GIS を用いたコンビニチェーンの店舗立地の変化について 東京都港区を事例にして Location Change of a Convenience Store Chain by Using GIS : An Example of Case in Minato Ward of Tokyo 佐 藤 浩 志 Hiroshi SATO 要旨 地理情報システム(GIS)は、デジタル化された地図情報と統計データ等を重ね合わせることが 可能であり、高度な空間分析を行うことができる。また、GIS は幅広い分野で利用でき、近年急 速にデータが整備、提供されている。これらの技術およびデータを利用することでデジタル化され た地図上でさまざまな特徴を表現することが可能となった。本報告は CVS チェーンに注目し、東 京都港区における 年、 年の 時点間における店舗立地について空間分析を行った結果を報 告する。 Abstract A geographic information system (GIS) can be used to digitize map information and statistical data and, thus, perform complex spatial analysis. In addition, GIS can be used in a variety of research fields. Recently, numerous types of GIS data have been studied. In addition, GIS can express various characteristics on a map. This study focused on a convenience store chain (CVS), for store location between two time points in 2005 and 2015 in Minato Ward of Tokyo, to report the results of spatial analysis. [キーワード] 地理情報システム,エリアマーケティング,空間分析,コンビニエンスストア Keywords : geographic information system, area marketing, space analysis, convenience store ― ― 西武文理大学サービス経営学部研究紀要第 号( 年 月) .はじめに .コンビニの現状 年に日本初のコンビニエンスストア(以 CVS は、アメリカにおいてスーパーマーケ 後、CVS)が誕生して以来約 年が過ぎ、今で ットを補完するために発展した小売業態で、 は , 店舗を超える巨大な業態のひとつとな 年、アメリカ・ダラスの製氷業者サウスラ った。この熾烈な競争を勝ち抜くにために、チ ンド・アイス社のアイデアに始まった。サウス ェーンごとにいろいろな戦略が考えられ実行さ ランド・アイス社は当初店名を「トーテム・ス れている。 トア」としていたが、その後、創業記念日 業界 月 位のセブン‐イレブンはセブン銀行を 日にちなんだ名称に変更され「セブン‐イレ 設立し、各店に ATM を設置したことで利便性 ブン」となった。セブン‐イレブンをはじめと をさらに高めていった。業界 位のローソンは 他チェーンに先駆け全国展開をした。業界 のファミリーマートは、 する CVS は、 げ、 ∼ 年代にかけ急成長を遂 年にわずか 店舗だった CVS は、 月に当時業界 年には , 店舗を超えるまでに成長した。こ 位であったエーエム・ピーエムとの統合合併 の時期は、産業の変化によって専門性を求めら をしたことで店舗数を伸ばし、さらに店舗の配 れる仕事が増えると同時に、女性の社会進出が 置についても効率化を図ってきた ))。また 急進した時代でもある。このような背景から、 年 月に業界 年 位 位のサークル K サンクスとの CVS の便利性が積極的に評価された。 日本の CVS の起源については、いくつかの 経営統合の協議に入ることを発表したことで業 界再編の機運が高まってきた )。 諸説あるが、 コンビニ業界は常に激しい競争をしているが、 その先鋒となるのが店舗である。たとえば、A 年のセブン‐イレブン豊洲店 が日本の CVS の起源とするのが一般的とされ ている。CVS の日本第一号店舗を出店したセ チェーンだった店舗が、ある時 B チェーンの ブン‐イレブンは、 店舗に代わっていたというチェーン変更がそれ 店を展開する CVS 最大手のチェーンに成長し にあたる。店舗のチェーンが変わるということ ていた。セブン‐イレブンに続いて今では CVS で、商品購入以外の利便性の高いサービスを提 大手チェーンとなったローソン、ファミリーマ 供することがコンビニ業界をさらに発展させて ートや鉄道や石油、電力会社など、小売に直接 きた。最近では、商品購入以外のサービスであ 関係ない業界も CVS に参入してきた。そして、 る ATM 利用やコピー機利用の従来型の CVS 今では , 店舗を超える巨大な業態へと成長 ) サービス だけでなく、CVS を利用する年齢層 した。