日本下水道新聞(平成 27 年 6 月~7 月) 連載記事 法改正談義とその

日本下水道新聞(平成 27 年 6 月~7 月)
-国土交通省
連載記事
法改正談義とその逸脱
藤川眞行 下水道管理指導室長に聞く-
-今回の下水道法・下水道事業団法・水防法の改正について、国土交通省の藤川
下水道管理指導室長に、主に、法制的なお話に重点を置いて、背景等も含め、詳
しくお聞きしたいと思います。できれば、ざっくばらんに、脱線も結構ですので、
お話を頂けると幸いです。-
このようなことについて、私が話すことが適切かどうかということはあろう
かと思われますが、昨年 4 月に下水道部に着任してから、ずっと関わらして頂
いた話でもあるので、どれだけご趣旨に沿うか分かりませんが、僭越ながらお話
させて頂くことと致します。
下水道法改正について見れば、政策的な実質改正は、平成 17 年の法改正以来
10 年ぶりということでありまして、諸先輩の中には、内容のボリュームから言
って昭和 45 年の大改正以来ではないかとおっしゃってくださる方もおられます。
確かに、内容的にヘビーな事項も多く、相当、下水道法、下水道事業団法等の
歴史や、道路法、河川法等を含めた公物管理法の体系における下水道法の位置づ
け等についても、勉強させて頂いたところですので、脱線する部分も多いかも知
れませんが、そのあたりも含め、お話させて頂ければと思います。
なお、法改正の内容については、今後、施行通知の発出等もあろうかと思われ
ますので、実務的な正確な説明は、そのあたりを参照頂ければと思いまして、こ
こでの話は、ざっくばらんなお話をということでもありますので、私の話のうち、
見解にわたる部分は、私の属する組織ではなく、私個人のものであると理解して
頂ければと存じます。
【総論】
《法改正の主要な柱》
-まず、今回の法改正は多岐にわたるものですが、主要な柱と考えられるものは
何か、ご説明ください。-
今回の法改正については、いろいろ柱立ては可能かと思いますが、大きく言え
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ば、四つの柱があるのではないかと思います。
一つ目は、①最近の雨の降り方が局地化・集中化・激甚化していることを背景
として、内水浸水対策、-そこには、避難対策等のソフト対策とハード対策の両
方が含まれますが-、その充実を図るということです。
なお、後でも話に出ると思いますが、内水対策とは、市街地に降った雨が河川
等に流出せず滞って発生する浸水被害について、予防や被害軽減を図る対策で
す。他方、外水対策、又は洪水対策とは、河川の堤防内の水が外に漏れ出て発生
する浸水被害について、予防や被害軽減を図る対策です。話の中では、下水道に
ついて、汚水対策との比較等で、雨水対策という言葉を使う場合もあるかも知れ
ないが、言っていることは内水対策ということで理解して頂ければと思います。
二つ目は、②笹子トンネル事故を契機とした、社会資本の維持管理・更新を的
確に行うべきという大きな政策の流れと、下水道管渠に起因する道路陥没事故
の状況や今後管渠等の老朽化が急速に進展するという見通し等を踏まえまして、
メンテナンス対応策の充実を図るということです。
三つ目は、③地方公共団体の財政状況が厳しさを増す中、事業実施体制が脆弱
な地方公共団体に対する支援策の充実を図るということです。
四つ目は、④下水熱や発生汚泥等に関するエネルギー利用や資源利用の技術
革新の進展、実用化の動向を踏まえ、エネルギー利用や資源利用に関する環境対
策の充実を図るということです。
《下水道法の歴史》
-先ほど、下水道法等の歴史を勉強されたとのことですが、法改正の内容をお伺
いする前に、下水道法の歴史について、簡単にお話して頂けますでしょうか。-
後で法改正の内容を説明するところで、場合によっては下水道法等の歴史に
触れる部分があろうかと思います。ここでは、前置きとして、下水道法の歴史を
ざっとさらっておくことにします。
〈旧下水道法(明治 33 年)の制定〉
我が国では、明治 14 年(1881 年)に橫浜で、明治 17 年(1884 年)に東京・
神田で下水道整備が着手され、その後、明治 27 年(1894 年)に大阪市、明治 32
年(1899 年)に仙台市でも下水道の建設が始まりました。このような中、下水
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道に関する法制度の整備も求められるようになり、明治 33 年(1900 年)に旧下
水道法が制定されました。これは、ちょうど、日清戦争と日露戦争との間の時期
です。当時の法律はカタカナで書かれた法律なので読みにくいのですが、法律の
第 3 条には、既に、接続義務が規定されているなど、細かい規定はありません
が、ある意味下水道法制の大枠はしっかり規定されている法律です。
〈新下水道法(昭和 33 年)の制定〉
そして、戦後になり、新しい下水道法、現在の下水道法ですが、昭和 33 年(1958
年)に制定されることになります。その前に、これは人口に膾炙した話なので話
を端折りますが、下水道の所管に関する難しい省庁間の調整の問題があり、いろ
いろ紆余曲折があった後、昭和 32 年(1957 年)に、いわゆる水道行政三分割の
閣議決定、-建設省は終末処理場を除く下水道を所管し、厚生省は、水道と下水
道の終末処理場を所管し、通産省は工業用水道を所管するというものですが-、
この閣議決定が行われ、それぞれの省庁で、下水道法、水道法、工業用水道事業
法を制定するという動きになります。
新下水道法は、昭和 33 年(1958 年)4 月に公布され、現在の下水道法の基本
的な骨格が整備されることとなりますが、ちょうど時期を同じくして、本州製紙
江戸川工場事件(昭和 33 年 3 月)が発生し、これを契機に、政府において水質
規制法制の整備へ動き出す大きな流れが起こります。
水質規制法制の整備に向けた過程で、当初は、建設省河川局で制度を作っては
どうかという話もあったのですが、最終的には同局はこれを受けず、水域の指定、
水質基準の設定等を行う水質保全法は経済企画庁で、それを踏まえ工場排水等
を規制する工場排水等規制法は通産省等の事業所管省庁で、法律が作られるこ
ととなります。他方、下水道についても、いろいろ議論があったようですが、下
水道法においては、下水道の中の世界については、水質規制を一元的に下水道管
理者が行う法制度としました。法律の公布の時期は、昭和 33 年(1958 年)4 月
ですので、昭和 33 年(1958 年)12 月に公布された水質保全法、工場排水等規制
法に先立って、制度枠組みを作ったとも言える画期的な話です。
そして、その後の下水道の所管調整については、これもいろいろ紆余曲折があ
ったわけですが、昭和 42 年(1967 年)に、水道行政三分割の閣議決定の揺り戻
しとして、下水道行政の所管について、終末処理場を含む下水道の所管は建設省
とし、ただし、終末処理場の維持管理に関する事項については厚生省とする閣議
決定が行われ、所要の下水道法等の改正が行われることになります。
〈昭和 45 年の大改正〉
昭和 45 年(1970 年)においては、各種の公害問題の深刻化を背景として、公
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害国会(臨時国会。11~12 月)が開催され、諸々の公害立法と一緒に、下水道
法の大きな改正が行われました。具体的には、法の目的規定に下水道整備緊急措
置法の目的規定の文言をもってきて、
「公共用水域の水質保全に資すること」の
追加、水質環境基準の達成という積極的な政策を取り込んだ流総計画制度の創
設、終末処理場の必置化、流域下水道制度の創設、終末処理場の維持管理の建設
省・厚生省の共管化等が行われています。
〈その後の法改正〉
その後の法改正についてですが、昭和 51 年(1976 年)に、工場排水等の水質
基準違反について、水質汚濁防止法と同様の制度、すなわち、間接罰制度でなく、
直罰制度とするなどの法改正が行われています。これで、昭和 33 年法で、下水
道の中の世界に一元的に水質規制制度を導入したことが制度として成熟し、完
成をみたということができると思います。
あと、平成 8 年(1996 年)には、管渠内の光ファイバーの設置を解禁する法
改正が、平成 17 年(2005 年)には、雨水流域下水道制度等の創設を行う法改正
が、平成 23 年(2011 年)には、地方分権改革のための法改正、-すなわち、事
