ミャンマー短信 : 2015-№3 (1月下旬・2月上旬) FEB.15 小島正憲 1.少数民族との戦闘で、北東部シャン州コーカン地区に戒厳令 2/17、ミャンマー政府は、国軍と少数民族コーカン族の武装勢力との戦闘が続く北東部シャン州コーカン地区に戒 厳令を布告した。2011 年の民政移管後、戒厳令布告は初めて。9日からの戦闘で 70 人以上が死亡、住民3万人余り が国境を接する中国雲南省に避難しており、事態を重く受け止めた。政府は「戦闘拡大で行政が困難になった。元通り の状況を取り戻すため、戒厳令を布告する」と説明。同時にコーカン地区に 90 日間の非常事態を宣言した。コーカン 族は中国系で漢族の流れをくむとされる。同地区で一定の自治が認められているが、戒厳令により国軍が直接統治す ることになる。武装勢力は「ミャンマー民族民主同盟軍」と名乗り、コーカン族の支配強化を訴えて国軍を攻撃。これに対 し、テイン・セイン大統領はミャンマーの領土を譲ることは一切ないとしている。 《 過去の情報検証 》 2009年にもコーカン族軍と国軍の衝突があり、多くのコーカン族が難を逃れて、中国の雲南省に逃げ込んだ。私は 当時、中国側の難民キャンプ地に足を運んで、この情報を検証しておいた。この短信とともに、当時の検証報告を送信 しておく。つまり、ミャンマーの辺境地域(シャン・カチン・チン・ラカイン州など)では、まだ当時の紛争状況が解決してい ないということである。 2.少数民族と衝突で 2 0 人死亡、ミャンマー国軍 ミャンマー北部カチン州と東部シャン州で、2日から3日にかけて国軍と少数民族武装勢力の衝突が相次ぎ、少なくと も 20 人が死亡した。ミャンマー政府当局者が5日、明らかにした。テイン・セイン政権は、国内各地の少数民族武装勢 力と全土停戦に向けた協議を続けている。ただ、昨年9月から戦闘が散発的に起きており、さらに犠牲者が増えたことで 早期の和平達成は困難となりそうだ。当局者によると、カチン州ではカチン独立軍、シャン州ではタアン民族解放軍が 国軍と銃撃戦になり、少なくとも国軍側9人、武装勢力側 11 人が死亡した。支配地域をめぐる争いとみられる。 ASEAN・インド 3.シャン州でミャンマー国軍、武装勢力と戦闘、47人死亡 2/12、ミャンマー国軍は、北東部シャン州で9日から始まった少数民族コーカン族武装勢力との戦闘で国軍将兵47 人が死亡、73人が負傷したことを明らかにした。地元メディアによれば、戦闘が起きたのは中国雲南省との国境付近で、 9~12日の間に13回にわたり衝突。武装勢力側はシャン州コーカン地区の中心地ラオガイを奪取する計画だったとさ れ、国軍側は空爆などを実施し、これを防いだという。シャン州の地元政府は夜間外出禁止令を発令したが、ラオガイ の情勢は平常に戻ったという。コーカン地区では軍事政権下の2009年にも軍政側と武装勢力との間で武力衝突が発 生し、30人以上が死亡した。 4.軍と少数民族が再び戦闘、2 6 人死亡 2/14、同国東部シャン州の中国国境近くで、国軍と少数民族コーカン族の武装勢力の戦闘があり、武装勢力側で 26 人が死亡した。9日から 12 日にかけて起きた戦闘では国軍側で 47 人が死亡しており、緊迫した情勢が続いている。 コーカン族は中国系で漢族の流れをくむとされる。旧軍事政権と停戦合意し、シャン州北部のコーカン地区で一定の自 治が認められている。ただ同地区には国軍が常駐しており、武装勢力は中心の町ラウカイの実効支配を目指して攻撃 を仕掛けた。国軍は 14 日、ラウカイで掃討作戦を実施。武装勢力側に死者が出たほか、資金源とみられる麻薬や銃器 を押収したという。武装勢力は「ミャンマー民族民主同盟軍」と名乗り、別の少数民族武装勢力と共闘していると主張。コ ーカン地区では 2009 年にも戦闘が起き、中国側に多くの住民が避難した。 5.