小型・軽量で低消費電力の X バンド送信機,衛星搭載アンテナ,及び地上の受信設備を開発してきた.パワーア
ンプには新たに開発した出力 2 W の高効率 GaN-HEMT デバイスを採用している.開発したシステムは質量 64 kg
の超小型衛星「ほどよし 4 号」に搭載して打ち上げられ,3.8 m の地上アンテナとの間で 348 Mbps の高速ダウンリ
ンク通信に成功した.本稿では開発した通信システムの概要,通信実験,更なる高速化に向けた取り組みについて
報告する.
キーワード 小型衛星,衛星通信,X バンド,GaN,16QAM,64APSK
On-Orbit Demonstration of the X-band 348 Mbps Communication System
for the Nano Satellite: Hodoyoshi-4
Tomoya FUKAMI1
Hiromi WATANABE1
Atsushi TOMIKI2
Takahide MIZUNO2
Hirobumi SAITO2 Naohiko IWAKIRI3 Takahiro SHINKE4 Kaname KOJIMA4
Koichi KAWAMOTO5 Osamu SHIGETA6 Hitoshi NUNOMURA6 and Yasuaki KANDA7
1
The University of Tokyo
2
Japan Aerospace Exploration Agency
4
Addnics Corporation
5
7-3-1, Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo, 113-8656 Japan
3
National Institute of Information and Communications Technology
6
Kawamoto Corporation
AI Electronics Ltd.
7
Antenna Giken Co.,Ltd.
E-mail: [email protected]
Abstract A high-speed downlink communication system is required to meet various applications for nano/small satellites.
Therefore, it is essential to implement a transmitter with small weight and power in such satellites. We have developed high
speed communication system over 300 Mbps for small satellite. In order to reduce DC power consumption of transmitter, we
have developed GaN-HEMT power amplifier for X band downlink. The Hodoyoshi-4 satellite equipped with the developed
communication system was launched in 2014 and we demonstrated 348 Mbps downlink from 50-kg class satellite. This paper
describes the summary of the developed system, the experiment of high speed downlink, and future works.
Keywords small satellite, satellite communication, X band, GaN, 16QAM, 64APSK
打ち上げによって打ち上げコストも削減できる.その
1. は じ め に
地球観測や災害監視など幅広い応用を目的とし ,質
ため同じ衛星を大量に打ち上げてコンステレーション
量 50 kg 程 度 の 超 小 型 衛 星 の 開 発 が 活 発 に な っ て い る .
を構築し,高い時間分解能で地球を観測する試みが始
これまでの大型衛星と比較し,小型衛星は 1 機あたり
ま っ て い る [1]. 観 測 セ ン サ の 能 力 向 上 に 伴 い , 超 小
の製造コストが数億円程度と格段に安く,また相乗り
型衛星でも地上分解能数 m の本格的な地球観測が可能
1
になっている.観測能力を最大限に活かすためには高
百 MHz で 高 速 動 作 さ せ る 必 要 が あ り ,こ れ も 消 費 電 力
速なダウンリンク通信が必要である.しかし小型衛星
増 加 の 要 因 と な る .図 1 は 従 来 の X バ ン ド 送 信 機 に 対
は電力,質量,体積等の制限が厳しく, これまでに打
して,ビットレートを横軸に,消費電力を縦軸にして
ち上げられた超小型衛星のダウンリンク速度は最大で
プ ロ ッ ト し た も の で あ る . 8PSK 変 調 は 位 相 の み に 情
も 数 十 Mbps 程 度 で あ っ た .
報 を 載 せ る 変 調 方 式 で ,16QAM 変 調 は 位 相 と 振 幅 の 両
50 kg 程 度 の 超 小 型 衛 星 で 数 百 Mbps の 高 速 ダ ウ ン リ
方 に 情 報 を 載 せ る 変 調 方 式 で あ る . そ の た め 16QAM
ンク通信を実現するため,これまでに小型・低消費電
変調はパワーアンプにより高い線形性を要求し,結果
力の衛星搭載送信機,衛星搭載アンテナ,地上局シス
として消費電力も大きくなっている.