業計画制度の認可制度から同意なし協議制度へ変更、構造基準の一部の委任条
例化、終末処理場の維持管理基準の委任条例化等ですが-、行われています。そ
して、今回の平成 27 年(2015 年)の大きな法改正となります。
これは余談になりますが、法律の公布の際、総理が「連署」する、-帝国憲法
時代は「副書」といいましたが-、いずれにしても総理がサインすることとなっ
ています。明治 33 年(1900 年)の旧下水道法制定の副書総理は、山縣(有朋)
総理です。昭和 33 年(1958 年)の新下水道法制定の連署総理は、岸(信介)総
理で、昭和 45 年(1970 年)の法改正の連署総理は、佐藤(栄作)総理です。今
回の法改正は当然のことながら、連署総理は、安倍晋三総理ですので、お分かり
かと思いますが、みなさん、山口出身の総理なのです。まぁ、長州ですので、た
くさん総理を輩出されているということもあるのですが、ここまで一致するの
は何かのご縁があるのかもと思いまして、紹介させて頂きます。
【下水道法改正】
《雨水公共下水道》
-では、法改正の内容について順次説明をお願いします。まず、下水道法改正の
中で、雨水対策に関係する事項として、雨水公共下水道制度の創設がありますね。
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〈制度の趣旨〉
都道府県構想の見直しの中で、これまでは下水道エリアになっていたものが、
合併浄化槽エリアに変更される場合がありますが、地域によっては浸水被害の
実績があり、どうしても雨水対策が必要なところがあります。そのようなところ
を念頭に、汚水は扱わず、雨水のみを扱う雨水公共下水道の制度を創設しようと
するものです。
雨水のみを扱う下水道としては、平成 17 年の下水道法改正で創設された雨水
流域下水道がありますが、今回の雨水公共下水道とは似たところと、そうでない
ところがあります。似たところとしては、簡単に言って、雨水管のみを整備する
事業ということです。違いは、事業の対象区域(面的エリア)について、
「汚水
処理」と「雨水排除」をどちらもやることになっているか否か、法律の言葉で言
えば、
「予定排水区域」=「予定処理区域」となっているか否かで、どちらもや
ることを維持しているのが雨水流域下水道で、維持していないのが雨水公共下
水道ということです。
条文ベースの話をすると、これまでの下水道法では、事業計画の対象区域につ
いては、
「予定排水区域」=「予定処理区域」という考え方に立ち、事業計画の
記載事項、必要要件では、予定処理区域のみを規定するという形になっていまし
た(下水道法第 5 条第 1 項第 1 号、第 6 条第 3 号、第 25 条の 4 第 1 項第 4 号、
第 25 条の 5 第 3 号)。なお、この意味で、雨水流域下水道については、対象区域
について予定処理区域と称しても実質的に問題はないのですが、誤解を生じる
ことを避けるため、法律上は、
「予定処理区域」を「予定排水区域」と読み替え
ることとしていました(下水道法第 25 条の 4 第 1 項第 4 号、第 25 条の 5 第 3
号)
。
実は、このような規定ぶりになったのは、昭和 45 年の下水道法改正によって
です。この法改正前は、予定排水区域と予定処理区域は一致しないこともあると
いう前提で、事業計画の記載事項、必要要件のところで、
「予定排水区域」と「予
定処理区域」の両方を規定していました(下水道法(制定当時)第 5 条第 1 項第
1 号・第 2 号、第 6 条第 3 号)。昭和 45 年改正は、下水道について終末処理場が
必置とする改正を行ったので、当時主流であった合流式で考えると、論理必然的
に、予定排水区域=予定排水区域ということになります。ただ、昭和 30 年代で
も分流式は全くなかったわけでなないので、分流式については、いろいろ議論の
余地もありそうですが、当時、まぁ、現在のような合併浄化槽があったわけでな
く、分流式でも、汚水処理もするし、雨水排除もすることが当然ということで、
そのような規定になったのでしょう。
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〈雨水対策は副業か〉
条文の細かいことはさておき、今回、雨水公共下水道を創設することについて、
法制的な大きな論点としては、雨水対策は、汚水対策に付属する仕事、いわば副
業として行っており、雨水対策だけが一本立ちするのは下水道法の基本枠組み
としてできるのか、というものがありました。雨水対策については下水道法の目
的規定にも明示的には規定していませんね、個別条項を見ても正面から雨水対
策の規定は見当たりませんね、雨水流域下水道でも面的に見れば、汚水処理と雨
水排除の両方をやっていますね、などなど、いろいろ言い出したらきりがないの
です。もちろん、下水道行政の実務を見れば、各種の浸水対策事業など正面から
雨水対策を行っているので、ためにする議論のようにも思われるかも知れませ
んが、法制度として新たに制度を創設するためには、このような法的論点を乗り
越えていかなければなりません。
この点、昭和 33 年の制定当初の下水道法では、
「予定排水区域」と「予定処理
区域」が分かれていたので、一つの有力な証拠となったのですが、それは、合流
式を前提としての規定ではなかったかという反論も予想されます。そこで、いろ
いろ調査しましたが、なかなか昭和 30 年代の資料はなくて、最後は、国土交通
省の図書館の倉庫を開けてもらって、警察のガサ入れみたいに、じん麻疹が出そ
うな古文書を調べました(笑)。昭和 30 年代でも、考えていた以上に分流式があ
り、それも、専ら雨水排除をやっているのもあるという資料が出てきました。ま
た、いくつかの個別の市町村について、ホームページ等でそのような事業があっ
たことの裏を取ることもできました。
ということで、下水道法の体系として、汚水対策をしない雨水対策だけの事業
も一本立ちすることも可能という理屈づけを行い、下水道法上、雨水公共下水道
制度を創設することができました。なお、これまでも都市下水路制度がありまし
たが、これは、公共下水道のような管渠等による面的整備を行わず、主に既存の
水路等を指定し、これを活用して下水排除を行うものであり、役割が異なってい
ます。
〈下水道法の目的規定を見直すか〉
ちなみに、今回の改正で、雨水対策を明示的に位置づける法律の目的規定の改
正は行いませんでしたが、これは、当然、下水道法の目的である「都市の健全な
発達及び公衆衛生の向上に寄与し、あわせて公共用水域の水質の保全に資する
こと」の「都市の健全な発達」等で読めるということです。いずれにしても、今
回の改正で、雨水公共下水道制度が創設され、また、後で述べますが雨水対策に
特化した浸水被害対策区域制度も創設されましたので、今後、雨水対策の独り立
ち是非論はもはや出てこないと言えるでしょう。下水道法の世界に正面から雨
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水対策を大きく位置づけたという点において、今回の改正は、下水道法の歴史の
上で時代を画するものと言えるかも知れません。各下水道管理者におかれまし
ては、言わずもがなのことですが、今一度、汚水対策だけでなく、雨水対策も背
負った行政主体であることをご認識頂き、日々の職務に当たって頂ければと存
じます。
これは余談ですが、下水道法の目的規定については、昭和 45 年の法改正で、
昭和 42 年に制定された下水道整備緊急措置法の目的規定をもってきて、「あわ
せて公共用水域の水質の保全に資すること」が入ったことのほかは、昭和 33 年
の制定時のものがそのまま維持されています。制定当時は、
「都市の健全な発達
及び公衆衛生の向上に寄与することを目的とする。」ですが、法律に至るまでの
昭和 32 年 12 月の建設省計画局の下水道法案では、
「土地の清潔の保持と浸水の
防止に寄与することを目的とする。」とされていました。これが法律の制定過程
で修正されたわけですが、
「都市の健全な発達」は、より積極的なイメージを有
し、かつ、相当幅広い概念であるので、雨水対策も含めて読めることは、このよ
うな制定経緯から見ても明らかではないかと思われます。
〈合流式と分流式の区別〉
また、これも余談ですが、下水道法の法律レベルでは、合流式と分流式の区別
がなく、下水道法は合流式を想定したものであるということが言われることが
ありますが、これは、そうではなくて、法律レベルにおいて、合流式と分流式を
