予測軌跡の方向変化を考慮した歩行者挙動モデル

<第 13 回 ITS シンポジウム 2015>
予測軌跡の方向変化を考慮した歩行者挙動モデル
井料(浅野)美帆*1
藤原龍*2
井料隆雅*2
長島愛*3
東京大学生産技術研究所*1
神戸大学大学院工学研究科*2
東京都建設局*3
高密度の歩行者交通においては,歩行者同士が互いの行動を予測しつつ衝突回避を行っており,この予測行
動の表現方法が歩行者シミュレーションの再現性に大きな影響を及ぼす.既存の挙動モデルでは,予測され
る歩行者軌跡を直線的に記述しており,高密度下での頻繁な方向変化による回避を表現できない.本研究で
は歩行者の回避戦略を 3 次元の時空間ネットワーク上の最短経路として表し,かつ複数存在する最短経路を
確率的に選択する手法を提案した.検証の結果,提案モデルでは回避行動の発生タイミングを確率的に選択
できることや,高密度下でも安定して旅行速度の再現性が得られることを示した.
Pedestrian behavior model considering directional change of intended
trajectories
Miho Iryo-Asano*1
Ryu Fujiwara*2
Takamasa Iryo *2
Ai Nagashima *3
Institute of Industrial Science, The University of Tokyo*1
Graduate School of Engineering, Kobe University*2
Bureau of Construction, Tokyo Metropolitan Government*3
Pedestrians avoid collisions by anticipating other pedestrians’ behavior under high density conditions. The
representation of anticipatory behavior has a great impact upon the performance of pedestrian traffic simulations. The
existing models do not consider frequent direction change under high density conditions when they evaluate
pedestrians’ intended trajectories, as they assume pedestrians walk straightly. This study proposed a method to represent
the intended trajectories in the three-dimensional spatiotemporal network and to probabilistically choose routes from
multiple alternatives with the same minimum travel costs. It was revealed that the model can control timings of the
collision avoidance probabilistically and it represented travel speeds well under high density conditions.
Keyword: Pedestrian behavior, trajectory anticipation, spatiotemporal network search
1. はじめに
多くの人が集中する歩行者空間の設計には,混雑
状況を事前に定量的に推計することが求められる.
避難行動を評価するための歩行モデルが基本的に同
一方向の目的地に向かう交通を対象としているのに
対し,日常の交通においては,様々な目的地を持つ
利用者が交錯するのが常であり,複数方向から交錯
する交通を処理する必要がある.
中密度から高密度の交通流の交差では,歩行者が
互いに行動を予測しながら回避することが精度向上
に必要であることが知られている 1),2).行動予測を伴
う歩行者交通シミュレーションには,Asano et al.3)
によるものが挙げられる.このモデルでは歩行者の
図 1 Asano et al.(2009)の予定軌跡
近い将来における移動戦略を Rolling horizon 形式で
時々刻々と更新していく.しかし,途中の方向変化
を伴わない直線的な移動戦略を仮定しており,高密
t
度下での頻繁な方向変化を十分に考慮した先読み行
y
動ができているとは言いがたい.また,他者の行動
を確定的に予測しており,相手の行動の不確実性に
x
起因する衝突可能性を考慮することができない.こ
希望移動方向
れらの理由により,高密度においては歩行者がお互
いに回避しきれずに身動きがとれなくなり,捌け交
図 2 正三角形で構成される時空間ネットワーク
通量が著しく減少する状況も観測されていた 4).
左:斜めからの俯瞰図 右:時間方向から見下ろ
本研究は,より高密度な交通流の交錯にも対応可 した図と,移動軌跡の例(太線矢印)
