東日本大震災後の人口移動について

東日本大震災後の人口移動について
震災前の人口増加/減少傾向は震災後の人口移動に影響があるか
2015年9月30日
岩崎有希子
1
この研究の目的
震災前の人口増加/減少傾向は震災後の人口移動に
影響があるかを検討する
i.e
震災前に人口が減少傾向だった市町村は震災後、(震災
前の人口が増加傾向だった市町村に比べて)さらに人
口が著しく減少したか

2
動機
東日本大震災によって15,890人の死者、経済的損失
は16兆円(推定)
 全壊した住宅数は120208件
 半壊住宅数は189512件
 一部破損は616095件
 住宅被害があった市町村は171

復興予算は19兆円にも及んだ
 それぞれの市町村によって震災前と震災前の需要が異
なる可能性がある
 (集団移転? 住宅再建? 移住?)

3
先行研究
Vigdor(2008)
ハリケーンカトリーナ(2005)の経済への影響の研究
結果
ハリケーン前に人口が増加傾向にあった地域はハリケーン後も人口を回復するスピードが速かった。
ハリケーン前に人口が減少傾向にあった地域はハリケーン後に人口が回復しなかった。
Paxson&Rouse(2008)
ハリケーンカテリーナ後避難した住民がニューオーレンズに戻る要因を検討
理論
意思決定は移動元のlocation-specific capital、収入と移動先の収入の比較によって決まる。
分析結果
1.持ち家を持つ世帯は戻る確率が高くなる
2.住宅に大きな被害があった世帯は戻る可能性が低くなる。
4
災害の影響(需要が高い場合の低い場合の
比較)
住宅は耐久財
人口が減少傾向にあった地域は、
賃金や就労の機会も乏しいが、
住宅の値段が低く住民を引きとめていた。
が、震災後、住宅が破壊された後にはその
地域に残るインセンティブが弱まる
5
データ
転出者率、転入者率、純転入者率
(住民基本台帳人口移動報告)
各市町村の転出者数、転入者数を2010年度の人口で割ったもの
2012年と2010年の差をとったものを被説明変数として用いる。
震災前の人口の傾向(Pretrend)
2000年から2010年までの人口の増加率
住宅への被害
(東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)被害報)
全壊、半壊、の被害が一件でも市町村内にあった
場合に“被害あり”とする。
説明変数 (2010年度)
財政力指数

持家世帯比率




人口密度
65歳以上の人口

空家比率
一人当たり所得
1000人あたりの病院数


産業別の従業員数
6
基本統計
被害なし
Variable
Obs
Mean
Std. Dev.
Min
Max
Obs
転入者率(2012-2010の差)
1568
-0.001
0.006
-0.071
0.048
転出者率(2012-2010の差)
1568
0.000
0.005
-0.039
0.041
高齢者率
1568
0.277
0.069
0.109
0.569
人口密度
1568
977.765
2175.026
1.580
19243.680
空家率
973
0.134
0.052
0.036
0.721
一人当たり所得(千円)
1568
1191.438
391.048
463.681
6482.672
1000人あたりの病院数
1568
0.075
0.077
0.000
0.674
第一次産業従事者率
1568
0.117
0.109
0.000
0.756
Mean
171
171
171
171
150
171
171
171
0.001
0.002
0.242
1526.498
0.129
1257.615
0.055
0.084
被害あり
Std. Dev.
Min
Max
0.005
-0.021
0.014
0.005
-0.019
0.034
0.046
0.118
0.374
3498.248
11.399
18444.020
0.049
0.059
0.504
322.091
668.490
2540.342
0.034
0.000
0.168
0.062
0.000
0.326
被害を受けた地域と受けなかった地域では属性が異なる。
黄色い部分は、平均が被害ありの場合となしの場合で有意に異な
ることを示す。
7
基本統計2
被害なし
被害あり
Variable
Obs
Mean
Std. Dev.
Obs
Mean Std. Dev.
t
震災前は人口が 転入者率(2012-2010の差)
減少傾向
転出者率(2012-2010の差)
1141
0.001
0.005
112
0.003
0.005
-2.5736
1141
-0.001
0.006
429
-0.001
0.005
0.001
0.000
0.004
0.005
-4.8548
震災前は人口が 転入者率(2012-2010の差)
増加傾向
転出者率(2012-2010の差)
112
59
429
0.000
0.004
59
0.000
0.004
-0.7981
-0.5125
•震災前の人口が増加傾向である地域では震災の影響が長期では
見受けられない。
•震災前の人口が減少傾向である場合は、震災の影響が大きく
 2010年から2012年における転入者率の増加傾向は被害なしの
市町村のほうが小さい
2010年から2012年における転出者率は被害なしの市町村では減
少傾向にあるが、被害ありの市町村では増加傾向にある。
8
手法

