講義の要約はこちら

第 3 回コープのまなび場「霞ヶ浦と那珂川の水環境~停滞した湖沼と流れる川の違い~」
日時:平成27年7月7日(火)午前10:00~午後12:00
会場:いばらきコープ本部
講師:高村
会議室
義親氏(農学博士、茨城大学名誉教授、日本微生物生態学会名誉会員)
高村義親氏を招き「霞ヶ浦と那珂川の水環境~停滞した湖沼と流れる川の違い~」と題して、
「茨城県が
河川、湖沼に恵まれた水環境が豊かであること」と凍結されていた「霞ヶ浦導水事業が再開されることに
よる自然や水環境にもたらされる影響」についてご講演いただきました。その講演会の内容の要約を以下
のとおり総合企画室(事務局)が要約し掲載します。
1.涸沼の自然環境保全について(ラムサール条約に登録)
今年5月に那珂川水系の涸沼が国際的に重要な湿地保全を目指すラムサール条約(水鳥湿地保全条約)
に登録されました。涸沼は関東唯一の汽水湖でヨシ原が広がり、キンクロハジロ、シギといったたくさ
んの水鳥が飛来します。そこには、鳥を頂点とする食物連鎖が活発に育まれ、非常に恵まれた環境です。
大和しじみや絶滅危惧種に指定されている涸沼イトトンボがいることでも有名です。この涸沼を保全す
ることにより那珂川の保全にもつながることとなり、国としても①人類存続の基盤である生物の多様性
を将来にわたり確保する。②環境保全等に関する施策を総合的にかつ計画的に推進するものである。③
開発計画を立てる際に環境アセスメントを行うことを義務付けた、生物多様性基本法が2008年公布、
施行されています。この法律と合わせて生物多様性が確保されて生態系や環境保全が図られます。
2.那珂川と霞ヶ浦の水環境について(水質改善のための導水事業へ)
那珂川は栃木県那須岳山麓を源として、茨城県を抜け太平洋に注ぐ一級河川です。上流・渓流にはヤ
マメ(川中・魚卵類)、中流にはアユ(珪藻)、ハヤ・ヤマベ(藻類水草)、下流・湖・池には鯉・鮒(雑
食性・海老)といったように河川の水の栄養度(水質)によって生物相を変えています。このように水
環境は、流域特性により左右されます。那珂川流域は山林(森林)
;75%です。この特性によりミネラ
ル、酸素が供給されるため水がきれいなのです。一方で、霞ヶ浦はほとんどが平野部で山林;20%で
あり、豊富なミネラル、酸素の供給が少ないために水がきれいとは言いがたいのです。霞ヶ浦は、涸沼
のように、昔は湿地の多い汽水湖でしたが、生活用水や水害・塩害(農作物など)を防ぐためにダム化
し淡水化され、停滞されたことと合わせて生活用水等が流入し、1960年代~1970年代のアオコ
の大量発生による養殖コイの大量死に至りました。そこで、霞ヶ浦導水事業として、那珂川の水を霞ヶ
浦に流入することで湖水を希釈し、湖水の滞留時間を大幅に短縮し、アオコの発生を抑制し水質を浄化
する目的で進められることになります。しかしながら、那珂川の導水では、全窒素・アオコの栄養素で
ある硝酸態窒素、無機リン酸も霞ヶ浦より数値が高く、湖水を希釈されず、流入負荷の増大につながっ
てしまいますし、アオコ発生の起因の一つである湖水の滞留時間の短縮については、現在の滞留時間約
192日から約130日になるものの、環境省(平成19年)の指針では滞留時間が4日間以上の湖沼
でアオコが発生することからも、効果は得られず、関東一の清流である那珂川の生態系に深刻なダメー
ジを与える可能性が十分あると考えられます。
3.導水事業の代わる2つのシナリオについて(生物多様性喪失の危機)
この導水により、那珂川、涸沼のアユ、シジミ、サケが霞ヶ浦の微細藻類・外来生物(アオコ・カワ
ヒバリガイ・アメリカナマズ・オオクチバス)により生物多様性の喪失にもつながる可能性が十分ある
といえます。それに加えて、霞ヶ浦導水土浦取水口が霞ヶ浦流域下水道事務所(土浦市)付近に建設予
定であり、終末処理水放流口から新川に放流される霞ヶ浦流域下水道終末処理水によって、有機物(C
OD)、透明度、藻類、カビ臭によって汚染され、生物多様性基本法に示されている環境アセスメントが
何もされていないと考えられます。この終末処理水放流口から放流される放流水(COD)の浄化に取
り組むことが重要になります。そこで霞ヶ浦導水事業(建設費1,900億円
年間維持費数億円)に
代わる2つのシナリオが考えられます。1つ目は、不純物などを取り除く逆浸透膜純水装置によって、
安全でおいしい水(純水)が作られるように、逆浸透膜高度処理施設(建設費64億円
年間維持費6.
4億円)、2つ目は湖外放流するための施設((常陸利根川水門の外)建設費167億円
年間維持費0.
15億円)などによってCODの浄化に切り替えることです。
(国立環境研究所 特別研究報告書 今井章
雄ほか2007)
以上のことから、望ましい水環境への対策として以下の7項目があります。
1)霞ヶ浦導水、大規模浚渫をやめる
2)流域内排出源対策、流入付加削減
3)下水同終末処理水の逆新党膜高度処理
4)面源対策(特に、ハス田の循環灌漑、溢流対策)
5)常陸川逆水門の適正管理
6)湿地植生低帯の回復・平地林保全
7)生ゴミリサイクルの促進・ディスポザー使用禁止
文責;総合企画室(吉田)