かき分ける必要性がないことが理由なのです。
もっとも、法律レベルで、雨水管と汚水管を区別する必要がある場合はあり、
例えば、汚水管だけを対象とする条項について、
「公共下水道(終末処理場を設
定しているもの又は終末処理場を設定している流域下水道に接続しているもの
に限る。)」と規定したり(下水道法第 12 条の 2 第 1 項)、或いは、
「雨水流域下
水道を除く」と規定する(下水道法第 12 条の 10、25 条の 3 第 4 項、25 条の 10、
39 条の 2)など、これまでも、文言上明らかでない場合は、法律レベルで雨水管
と汚水管の区別を行っていることが分かります。
〈接続義務〉
-少し細かい話になりますが、雨水公共下水道には、下水道第 10 条の接続義務
はかかるのでしょうか。-
雨水公共下水道については、当然のことながら、これまでの分流式の雨水管と
同様、下水道法第 10 条の接続義務の規定がかかることになります。
ただし、これも、分流式の雨水管と同様ですが、宅地の雨水を排水設備を設け
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て一旦道路側溝等に排出させる場合でも、当該側溝等を通じて何ら問題なく雨
水公共下水道に流入されると下水道管理者が認める場合には、接続義務を果た
していると取り扱うことは可能と考えられます。
《浸水被害対策区域制度(公共下水道)》
-次に、これも、雨水対策に関係する事項ですが、浸水被害対策区域制度につい
て説明をお願いします。-
浸水被害対策区域制度は、排水区域のうち、都市機能が相当程度集積し、著し
い浸水被害が発生するおそれがある区域で、土地利用の状況からみて、公共下水
道の整備のみによっては浸水被害の防止を図ることが困難であると認められる
区域を公共下水道管理者が条例で指定し、その区域では、
「民間が設置した雨水
貯留施設に関する官民の管理協定制度」、又は「条例による雨水貯留浸透施設の
義務づけ制度」を導入することを可能とする制度です。
〈事業計画の要件の見直し〉
この制度の説明に入る前に、これと密接に関連するので、まず、雨水対策に関
する事業計画の要件が、改正される点について、触れたいと思います。これは、
これまで事業計画の要件の一つとして、
「公共(流域)下水道の配置及び能力が
当該地域における降水量、人口その他の下水の量及び水質~に影響を及ぼすお
それのある要因、地形及び土地の用途並びに下水の放流先の状況を考慮して適
切に定められていること」(下水道法第 6 条第 1 号、第 25 条の 5 第 1 号)とあ
るのを、勘案事項の一つの「土地の用途」を「土地利用の状況」に変更すること
です。
あまり大きい変更ではないのでは、と思われるかも知れないが、
「土地の用途」
については、基本的に、宅地、農地といった流出係数の違いに影響するような「土
地の用途」しか勘案できないということでした。今回、
「土地利用の状況」に変
更することにより、それに加え、例えば、駅周辺地区等の土地の高度利用が図ら
れている地域については、他の地域よりも高い水準の雨水対策の目標降雨を設
定するということが正面から読めるようになります。
もちろん、予算事業ではこれまでもそのような取扱いを行ってきたわけです
が、ここでのポイントは、予算事業論ではなく、法制度上の計画論として正面か
ら位置づけられたということです。ここは地味に見えるかも知れませんが、下水
道の雨水対策にとって大きな一歩が踏み出されたと考えていいのではないでし
ょうか。そして、今後、法制度上の計画論としても、駅周辺地区等で高い水準の
目標降雨が設定されていくことが見込まれますが、ただ、これまでの公共ハード
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整備中心の法制度ですと、駅周辺地区等ではどうしても地下利用が輻輳し、雨水
貯留管等が設置できない場合も考えられ、その場合には、政策的な出口が極めて
難しい状況になってしまいます。その点、新たに創設される浸水被害対策区域制
度、すなわち、公共ハードだけでなく、やむを得ない場合に民間ハードの協力を
担保する制度は、政策的な出口の選択肢を用意するものとして、事業計画の要件
の変更と密接に関係していると言ってもいいでしょう。
〈管理協定制度〉
話を浸水被害対策区域制度の方に戻しまして、まず、この制度のうち、民間が
設置する雨水貯留施設に関する官民の管理協定制度について説明します。
この制度は、条例で指定した浸水被害対策区域内にある一定規模(100 ㎥を予
定)以上の民間が所有する雨水貯留施設(建設中でも建設予定でも可)について、
公共下水道管理者が自ら管理する必要があると認めるときは、雨水貯留施設の
所有者等との間で、管理の方法や有効期間等を規定した管理協定を締結して、管
理を行うことができるとするものです。
通常の民法上の契約と違って、所有者等が変わっても、引き続き契約の効力が
維持される、いわゆる承継効が付与されますが、そこが、まさに法律上措置しな
ければできない法律事項です。
承継効を有する協定制度については、いろいろな法律で見られるが、公物に準
じるような民間の施設を公共団体が代わって管理する制度はあまりなく、近い
ものとして、特定都市河川対策法上の保全調整池に係る管理協定制度がありま
す。ただ、この制度は、既存の保全調整池を維持していくことを専ら目的として
いる制度です。今回のものは、積極的に、民間の雨水貯留施設の建設を促進して
いく観点からの制度なので、法制的にも新味のある制度と言えるのではないで
しょうか。
〈条例による雨水貯留・浸透施設の義務づけ〉
次に、条例による雨水貯留・浸透施設の義務づけの方ですが、具体的には、下
水道法第 10 条で下水道の供用開始を行った区域の土地の所有者等に対して設置
が義務づけられている排水設備について、雨水の貯留又は浸透の機能を義務づ
けることができるようにするものです。
雨水の貯留・浸透施設の設置については、法律に位置づけのない自主条例等に
おいて行われている地方公共団体も見られますが、憲法の財産権との関係や「法
律と条例との関係」等から、全国的に普及している状況には至っていません。こ
の改正で、法律上、要件等が明確に規定されることにより、地方公共団体におい
て制度導入が容易になることが考えらます。また、下水道法に基づき条例を制定
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すると、建築基準法上、その条例は建築基準関係法令となり、建築確認において
チェックされますので、実効性の確保の観点からも大きなメリットが考えられ
ます。
この制度に似た制度としては、特定都市河川対策法第 8 条における条例義務
づけ制度がありますが、特定都市河川対策法自体が、著しい浸水被害の恐れがあ
るのに、河川整備が追いつかない地域を対象としており、対象範囲は限定されて
いました。
今回の制度は、著しい浸水被害が発生するおそれのある区域で、公共下水道の
整備のみによっては浸水被害の防止を図ることが困難な地域において活用が可
能な制度となっており、下水道の一般法である下水道法自体に創設されること
となりました。雨水貯留・浸透施設の設置義務づけは個人の権利義務を制限する
話なので、基本的には、管理協定制度等によっても対応できない場合に、必要最
低限の範囲において条例で義務づけるという運用になると考えられますが、下
道管理者として大きな政策ツールが用意されたことになります。
〈民間ハードの世界へ〉
両制度ともに関わる話ですが、このような財産権にかかわることは法制的に
は特に慎重な審査が行われる事項の一つですが、公物管理法の世界では、このよ
うに民間の財産権に影響を及ぼす制度は、相隣関係的な規定を除き、あまり多く
見られないのが実情です。
法律論としては、公物管理法たる下水道法にそのようなことが規定できるの
かというそもそも論もありえるわけですが、そもそも下水道は、排水設備や除害
施設等の義務づけも行っており他の公物管理法とは異なる特色を持っていまし
た。この点について、下水道法は環境法としての性格も有するなどと語られるこ
ともあります。ただ、この点、今回の改正は、汚水対策ではなく、雨水対策とし
て、必要やむを得ない範囲で民間にもハード整備に一定の協力をしてもらう世
界を創設したのであり、その意味でも、今回の改正は、下水道法の歴史の上で時
代を画するものと言えるかも知れません。
〈内水対策と外水(洪水)対策〉
なお、雨水対策に関連し、