ミャンマーから中国雲南省へ、3万人流入 国軍と少数民族コーカン族の武装勢力の戦闘が続くミャンマー東部から、国境を接する中国雲南省臨滄市に延べ3 万人余りの住民が流入した。同市は避難した住民らに食料や薬などを提供しているという。雲南省政府は国境の警備を 強化。 6.シャン州の殺人事件、「責任なし」と国軍紙 東部シャン州カウン・カーで発生したボランティア女性教師2人に対する強姦殺人事件について、ミャンマー国軍が 保有するミャワディ紙が1月 29 日、国軍兵士が関与した可能性は「極めて低い」と結論付けたことに、カチン族の宗教 関係者らが反発している。被害者2人はカチン族の 20 歳と 21 歳の女性で、カチン・バプテスト連盟(KBC)のボランテ ィアをしていた。KBCは捜査が終了していない段階での断定的な記事掲載について「時期尚早で、公平な捜査に影響 を与えかねない」と非難した。 国軍紙は、中国国境に近いムセ郡の捜査当局の情報に基づいての報道としているものの、国軍の関与否定を裏付 ける具体的な証拠は示していない。事件は1月、東北地域部隊・第 503 歩兵連隊の兵士 40 人がカウン・カーに臨時基 地を設営した2日後に発生していた。KBCは1月 26 日、テイン・セイン大統領に公平な捜査を求める手紙を送付。大統 領は 28 日、「政府が問題を深刻に受け止めている」と回答し、内務相に早急な捜査を指示した。KBCの広報担当者は 「大統領の回答を歓迎する。政府内の反応を注視している」と述べた。国際社会もこの事件に注目しており、紛争下の性 的暴力担当国連事務総長特別代表を務めるザイナブ・ハワ・バングーラ氏は 27 日、ミャンマー政府に対し、公平で効 果的な捜査を行い、正義、遺族補償、加害者の説明責任を確実なものとするよう求めた。 7.カチン州緊張で、宝石採掘の操業停止相次ぐ ミャンマー国軍と少数民族武装勢力の緊張が続くミャンマー北部カチン州パカン郡区で、翡翠(ひすい)の採掘業者 が相次いで操業を停止している。パカン郡区では、国軍とカチン独立軍(KIA)の紛争を理由に 2012 年5月から宝石 の採掘が休止されていたが、昨年9月に政府が事業の再開を許可。その後、約 30 社が操業していた。今週に入り5社 が操業停止に踏み切った。同郡区ではかつて、7,000 以上の鉱画で 400 社余りが宝石の採掘を行っていた。 8.教育法反対で学生デモ拡大、政府は協議延期 ミャンマーの連邦議会で昨年9月に可決された国家教育法に学生らが抗議している問題で、アウン・ミン大統領府相 は、今月3日に首都ネピドーで開かれる予定だった国家教育法に関する話し合いが 12 日以降に延期されたと発表。 ネピドーの教育省に到着後、初めて延期を知らされた学生代表は、延期通告が一方的だと政府を批判した。学生らは、 教育法が学問の自由や大学の自治を脅かすとし、改正を求めている。ミャンマーでは先月 20 日、学生らが同法に抗議 し、マンダレーからヤンゴンまで約 700 キロメートルのデモ行進を始めた。27 日にマンダレー管区のタウンサで学生デ モ隊と警察がにらみ合いになったことを受け、ヤンゴン大学で今月1日、4者会議が開かれたが、こう着状態を打開でで きず、3日に再度話し合うことになっていた。延期発表後も学生のデモ行進は続いており、エーヤワディ(イラワジ)管区 パテインと南部タニンダーリ管区ダウェーの学生もヤンゴンを目指してデモ行進を始めた。 9.ロヒンギャへの投票権付与に抗議、憲法改正で ミャンマーの民族主義的な仏教僧や政治指導者は、憲法改正の是非を問う国民投票でイスラム教徒の少数民族ロヒン ギャに投票権を与えるという連邦議会の決定に抗議する大規模集会を開くと警告している。ミャンマーは仏教徒が多数 を占めるが、西部ラカイン州には 110 万人のロヒンギャが住む。何世代にわたって同地域に住んでいる場合でも、多く は不法移民とみなされている。市民権を全面的に認められているロヒンギャはわずかで、多くは「ホワイトカード」と呼ば れる暫定的な身分証しか持たない。 