テ ム を 開 発 し て き た [2]. こ の シ ス テ ム は 東 大 が 中 心
50 kg 程 度 の 超 小 型 衛 星 の 発 電 能 力 は 100 W 程 度 で
となって開発した超小型衛星「ほどよし 4 号」に搭載
あり,ダウンリンクシステムに割り当てられる電力は
さ れ ,2014 年 6 月 に 打 ち 上 げ に 成 功 し た .本 稿 で は 開
そ の 2 割 の 20 W 程 度 で あ る . 本 シ ス テ ム は 様 々 な 工
発 し た 通 信 シ ス テ ム の 特 徴 ,「 ほ ど よ し 4 号 」 と 3.8 m
夫 に よ り , 16QAM 変 調 を 用 い る 348 Mbps の 通 信 機 を
地 上 ア ン テ ナ の 間 で 行 っ た 348 Mbps の 通 信 実 験 , ま
約 20 W の 消 費 電 力 で 実 現 し た .
た更なる高速化に向けた取り組みについて報告する.
2.2. 衛 星 搭 載 送 信 機
2. 通 信 シ ス テ ム
開発した衛星搭載送信機の主な仕様を表 1 に示す.
通 信 方 式 に は Consultative Committee for Space Data
2.1. 従 来 の高 速 通 信 システムの問 題 点
Systems
地 球 観 測 衛 星 の ダ ウ ン リ ン ク に は X バ ン ド の 375
(CCSDS) で 標 準 化 さ れ て い る
Flexible
MHz (8025 MHz ~ 8400 MHz) が 割 り 当 て ら れ て い る .
Advanced Coding and Modulation Scheme for High Rate
限られた帯域内で高速な通信を実現するために,左右
Telemetry Applications (131.2-B-1) [4]を 採 用 し た .低 軌
両方の偏波を使用する方法や周波数帯域をいくつかの
道を周回する地球観測衛星は 1 可視中に地上局との距
チャネルに分割し,それらを束ねて使用する方法が取
離が大きく変化するため,距離に応じて通信速度を変
られてきた.これらの手法はいずれも複数の送信機を
化させるのが効率的である.本規格ではシンボルレー
搭載する必要があり,通信システムは大きな質量・消
トは一定とし,変調方式と誤り訂正の符号化率を変化
費電力となる.別のアプローチとして,振幅と位相の
さ せ る . こ の 組 み 合 わ せ は Adaptive Coding and
両方に情報を載せる多値変調によって 高速化する手法
Modulation (ACM) 番 号 と し て 全 部 で 27 種 類 定 義 さ れ
が あ る [3]. こ の 方 法 で は 1 つ の 送 信 機 で 高 速 化 が 可
ている.シンボルレートは一定のため回線の中断無く
能 で あ る が ,多 値 変 調 は 要 求 Eb/No が 高 く ,ま た パ ワ
伝 送 レ ー ト を 変 化 さ せ る こ と が で き ,Es/N0 で 約 20 dB
ーアンプに高い線形性を要求する.そのため電力効率
のダイナミックレンジを提供する.また,これまでの
の低い線形領域でパワーアンプを動作させ る必要があ
通信機は誤り訂正符号に畳み込み符号やリードソロモ
っ た . ま た 375 MHz を 複 数 の チ ャ ネ ル に 分 割 せ ず に 1
ン符号,これらを組み合わせた連接符号などが採用さ
つの搬送波で広帯域を使用する場合,ベースバンド信
表 1 衛星搭載送信機の仕様
号を生成するためにディジタル信号処理の演算部を数
Frequency band
8160 ± 60 MHz
RF output power
2W
Symbol rate
100 Msps
Modulation schemes
QPSK, 8PSK, 16APSK, 32APSK,
64APSK, 16QAM, 64QAM
Baseband filter
Square root raised cosine α = 0.5
Data rate (user)
72 to 540 Mbps
Error correction code
Serially Concatenated
Convolutional Coding (SCCC)
Data input interface
LVDS
DC power
28 V, 20 W
Volume
12 × 10 × 7.3 cm3
力 の 関 係 .◆ は 8PSK 変 調 ,● は 16QAM 変 調 を 表 す .
Weight
1,330 g
ほ ど よ し 4 号 衛 星 (64 kg) に 搭 載 し た 本 シ ス テ ム は
Operating temperature
-20 to +50 °C
★で示した.