能な,方向変化の自由度が高く,かつ周辺歩行者の
きを予測できるとする仮定である.実際にも,顔の
行動の不確実性や確率的な経路選択を考慮した歩行
向きや加速速の様子から予測が可能と考えられよう.
者の行動モデルを提案することを目的とする.本研
FTモデルで問題となるのは,歩行者の意思決定を
究では 3 次元時空間ネットワークにて歩行者予測軌
跡を扱うことにより,これらの課題に対応している. 示す予定軌跡の記述方法である.この軌跡はタイム
ホライズン(現在時刻 t から時刻 t  T )の間の時空間
次章以降では,既存モデルおよび 3 次元時空間ネ
軌跡であり,非常に大きい自由度を持つ.自由度が
ットワークによる予測軌跡の表現・探索方法を説明
大きいと,(1)で「できるだけ目的地に近づく」軌跡
する.その後,仮想シナリオや実観測データとの比
の候補が無限に存在し,軌跡を定めることが難しく
較を通じて,本モデルの特性を検証する.
なる.(1)をいかにできるだけ短い計算時間で実施で
きるように時空間軌跡の候補を絞るかがFTモデル
2. 歩行者予定軌跡の探索
をシミュレーションとして実装する際のカギとなる.
2-1 既存モデルの探索方法
オリジナルのFTモデルは,予定軌跡を「一定方向
Asano et al.のモデルの特徴は以下の通りである:
に直線で移動するもの(図1)」に限定し,この軌跡内
(1) 歩行者は希望歩行速度の範囲内で,他の歩行者
でタイムステップごとに停止,ないしはあらかじめ
に衝突しないという前提の下,一定時間(タイム
固定された速度での移動のいずれか(いわば,
ホライズン)の間にできるだけ目的地に近づくよ
Go/Stop)を選択できることとした.このような設定
うな軌跡を選択する.
であれば,最適な軌跡を探索する際には,単にさま
(2) (1)を実現するために,それぞれの歩行者は,現時
ざまな方向の予定軌跡についてタイムホライズン内
点からタイムホライズンまでのあいだに歩行を予
で障害物にぶつからずに移動できる距離を求めれば
定する軌跡(Intended Trajectory:以下では「予定
よいこととなり,必要な計算量はかなり少ないもの
軌跡」と日本語で表記)を保持する.
となる.ただし,予定軌跡を限定するため,歩行者
(3) 予定軌跡の情報は歩行者間で交換可能とする.
は「タイムホライズン内の方向転換を予定すること
(1)は,できるだけ歩行者が早く目的地に到着する
はない」と仮定してしまっている.身動きがとれな
ような軌跡を探すことを意味する.この特徴より,
い歩行者が発生したのも,軌跡の選択肢集合を限定
本モデルは「Fastest Trajectory(FT)」モデルとも呼
したためと考えられる.
ばれる.(2),(3)は,歩行者間が近い将来の互いの動
2-2 時空間ネットワークによる予測軌跡の表現
直線以外の予定軌跡を記述するために,本研究で
は図 2 に示す多数の正三角形で構成される時空間ネ
ットワークを構成し,予定軌跡をこの時空間ネット
ワーク上の経路として表現する.時空間ネットワー
クは真上(時間軸を奥行き方向とする向き)から見
ると正三角形が並んでいるように見える(図 2 右).
正三角形の一辺の長さを,シミュレーションの更新
時間間隔 t あたりの移動体の移動距離とする.ある
時刻 t において正三角形のある頂点に存在した移動
体が,時刻 t  t に存在する位置は,隣接する正三角
形の頂点または同じ頂点のいずれかになる.
この時空間ネットワークで予定軌跡を記述する場
合,予定軌跡の t ごとの移動角度を 60 度単位に制
限していることに注意したい.この欠点と引き換え
に,タイムホライズン中に自在に曲がる予定軌跡を
記述することがこの方法で可能となる.
った移動方向を  とするとき,基本リンクコスト
Cb ( (t ),   0 ) は,その時刻に本来希望方向へと移動
できた距離と,そのリンクに従ったときの移動距離
との差分として以下の通り表現される.
Cb ( (t ),   0 )  L( (t ))  (1  cos(   0 ))  C min (2)
ただし, C min はリンクの最小費用であり,任意の微
小量( V pref t  C min  0 )とする. C min は,Dijkstra 法
において複数の最短経路探索を保証するために与え
る.この値が小さければ直進方向への探索を先に試
み(深さ優先探索),大きくなるほど早い段階で横方
向の探索を行う(幅優先探索).計算量を考慮すると,
C min はできるだけ小さい値とすることが望ましい.
2) 周辺歩行者への近接コスト
衝突可能性にかかるコストは,オリジナルの FT
モデルでは周辺歩行者の行動を確定的にとらえ,他
の歩行者の予定軌跡と重なる場合には無限大を,重
ならない場合には 0 を与えていた.実際には,衝突
確率は至近距離になればなるほど大きくなるため,
2-3 リンクコストの設定
提案モデルでは,歩行者人体円間の最短距離 d(x,t)
上述のような正三角形の時空間ネットワーク上で, に依存する形で
タイムホライズン内に他の移動体にぶつからずにで
 
 d ( x, t ) 2 
きるだけ目的地に近づく軌跡を求めるには,このネ
 if d ( x, t )  2r

exp

(3)