CVS のここ数年間の動向を表 がここ数年で大きく変化をしたことを受けて、 ドラッグストアと一体型の店舗やケアマネジャ ) ーが常駐する店舗 など日本の少子高齢化社会 年時点では全国に , 表 に示す。 より売上高、店舗数、客数、客単価と全 ての項目で右肩上がりであることからこれから も成長が期待されている。 に応じたサービスを提供してきている。そこで セブン‐イレブン、ローソン、ファミリーマ 本報告では、誰もが気軽に利用することができ ートの店舗は増加しており、ファミリーマート る CVS の店舗の立地について GIS を用いて空 については 間的に分析を行っていく。 の統合合併が店舗数を増やす要因の一つと考え 年 月にエーエム・ピーエムと られる。サークル K サンクスはほぼ横ばいで ある。その他は減少しており、その理由として ― ― GIS を用いたコンビニチェーンの店舗立地の変化について 考えられる点としては大手チェーンへの店舗に に、廃業は 変わっていることが推測される。 年時点にはなくなっていた店舗とする。 境界データは政府統計の総合窓口(e-stat) 次に、CVS 利用者について、セブン‐イレブ ンの年齢別の 日 年時点には存在していたが、 の統計 GIS よりダウンロードしたデータを用 店舗当たり平均客数を図 に示す。以前は CVS と言えば若者が利用する い、鉄道および乗降客数のデータについては国 ものと思われていたが、 土数値情報ダウンロードサービス )よりダウン 年からは 歳以上 の利用者の割合が高く、 %近くを占めている。 ロードしたものを利用する。また、道路のデー 我が国の高齢化社会を示すようなデータではあ タについては国土地理院発刊の数値地図 るが、各 CVS チャーンが若者からお年寄りま (空間データ基盤)を変換後利用する。 で幅広い年齢層で満足されるような食品メニュ .GIS を用いた空間分析 ーを中心に開発が行なわれてきたことが考えら れる。 コンビニの店舗の立地と駅および道路を図 .対象地域および使用データについて 、 および継続、変更、新規、廃業の店舗を図 に示す。 GIS を用いた空間分析をするにあたり対象 図 、図 の 時点間で CVS がない地域が 月現 あるが、北部に見られる CVS 空白エリアは赤 (i タウ 坂御所で、中央西部あたりに見られる CVS 空 ンページより)であり、日本の市区町村(政令 白エリアは有栖川宮記念公園、麻布中学校・高 指定都市の場合は区単位)で最も多く、和歌山 等学校および各国の大使館があるエリアであっ 県、高知県、島根県、鳥取県の県レベルよりも た。 地域の選択はとても重要である。 年 在、東京都港区のコンビニ店舗数 多い。このことから日本一激戦区である東京都 年のおける CVS の時系列の変 年、 港区の CVS の店舗について空間的な分析を行 化を表 う意義は大きい。したがって本報告での対象地 に示す。 域は東京都港区とする。 も増えている。ただし、CVS の店舗はスクラ に、チェーンごとの変化を表 年から 、表 年の 年近くで 店舗 分析に用いた CVS のデータは i タウンペー ップアンドビルドを繰り返していることから実 ジを用いて収集し、座標変換サイトを用いて 際にはもっと多くの店舗が存在していたと考え GIS で利用できる形式にした。コンビニのデ らえる。それらを判別するために表 ータは 新規店、チェーン変更店に注目すると、 年 月と 年 月の 期間のデー タを分析用データとする。 」 、 年 年まで継続している店舗は .%と少 年時点の CVS を「コ ないが、チェーン別では .%とサークル K 年時点の CVS を「コンビニ サンクスの継続店の割合が高いことが目に留ま 期間での CVS の店舗の る。それに対して新規店は .%と全店舗の約 本報告の分析で、 ンビニ から の継続店、 」とし、さらに 変化について継続、変更、新規、廃業に分けた。 半分がこの 年の間に新規にオープンした店舗 継続は ということになる。チェーン別の新規店を調べ 年と 年の両時点で店舗が存在し チェーンも同一のデータとし、変更は 年と 年の両時点で店舗は存在するがチェーンが 変わっている店舗とする。新規は はなく、 年時点に るとセブン‐イレブン、ファミリーマートがと もに 店舗ずつと多く、この 店舗の約 年時点ではあった店舗とする。逆 の ― ― / チェーンで新規 を占めている。このことからこ チェーンは積極的な店舗展開をしているこ 西武文理大学サービス経営学部研究紀要第 号( 年 とが伺える。廃業店についは .%となってお 月) 少ないことが理由の一つとして考えられる。 り、チェーン別に調べるとローソンが 店舗、 年、 年の 時点について比較を行う エーエム・ピーエムが 店舗となっていた。エ と全体に占める割合に大きな変化はない。この ーエム・ピーエムについては 月にファ ことから CVS に限らず店舗出店に関して駅周 ミリーマートに統合合併され、その後の店舗の 辺というのはメリットがある立地ということが 統廃合が行われたことが考えられる。