「浸水」の定義に関して一言説明します。これは冒
頭でも話したことですが、これまで、下水道と河川のデマケーションについては、
下水道は内水対策、河川は外水対策、又は洪水対策と一般的に言われてきたとこ
ろであり、今回、下水道法において、雨水対策が正面から位置づけられ、浸水被
害対策区域制度が創設されたことに伴い、下水道が対象とする浸水について、
「浸水被害」の定義を通じて、その内容が初めて一般的な規定として法文上明確
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化されました。
「排水区域において、一時的に大量の降雨が生じた場合において
排水区域に当該雨水を排除できないこと又は排水施設から河川その他の公共の
水域若しくは海域に当該雨水を排除できないことによる浸水により、国民の生
命、身体又は財産に被害を生ずることをいう。」
(下水道法第 2 条第 9 号)です。
なお、水防法においても、今回の改正で、内水に関する事項が加えられました
ので、法律上の文言としては「雨水出水」という名称で定義が行われており、下
水道法の浸水被害の定義と同様のものが規定されています(水防法第 2 条第 1
項)。
《大臣・都道府県知事の下水道管理者に対する指示(公共下水道、流域下水道、
都市下水路)
》
-雨水対策に関連する事項として、当初、大臣・都道府県知事の下水道管理者に
対する指示を、浸水被害に関係するものも加えることが検討されていたようで
すが、これはどのように整理されたのですか。-
検討過程でそのようなことも検討されていました。具体的に言うと、下水道法
第 37 条では、「公衆衛生上重大な危害が生じ、又は公共用水域の水質に重大な
影響を及ぶことを防止するため緊急の必要があると認めるとき」は、国土交通大
臣・都道府県知事は、下水道管理者に対して所要の指示を行えることになってい
ます。ここで列挙されている事由は、
「公衆衛生」と「公共用水域の水質」なの
で、浸水について指示制度を可能とするためには、改正が必要かどうかという話
です。
地方自治法において、自治事務においても、「是正の要求」や「是正の勧告」
はできることになっているので、さらに「具体的な指示」が出せるかどうかにつ
いては、やや相対的な問題であるともいえるかも知れませんが、基本的には、浸
水に関して緊急に「具体的な指示」を出す必要がある場合は、
「公衆衛生」と「公
共用水域の水質」の要件で読める場合がほとんどであると考えられますので、改
正の必要はないだろうという整理になりました。
《維持修繕基準の創設(公共下水道、流域下水道)》
-以上で雨水対策の話は終わりにして、次は、メンテナンス対応の話に移りたい
と思います。まず、今回創設された維持修繕基準について、ご説明ください。-
〈制度の趣旨〉
メンテナンス対応の話ですが、これはこれまでも一定の対応が図られてきた
話ですが、笹子トンネル事故を契機に、社会資本全体として大きくクローズアッ
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プされ、国全体として、本格的に取り組んでいる大きなテーマです。
下水道についても、今後老朽施設の急増が見込まれるほか、下水道はそれほど
古い管路でなくても、硫化ガスが発生するような場所において劣化が進み、道路
陥没等が発生する事態も見られ、法的な対応も課題となっていました。
そして、今回の改正においては、法律上、維持又は修繕の基準を法定化するこ
ととなりました。条文としては、
「第 7 条の 2 公共下水道管理者は、公共下水道を良好な状態に保つように維
持し、修繕し、もって公衆衛生上重大な危害が生じ、及び公共用水域の水
質に重大な影響が及ぶことのないように努めなければならない。
2 公共下水道の維持又は修繕に関する技術上の基準その他必要な事項は、
政令で定める。
3 前項の技術上の基準は、公共下水道の修繕を効率的に行うための点検及
び災害の発生時において公共下水道の機能を維持するための応急措置の
実施に関する基準を含むものでなければならない。」
となっています(下水道法第 7 条の 2、流域下水道にも準用)。
規定ぶりの大枠は、先行する道路法、河川法等の規定ぶりを参考にしてもので
すが、ここで留意する必要があること、1 項は、「公共下水道管理者は、公共下
水道を良好な状態に保つように維持し、修繕し、」までが義務規定であり、
「もっ
て公衆衛生上重大な危害が生じ、及び公共用水域の水質に重大な影響が及ぶこ
とのないように努めなければならない。」までが努力義務規定になっているとい
うことです。
各下水道管理者におかれては、これまでもいろいろご尽力頂いていることと
思いますが、
「公共下水道を良好な状態に保つように維持し、修繕」することが
法律上義務として位置づけられたことを重く受け止めて頂いて、日々の業務に
当たって頂きたいと思います。
〈昭和 32 年の建設省計画局案〉
これは余談になりますが、先にも出た昭和 33 年の下水道法の制定過程におけ
る建設省計画局の下水道法案(昭和 32 年 12 月)では、
「第 16 条 一般下水道の管理者は、下水道を常時良好な状態に保つように維
持し、修繕し、もって下水の確実かつ適正な排除に支障を及ぼさないよう
につとめなければばらない。
2 一般下水道の管理者は、放流水について定期的又は臨時の水質検査を行
い、必要があるときは放流水の水質の管理上必要な措置を講じなければな
らない。
3 前 2 項に規定するもののほか、一般下水道の下水道施設の維持、修繕又
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は放流水の水質の管理に関して必要な技術的基準は、政令で定める。」
となっていたものが、最終の法律では、
「第 21 条 公共下水道管理者は、政令で定めるところにより、放流水の水質
検査を行い、その結果を記録しておかなければならない。
2 公共下水道管理者は、政令で定めるところにより、終末処理場の維持管
理をしなければならない。」
となったという経緯があります。
推測するに、当時、昭和 27 年に制定された道路法は既にあり、その中で、現
在の維持修繕に係る規定の 3 項を除く 1 項と 2 項の規定、すなわち、
「第 42 条 道路管理者は、道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕
し、もって一般交通に支障を及ぼさないように努めなければならない。
2 道路の維持又は修繕に関する技術的基準その他必要な事項は、政令で定
める。」
はあったので、その規定を参考に建設省計画局案の段階には入っていたものが、
いろいろな事情で法律には残らなかったのでしょう。今回の維持修繕基準に関
する条項は、この計画局案がほぼ 60 年ぶりに復活したこととなり、その意味で
も、今回の改正は、下水道法の歴史の上で時代を画するものと言えるかも知れま
せん。
ちなみに、道路法の維持修繕の基準に関する条項についていうと、政令自体は
未制定な状態が続き、制定されたのは、平成 25 年の道路法改正に際してです。
なお、この道路法改正で、第 3 項として「前項の技術上の基準は、公共下水道の
修繕を効率的に行うための点検に関する基準を含むものでなければならない。」
が追加されました。
〈下水道の維持修繕基準の特色〉
あと、公物管理法における維持修繕基準に関する規定の書きぶりは、それぞれ
の公物の趣旨を踏まえつつも、基本的な規定ぶりは、道路法(当初の法律と昭和
25 年改正による 3 項の追加)、河川法改正(平成 25 年、全条追加)、海岸法改正
(平成 26 年、全条追加)でほぼ類似の規定ぶりとなっているが、今回の下水道
法の規定は、第 3 項において、
「前項の技術上の基準は、公共下水道の修繕を効
率的に行うための点検及び災害の発生時において公共下水道の機能を維持する
ための応急措置の実施に関する基準を含むものでなければならない。」として、
応急措置の実施の基準を含むものとした点で、他の公物管理法と比べ特色を有
しています。
これは、下水道が、災害時であっても人が使い続けなくてはいけない施設であ
り、その損壊は人の健康、生命に直接・多大の影響を及ぼすものであることから、
13
災害発生時においても必要な応急措置を施すことにより、その機能を維持する
ことが不可欠であるためです。下水道のBCPについては、各下水道管理者にお
いてその策定が推進されていますが、法律的にも、そのコアの部分の考え方を初
めて明示的に示せたのではないかと思われます。地味に見えるかも知れません
