石井英真(京都大学) - 京都大学高等教育研究開発推進センター

 2015年3月13日(金) 第21回 大学教育研究フォーラム
@京都大学 石井英真(京都大学) 1
パフォーマンス評価とは何か?
¢ 伝統的な評価方法の人工性や断片性に対する批判 =多肢選択などの客観テストは、現実世界と切り離された無味乾燥な
文脈で、断片的な知識・技能を問うものである。交通法規や運転上の
留意点をいくら知っていても、上手に運転できるかは実際に運転させ
てみないと分からないのと同じように、客観テストでは本物の学力は測
れない。 豊かに考える授業をしていながら評価では知識・技能(見えやすい学
力)しか問われない、というミスマッチを解消し、目標・指導・評価の一
貫性を確立する必要性。 ¢ 「パフォーマンス評価(performance assessment)」とは、思考する必然
性のある場面で生み出される学習者の振る舞いや作品(パフォーマン
ス)を手がかりに、概念の意味理解や知識・技能の総合的な活用力を
質的に評価する方法。 2
—  狭義には、学習者のパフォーマンスを引き出し実力を試す評価課
題(パフォーマンス課題)を設計し、それに対する活動のプロセス
や成果物を評価する、「パフォーマンス課題に基づく評価」を意味
する。 —  広義には、授業中の発言や行動、ノートの記述から、子どもの日々
の学習活動のプロセスをインフォーマルに形成的に評価するなど
、「パフォーマンス(表現)に基づく評価」を意味する。マインドマッ
プやポートフォリオなども含まれる。 —  テストをはじめとする従来型の評価方法では、評価の方法とタイミ
ングを固定して、そこから捉えられるもののみ評価してきた。これ
に対して、パフォーマンス評価は、課題、プロセス、ポートフォリオ
等における表現を手掛かりに、学習者が実力を発揮している場面
に評価のタイミングや方法を合わせるものと言えよう(授業や学習
に埋め込まれた評価へ)。
3
4
現代社会が求める能力と学習の質
—  グローバル化、知識基盤社会化、生涯学習社会化、多文化化が進
む現代社会(ポスト近代社会)においては、労働者として、また、市民
として、さまざまな文脈で異質な他者と協働しながら「正解のない問題
」に対応する力や、生涯にわたって学び続ける力など、高度な知的
能力が必要とされてきている。 —  ドリブルやシュートの練習(ドリル)がうまいからといってバスケットの試
合(ゲーム)で上手にプレイできるとは限らない。ゲームで活躍できる
かどうかは、刻々と変化する試合の流れ(本物の状況)の中でチャン
スをものにできるかどうかにかかっており、そうした感覚や能力は実際
にゲームする中で可視化され、育てられていく。ところが、従来の学
校において、子どもたちはドリルばかりして、ゲーム(学校外や将来の
生活で遭遇する本物の活動)を知らずに学校を去ることになってしま
っている。 → 「真正の学習(authentic learning)」の必要性。 5
何を測っているのでしょう?
例:同じ算数の評価方法でも… (1)35×0.8=( ),35×0.8=(ア:28,イ:2.8,ウ:280)
←( )
(2)「計算が35×0.8で表わせるような問題(文章題)を作りましょう。」 ←( )
(3)「あなたは部屋のリフォームを考えています。あなたの部屋は、縦
7.2m、横5.4m、高さ2.5mの部屋です。今回あなたは床をタイルで
敷き詰めようと考えています。お店へいったところいいのが見つかり
ました。そのタイルは、一辺が30cmの正方形で、一枚90円です。お
金はいくら必要でしょうか。途中の計算も書いて下さい。」 ←( )
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教育目標設定の枠組みに見る学力の質的レベル
知識次元 認知過程次元 1.記 2. 3.適 4.
5.
憶 理 用 分 評
す 解 す 析 価
る す る す す
る る る 6.