C p ( x , t )   2 2
2 2 
ットワーク上で最短経路探索問題を解けばよい.


Cmax
otherwise

この最短経路探索問題では,ネットワーク上のそ
れぞれのリンクに対して,希望移動方向からのずれ
によるコスト Cb ,他の移動体との衝突可能性に起因
するコスト C p ,静止物体(壁など)との衝突に起因
するコスト Co の総和をリンクコストとして付与し,
リンクコストが最小となる経路を探索する.原点(現
在時刻 t とその際の位置)から,時刻 t  T までのノ
ードコスト(当該ノードに至る最小コスト経路での
リンクコストの総和)を決定し,タイムホライズンの
境界,すなわち時刻 t  T の時点で最も低いノードコ
ストを持つ点へ至る最短経路を予定軌跡と設定する.
1) 希望方向からのずれによる基本リンクコスト
まず,他の障害物を無視したときの個々のリンク
のコスト(基本リンクコスト)を考える.歩行者の希
望速度の大きさを V pref ,モデルの更新時間間隔を t
とする.歩行者の時刻 t における移動距離 L( (t )) は,
次の式で表される.
L( (t ))  V pref  (t )t
(1)
ただし  (t ) は,歩行者が時刻 t に「進む」とき 1,
「待つ」とき 0 とする.希望方向を  0 ,リンクに沿
d ( x , t )  x  x i (t )
(4)
とした.ただし,x, xi(t)はそれぞれ,対象リンクの
終端座標と時刻tにおける歩行者iの予定軌跡の中心
位置座標, rは人体円半径, Cmax は無限大に相当する
十分大きい値,  ,  はパラメータである.
3) 静止物体との近接コスト
回避対象が壁などの静止している障害物へのコス
トは,式(3)と同様の考え方で,障害物と対象リンク
終端座標との距離 D(x)を用いて以下の通り表す.
Co ( x ) 
 D( x ) 2 

 