連邦議会は2月2日、国民投票法を承認し、ホワイトカード保持者が憲法改正を問う国民投票に参加できるようになっ た。憲法改正の国民投票の日程は未定だが、ホワイトカード保持者が今年末の総選挙でも投票権を得られる可能性が 大きくなった。ロヒンギャへの投票権付与をめぐって、民族主義的な僧侶や政治家らは決定を覆すため、抗議を行うと脅 している。ラカイン州の民族主義政党、アラカン民族党(ANP)は声明で「議会がどのような採決をしようとも、ANPはホ ワイトカード保持者に投票権が与えられないよう闘いを続ける」と述べた。国民投票法を覆すことを求め、議会の他のグ ループは憲法裁判所への提訴も計画しているという。 ロヒンギャの政治指導者タ・イエ氏は、こうした抗議団体を「人種差別主義政治家や極右主義者だ」と述べた。2010 年 の総選挙や軍政が主導した 08 年の憲法承認を問う国民投票では、ホワイトカード保持者は投票ができた。政府による と、インドや中国出身者を含む少数民族もホワイトカードを保持しているが、保持者の3分の2はロヒンギャという。 10.労働省、ヤンゴン縫製工場ストに法的措置も 労働省は、ヤンゴン北部のラインタヤ郡区でストライキを行っている縫製工場の労働者に対し、法的措置も辞さないと する意向を示した。同省のティン・アウン副大臣は、ストが行われている企業の労使交渉の席で、工場の封鎖やストに参 加していない労働者への妨害活動が許容範囲を逸脱していると非難した。ストを行う労働者は、賃上げなど労働条件の 改善を要求している。ラインタヤ郡区当局は、ストが当初の目標から外れ、地域の治安を脅かすようになっていると主張。 ティン・アウン副大臣は、労使交渉が決裂した場合は、違法行為を犯すのではなく、紛争解決仲裁評議会に持ち込むべ きだと述べている。このほかに労使交渉していた縫製2社は合意に達しているとされる。 11.縫製協会が行動規範、欧州輸出拡大に対応 ミャンマー縫製業者協会(MGMA)が、行動規範をまとめたことが分かった。コンプライアンス(法令順守)に厳しい欧 州などへの輸出拡大が見込まれる中、MGMAは業界の倫理基準を定める必要があると判断した。MGMAは欧州の 支援を受け、海外のアパレルメーカーなどとも協議しながら行動規範を策定、2日に公表した。今後、協会に加盟する 約 300 の縫製業者に、規範を守るよう指導していくとみられる。規範は、国際労働機関(ILO)の定める労働に関する基 準と、ミャンマーの関連法を融合する形で作成された。衣料品の製造はミャンマーの主要産業の一つで、雇用者数は 15 万~25 万人に上る。輸出額は 2013 年度実績で 10 億米ドル(約 1,172 億円)超に達し、総輸出額の約1割を占め ている。 12.チャウピュー開発、応札9 割が中国企業 ミャンマー西部ラカイン州のチャウピュー経済特区(SEZ)の開発業者を選定する入札で、応札している9割が中国系 企業であることが分かった。2月末に落札業者が決まるとみられる。応札した 12 社のうち 11 社が中国系企業、1社が国 内企業という。同特区の入札評価・選定委員会(BEAC)が、深海港と居住地区、工業団地の3地区の開発業者3社を選 定する予定だ。BEACのアウン・キョー・タン次官補は、「慎重に検討している」と述べるにとどめ、入札状況については 明らかにしていない。石油・ガス開発関連サービス会社パラミ・エナジー・グループ・オブ・カンパニーズのティン・チョー 顧問は、チャウピューSEZについて、「国内外の市場をつなぐ回廊と位置付けるべきだ」と述べ、「過去に中国企業が手 掛けた事業のように、ミャンマーが利益を得られず、資源を失いかねない」事態を避けるように忠告している。 2013 年9月に計画が発表されたチャウピューSEZは、政府が大きく支援しているティラワやダウェーのSEZよりも、事 業提携による開発になるとみられる。昨年6月に発表された基本計画によると、第1段階は 19 平方キロメートル、2億 2,700 万米ドル(約 273 億円)規模の開発となる。 