創
造
す
る A.事実的知識 B.概念的知識 C.手続的知識 D.メタ認知的知識 ①「改訂版タキソノミー(Revised Bloom’s Taxonomy)」の枠組み(出
典: L. W. Anderson and D. R. Krathwohl eds., A Taxonomy for
Learning, Teaching, and Assessing: A Revision of Bloom’s
Taxonomy of Educational Objectives, Longman, 2001, p.28.)
個別的スキル Skills
事実的知識 Knowledge
転移可能な概念
複合的プロセス
原理と一般化 Understanding
③ 「知識の構造」の枠組み(出典:J. McTighe and G. Wiggins,
Understanding by Design Professional Development, ASCD, 2004,
p.65の図からそれぞれの知識のタイプに関する定義や説明を省いて簡略
化した。)
【次元⑤】思考の習慣
【次元④】
知識の有意味な使用
(使える)
【次元③】
知識の拡張
と洗練
(わかる)
【次元②】
知識の獲得
と統合
(知ってい
る・できる)
【次元①】学習についての態度と知覚
②「学習の次元(Dimensions of Learning)」の枠組み(出典:
R. J. Marzano, A Different Kind of Classroom: Teaching
with Dimensions of Learning, ASCD, 1992, p.16. 番号は発
表者。)
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学力・学習の質と評価方法との対応関係
めざす学力・学習の質(教育目標の認知レ
ベル)の明確化
知識表象や思考プロセスの表現に基
づく評価 評
評価
価
素朴な全体から
洗練された全体
へと螺旋的に展
開し,「最適解」
や「納得解」のみ
存在するような学
習
)
(例)描画法,概念地図法,感情曲線,簡
単な論述問題や文章題など 基
重点単元ごとにパフォーマンス課
題を実施したり,学期末や学年末
に子どものノートを見直したりして,
年間を通じて継続的に,認識方法
の熟達化の程度を判断する。(「水
準判断評価(standardreferenced assessment)」)
学習活動の性質
知識の獲得と
定着 (知っている・
できる)
(例)情報過多の複雑な文章題,小論文,
レポート,作品制作・発表,パフォーマン
ス課題とルーブリックなど 広
義表
現
ー
知識の意味
理解と洗練 (わかる)
真正の文脈における活動や作品に基
づく評価(狭義のパフォーマンス評
価) (
知識の有意
味な使用と創
造(使える)
評価基準の設定方法と評価のタイ
ミング
評価方法の選択
客観テスト (例)多肢選択問題,空所補充問題,組み合わせ
問題,単純な実技テストなど
単元末に,ペーパーテストなどを実
施し,個別の教科内容ごとに,理解
の深さ(知識同士のつながり・自分
とのつながり)と習得の有無を点検
する。(「項目点検評価(domainreferenced assessment)」)
要素から全体へ
の積み上げとし
て展開し,「正
解」が存在するよ
うな学習
(出典:石井英真「学力向上」篠原清昭編著『学校改善マネジメント』ミネルヴァ書房、2012年。)
「考える力を育てるかどうか」という問い方ではなく、「どのレベルの考える力を育てるのか」という
発想で考えていかねばならない。特に、内容の習得をめざす中での思考力と、学んだことをつなぎ
あわせて文脈に対応して使われる思考力とのレベルの違いを認識しておく必要がある。
c. f. ブルームの目標分類学における、「適用( application )」(特定の解法を適用すればうまく解決できる課題)と「総合