exp
2 
2 2
 2 
(5)
2-4 費用の等しい複数経路の確率的探索
歩行者が回避行動を取る場合,十分手前で回避を
する場合と,衝突直前になってから回避する場合な
ど,複数の最短経路を持つことがありうる.図 3 は
右方向を希望方向とする歩行者の経路探索の例であ
る.Dijkstra 法では,探索中のノードコストが小さい
ものから順に,そのノードのコストとノードへ至る
ための直上流リンクの情報を確定させていく. C min
が十分小さければ,できる限り障害物に近づいてか
ら経路変更を行う経路 A→B→D の方が,上流で回
避を行う経路 A→C→D よりも先に最短経路として
抽出される.ここで A→C→D が抽出された際,D に
向かう上流リンクとして B→D を選択するか,C→D
を選択するかを決めなければならない.本研究では,
既存の探索結果と等しい経路コストを持つ経路が見
つかった場合,経路情報を新しく見つかった経路に
確率 p(以下,再接続確率とよぶ)で更新するとす
る.確率 p が大きくなるほど,上流で回避を行う経
路の選択確率が高くなる.
Step1 C 1.1
Step3 確率p (つなぎ変える)
D
C
D
1.1
1.2
B
A
0
B
0.1
A
障害物
Step2 C
D
1.1
0
0.1
確率1-p (つなぎ変えない)
C
1.2
D
1.1
B
A
0
1.2
B
0.1
A
0
0.1
図 3 経路の更新と再接続確率
y
x
x=0
3. モデルの基本特性分析
前章で提案した予定軌跡モデルを歩行者挙動モデ
ルに実装し,まず単純なシナリオにてモデルの特性
を確認する.特に,提案モデルにて導入した再接続
確率と近接コストが回避にどのような影響を与える
かに着目する.
3-1 静止障害物への回避行動
図 4 のように静止する周辺歩行者を(x, y)=(8.0, 0.0)
の位置に 1 人だけ設置し,原点から x 軸方向に向か
おうとする対象歩行者の予定軌跡を計算した.ここ
で, V pref t =2.0m, Cmin =0.1(m), r =0.2(m) とし,近
接コストパラメータ  =0 とした.このとき,回避を
開始する候補位置は,x=0, 2, 4, 6 の 4 か所である.
再接続確率 p を 0 から 1 の間で 0.1 ずつ変化させ,
各 10 万回ずつの計算を行った.
図 5 に結果を示す.p=0 の時は全て障害物直前の
x=6 にて回避を開始しており,p=1 の時は移動開始と
同時(x=0)に回避を行っている.2-4 節にて想定した
通り,再接続確率を変化させることで,回避開始位
置の選択確率分布が変動することがわかる.
3-2 対向歩行者同士の回避行動
次に,歩行者シミュレーションとしてより現実的
なパラメータを設定し,図 6 のように反対方向へと
向かう歩行者を正面から接近させ,互いの回避行動
を調べた.パラメータの設定値は表1の通りである.
図 7 に, =0 とし,再接続確率を変えたときの回
避開始時の歩行者相対距離分布を示す.p=1 では,
視野である半径 8m 以内に相手の人体円の一部が入
った瞬間から回避行動が始まる.一方,p=0.5 では,
距離 2m と十分相手に近づいてから回避を始める.
x=2
x=4
x=6
周辺歩⾏者
図 4 静止障害物の回避シナリオ
100000
90000
x=6
80000
x=4
70000
x=2
60000
x=0
出現回数 50000
40000
30000
20000
10000
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
再接続確率
図 5 再接続回数別の回避出現回数
20m
希望速度 1.3m/s
人体円半径 0.2m
図 6 対向歩行者の回避シナリオ
表 1 基本パラメータ設定値
パラメータ
値
希望速度 V pref (m/s)
1.3
周辺探索視野
距離 8m, 角度左右 60 度の扇形
人体円半径 r (m)
0.2
シミュレーション更新間 0.1
隔Δt (m)
タイムホライズン T(秒)
4
Cmin (m)
0.001
図 8 は,近接コストパラメータ  =100,  =0.08
として同様の計算を行ったものである.なお,近接
コストのパラメータ設定値は,Asano et al.(2007)5)の
実験データ(後述)を用いてチューニングしたものを
用いている.近接コストを導入すると全体的に回避
開始タイミングが早まるが,再接続確率の設定に比
べるとその影響は小さい.
3-3 回避開始位置の妥当性確認
名古屋市内の笹島交差点横断歩道にて観測した横
断歩行者移動軌跡データ 6)を用いて,実際の歩行者
の回避開始位置を確認した.このデータは,朝ピー
クおよびオフピーク時間のそれぞれ 5 サイクルの
青現示における横断交通について,
0.5 秒ごとの歩
行者の位置情報をビデオ画像より読み取り,射影
変換にて実座標を得たものである.歩行者密度は
高々1 人/m2 程度である.
対象歩行者の中心から移動方向に向かって±
0.75m の幅を持った空間を設定し,その空間内に
入る周辺歩行者のうち,最も対象歩行者までの距
離の短い歩行者を前方歩行者と定義する(図 9).
図 10 は,任意の 1 秒間における,対象歩行者の移
動速度の垂直方向成分(左方向が正)を,前方歩行