が、内容的には大きな一歩を踏み出したといえるでしょう。
《事業計画制度の拡充(公共下水道、流域下水道)》
-次は、維持修繕基準と密接に関わるものですが、維持管理に関する事業計画制
度の拡充について、ご説明ください。-
維持修繕基準の創設と一体となる形で、今回、維持管理に関して事業計画の記
載内容と審査事項を拡充しています。具体的には、事業計画の記載事項に点検の
方法・頻度を追加するとともに、記載内容が先に述べた維持修繕基準に適合しな
ければならないこととしました。
先に述べたように、公物管理法で、維持修繕基準を位置づけている実例はいく
つかあるわけですが、事前の事業計画に点検の方法等を記載させて、確認すると
いう制度は、全く新しいものです。
〈事業計画制度の趣旨〉
その話の前に、そもそも、下水道法における事業計画制度とは何かについて少
し説明をした方がよいでしょう。この制度は、公物管理法の中で特色のある制度
と言えます。例えば、道路法では、道路管理者が道路事業を開始する前に、国・
都道府県が都道府県・市町村の計画を審査するという制度はありません。昔は、
市町村道について、路線認可の制度がありましたが、それも地方分権改革の中で
廃止になっています。また、河川法では、河川整備基本方針や河川整備計画の制
度がありますが、この制度の適用がある1級河川、2級河川の管理は法定受託事
務であり、下水道の管理と同じ自治事務である準用河川の管理については、この
制度の適用がありません。
事業計画制度の趣旨については、詳しくは下水道法の逐条解説などに趣旨が
書いてあると思いますが、コアの部分はやはり、下水道は、浸水の防止に加え、
公衆衛生の確保、公共水域の水質保全等、人の命、健康に密接に関わるものであ
り、かつ、接続義務をはじめ広く国民の権利規制に直接つながっているものであ
るため、下水道といえるに足る必要最低限の要件を事前に確認することが不可
欠であるというものです。
このような考え方は、これまでの地方分権改革の荒波も乗り越えて、協議制度
としてしっかりと維持されたと言えるかも知れません。逐条解説では、具体的に、
14
「協議を了していない事業計画は、事業計画策定の適切な手続を経ておらず、法
律上の効果を生じないものと解される。したがって、本条による事業計画の協議
を了しないで設置された下水道については、下水道法の規定が適用されず、第 10
条による排水設備の設置の強制、第 20 条による使用料の徴収等は、不可能であ
ると解する。」と明記されてもいます。
〈維持管理の世界へ〉
ただ、これまでの事業計画制度については、設置を行う施設(ハード)の配置・
構造・能力等を確認するものであり、維持管理の方法等については一切対象とし
ていませんでした。しかしながら、道路陥没をはじめとした下水道管理の実態等
を踏まえると、維持管理についても、下水道といえるに足る必要最低限度の事項
については、施設(ハード)と同様、事業計画制度の一環として確認することが
不可欠となってきています。
このようなことから、他の公物法に例がないような制度ですが、自治事務の世
界において、公物管理の維持管理の方法について、事前に計画で確認するという
制度を創設することができたということです。改正箇所だけを見ると地味な改
正に見えるかも知れませんが、事業計画制度が維持管理という新たな世界に踏
み出したということであり、この意味で、今回の改正は、下水道法、ひいては、
公物管理法の歴史の上で時代を画するものと言えるかも知れません。
《災害時維持修繕協定(公共下水道、流域下水道、都市下水路)》
-次に、災害時維持修繕協定制度について、ご説明ください。-
災害時維持修繕協定制度は、災害の発生時において下水道管理者以外の者が
下水道の特定の維持又は修繕工事を行うことを事前に決めておく必要がある場
合、下水道管理者は、維持又は修繕工事を適確に行うことができる民間事業者等
との間で、
「災害時維持修繕協定」を締結することができるとするもので、当該
協定を締結した場合には、当該民間事業者等は、下水道法第 16 条に基づく下水
道管理者の個別の承認を要せず、維持又は修繕工事ができることとなります。
災害時においては、下水道管理者は、情報集約、住民への広報、復旧方針の策
定に忙殺されることも考えられるため、事前の協定に基づき、民間事業者等に被
災状況の点検や被災状況に応じた応急措置等を自主的に実施してもらおうとい
うもので、災害時において適切な維持修繕を図ることを支援する制度であり、特
に、体制が脆弱な地方公共団体にとって大きな意味を持つ制度ではないかと考
えます。
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これは余談になりますが、この制度は、下水道法第 16 条の下水道管理者の個
別承認を外す制度なので、そもそも下水道法 16 条について若干触れることとし
ます。公物管理法においては概ね同様の規定がありますが、公物管理は当然管理
者が行うものでありますので、管理者以外の者が行う工事や維持については、原
則として、個別に下水道管理者の承認が必要ということになっています。この意
味で、この規定は、管理者の管理原則を破る規定であるといえます。
事例としては、例えば、土地区画整理事業に伴う下水道の建設を土地区画整理
組合等に行わせることが適当な場合に、下水道管理者が事前に土地区画整理組
合等に承認を与えて行わせるケースが挙げられます。なお、当然のことですが、
下水道管理者から工事を受注した建設会社、下水道管理者から建設工事の委託
を受けた日本下水道事業団等、下水道管理者から維持管理の委託を受けた民間
事業者等については、下水道管理者の行為を事実上代わって行っていると考え
られますので、下水道法 16 条の下水道管理者の個別の承認は必要ではないこと
になっています。このあたりについていろいろ話し出すと、管理者の行為をどう
評価するかの話にもつながって来ますが、ここでは時間の関係で割愛します。
東日本大震災の経験を踏まえ、このような災害時の維持修繕協定制度が、平成
25 年の道路法改正において創設されましたが、下水道においては、道路と同様
の事情があることに加え、下水道においては災害時においても機能を維持する
ことが極めて重要なこと、これまでも下水道管理者と業界団体・日本下水道事業
団等との間の災害時支援協定等の多くの実績があること等も踏まえまして、道
路と同様の制度を設けるとともに、これはつまらない話のように聞こえますが、
条項の見出しの名称を道路法の「維持修繕協定」とは違い、わかりやすい形で「災
害時維持修繕協定」としました、-ただ、法律の改正においては、実はこのよう
な文言を微修正でさえ、相当の作業を要するのですが-。
《協議会(公共下水道、流域下水道、都市下水路)》
-次に、広域化・共同化を促進するための協議会制度について、ご説明ください。
-
ご案内のとおり、体制の脆弱な地方公共団体が見られる中で、下水道システム
を持続的に維持していくためには、管理の広域化・共同化を図っていくことは一
つの有力な手法です。
この制度は、関係下水道管理者が、広域化・共同化に向けた協議を行うための
協議会、メンバーとしては、下水道管理者のほか、関係地方公共団体、下水道事
業団や下水道公社等の関係者、学識経験者、場合によっては国等ですが、そのよ
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うな協議会を組織できることとし、法律上、協議会において協議が整った事項に
ついては構成員は協議の結果を尊重しなければならないこととしています。
地方公共団体の業務の広域化・共同化を図る制度としては、地方自治法上、協
議会制度、事務の委託制度、-これは、通常の事務の単純な外部委託でなく、公
権力の行使まで含め地方公共団体の事務を別の地方公共団体に委託できる制度
ですが-、あと、一部事務組合制度等の制度があり、また、平成 26 年の地方自
治法改正で、事務を別の地方公共団体に任せるが、事務主体の名前は従前の地方
公共団体の名前を名乗ることができる「事務の代替執行制度」も創設されたとこ
ろです。
下水道の広域連携、例えば、汚泥処理の共同化、維持管理業務の共同発注等を
行うためには、基本的には、このような地方自治法上の制度を活用する(それぞ
れ、原則議会の議決が必要)ことになりますが、実務的には、そこに至るまでの
調整をどう行うかということが大きな課題となります。
このため、今般、関係の下水道管理者だけでなく、関係地方公共団体、下水道