Radiation test
20 kRad
図 1
X バンド高速送信機のビットレートと消費電
2
16APSK 変 調 を 使 用 す る 場 合 は 4 本 の デ ー タ 線 を 使 用
する.このデータ線は 4 本しか用意していないため,
デ ー タ レ コ ー ダ は 最 高 で 16QAM / 16APSK 変 調 ま で し
か 使 用 で き な い . 64QAM / 64APSK 変 調 の よ う な 多 値
度の高い変調方式の通信実験を行うため,ディジタル
部 単 体 で CCSDS フ ォ ー マ ッ ト の 信 号 を 送 信 す る 機 能
も 搭 載 し た . 地 上 で 作 成 し た CCSDS フ ォ ー マ ッ ト の
データをコマンドによってディジタル部の不揮発性メ
モリに書き込み,送信機はこれを繰り返し送信する.
この不揮発性メモリには放射線に強いとされる磁気抵
抗 メ モ リ (MRAM) を 採 用 し て い る .
図 2
衛星搭載送信機のフライトモデルの外観
送 信 す る デ ー タ は I/Q 平 面 に マ ッ ピ ン グ さ れ , ロ ー
ル オ フ 係 数 が 0.5 の Square root raised cosine フ ィ ル タ
れ て き た .本 規 格 で は タ ー ボ 符 号 の 一 種 で あ る Serially
で波形整形される.その後,パワーアンプの歪みを補
Concatenated Convolutional Coding (SCCC) が 定 義 さ れ
正 す る プ レ デ ィ ス ト ー シ ョ ン 回 路 を 通 過 し , 250 MHz
ている.シャノン限界に迫る高い符号化利得が得られ
の D/A コ ン バ ー タ に よ っ て ア ナ ロ グ の I/Q 信 号 が 出 力
る た め RF 送 信 電 力 を 下 げ る こ と が で き , シ ス テ ム の
さ れ る . 100 Msps の シ ン ボ ル レ ー ト に 対 し て 2.5 倍 と
消費電力削減に繋がっている.
いう比較的低いオーバーサンプリングレートを採用す
次に送信機のフライトモデルの外観を図 2 に示す.
ることでディジタル信号処理部の負荷を低減し ,アナ
質 量 は 1,330 g で あ る . 送 信 機 は ベ ー ス バ ン ド 信 号 を
ログのローパスフィルタと組み合わせることで 必要な
生 成 す る デ ィ ジ タ ル 部 (上 部 ) と 変 調・増 幅 を 行 う RF
特 性 を 実 現 し て い る . さ ら に FPGA の 信 号 処 理 部 は 2
部 (下 部 ) か ら 構 成 さ れ る .発 熱 量 の 多 い RF 部 を 下 に
並 列 処 理 を 行 う こ と で 動 作 周 波 数 を 半 分 の 125 MHz に
す る こ と で 衛 星 筐 体 に 接 さ せ ,放 熱 効 率 を 高 め て い る .
下 げ , 大 幅 な 消 費 電 力 削 減 を 実 現 し た . FPGA に は
Altera 社 の Cyclone III を 採 用 し た .BGA 実 装 を 避 け る
2.2.1. デ ィ ジ タ ル 部
こ と で 検 査 を 容 易 に し ,コ ス ト を 削 減 し て い る .SRAM
送 信 機 の ブ ロ ッ ク を 図 3 に 示 す .デ ィ ジ タ ル 部 は 制
型 の FPGA は 起 動 時 に 外 部 の コ ン フ ィ グ ROM か ら 回
御 や 信 号 処 理 を 担 う FPGA と D/A コ ン バ ー タ , 及 び
路情報を読み込む必要がある.放射線によってコンフ
DC/DC コ ン バ ー タ な ど の 周 辺 回 路 か ら 構 成 さ れ る .外
ィ グ ROM の 内 容 が 破 損 す る と FPGA の 動 作 に 定 常 的
部 の デ ー タ レ コ ー ダ で CCSDS 131.2-B-1 規 格 に 準 拠 し
な 異 常 が 発 生 す る た め , コ ン フ ィ グ ROM は 3 つ 搭 載
た誤り訂正符号化,フレーム生成までを行い,ディジ
し ,コ ン フ ィ グ 時 の CRC エ ラ ー を 検 知 し て ROM を 切
タ ル 部 は デ ー タ レ コ ー ダ か ら そ の 信 号 を 入 力 し て I/Q
り 換 え る 回 路 を 搭 載 し て い る .ま た SRAM 型 FPGA は
のベースバンド信号を出力する.データレコーダとの
動 作 中 に シ ン グ ル イ ベ ン ト ア ッ プ セ ッ ト (SEU) が 発