ローソン 考えられる。 年 については廃業店も多いが、新規 店舗も多い 次に道路沿いの店舗、いわゆるロードサイド ことから店舗の戦略的にはスクラップアンドビ 店に着目し、その空間検索をした結果を表 ルドをしていると思われる。変更店は、ファミ 示す。また幹線道路沿いのロードサイト店のチ リーマートが 店舗、ローソンが 店舗と他の ェーンごとの店舗数を表 チェーンより多い。ファミリーマートに関して いでは CVS の約半分の店舗があり、その中で はエーエム・ピーエムとの統合合併の影響でチ も継続店、廃業店が多く、逆にチェーン変更店 ェーンを変更した店舗が多く、それに該当する が少ない。継続店が多い点としては車での利便 店舗は 店舗で、エーエム・ピーエム以外のチ 性が高く、多くのチェーンが店舗立地を重視し ェーンからの変更した店舗は 店舗しかなく、 ていることが考えられ、継続している店舗の売 その割合は .%と非常に低い。ローソンはセ り上げは高いと推測できる。廃業店周辺につい 店舗、サークル K サンク ては競合店が多くみられることから撤退を余儀 ブン‐イレブンから スから 店舗、エーエム・ピーエムから 店舗、 に に示す。幹線道路沿 なくされたと考えられる。新規店、チェーン変 店舗となっており、サークル K 更店の割合が若干低いのは、新規に参入する余 サンクスからの変更店の立地は幹線道路沿いの 地がないことや継続性の高い店舗が多いためチ 店舗からの変更の傾向が見られる。 ェーンを変更する店舗がないためと推測できる。 その他から 次に廃業店について調べる。廃業店の周辺に ある店舗の形態を表 に示す。廃業店周辺では 新規店舗の割合が高く、特に m(徒歩 圏内では新規店の 主要幹線道路についても同様なことがいえる。 / チェーンごとに見るとセブン‐イレブンは 分) 年ではロードサイド店の割合が高かったが、 にあたる。廃業店と新 年では ポイントほど下がっている。この 規店のオープンの時期にも関係してくることで ことからセブン‐イレブンの店舗立地の戦略と はあるが、新規店ができたことで廃業せざる状 してロードサイド店から駅周辺に立地するよう 況になった可能性がある。これは に変化をしているように思われる。それは図 年単位のデ ータを用いることでより詳細な分析ができると に示したように 歳以上の顧客をターゲットと 思われるが、本報告ではそこまでの分析は行わ した際に都内においては車での利用者よりも駅 ない。 あるいは CVS 周辺に住んでいる人を重視して 駅周辺における店舗の形態を表 に示す。駅 いるように思われる。一方、ローソンは 時点 周辺については継続店が多く、この理由として でもロードサイド店の割合が %を超えること は駅を利用する人達が CVS に立ち寄る需要が から車での利用者も重視していると思われる。 高いため店舗の継続性が保たれていると考えら .まとめ れる。それに対して新規店が少ないのは継続店 が駅周辺を占めているため新しく店舗を出すこ 本報告では、CVS チェーンに注目し、東京 とができないことが推測できる。廃業店が少な いのは駅近という有利な立地を放棄する店舗が ― 都港区において ― 年、 年の 時点間にお GIS を用いたコンビニチェーンの店舗立地の変化について ける CVS の店舗の立地について駅、幹線道路 の割合が高かったが を用いて空間分析を行った。その結果、以下の ど下がっている。セブン‐イレブンの店舗立 知見が得られた。 地の戦略としてロードサイド店から駅周辺に !業界一位のセブン‐イレブンの年齢別の 日 年では ポイントほ 立地するように変化をしているように思われ 店舗当たり平均客数をみたところ 歳以上 る。ローソンは 時点でもロードサイド店の の利用者の割合が高く、 %近くを占めてい 割合が %を超えることから車での利用者も た。これは高齢化社会を反映していると思わ 重視していると思われる。 今後の課題としては CVS との夜間人口、昼 れ、CVS 全体にいえることと推測できる。 !継続している店舗は .%と少ないが、チェ 間人口との関係をバッファ分析でのカバー率の ーン別では .%とサークル K サンクスの 算出から深く分析をする。特に新規店、廃業店 継続店の割合が高い。 について調べる意義は大きい。また、駅別乗降 !新規店は .%と全店舗の約半分がこの 年 の間に新規にオープンした店舗ということに 客数との関係について分析を追加することで、 より高度な分析が期待できる。 なる。チェーン別ではセブン‐イレブン、フ ァミリーマートがともに 店舗ずつと多い。 !廃業店は .%で、チェーン別ではローソン が 店舗、エーエム・ピーエムが 店舗と多 い。ただし、エーエム・ピーエムは 年 月にファミリーマートとの統合合併で統廃合 が行われたことが考えられる。 !チェーン変更店はファミリーマート 店舗と ローソン 店舗と多い。ファミリーマートは エーエム・ピーエムとの統合合併のためと考 えられる。ローソンはサークル K サンクス からのチェーン変更が 店舗と多く、それら の変更店の立地は幹線道路沿いの店舗からの 変更の傾向が見られる。 !駅周辺については継続店が多く、駅を利用す る人達の需要が高いことが継続性を高めてい ると考えられる。新規店が少ないのは継続店 が駅周辺を占めているため新しく店舗を出す ことができないと推測できる。廃業店が少な いのは駅近という有利な立地を放棄する店舗 が少ないことが理由の一つとして挙げられる。 !幹線道路沿いでは CVS の約半分の店舗があ り、その中でも継続店、廃業店が多く、逆に 参考文献 『am/pm 買収、ブランドは一本化で合意』 ,日本 経済新聞, ( 年 月 日) ) 『 「am/pm」最後の看板消える ファミマに転換 で』 ,日本経済新聞, ( 年 月 日) ) サークル K サンクス社長「統合で質、量とも 位に」 』 ,日本経済新聞, ( 年 月 日) ) コンビニサービス(第 回) 「http : //www.myvoi ce.co.jp/biz/surveys/15308/」 , インターネット調査, マイボイスコム株式会社( ) ) ) 『コンビニ、高齢者に照準 ローソンがケアマネ 常駐店を開設/ファミマはドラッグ店一体型』 , 日本経済新聞 Web 版, ( 年 月 日) ) コンビニエンスストア統計データ「http : //www. jfa-fc.or.jp/particle/320.html」日本フランチャイ ズチェーン協会 国土数値情報 ダウンロードサービス「http : // nlftp.mlit.go.jp/ksj/」国土交通省国土政策局国土 情報課 ) 川辺信雄, 『セブン‐イレブンの経営史―日本型情 報企業への挑戦』 ,有斐閣, ( ) ) 木下安司, 『コンビニエンスストアの知識』 ,日本 経済新聞社, ( ) ) 田中幸一・高丘季昭, 『コンビニエンス・ストア ―スーパーに挑む新しい小売り―』 ,日本経済新 聞社( ) ) チェーン変更店が少ない。チェーン別ではセ ブン‐イレブンは 年にはロードサイド店 ― ― 西武文理大学サービス経営学部研究紀要第 号( 表 年 月) コンビニエンスストア時系列データ 売上高(百万円) 店舗数(店) 客数(千人) 年 , , , , , 客単価(円) . 年 , , , , , . 年 , , , , , . 年 , , , , , . 年 , , , , , . 年 , , , , , . 年 , , , , . , 出典:日本フランチャイズチェーン協会「コンビニエンスストア統計時系列データ」より筆者作成 表 CVS の店舗数( 年、 年) 店舗数 年 年 (%) 全店舗 . 継続店 . 新規店 . チェーン変更店 . 全店舗 . 廃業店 . 表 合計 チェーンごとの変化( 継続店 新規店 変更店 年) 継続店 (%) 新規店 (%) 変更店 (%) 全店舗 . . . セブン‐イレブン . . . ローソン . . . ファミリーマート . . . サークル K サンクス . . . その他 . . . ― ― GIS を用いたコンビニチェーンの店舗立地の変化について 表 チェーン別廃業店舗 合計 廃業店 廃業店(%) 全店舗 . セブン‐イレブン . ローソン . ファミリーマート . サークル K サンクス . エーエム・ピーエム . その他 . 表 合計 年廃業店周辺の m m 年店舗状況 m m(%) m(%) m(%) 全店舗 . . . 継続店 . . . 新規店 . . . 変更店 . . . 表 合計 駅周辺の CVS 店舗数 m 全店舗 継続店 年 新規店 変更店 全店舗 年 廃業店 m m m ( .) ( .) ( .) ( .) ( .) ( .) ( .) ( .) ( .) ( .) ( .) ( .) ( .) ( .) ( .) ( .) ( .) ( .) ( .) ( .) ( .) ( .) ( .) ( .) ( .) ( .) ( .) ( .) ( .) ( .) 上段:店舗数、下段(%) 表 ロードサイド店の店舗数 合計 年 年 m 幹線道路 店舗数 主要幹線道路 (%) 店舗数 (%) 全店舗 . . 継続店 . . 新規店 . . チェーン変更店 . . 全店舗 . . 廃業店 . . ― ― 西武文理大学サービス経営学部研究紀要第 号( 表 年 月) チェーンごとのロードサイド店の店舗数 年 合計 店舗数 年 店舗数(%) 合計 店舗数 店舗数(%) 全店舗 . . セブン‐イレブン . . ローソン . . ファミリーマート . . サークル K サンクス . . ― . . . エーエム・ピーエム ― ― その他 図 チェーン別店舗数 ― ― GIS を用いたコンビニチェーンの店舗立地の変化について 図 セブン‐イレブン年齢別の ― ― 日 店舗当たり平均客数 西武文理大学サービス経営学部研究紀要第 号( 年 月) 図 年のコンビニの立地 図 年のコンビニの立地 ― ― GIS を用いたコンビニチェーンの店舗立地の変化について 図 コンビニ店舗の立地の変化 ― ―
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