事業団・公社、学識経験者、場合によっては国等も構成メンバーに加えることで
スムーズな意見調整を促すとともに、結果尊重義務を伴う法律上の制度として
一定の権威づけも与えられる協議会制度を設けることとしました。ちなみに、地
方自治法の協議会制度は、具体的な事務の実施だけでなく、連絡調整を図るため
にも活用できる制度(この場合は、議会の議決不要)ですが、メンバーは、地方
公共団体に限られるものです。
これまでも、広域化・共同化については、特定下水道施設共同整備事業制度(ス
クラム)や、広域化・共同化の地方財政措置等により、その促進を図ってきたと
ころですが、今回、下水道法自体に広域化・共同化に関する規定が入ったことは、
政策ツールとしてだけでなく、政策の重要性を確認する上でも一定の意味があ
り、また、公物管理法の中においても初めて広域化・共同化に係る規定が入った
のではないかと思われますので、その意味でも、新味があるのではないでしょう
か。なお、公企業法である水道法では、広域的水道整備計画制度があります。
いずれにしても、具体的な広域化・共同化の推進は、当然のことながら、それ
ぞれの地方公共団体の積極的な意欲が前提となるものですので、本協議会の活
用も含め、関係下水道管理者等におかれましては、様々な検討をして頂きたいと
考えています。
《熱交換器設置の規制緩和、発生汚泥等のエネルギー・資源利用(公共下水道、
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流域下水道)》
-次に、話を環境対策の方に移しまして、熱交換器の規制緩和、発生汚泥等のエ
ネルギー利用・資源利用について、ご説明ください。-
〈熱交換器設置の規制緩和〉
まず、管渠内に熱交換器を設置できることとした規制緩和の話ですが、管渠は
その性格からして当然のことですが、下水道法上、物件の設置については極めて
限定的に考えられていて、排水施設の固着や共用施設を設ける場合等のほかは、
平成 8 年の下水道法改正で規制緩和を行った光ファイバーだけが対象でした(下
水道法第 24 条第 3 項、第 25 条の 9)。
近年、下水の排除にほとんど影響がなく、かつ、経済的にも採算が取れる熱交
換器の開発が進められ、民間ニーズも出てきている状況の中で、今般、光ファイ
バーと同じように、一定の条件を満たす場合において設置を解禁することとし
ました。ちなみに、管渠へ設置できる物件については、その是非が管理上大きな
影響を及ぼすものであるので、道路法の占用物件と同様に、対象となる主要な物
件については、基本的に政省令ではなく、法律で規定するというのが下水道法の
基本的な考え方になっていますので、法律改正によって対応する必要があった
ものです。なお、これは水防法改正との一体性に関わることであるが、熱交換器
のほかに、水防管理者等が設置する量水標等も今回設置の解禁を行っています。
〈発生汚泥等の有効利用〉
次に、発生汚泥等のエネルギー利用・資源利用の話ですが、今回の法改正で、
発生汚泥等の処理について、これまで減量化の努力義務だけあったのに加え、エ
ネルギー、肥料として再利用する努力義務が追加されました(下水道法第 21 条
の 2 第 2 項)。ご案内のとおり、発生汚泥等の有効活用については、メタン発酵
を通じた得た天然ガスの自動車利用・発電利用・都市ガス利用、固形燃料化によ
るエネルギー利用、コンポスト利用、りん利用等、近年その進展にめまぐるしい
ものがあります。今回の法改正により、このようなエネルギー利用・資源利用の
取組は一部の先進的な地方公共団体の先導的な取組という段階を超えて、地球
温暖化等の環境問題への対応に向けて、下水道管理者が等しく施策の推進に努
めなければならない段階に移ったということであり、下水道の環境政策におけ
る位置づけが益々高まったと言えるのではないでしょうか。各下水道管理者に
おかれては、財政制約等がある中ですが、特に、中長期的に経済採算性のあるプ
ロジェクトなど積極的に取り組んで頂きたいものです。
〈下水道法の目的を見直すか〉
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以上の規制緩和と、エネルギー利用・資源利用の努力義務の話について、法律
的に言っておく必要がある話が一つあります。それは、下水道の環境貢献の拡大
と下水道法の目的との関係です。よく有識者の方から、ここまで下水道の環境貢
献が拡大してきたので、下水道法の目的に、例えば、地球温暖化防止等の環境目
的を入れるべきという話をお聞きします。下水道法に様々な環境貢献に関わる
規定を積極的に入れていくことについては、まさにおっしゃるとおりであろう
と思います。
ただ、法律的に見ると、法律の目的については、ある事項が現行の目的規定で
読めるのか読めないのかということが、一番問題になるということです。読める
なら、個別条項を法律に位置づけることは個別条項自体の内容の議論だけでい
いわけですが、他方、読めないなら、そのような法律の目的を新たに追加するこ
との是非を含め法律の根本枠組みの議論になります。
今回の法改正で言えば、環境のための規制緩和、努力義務に関する個別規定を
設けるのに、下水道法の目的規定を変更する必要があるか否かが問題となりま
す。浸水対策のところで述べた話と同様となりますが、現在の下水道法の目的
「都市の健全な発達及び公衆衛生の向上に寄与し、あわせて公共用水域の水質
の保全に資することを目的とする」の「都市の健全な発達」で、このような環境
目的も含まれるという整理がなされ、個別条項を下水道法に位置づけられるこ
ととなりました。ちなみに、平成 24 年に制定された「都市の低炭素化の促進に
関する法律」の目的規定では、
「都市の低炭素化の促進を図り、もって都市の健
全な発展に寄与することを目的とする」と記載されており、
「都市の健全な発展」
が環境を含む広い概念になっていることが分かります。
今回、目的規定の文言は変更されませんでしたが、以上のようなことが確認で
きたことは、下水道行政において様々な環境に関する取組を進める上で、また、
新しく制度を検討する上で、相当大きな意味があるのではないでしょうか。
【下水道事業団法改正】
《建設、維持管理の受託範囲の拡大(管渠)》
-では、話を下水道事業団法改正の方に移しまして、まず、建設、維持管理の受
託範囲を管渠まで拡大したことについて、ご説明ください。-
建設の受託範囲については、これまで、終末処理場やこれに接続する幹線管渠
等に限定されていましたが、
「①近年の豪雨の局地化・集中化・激甚化等に伴う
大規模な浸水被害の頻発化により再度災害を防止するため雨水管渠の整備を短
期集中して行う必要が生じてきていること」、「②管渠の老朽化への対応や下水
道の未普及地域の解消への対応のため、管更正工法、低コスト化のため浅く管を
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埋設する工法等、従来にない高度な技術や機械力の活用が求められるようにな
ってきたこと」から、今般、
「浸水被害が発生した場合において再度災害を防止
するために特に緊急に建設すべき管渠」、「建設に高度の技術や機械力を要する
管渠」について、受託範囲の拡大を行いました。
維持管理の受託範囲については、終末処理場等に限定されていましたが、近年、
管渠の老朽化の進展に伴い、広範囲な点検・調査を実施して、財政負担の平準化
の観点から管渠全体を見渡して優先順位を検討するとともに、効果的な工法を
選択して着実に修繕を進めるなど、高度な技術力や経験を求められる場合も生
じてきたことから、今般、管渠全般について受託範囲の拡大を行いました。
《建設時の権限代行制度の創設》
-次に、建設時の権限代行制度について、ご説明ください。-
〈下水道事業団法の歴史〉
建設時の権限代行制度は、これまでの建設受託制度、-すなわち、下水道管理
者と下水道事業団が契約を結んで、設計・発注・施工管理等の事実行為の受託を
受ける制度ですが-、これとは全く異なる制度です。
この制度は、建設受託制度のように契約に基づき事実行為を受託するもので
なく、法律の一定の要件を満たす場合に、法律に基づき、下水道事業団が建設段
階における下水道管理者の一定の権限を代行し、管理者になり代わって建設を
行うというものです。このため、対象となる建設期間内においては、当然のこと
ながら、法律上、施設の建設・保有主体は下水道事業団となり、建設費を負担し
たり、補助金等を受ける主体も下水道事業団となります。
このように、建設時の権限代行制度の創設は、日本下水道事業団法自体に大き