イ ン タ フ ェ ー ス に は LVDS を 採 用 し た . デ ィ ジ タ ル 部
生 す る 恐 れ が あ る .こ の 対 策 は 一 般 に 大 き な 実 装 面 積 ,
か ら デ ー タ レ コ ー ダ に 100 MHz の ク ロ ッ ク を 供 給 し ,
消費電力が必要となる.小型衛星の場合,高速送信機
1 シ ン ボ ル 2 ビ ッ ト の QPSK 変 調 を 使 用 す る 場 合 は 2
に電源が入っている時間は短い.そこで,もし 運用者
本 の デ ー タ 線 を , 1 シ ン ボ ル 4 ビ ッ ト の 16QAM /
図 3
開発した衛星搭載送信機のシステムブロックと特徴
3
が 異 常 に 気 付 き ,SEU の 発 生 が 疑 わ れ る 場 合 は 送 信 機
の電源をリセットし,データレコーダから同じデータ
を再度送信するという対応を取ることにした.
こ の 他 に デ ィ ジ タ ル 部 で は RF 出 力 電 力 の 制 御
(ALC) も 行 う .送 信 機 は 宇 宙 環 境 の 温 度 変 化 に よ っ て
特性が変化する.これを補正するため,地上の恒温槽
で温度を変化させて取得した特性をテーブルとして保
持 し ,温 度 に 応 じ て ALC の 動 作 を 変 え て い る .こ の 補
正 テ ー ブ ル は MRAM に 保 存 さ れ て お り , 地 上 か ら の
図 5
コマンドによって書き換えることができる.
GaN-HEMT パ ワ ー ア ン プ の 外 観
EM Input-Output characteristics
36
2.2.2. RF 部
8085MHz
8110MHz
8135MHz
8160MHz
8185MHz
8210MHz
8235MHz
34
RF 部 は デ ィ ジ タ ル 部 が 出 力 し た I/Q ベ ー ス バ ン ド 信
Output Level [dBm]
号を S バンドで直交変調し,X バンドへのアップコン
バート,増幅を行ってアンテナに出力する. 大型衛星
の送信機は変調部とパワーアンプが別のモジュール に
なっているのが一般的だが,1 つのモジュールにする
ことで小型化を実現している.
パワーアンプには近年,高周波・電力用途で高効率
32
30
28
26
24
を 実 現 で き る と し て 注 目 さ れ て い る 窒 化 ガ リ ウ ム -高
22
電 子 移 動 度 ト ラ ン ジ ス タ (GaN-HEMT) の 固 体 増 幅 器
20
0
5
10
15
Baseband Input Level [dB]
を 採 用 し た . AB 級 で 動 作 さ せ , 多 値 変 調 に 要 求 さ れ
る線形性と効率のバランスを取っている. 開発したア
EM Input-Phase shift characteristics
7
ン プ モ ジ ュ ー ル の 外 観 を 図 5 に ,振 幅 特 性 (AM-AM) ,
8085MHz
8110MHz
8135MHz
8160MHz
8185MHz
8210MHz
8235MHz
6
位 相 特 性 (AM-PM) を 図 4 に 示 す . 平 均 出 力 電 力 は 回
5
Phase shift [deg]
路 の 損 失 を 考 慮 し て 34 dBm に 設 定 し た . 飽 和 出 力 電
力 か ら の 出 力 バ ッ ク オ フ は 約 1~ 2 dB で あ り , 電 力 付
加 効 率 は 47%で あ る .平 均 電 力 付 近 で の 位 相 回 転 量 は
2 度以下であり,平均より振幅の大きい範囲でも位相
は数度しか回転しない.これは従来のガリウムヒ素
4
3
2
1
(GaAs) を 使 用 し た パ ワ ー ア ン プ と 比 較 し て 極 め て 小
0
さい回転量であり,これによって高い電力効率で
-1
16QAM の よ う な 位 相 振 幅 変 調 を 採 用 す る こ と が 可 能
-2
0
5
10
15
Baseband Input Level [dB]
に な っ て い る .開 発 し た ア ン プ の 歪 み が 小 さ か っ た 為 ,
図 4
デ ィ ジ タ ル 部 で の predistortion は 行 っ て い な い . ま た
20
20
GaN-HEMT パ ワ ー ア ン プ の 入 出 力 特
SEU に よ っ て デ ィ ジ タ ル 部 の ALC が 暴 走 し た と き に
性 . 上 : 振 幅 特 性 (AM-AM) , 下 : 位 相 特 性
備 え ,ア ン プ に は ア ナ ロ グ の 保 護 回 路 を 搭 載 し て い る .