Difference in Difference using Propensity Score
Matching Method
-住宅被害をランダムなトリートメントとして扱いたいが、被害があった市町村
は被害のなかった市町村と異なる属性があったと考えられる
i.e
住宅被害があった市町村はそれなりに住宅が密集していた可能性がある。
9
推定手法
Propencity Score Matching によりATTを推定する。
ATT=
H=1は被害あり、H=0は被害なしとする。
Yは転出率、転入率
以下の属性を元にマッチングを行いATTを推計する。
(2010年時点)
財政力指数
持家世帯比率
人口密度
65歳以上の人口
空家比率
一人当たり所得
1000人あたりの病院数
産業別の従業員数
10
推定結果1(転出者率)
OUTFLOW
The effect of higai on outflow (Pretrend<0)
20102012
20102013
treat.
nearest nei
radius
kernel
stratificatio
nearest nei
radius
kernel
stratificatio
contr.
92
91
92
91
92
91
92
91
ATT
73
558
558
559
73
558
558
559
0.003
0.003
0.002
0.003
0.002
0.001
0.001
0.001
Std. Err. t
0.001
0
0
0.001
0.001
0
0
0
The effect of higai on outflow(Pretrend>0)
treat.
4.117
9.779
6.331
4.063
1.185
4.014
5.959
2.921
contr.
49
49
49
49
49
49
49
49
ATT
40
277
277
277
40
277
277
277
0.001
0
0
0
0.001
0.002
0.001
0.001
Std. Err. t
0.001
0.001
0.001
0
0.001
0.001
0.001
0.001
0.836
0.446
0.165
0.202
1.596
1.341
1.548
0.948
転出者率は震災前の人口が増加傾向にあった場合には震災の影響を受
けていないことが分かる。
転出者率は震災前の人口が減少傾向にあった市町村では震災後に転出
率が増加したことが分かる
11
推定結果2(転入者率)
INFLOW
The effect of higai on outflow (Pretrend<0)
treat.
20102012
20102013
nearest neighbor
radius
kernel
stratification
nearest neibhour
radius
kernel
stratification
contr.
92
91
92
91
92
91
92
91
ATT
73
558
558
559
73
558
558
559
0.002
0.002
0.002
0.002
0.002
0.002
0.002
0.002
Std. Err. t
0.001
0
0
0.001
0.001
0
0.001
0
The effect of higai on outflow(Pretrend>0)
treat.
2.964
3.297
4.112
2.646
2.464
6.046
3.391
4.608
contr.
49
49
49
49
49
49
49
49
ATT
40
277
277
277
40
277
277
277
0
0
0
0
0
0.001
0.001
0
Std. Err. t
0.001
0.001
0
0.001
0.001
0.001
0.001
0.001
0.295
-0.08
-0.223
-0.14
0.252
1.098
0.776
0.365
転入者率は震災前の人口が増加傾向にあった場合には震災の影響を受けていないこ
とが分かる。
転入者率は震災前の人口が減少傾向にあった市町村では震災後に転出率が増加し
たことが分かる
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今後の課題
転入者率、転出者率を年代別に分けて分析
移動元の市町村の属性と移動先の市町村の属性を考慮
し分析
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