な変化をもたらすことであるので、まず先に、日本下水道事業団法の歴史の話を
することとします。
日本下水道事業団の前身は、下水道事業センターですが、下水道事業センター
法が成立し、センターが発足したのは、昭和 47 年です。下水道事業センターは、
いわゆる「認可法人」として設立され、業務内容としては、終末処理場の維持管
理は行えなかったことのほかは、概ね現在の事業団の業務と同様ですが、形式的
な目的規定や業務規定の規定ぶりは、建設受託より、技術的援助の方が先に規定
されていました。
そして、昭和 50 年には、下水道事業センター法の改正が行われ、名称が日本
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下水道事業団法となり、目的規定や業務規定で建設受託が先に規定されるとと
もに、終末処理場等の維持管理の受託が受けられることとなりました。他方、こ
れは下水道事業団とは直接関係がありませんが、この年、下水道事業全体の補助
金額の確保策として、特別の地方債制度と財政法の 5 年の範囲内の補助金の分
割交付制度(金利への補填を含む。)が、-これは、概ね当該年度の補助金額を
確保するため、所要予算を後年度にもってくる制度と考えてよいと思われます
が-、創設されることとなりました。
最終的な着地点は、このようなものであるが、昭和 47 年度要求、昭和 50 年度
要求とも、当初の要求案は、基本的には、認可法人でなく特殊法人として設立し、
建設の受託でなく建設代行として行い(今回の改正の権限代行に当たるもの)、
その資金は財投資金を活用し、元利償還に国庫補助金と地方財政措置を講ずる
というものでした。維持管理なしの道路公団のようなイメージとも思われます
が、元利償還に料金ではなく、国庫補助金を想定するところに財政法と真正面か
ら衝突する課題があったのではないかと思われます。
その後の下水道事業団法をめぐる大きなトピックイッシューとしては、エー
スプラン事業を創設するための昭和 61 年の下水道事業団法の改正があります。
この法改正では、業務規定の中に、通常の建設・維持管理の受託制度とは別に、
「2以上の地方公共団体の終末処理場における下水の処理過程において生じる汚
泥等の処理を行うこと」を追加するとともに、財投資金の受け入れのための規定が整
備されました。エースプラン事業については、当初、権限代行制度として要求されまし
たが、これは認められず、事業団が事実上、下水道たる汚泥処理施設を財投資金を
得て建設・管理し、地方自治体からの利用料等で元利返済していくというスキームで
す。
さらに、下水道事業団については、政府全体の特殊法人等改革の中で、認可法人
から国の出資のない地方公共団体の出資のみの地方共同法人に組織変更されるこ
ととなり、平成 14 年に事業団法の改正が行われることとなりましたが、業務内容につ
いては、エースプラン事業が削除されたほかは特段の変更はありません。
以上のように、下水道事業団が権限代行を行うことについては、昭和 47・50
年度要求と、昭和 61 年度要求で、それぞれアプローチは異なりますが要求され、
様々な理由で認められるに至らなかったということです。特に、権限代行制度に
ついては、別の地方自治体が権限代行する制度を創設することすら難しい上に、
さらに、地方公共団体以外の組織が権限代行することの難しさがあったものと
推測されます。
〈各種の権限代行制度〉
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公物の建設の権限を、本来の管理者でなく、別の地方公共団体、又は国が代行
する制度は様々なものがあり、特に都道府県が体制の脆弱な市町村の代行を行
う制度としては、各種地域立法でいくつか見られるところであり、また、平成 25
年の道路法改正では、国が改築や修繕に関する工事について、都道府県、市町村
の代行を行う制度も設けられたところです。
下水道については、都道府県が市町村に代わって建設の代行を行う制度とし
ては、東日本大震災の復興特例は別として、地域立法の一つである過疎法におい
て、公共下水道の幹線管渠、終末処理場、ポンプ施設の設置について、都道府県
が市町村に代行できる制度が唯一あるだけでした。
他方、地方公共団体や国以外の組織が、公物の建設権限を代行する制度につい
ては、有料道路の建設・償還制度のようなものは別として、我が国の公物管理法
制の体系でもほとんど例が見られないものですが、ただ、唯一の例としては、昭
和 50 年に制定された宅地開発公団法に遡る現在の都市再生機構の建設代行があ
ります。これは、都市再生機構の行う都市再開発等のプロジェクトに関連して整
備する必要がある道路、河川、下水道等の建設を、地方公共団体に代わって都市
再生機構が行う制度です。この制度の趣旨は、基本的には、公共施設の建設は地
方公共団体に代わって都市再生機構が代行した方が効率的であるというもので
す。
今回の事業団法の建設代行の趣旨は、建設受託制度の制約を超えて、体制の脆
弱な地方公共団体への支援を行うというものです。具体的に言えば、事業団の建
設受託では、施設の設計、工事管理、検査等の範囲では、公共団体の業務を肩代
わりできますが、補助金の申請・執行管理事務、工事の際の道路占用許可申請事
務、公共ますの設置のための測量、工事等に伴う私有地への立入り等については、
地方公共団体の業務として残り、事業団が肩代わりできません。このような部分
まで事業団に肩代わりしてほしいというニーズがあるのなら、制度の政策的な
必要性はあるだろうということです。
〈地方共同法人に公権力の行使は可能か〉
ただ、法制的な大きな論点は、政策の必要性はあるとして、都市再生機構のよ
うな独立行政法人でない、地方共同法人にも、建設代行、具体的には、各種の公
権力の行使が認められるか否かということです。基本的には、下水道事業団は、
独立行政法人にひけをとらないガバナンスに関する諸規定が法律で設けられて
いること、独立行政法人でなく事業団に似たような組織である地方道路公社に
権限代行、公権力の行使が認められていること等、相当膨大な整理作業を行い、
今般、地方共同法人たる事業団にも建設の権限代行、公権力行使が認められるこ
ととなりました。
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それも、対象が過疎法の公共下水道の終末処理場、幹線管渠、ポンプ施設の設
置に限られておらず、対象施設としては、公共下水道、流域下水道、都市下水路
における終末処理場等、一定の管渠(今回建設受託制度の対象とした部分)であ
り、かつ、対象行為も、設置だけではなく、改築等を含め建設としています。相
当程度、地方のニーズに対応した使いやすい制度となっているのではないでし
ょうか。
アプローチは異なりますが、昭和 47・50 年度要求と、昭和 61 年度要求で挫折
した事業団の権限代行が、ようやく、体制が脆弱な地方公共団体を支援する建設
代行制度として、大きく日の目を見ることとなったということであり、この意味
で、今回の改正は、日本下水道事業団法の歴史の上で時代を画するものと言える
かも知れません。
〈権限代行に係る諸規定〉
なお、今回の権限代行制度は、建設委託のように、地方公共団体と事業団の間
の契約でお互いの権利関係を決めるというものではないので、工事開始の公告、
施設・土地の権利の帰属、費用の負担・補助等、法律で細かく諸規定が設けられ
ています。
また、建設代行により、事業団が一定の公権力行使を行うため、事業団が行政
庁として行う処分については、国土交通大臣に対する審査請求制度が設けられ
ることになりました。
審査請求制度については、行政庁の処分等に対して不服がある者が上級行政
庁に対して申し立てをでき、上級行政庁は処分等が違法又は不当な場合には処
分の取り消し等を行えるものです。下水道の管理は自治事務であるので、上級行
政庁はないとされ、通常は、審査請求制度は設けられていません。しかしながら、
下水道事業団については、国土交通大臣が監督を行う立場であり、上級行政庁に
類似した存在であるため、国土交通大臣への審査請求を認めることとしたもの
です。
【水防法改正】
《警戒水位、浸水想定区域制度の創設》
-以上で、下水道事業団法改正の話は終わりにしまして、次は、水防法改正につ
いて、お話ください。-
下水道法改正、下水道事業団法改正と一括して行った水防法改正により、内水
に関する避難対策等のソフト部分が、初めて水防法に位置づけられることとな
りました。