(AM-PM)
2.3. 衛 星 搭 載 アンテナ
超 小 型 衛 星 に 搭 載 で き る 小 型・軽 量 な X バ ン ド 中 利
得 ア ン テ ナ (MGA) を 新 た に 開 発 し た . そ の 外 観 を 図
6 に 示 す . 2×2 の 4 素 子 か ら な る パ ッ チ ア レ イ ア ン テ
ナ で ,大 き さ は 一 辺 が 7 cm,質 量 は 69 g,最 大 利 得 は
13.5 dBi で あ る . 従 来 の 大 型 衛 星 で は 衛 星 側 の ア ン テ
ナを 2 軸のジンバルによって地上局に向けていた.本
システムではコストと質量の面でジンバル機構は搭載
せず,アンテナを衛星本体に直接取り付け,衛星の姿
勢制御によってアンテナを地上局に指向させることに
図 6
4
X バンド中利得アンテナの外観
し た .こ の ア ン テ ナ の ビ ー ム 幅 は 約 20°で あ り ,小 型
衛星の姿勢制御精度で十分に達成できるレベルである.
MGA の 他 に ,低 速 通 信 用 の ア イ ソ フ ラ ッ ク ス ア ン テ ナ
も搭載している.
2.4. 地 上 局 システム
小型衛星は少ないリソースで運用できるコンパク
トな地上局が望ましい.そこでテレメトリ・コマンド
運 用 で 使 用 す る S バ ン ド と ,観 測 デ ー タ の 伝 送 に 使 用
す る X バ ン ド の 共 用 ア ン テ ナ を JAXA 宇 宙 科 学 研 究 所
の 屋 上 に 設 置 し た (図 7).直 径 は 3.8 m で S バ ン ド の
利 得 は 36 dBi,X バ ン ド の 利 得 は 47.5 dBi で あ る .TLE
デ ー タ か ら 作 成 し た 衛 星 の 軌 道 情 報 と GPS 時 刻 に 基
図 7
づいて方位角,仰角を制御するプログラム追尾方式で
用アンテナ
宇 宙 科 学 研 究 所 の 屋 上 に 設 置 し た S/X バ ン ド 共
ある.
X バンド受信システムのブロックを図 8 に示す.ア
る . 本 シ ス テ ム で は 最 新 の 10 nm 台 の フ ラ ッ シ ュ メ モ
ンテナで受信した信号はアンテナの背面にある低雑音
リ で は な く , 数 世 代 古 い 32 nm の フ ラ ッ シ ュ メ モ リ を
増 幅 器 で 増 幅 し ,ダ ウ ン コ ン バ ー タ で 700 MHz 帯 の 中
使 用 し て い る .こ れ に よ り ,毎 日 40 分 間 の 波 形 を 記 録
間周波数に変換し,その信号を長距離伝送のために光
し て も 15 年 以 上 の 寿 命 を 確 保 し た . 記 録 し た 波 形 は
信号に変換する.光ケーブルでアンテナ背面から衛星
PC の MATLAB 上 に 構 築 し た 受 信 ソ フ ト ウ ェ ア で 復
運用室まで導き,光信号を電気信号に戻した後,自動
調・復号を行う.シンボルタイミングの同期には
利得制御器で電力レベルを一定にする.
Gardner 法 を , 搬 送 波 位 相 の 同 期 に は Costas 法 を 採 用
近 年 ,100 Msps の シ ン ボ ル レ ー ト と SCCC の タ ー ボ
し , フ レ ー ム 同 期 , 軟 判 定 し た デ ー タ を , SCCC タ ー
符号に対応した受信機がいくつか販売され始めている
ボ復号器で復号する.ターボ復号の反復回数は可変で
[5] [6]. こ れ ら の 高 速 通 信 対 応 受 信 機 は 大 型 衛 星 で の
ある.