( synthesis)」(論文を書いたり、企画書をまとめたりと、これを使えばうまくいくという明確な解法のない課題に対して、
学んだ知識を総動員して取り組まねばらない課題)という「問題解決」のレベルの違い。
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学校で育成する資質・能力の要素の全体像を捉える枠組み(出典:石井英真『今求められる学力と学びとは
―コンピテンシー・ベースのカリキュラムの光と影』日本標準、2015年。)
資質・能力の要素(目標の柱) 能力・学習活動の階層
レベル(カリキュラム
の構造) 知識 スキル 認知的スキル 社会的スキル 情意(関心・意欲・態
度・人格特性) 教科等の枠づけの中での学習 学習の枠づけ自体を学習者たち
が決定・再構成する学習 知識の獲得と
定着(知って
いる・でき
る) 事実的知識、技能
(個別的スキル) 記憶と再生、機械的実行と自
動化 達成による自己効力感 学び合い、知識の共同構築 知識の意味理
解と洗練(わ
かる) 概念的知識、方略
(複合的プロセ
ス) 解釈、関連付け、構造化、比
較・分類、帰納的・演繹的推
論 内容の価値に即した内発
的動機、教科への関心・
意欲 知識の有意味
な使用と創造
(使える) 見方・考え方(原
理と一般化、方法
論)を軸とした領
域固有の知識の複
合体 知的問題解決、意思決定、仮
説的推論を含む証明・実験・
調査、知やモノの創発(批判
的思考や創造的思考が深く関
わる) 自律的な課題
設定と探究
(メタ認知シ
ステム) 思想・見識、世界
観と自己像 自律的な課題設定、持続的な
探究、情報収集・処理、自己
評価 社会関係の自
治的組織化と
再構成 (行為
システム) 人と人との関わり
や所属する共同
体・文化について
の意識、共同体の
運営や自治に関す
る方法論 生活問題の解決、イベント・
企画の立案、社会問題の解決
への関与・参画 プロジェクトベースの対話
(コミュニケーション)と
協働 活動の社会的レリバンス
に即した内発的動機、教
科観・教科学習観(知的
性向・態度) 自己の思い・生活意欲
(切実性)に根差した内
発的動機、志やキャリア
意識の形成、 人間関係と交わり(チーム
ワーク)、ルールと分業、
リーダーシップとマネジメ
ント、争いの処理・合意形
成、学びの場や共同体の自
主的組織化と再構成 社会的責任や倫理意識に
根差した社会的動機、道
徳的価値観・立場性の確
立 ※太字部分は、それぞれの能力・学習活動のレベルにおいて、カリキュラムに明示され中心的に意識されるべき目標の要素。
※認知的・社会的スキルの中身については、学校ごとに具体化すべきであり、学習指導要領等で示す場合も参考資料とすべきだろう。情意領域については、評定
の対象というより、形成的評価やカリキュラム評価の対象とすべきであろう。
学力・学習の質的レベルに対応した各教科の課題例
国語 社会 数学 「 知 っ て い 漢字を読み書きす 歴史上の人名や出来事 図形の名称を答える。
る ・ で き る。
を答える。
計算問題を解く。 る 」 レ ベ ル 文章中の指示語の 地形図を読み取る。 の課題 指す内容を答える。 理科 英語 酸素、二酸化炭素など 単語を読み書きする。
の化学記号を答える。 文法事項を覚える。
計器の目盛りを読む。 定型的なやり取りがで
きる。 「 わ か る 」 論説文の段落同士 扇状地に果樹園が多い 平行四辺形、台形、ひ 燃えているろうそくを 教科書の本文で書かれ
レ ベ ル の 課 の関係や主題を読 理由を説明する。
し形などの相互関係を 集気びんの中に入れる ている内容が把握でき、
題 み取る。
もし立法、行政、司法 図示する。
と炎がどうなるか予想 訳せる。
物語文の登場人物 の三権が分立していな 三平方の定理の適応題 し、そこで起こってい 設定された場面で、定
の心情をテクスト ければ、どのような問 を解き、その解き方を る変化を絵で説明する。 型的な表現などを使っ