者との距離別に示したものである.なお,抽出し
たサンプルは,前方歩行者が対象者と反対方向か
ら移動し,かつ,前方歩行者が左側にいた場合に
限定している.統計的検定の結果,前方歩行者と
の距離が 6m 以下になると対象歩行者の垂直方向
速度分布が有意に右方向に偏ることが示された.
複数の歩行者が混在する実測データから実際の
歩行者の回避開始位置を定めることは困難であり,
図 10 は既に回避を開始した歩行者データも含ま
れていることに留意すべきである.しかし,図 10
と図 8 の集計分布とを対比すると,表1のパラメ
ータ設定条件下では,再接続確率 p=0.7 程度にす
ることで,実際の回避開始位置分布に近い傾向が
得られると考えられる.
4. 高密度下における交通特性の比較検証
4-1 使用データとシナリオ設定概要
歩行者流動実験 5)のデータを用いて,高密度交
通における旅行速度の比較検証を行った.これは,
幅員 3m の通路にて,2 方向の歩行者交通流を 45
度,90 度,135 度の交差角度,異なる需要レベル
で交錯させたものである.このデータでは最大 6
人/m2 程度の高密度交通が観測されており,0.2 秒
ごとの歩行者の位置情報をビデオ画像より読み取
っている.
シミュレーションでは各歩行者を実験時と同一
の場所,時刻より発生させ,実験データとシミュ
図 7 再接続確率別・回避開始時の距離分布
(  =0)
図 8 再接続確率別・回避開始時の距離分布
(  =100,  =0.08)
希望方向
(横断方向)
前方歩行者
抽出エリア(左側)
前方歩行者
抽出エリア(右側)
速度の垂直
方向成分
速度ベクトル
前方歩行者
(抽出エリア
内で直近)
前方歩行者
との距離
希望方向に対
する垂直方向
0.75m
0.75m
対象歩行者
図 9 実測データにおける前方歩行者抽出
図 10 前方対向歩行者との距離別・垂直方向速
度(前方歩行者が左側にいる場合)
レーション結果との比較を行った.比較のため,
既存モデル 3),提案モデルで  =0 としたもの,提
案モデルで  =100,  =0.08 としたものの 3 パター
ンを実行した.その他のモデルパラメータは,既存
モデルは既往文献と同じものを採用し,提案モデル
は希望速度分布を平均 1.3m/s, 標準偏差 0.2m/s,最
大値 1.9m/s,最小値 0.7m/s の切断正規分布,再接続確
率 p=0.7 とし,それ以外のパラメータを表 1 の通り
とした.各シナリオについて,5 回ずつシミュレー
ションを実施し,その平均値を取得した.
4-2 シミュレーション結果
図 11 は,各モデルにおける歩行者平均旅行速度を
実験データと比較したものである.既存モデルでシ
ミュレーション旅行速度が 0 となっているのは,シ
ミュレーションの途中で歩行者同士が避けきれず,
これ以上動くことができない状態になってしまう状
況が観測されたケースである.提案モデルではこの
ような状況は観測されなかった.これは,予定軌跡
の方向を途中で変更させることで,より適切な行動
選択ができるようになったためと考えられる.
 =0 の場合は,既存モデルと同等かそれ以上の旅
行速度となっており,過剰に効率的な行動選択がな
されていることがわかる.一方,  =100,  =0.08
の場合は,他者との接近を避けて余裕を持った行動
選択を行うことで,全体として実測値に近い再現結
果が得られていると考えられる.
5. 結論
本研究では,歩行者の先読み行動に基づく回避モ
デルを 3 次元時空間ネットワーク上での先読みが可
能なように拡張し,方向変化に対応するとともに,
他者との近接コストや確率的な軌跡選択を行うこと
のできるモデルを提案した.仮想的なシナリオ実験
により,軌跡探索の再接続確率が事前回避行動に大
きな影響を与えることを示した.また,予定軌跡の
評価において方向変化と近接コストを考慮すること
で,高密度でも安定した旅行速度の再現性が得られ
ることを示した.
これまでのモデルでは,希望方向が変わらないこ
とを前提としている.曲がり角のように,途中で希
望方向自体が変動する場合の予定軌跡の設定方法が
今後の課題である.
謝辞
本 研究は ,科 学研究 費補 助金 ( 若手研 究 (A): No.
図 11 実験とシミュレーションの平均旅行速度
15H05534)の補助を受けたものです.また,本研究の
成果の一部は,アイシン精機(株)および(株)テクノバ
の助成によるものです.
参考文献
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Simulation of pedestrian flows by optimal control and
differential games, Optimal Control Application and
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講演集 No.50,CD-ROM.
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6) 杉森千恵,井料隆雅,浅野美帆(2013). 数理的手
法によるミクロ歩行者流モデルの比較分析,土木計
画学研究・講演集 No.47, CD-ROM.