使用を前提としているため高価であり,低コストな小
3. 超 小 型 衛 星 「 ほ ど よ し 4 号 」 の 通 信 実 験
型衛星ミッションでの採用は難しい. 地球観測衛星の
観測データは必ずしもリアルタイムでの復調・復号を
開 発 し た 衛 星 搭 載 送 信 機 や ア ン テ ナ は 質 量 64 kg の
必要としていないことから,ソフトウェアによる低コ
超 小 型 衛 星「 ほ ど よ し 4 号 」に 搭 載 し ,2014 年 6 月 20
ス ト な 復 調・復 号 シ ス テ ム を 新 た に 開 発 し た .AGC か
日 (日 本 時 間 ) に ロ シ ア の ヤ ス ネ 基 地 か ら ド ニ エ プ ル
ら 出 力 さ れ た IF 信 号 は 400 MHz,14 bit の A/D 変 換 チ
ロケットによって打ち上げられた.
ッ プ に よ っ て デ ィ ジ タ ル 化 し ,IF 波 形 を そ の ま ま デ ー
本 来 , 衛 星 本 体 の 姿 勢 制 御 に よ っ て MGA を 地 上 局
タ レ コ ー ダ に 保 存 す る . A/D 変 換 後 の デ ー タ レ ー ト は
に連続的に指向させ,高速通信を行う予定であった.
800 M バ イ ト /秒 に 達 す る た め ,高 速 な NAND 型 フ ラ ッ
しかし姿勢系の立ち上げ運用が遅れていたため,地上
シ ュ メ モ リ で 構 成 さ れ る Solid State Drive (SSD)を 8 台
局指向モードではなく,地球指向モードで実験を行っ
並 列 化 し た デ ー タ レ コ ー ダ を 使 用 し て い る . NAND 型
た.地球指向モードでは地上局からの衛星仰角が約
フラッシュメモリには書き換え回数制限が存在し, 製
50°以 上 の 時 に MGA の 半 値 全 幅 内 に 地 上 局 が 入 る .
造プロセスの微細化が進むにつれてその回数は減少す
ACM 番 号 が 17 の 16QAM 変 調 , 符 号 化 率 0.87 (348
アンテナ背面個室
衛星運用室
Low Noise
Down
RF to Optical
Optical to RF
Automatic Gain
A/D
Data Recorder
Amplifier
Converter
Converter
Converter
Controller
Converter
(SSD x 8)
PC (Software)
I-Q
Symbol Timing
Carrier Phase
16QAM Soft Decision
SCCC
Demodulator
Synchronizer
Synchronizer
Demodulator
Turbo Decoder
図 8
X バンド受信システムのブロック
5
Data
Mbps) の 試 験 デ ー タ を 地 上 で 作 成 し ,MRAM に 書 き 込
の 時 に 受 信 し た 64APSK の I/Q コ ン ス タ レ ー シ ョ ン を
ん で そ の デ ー タ を 送 信 さ せ た . 仰 角 が 84.5°, 直 線 距
図 10 に 示 す .黒 の 四 角 形 は 正 し い シ ン ボ ル 位 置 を 表 す .
離 が 622 km の 時 に 受 信 し た 信 号 の I/Q コ ン ス タ レ ー シ
電力の大きい最外周のシンボルが大きく内側に寄って
ョ ン を 図 9 に 示 す .ス ペ ク ト ル か ら 推 定 し た 受 信 C/N0
い る も の の , 誤 り 訂 正 前 の 600 Mbps に お け る ビ ッ ト
は 96 dBHz で あ っ た . 誤 り 訂 正 前 の 400 Mbps に お け
誤 り 率 は 2.7 × 10−2 で あ り , タ ー ボ 復 号 を 行 っ た 後 の
る ビ ッ ト 誤 り 率 は 1.2 × 10−3 で あ り , タ ー ボ 復 号 を 行
504 Mbps に お け る ビ ッ ト 誤 り 率 は 7.6 × 10−7 以 下 で あ
っ た 後 の 348 Mbps に お け る ビ ッ ト 誤 り 率 は 1.7 × 10−9
った.復調・復号した範囲ではエラーフリーである.