の記述から想像す 題が起こるか予想する。説明する。 て簡単な会話ができる。 る。 「 使 え る 」 特定の問題につい 歴史上の出来事につい ある年の年末ジャンボ クラスでバーベキュー まとまった英文を読ん
レ ベ ル の 課 ての意見の異なる て、その経緯とさまざ 宝 く じ の 当 せ ん 金 と、をするのに一斗缶をコ で ポ イ ン ト を つ か み、
題 文 章 を 読 み 比 べ、まな立場の声を紹介し、1 千 万 本 当 た り の 当 せ ンロにして火を起こそ それに関する意見を英
それらをふまえな その意味を論評する歴 ん本数をもとに、この うとしているが、うま 語で書いたり、クラス
がら自分の考えを 史新聞を作成する。
宝くじの当せん金の期 く燃え続けない。その メ ー ト と デ ィ ス カ ッ
論説文にまとめる。ハンバーガー店の店長 待値を求める。 理由を考えて、燃え続 ションしたりする。
そして、それをグ になったつもりで、駅 教科書の問題の条件を けるためにどうすれば 外 国 映 画 の 一 幕 を グ
ループで相互に検 前のどこに出店すべき いろいろと変えて発展 よいかを提案する。 ループで分担して演じ、
討し合う。 かを考えて、企画書に 的に問題をつくり、追
発表会を行う。 まとめる。 究の過程と結果を数学
新聞にまとめる。 ※「使える」レベルの課題を考案する際には、E.FORUMスタンダード(http://www.educ.kyoto-u.ac.jp/e-forum/kensyu_seika/40/)が参考になる。そ
こでは、各教科における中核的な目標とパフォーマンス課題例が整理されている。
10
11
社会科のパフォーマンス課題の例 (出典:田中耕治編『よわかる教育評価』ミネルヴァ書房、2005年、p.99.) 学校の制服 教育委員会は学区のすべての小中学生に制服を義務付けようと考えている。地域でこ
の問題は大きな論争となった。 情報コーナー:(フランクリン学区で制服を義務付けた前後での、落書き、けんかの数
の統計および「制服は学校の安全性を高めたか、低めたか」についての生徒、親、教師の
意見分布についての情報など) 課題: 立場の選択
「学区は、小中学校の生徒に制服の着用を義務付けるべきか」という公的な政策論争に
対してあなた自身の立場を選択しよう。あなたは学校の制服について賛成しても、反対し
てもどちらでもよい。学区の教育委員会に手紙を書こう。あなたの立場を支持する理由を
提供する情報を活用しよう。 ※あなたは以下の基準で評価されます。以下の要素があなたの手紙に含まれているか
確かめなさい。 ①あなたの立場についての明確な陳述、②合衆国憲法にある民主主義的な価値につ
いての情報による支持、③歴史、地理、公民、および経済の知識による支持、④情報コー
ナーの情報による支持 12
数学科のパフォーマンス課題の例 (出典:G. Wiggins, Educa&ve Assessment: Designing Assessments to Inform and Improve Student Performance, Jossey-­‐Bass, 1998, p.27.) あなたは大きなデパートの商品包装の担当です。平均して、毎年24,000人の客があなた
の店で衣類を購入します。その客の約15%が包装を希望します。その店では、一ヶ月でジャ
ケット165着、シャツ750着、ズボン480本、帽子160個の売り上げがあります。箱の値段はす
べて同じで、包装用紙は1ヤードあたり26セントかかります。包装用紙のロールは、幅1ヤー
ドで、長さは100ヤードです。
包装用紙のマネージャーとして、あなたは当然、年間の包装費用について計画を立てたい
でしょうし、なるべく節約したいと思うことでしょう。ズボン、シャツ、ジャケット、帽子について、
どのような形の箱だと包装用紙の量が最も少なくてすむでしょうか。 あなたの課題: 仕入れ部長に文書レポートで頼んで下さい:
・ズボン、シャツ、ジャケット、帽子が個別で注文される時に必要となる箱の大きさ
・必要な包装用紙のロール数
・ズボン、シャツ、ジャケット、帽子の年間売り上げに見合う包装用紙の費用 あなたの取り組みは次のような規準によって審査されます
数学的な精巧さ、数学的な方法と推論、取り組みの有効性、レポートの質、取り組みの正確さ
13
パフォーマンス評価が投げかける課題
¢ 学校学習の断片的で不自然な文脈の問い直し 「問題のための問題」を克服し、実際に生活や社会で直面するような状
況に即して問題場面を考える(「真正性(authenticity)」)。 =思考する必然性を生み出す。学びの意味を実感させる。 ↑課題自体の目的の実践性、学習者の役割、パフォーマンスの相手、シチュエーション、パ
フォーマンスにより生み出される作品を明確にする。 ¢ 「使える」レベルの認知プロセスの実践の保障 既有の知識・技能を総動員し、時には必要な情報を収集しながら、型にとらわ
れずに問題場面とじっくり対話する経験を組織する。 14
見方・考え方 (原理/方法論)
(例:原子論的見方:物質の変化に関わる諸
事象を原子や分子(粒子)のモデルと関連付
けて捉える)
に基づいて知識・技能を総合する
概念 方略(複合的プロセス) (例:化学変化)
(例:実験の計画・実行)
を理解している
事実 事実 (例:元素記号)
(例:化学式)
を記憶している
内容知(knowing that)
を適用できる
技能(個別的スキ
ル) 技能(個別的スキ
ル) (例:ガスバーナーの使
(例:実験ノートのまと
い方) を実行できる
め方)
方法知(knowing how)
「知の構造」を用いた教科内容の構造化
(出典:西岡加名恵・石井英真・川地亜弥子・北原琢也『教職実践演習ワークブック』ミネルヴァ書房、
2013年の西岡作成の図に筆者が加筆・修正した。)
15
オーストラリアの評価研究者サドラー(D. R. Sadler)による、
ドメイン準拠評価とスタンダード準拠評価の区別(目標準拠
評価の二つの形)
—  項目点検評価(domain-referenced assessment)
=断片的な個別の評価項目ごとに「できる/できない」を点検
する。
要素から全体への積み上げ的な学習、「正解」が存在する
—  水準判断評価(standard-referenced assessment)
=ひとまとまりの認識や行為の熟達化の程度を判断する。 素朴な全体から洗練された全体への螺旋的な学習、「最適解」
や「納得解」のみ存在する 16
表.行動目標に基づく評価とパフォーマンス評価の違い
行動目標に基づく評価
パフォーマンス評価
学力の質的レベ
ル
知識・技能の習得(事実的知識の
記憶/個別的スキルの実行) 機械的な作業 知識・技能の総合的な活用力の育
成(見方・考え方に基づいて概念や
プロセスを総合する) 思考を伴う実践 ブルームの目標
分類学のレベル
知識、理解、適用
分析・総合・評価
学習活動のタイ
プ
ドリルによる要素的学習(プログラ
ム学習志向) 要素から全体への積み上げとして
展開し、「正解」が存在するような
学習
ゲームによる全体論的学習(プロ
ジェクト学習志向) 素朴な全体から洗練された全体へと
螺旋的に展開し、「最適解」や「納得
解」のみ存在するような学習
評価基準の設定
の方法
個別の内容の習得の有無(知って
いるか知っていないか、できるかで
きないか)を点検する 習得目標・項目点検評価
理解の深さや能力の熟達化の程度
(どの程度の深さか、どの程度の上
手さか)を判断する 熟達目標・水準判断評価
学習観
行動主義
構成主義
17
パフォーマンス評価の例 (広島大学附属東雲中学校・神原一之先生の実践より)
18
18
数学的推論
数学的モデル化
3-­‐ よい
無駄なく、飛躍無く説明でき、
相似な2つの直角三角形をつく
答えを求めることができている。 り、必要な長さを記入できる。
2-­‐ 合格
答えを求めることができている
