遺言執行士受験テキスト「遺言書作成」遺留分 遺留分 (1)遺留分 日本の民法は、遺言によって奪うことのできない、相続人の「最低限の取 り分」を保証している。この最低限の取り分を遺留分という。 例えば、夫と妻、子供二人(長男・二男)の家族の場合、夫が亡くなった 時に遺言がなければ法定相続分は妻 2 分の 1、子供は各 4 分の 1 となる。 しかし、夫が遺言によって『長男に全ての財産を相続させる』とした場合 は、遺言に従って長男が全部を相続するが、他の相続人(妻と二男)が納得 しない場合は自分たちの遺留分(最低限の取り分)を、長男に対して請求す ることができる。 この遺留分の割合は、誰が相続人かによって異なるため、先ず、相続人を 確認しなければならない。妻と子が相続する場合は、法定相続分の 2 分の 1 とされている。つまり、妻の遺留分は 4 分の 1(法定相続分 1/2×1/2)、二男 の遺留分は 8 分の 1(法定相続分 1/4×1/2)となる。 遺留分の割合 配偶者と子が相続する場合(上記の場合) 子のみが相続する場合 配偶者のみが相続する場合 配偶者と直系尊属が相続する場合 配偶者と兄弟姉妹が相続する場合 直系尊属のみが相続する場合 全員 2 分の 1 全員 2 分の 1 2 分の 1 全員 2 分の 1 配偶者 2 分の 1、兄弟姉妹 0 3 分の 1 (2)遺留分減殺請求 夫が『長男に全ての財産を相続させる』という遺言を作成した段階で、こ の遺言は遺留分を侵害しているということになるが、実際は、夫が亡くなっ て(相続が開始して)相続財産を調査(相続時の時価で計算する)したうえ で、遺留分を侵害された妻と二男は、長男に対して侵害された遺留分を請求 (遺留分減殺請求)するという手続きになる。 遺留分減殺請求は、遺留分を侵害する相続をした相続人、または贈与や遺 贈を受けた人に対して意思表示(書面でも口頭でもよい)すればよいが、実 務上は、意思表示を「したか、しなかったか」の争いを避けるため、内容証 明郵便を利用する。 遺留分減殺請求権は時効によって消滅する。 ① 遺留分権利者が「相続の開始」と「減殺すべき贈与や遺贈があったこと」 遺言執行士受験テキスト「遺言書作成」遺留分 を知った時から 1 年間行使しないとき。 ② 「相続開始」から、10 年を経過した場合。 注意点は、相続人の一人が葬儀の席で「遺言に従って全て自分が相続す る」と宣言しても、他の相続人が「減殺すべき贈与や遺贈があったこと」 を知ったかどうかは不明であること。 また、遺留分権利者が遺言執行者から「相続の開始」と「減殺すべき贈 与や遺贈があったこと」を知らされ、直ちに遺言執行者に遺留分減殺の意 思表示をしても効力はない。遺留分を侵害した相続人に対して、直接、意 思表示をしなければならない。 (3)遺留分の放棄 遺留分は、家庭裁判所の許可を得て、相続の開始前に放棄することがで きる。 例えば、父親が家業を継ぐ長男のため、父親名義の不動産を全て長男に 相続させたいと考え遺言を書いても、二男が遺留分減殺請求をすると、遺 言を残したことが却って長男を苦しめることになる可能性がある。 そこで、二男にはあらかじめ事情を話して現金や他の財産を与え、遺留 分を放棄させたうえで遺言を残せば、将来、争うことなく相続することが できる。 民法 1043 条 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受 けたときに限りその効力を生ずる。 2 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人 の遺留分に影響を及ぼさない。 (4)遺言の威力 前記(1)で述べたように、兄弟姉妹には遺留分がない。そこで、子供のいな い夫婦の場合は、遺言を残すことで残された配偶者の運命が劇的に変わる。 夫(妻)が亡くなって、相続手続きをしようとしたとき夫婦に子供がなく、 親も既に亡くなっているとき、夫(妻)の兄弟姉妹も相続人であると初めて 知らされる人は意外に多い。 更に、兄弟姉妹も既に亡くなっていると、その子(甥・姪)が相続人とし て登場してくる。葬儀にも出席しなかった甥・姪と遺産分割の協議をするこ とになり途方にくれる人も珍しくない。 遺言で、 「財産は全て配偶者に相続させる」と残すだけで、遺留分の無い兄 弟姉妹は一切異議を言えなくなるのである。
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