以下であった.復調・復号した範囲ではエラーフリー
である.
4. ま と め
次 に ACM 番 号 が 26 番 の 64APSK 変 調 ,符 号 化 率 が
50 kg 級 の 超 小 型 衛 星 で 数 100 Mbps の 高 速 通 信 を 実
0.84 (504 Mbps) の デ ー タ を 作 成 し ,同 様 に「 ほ ど よ し
現 す る シ ス テ ム を 開 発 し , 16QAM 変 調 を 用 い た 348
4 号」から送信させた.現在の受信ソフトウェアは
Mbps の 通 信 に 成 功 し た .ま た こ の シ ス テ ム で 64APSK
QPSK 変 調 と 16QAM 変 調 に し か 対 応 し て い な い た め ,
を 用 い た 504 Mbps の 通 信 を 実 現 で き る 見 通 し を 得 た .
そのままでは復調できない.そこで地上での送信機評
小型化・低消費電力化のために送信機の冗長性は最低
価 用 に 作 成 し た ソ フ ト ウ ェ ア [7]を 使 用 し た . こ の ソ
限となっているが,打ち上げからの 7 ヶ月間ではトラ
フ ト ウ ェ ア は 送 ら れ て く る 既 知 の ビ ッ ト 列 か ら I/Q の
ブル無く動作している.今後は地上受信ソフトウェア
基 準 波 形 を 作 成 し ,Error Vector Magnitude (EVM) が 最
の 64APSK 変 調 へ の 対 応 , 復 調 ・ 復 号 処 理 の 高 速 化 を
小になるように復調するものである.そのため観測デ
目指す.
ータのような未知信号の復調には使用できないが,今
回の実験では既知のデータが送信されるため,復調す
5. 謝 辞
る こ と が 可 能 で あ る .仰 角 が 83.3°,直 線 距 離 が 658 km
本研究の一部は,総合科学技術会議により制度設計
された最先端研究開発支援プログラムにより,日本学
術振興会を通して助成されたものです.
文
献
C. Boshuizen, J. Mason, P. Klupar and S. Spanhake,
[1]
"Results from the Planet Labs Flock Constellation," in
Small Satellite Conference, Utah, 2014.
図 9
[2]
H. Saito, N. Iwakiri, A. Tomiki, T. Mizuno, H.
Watanabe and T. Fukami, "300 Mbps Downlink
Communications from 50kg Class Small Satellites," in
Small Satellite Conference, Utah, 2013.
[3]
筌場俊行, 樋口雅之, 橋爪隆, 稲岡和也, 田島成
将 , 谷 島 正 信 , “ ALOS-2 DT 高 速 伝 送 の 開 発 ,” 著 :
第 58 回 宇 宙 科 学 技 術 連 合 講 演 会 , 長 崎 , 2014.
[4]
The Consultative Committee for Space Data
Systems, FLEXIBLE ADVANCED CODING AND
MODULATION
SCHEME
FOR
HIGH
RATE
TELEMETRY APPLICATIONS, CCSDS 131.2 -B-1,
2012.
[5]
Zodiac Data Systems, "Cortex HDR XXL - High
Data
rate
Receiver,"
[Online].
Available:
http://www.zds-fr.com/upload/docs/032557-ftp99-ed7r
0-cortex-hdr-w.pdf.
[6]
ViaSat, "ViaSat High Rate Receiver 3200 For
Remote Sensing and Earth Observation," [Online].
Available:
https://www.viasat.com/files/assets/High_rate_modem
_3200_Datasheet_005_web.pdf.
[7]
深見友也, 冨木淳史, 渡邊宏弥, 岩切直彦, 齊藤
宏 文 , 中 須 賀 真 一 , “ 超 小 型 衛 星 用 X-band 高 速 ダ
ウ ン リ ン ク 送 受 信 機 の 評 価 シ ス テ ム ,” 著 : 電 子 情
報 通 信 学 会 通 信 ソ サ イ エ テ ィ 大 会 , 富 山 , 2012.
16QAM 受 信 信 号 の I/Q コ ン ス タ レ ー シ ョ ン
図 10 64APSK 受 信 信 号 の I/Q コ ン ス タ レ ー シ ョ ン
6