が、無駄や飛躍を一部含んで
いる。
必要な長さや角の大きさを測
定し、直角三角形をつくること
ができる。
1-­‐ もう少し
解を求めることができていない
必要な長さを測定できず、図が
かけない。
前のスライドの作品(パフォーマンス)は、「数学的推論」は2
で「数学的モデル化」は3と評価される。
19
質的な評価基準(ルーブリック)の必要性
—  客観テストのように達成・未達成(「知っている/知ってない」「
できた/できない」)の二分法では評価できないパフォーマン
スの質(熟達度)を評価する評価基準表。 —  実際の子どもの作品を解釈し、その質の違いに応じて3~5段
階程度にレベル分けし、それぞれのレベルの典型的な作品
事例と、そのレベルの特徴の記述を提示する。 20
算数・数学に関する一般的ルーブリック(「方略、推理、手続き」) (出典:h=p://www.exemplars.com/rubrics/math_rubric.html)
数学的問題解決の能力を、「場面理解」(問題場面を数学的に再構成できるかどうか)、「方略、
推理、手続き」(巧みに筋道立てて問題解決できるかどうか)、「コミュニケーション」(数学的表現
を用いてわかりやすく解法を説明できるかどうか)の三要素として取り出し、単元を超えて使って
いく。
熟 直接に解決に導く、とても効率的で洗練された方略を用いている。洗練された複雑な
達 推理を用いている。正しく問題を解決し、解決結果を検証するのに、手続きを正確に
者
応用している。解法を検証し、その合理性を評価している。数学的に妥当な意見と結
合を作りだしている。
一 問題の解決に導く方略を用いている。効果的な数学的推理を用いている。数学的手
人 続きが用いられている。すべての部分が正しく、正解に達している。
前
見 部分的に有効な方略を用いておるため、何とか解決に至るも、問題の十分な解決には
習 至らない。数学的推理をしたいくつかの証拠が見られる。数学的手続きを完全には実
い
行できていない。いくつかの部分は正しいが、正解には至らない。
初 方略や手続きを用いた証拠が見られない。もしくは、問題解決に役立たない方略を用
心 いている。数学的推理をした証拠が見られない。数学的手続きにおいて、あまりに多く
者 の間違いをしているため、問題は解決されていない。
21
「映画『独裁者』最後の演説部分を、内容がよく伝わるように工夫して群読して下さい。聴き
手はクラスメイトです。チャップリンは一人でこの演説をしていますが、みんなは6人で協力し
て演説の核心を表現できるように工夫して下さい。」という高校1年生の英語科のパフォーマ
ンス課題のルーブリック (京都府立園部高等学校・田中容子先生作成)
5
4
3
2
1
内容理
解・表
情・声・
アイコン
タクト
内容を理解して、
表情豊かにス
ピーチしている。
内容がしっかりと
聴き手の心に届
いている。
英語
協力度
内容を理解
して、表情豊
かにスピーチ
している。しっ
かり聞こえる
声である。
内容をほぼ理
解してスピーチ
していることが
感じられる。
棒読みであ いやいや読
る。
んでいるよう
に聞こえる。
子音の発音がす 子音の発音
べて英語らしく
がほぼ英語
できている。
らしくできて
いる。
子音の発音が
半分くらい英語
らしくできてい
る。
カタカナ読 子音の発音
みであるが に間違いが
正確である。 ある。
グループ内の一
員としておおい
に力を発揮して
いる。
グループ内の一 グループの 協力の姿勢
員として自分の 足を引っ
を示さない。
ところだけ頑張 張っている。
れている。
グループ内の
一員として力
を発揮してい
る。
22
京都大学の教職課程ポートフォリオのルーブリック
(出典:西岡加名恵・石井英真・北原琢也・川地亜弥子『教職実践演習ワークブック-ポートフォリオで教師力アップ』
ミネルヴァ書房、2013年。) 23
ルーブリックづくりの一般的手順