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具体的には、下水道管理者は、内水浸水により相当な損害を生じるおそれがあ
るものとして指定した下水道の排水施設等について、災害の発生を特に警戒す
べき水位を定め、水位がこれに達したときは、その旨を直ちに水防管理者に通知
するとともに、必要に応じて報道機関の協力を求めて、これを一般に周知させな
ければならないこととなりました(水防法第 13 条の 2)。
また、指定した下水道の排水施設等については、内水浸水時に被害の軽減を図
るため、想定最大規模降雨により浸水が想定される区域を、浸水深等を含め浸水
想定区域として指定し、これを公表することとされました。
浸水想定区域制度については、これまで、水防法において、河川から水が漏れ
出す洪水については制度化されていましたが、それは施設整備の基準となる降
雨に基づいていました。今回、水防法改正においては、内水、高潮といったこれ
まで対象となっていなかった事象を対象とするとともに、洪水も含め、施設整備
の基準となる降雨でなく、想定できる最大規模の降雨に基づいて行うこととさ
れました。
ちなみに、災害想定で想定できる最大規模のものに基づくことについては、平
成 23 年に制定された津波防災地域づくり法に基づく津波浸水想定制度が最初の
事例です。
【法改正全般】
《予算関連法、税制関連法》
-以上で、個別の法改正の話はおしまいにして、次は、法改正全般に通ずる話に
ついて、聞かせてください。今回の法改正は、予算関連法、税制関連法であった
とのことですが、そのあたりについてご説明ください。-
予算関連法とは、予算に関連している法律、すなわち、その法律が制定されな
ければ所用の予算が執行できないという関係にある法律です。また、税制関連法
とは、税制改正に関連している法律、すなわち、その法律が制定されなければ、
税法上の特例措置等が実施できないという関係にある法律です。特に、予算関連
法については、※(こめ)法といわれ、通常、年明けから通常国会に提出される
法案の中でも優先順位が高いものとして、他の法律よりも早く閣議決定の上、国
会に提出し、審議が行われることになっています。
今回の法改正について、具体的に言えば、予算関連事項は、2つあり、一つは、
浸水被害対策区域に係る雨水貯留施設に対して交付金でなく個別の補助金が予
算で創設された部分です。もう一つは、今回創設された下水道事業団の代行制度
について下水道事業団に対して交付金でなく個別の補助金が創設された部分で
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す。
また、税制関連事項について、具体的に言えば、下水道法改正で創設された浸
水被害対策区域制度内にある一定の要件を満たす雨水貯留利用施設に対して法
人税等の割増し償却制度が創設された部分です。もう一つは、改正水防法で対象
範囲が広がった洪水浸水想定区域内の止水板に対して固定資産税の軽減制度が
拡充された部分です。
予算関連事項 2 つ、税制関連事項 2 つ、2+2 で、事項としては贅沢な内容と
なっているのではないでしょうか。
《一括法》
-今回の法改正は、下水道法、下水道事業団法、水防法を一つの法律で改正する
一括法ですが、そのあたりについてご説明ください。-
昔は、複数の法律を一つの法律で改正する一括法については、それぞれの法改
正の目的が同一であれば認められていた時代もありましたが、現在ではより厳
格な基準を満たす必要があり、それぞれの法改正の目的が同一であるだけでな
く、個別の条項レベルで、法律間で一体となっている規定があることが求められ
ます。
今回の法改正について、具体的に言えば、水防法と下水道法については、下水
道法において、下水道管理者が同意した水防計画に公共下水道管理者の協力が
必要な事項が定められているときは、下水道管理者は水防管理団体(市町村)が
行う水防に協力するものとするとされている部分です(下水道法 23 条の 2、下
水道法第 25 条の 18)。また、管渠内の規制緩和事項として、水防管理者等が設
置する量水計の設置が解禁された部分も該当すると言っていいでしょう(下水
道法第 24 条第 3 項第 3 号イ、第 25 条の 17 第 3 号)。
また、下水道法と下水道事業団法については、下水道事業団法において、業務
規定として、下水道事業団は、地方公共団体の委託に基づき下水道法改正で創設
された管理協定の対象となる雨水貯留施設の維持管理を行うことができるとさ
れた部分です(下水道事業団法第 26 条第 1 項第 4 号)。また、同じく、業務規定
で、下水道事業団は、下水道改正で創設された災害時維持修繕協定(下水道事業
団と下水道管理者が締結するもの)に基づき、施設の維持、修繕工事を行うこと
ができることとされた部分です(下水道事業団法第 26 条第 1 項第 5 号)。
このような規定は、ブリッジ規定といわれるものですが、今回の改正では、水
防法・下水道法、下水道法・下水道事業団法で、概ね 2+2 の極めて一体感の一
括法になっていると言っていいでしょう。
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また、今回の一括法の名称が「水防法等の一部を改正する法律」となっていま
すが、なぜこのような法律の名前になっているのかですが、3 つ以上の法律を改
正する場合には、○○○等の一部を改正する法律という名前になるのですが、水
防法、下水道法、下水道事業法のうち、一番制定が古いものは水防法であるため、
今回は、「水防法等の一部を改正する法律」という名前になりました。
《法律の附則》
-最後に、法律の附則について、何かあれば、ご説明ください。-
普通の人が法律を見るとき、通常は、法律の本文を見るのがせいぜいであり、
なかなか、最後についている附則まで見る人は少ないのではないでしょうか。し
かし、よく「附則まで見ないと法律の理解が不足する」といわれるように、附則
は、法律の施行日や、本文の取扱いの経過措置等が規定されるところであり、実
務的には結構重要な場合があります。
附則のうち、法律の施行日に関して言えば、今回は、法律の公布(5 月 20 日)
から換算して 2 か月以内に施行する部分と、6 か月以内に施行する部分に分けら
れています。
具体的にいうと、2 か月施行の部分は、
「水防法改正の部分」と、
「下水道法改
正のうち、浸水被害対策区域制度、災害時維持修繕協定、協議会、管渠内の規制
緩和、発生汚泥等の努力義務に係る部分」、
「下水道事業団法改正の部分」であり、
6 か月施行の部分は、
「下水道法改正のうち、雨水公共下水道、維持・修繕基準、
事業計画の見直しに係る部分」です。
また、附則のうち、本文の取扱いの経過措置に関して言えば、一つ重要なこと
があります。事業計画については、先に述べたように、排水施設の点検の方法等
を記載することとされました。ただし、附則の経過措置で、施行日から起算して
3 年を経過する日までは、計画を変更する場合を除き改正前の事業計画のままで
よい、具体的には点検の方法等は記載しなくてもよいこととしています。ただし、
維持・修繕基準の方は完全に施行されますので、少なくとも当該基準に基づいた
点検等は義務付けられているということには留意する必要があります。
-最後に何かありますでしょうか。-
これは、どのような法改正にも言えることですが、法律はあくまで政策ツール
(道具)であるので、いかに魂を入れるかは、その内容にもまして、各下水道管
理者の方々、民間事業者の方々をはじめ現場の方々に、内容をご理解して頂き、
しっかり使って頂くことであると考えています。今回のインタビューが僅かば
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かりでもそれに資することがあれば、幸いです。
いずれにしても、法改正の趣旨である、ハード・ソフトの内水対策、老朽化が
急速に進展する中でのメンテナンス対応、財政制約・体制制約があるなかでの下
水道の維持管理の適切な実施、環境問題への適切な対応等、どれをとっても、極
めてチャレンジングな課題であると言えるでしょう。
最後に、この法改正を契機に今まで以上に、現場と国土交通省が連携して、こ
のような困難な課題に対して前向きな取組が進められることを祈念致しまして、
私の話とさせて頂きます。
(以上)
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