①試行としての課題を実行し多数の児童生徒の作品を集める。 (②あらかじめ数個の観点を用いて作品を採点することを採点者間で同
意しておく。) ③(それぞれの観点について)一つの作品を少なくとも3人が読み5点
満点程度で採点する。 ④次の採点者にわからぬよう付箋に点数を記して作品の裏に貼り付け
る。 ⑤全部の作品を検討し終わった後で全員が同じ点数をつけたものを
選び出す。 ⑥その作品を吟味しそれぞれの点数に見られる特徴を記述する。 ↓ 実際の子どもの作品とのすりあわせが重要(事例の蓄積と記述後の
再検討)。そして、教師間で観点や水準をすりあわせることで、評価の
24
信頼性(比較可能性)を高めていく(「モデレーション(moderation)」)。
評価を指導に生かすとはどういうことか? (出典:石井英真『今求められる学力と学びとは―コンピテンシー・ベースのカリキュラムの光と影』日本標準、
2015年。)
25
アプローチ 目的 準拠点 主な評価者 評価規準の位置づけ 学 習 の 評 価 成績認定、卒業、他 の 学 習 者 教師 採点基準 (妥当性、信頼性、
(assessment 進学などに関す や 、 学 校 ・
実行可能性を担保すべく、限
of learning) る判定(評定) 教 師 が 設 定
定的かつシンプルに考え
る。)
した目標 学 習 の た め 教師の教育活動 学 校 ・ 教 師 教師 実践指針 (同僚との間で指
導の長期的な見通しを共有で
の 評 価 に関する意思決 が 設 定 し た
きるよう、客観的な評価には
(assessment 定のための情報 目標 必ずしもこだわらず、指導上
for learning) 収集、それに基
の有効性や同僚との共有可能
づく指導改善 性を重視する。)
学 習 と し て 学習者による自 学 習 者 個 々 学習者 自己評価のものさし (学
習活動に内在する「善さ」
の 評 価 己の学習のモニ 人 が 設 定 し
(卓越性の判断規準)の中身
(assessment ターおよび、自 た 目 標 や、
を 、 教 師 と 学 習 者 が 共 有 し、
as learning) 己修正・自己調 学 校 ・ 教 師
双方の「鑑識眼」(見る目)
整(メタ認知) が 設 定 し た
を鍛える。)
目標 ※振り返りを促す前に、子どもが自分の学習の舵取りができる力を育てる上で何をあらかじめ共有す
25
べきかを考える。
実践の卓越性の規準としてのルーブリック
効果的なルーブリックは、子どもたちに自分たちの作品の、量的な
違いではなく、質的な違いを探求させるものである。 例) 「引用」という技能に関する評価は、引用や文献目録の数ではなく、引用の中身や論証上の
位置づけの妥当性によってなされるべきである。 子どもの学習への意識を、「数を求める」ゲーム(「Aを取るにはいく
つの引用が必要ですか?」)から、「質を求める」ゲーム(「この引用
は私の主張を証明するのに役立ちますか?」)に転換させ、「十分
優れているというレベルはどのくらいなのか?」と自問しながら、より
卓越したパフォーマンスに向けて自己評価していけるようにする。 26
参考文献
—  石井英真『今求められる学力と学びとは—―コンピテンシー・ベースのカリ
キュラムの光と影』日本標準、2015年。
—  石井英真『現代アメリカにおける学力形成論の展開—―スタンダードに基づく
カリキュラムの設計』東信堂、2011年。
—  田中耕治編著『パフォーマンス評価—―思考力・判断力・表現力を育む授業
づくり』ぎょうせい、2011年。
—  西岡加名恵・石井英真・北原琢也・川地亜弥子『教職実践演習ワークブッ
ク-ポートフォリオで教師力アップ』ミネルヴァ書房、2013年。
—  西岡加名恵・石井英真・田中耕治編『新しい教育評価入門』有斐閣、近刊。
—  松下佳代『パフォーマンス評価—―子どもの思考と表現を評価する—―』日本
標準、2007年。
—  松下佳代編『〈新しい能力〉は教育を変えるか』ミネルヴァ書房、2010年。
27