13.フィンランドとミャンマー、教育や貿易で協力 2/17、ミャンマーのテイン・セイン大統領はネピドーで、同国を訪問中のフィンランドのエルッキ・トゥオミオヤ外相と 会談し、教育や貿易、投資、開発の各分野で協力することで合意した 14.最近の外資の進出状況 ・タイホテル大手デュシット、ミャンマーの住宅運営を受託 タイのホテル大手デュシット・インターナショナルは、ミャンマーの最大都市ヤンゴンとヤンゴン国際空港との間にある 住宅の運営を受託した。住宅は総戸数300戸で、スパとスポーツセンター、プールなど充実した施設が整っている。 2017年に開発工事が完了し、開業する予定。 ・マレーシアのOSK、通信サービス業に進出 マレーシアの通信サービス事業者OCKグループは、ミャンマーの同業のミャンマー・インテグレーテッド・ネットワー クス社と合弁会社「MIN-OCKインフラストラクチャー」を設立した。ミャンマーの通信サービス業界を成長市場とみ て、収益の多角化を図る。 ・王子HD、「ティラワ工業団地」に新工場建設 2/06、王子ホールディングス(HD)は、日本の官民が支援して開発中のミャンマー・ヤンゴン南部の経済特区「ティ ラワ工業団地」に100%出資の孫会社を設立し、段ボール加工を含む総合パッケージング事業を行う新工場を建設 すると発表した。王子HDは、マレーシアの子会社2社を通じ800万米ドル(約9億円)を投じて現地法人「Oji MyanmarPackaging Co.,Ltd.」を2月に設立。同工業団地内に敷地面積4万0081平方メートルの新工場を建設する。 営業開始は2016年4月の予定。 ・ノルウェー政府系、小口金融会社に出資 ノルウェー政府系の新興国投資基金ノルファンドは、ミャンマーのマイクロファイナンス(小口金融)機関ミャンマー・フ ァイナンス・インターナショナル(MFIL)の株式 25%を取得する見通しになった。 ・タイの車革シートC W T 、ミャンマー生産拡大 自動車用革シートなどを製造するタイのチャイワタナ・タナリー・グループ(CWT)は、ミャンマーで皮革製品の生産を 本格化させる。現在はミャンマー生産品を現地向けに供給しているが、生産を拡大させて輸出にも乗り出す。 ・タイの CWT、ミャンマーで天然ガス発電に参画目指す タイ上場の自動車部品メーカー、チャイワタナ・タネリー・グループ(CWT)のウィラポン、ミャンマーで天然ガス発電 事業に参画することを目指し、提携先と交渉を進めていることを明らかにした。プロジェクト総額は100億バーツ以上 で、出力約200メガワット規模の天然ガス発電所を建設する。CWTとタイ国内の事業者は売電許可証を持つミャンマ ー企業と共同で投資する。 ・英のビール大手、ミャンマービールに出資も 英ビール大手SABミラーが、ミャンマーのビール市場でシェアトップの「ミャンマービール」を生産、販売するミャンマ ー・ブルワリー(MBL)への出資を検討しているもようだ。SABミラー以外にも、同社への出資には複数の外資ビー ル会社が関心を示しているという。 ・シンガポールのローズリー、ヤンゴン複合施設開発に参画 シンガポールの富豪ピーター・リム氏が率いる投資会社ローズリーは、ベトナムの不動産大手ホアンアイン・ザーライ (HAGL)がヤンゴンで手掛ける複合施設「HAGLミャンマーセンター」の開発に参画することで合意したと発表した。 総事業費5億5,000 万米ドル(約653 億円)の半額を負担する。この複合施設は、高級住宅街が立ち並ぶインヤ―湖 近くに位置する物件。約7万 3,000 平方メートルの敷地に5つ星ホテルやオフィス、ショッピングモールなどが設置さ れることになっており、2018 年の完成を目指して建設工事が急ピッチで進んでいる。建物の延べ床面積は64万平方 メートルに上る。 ・大雄会、ヤンゴンに初の日本人医師常駐診療所 医療法人の大雄会(愛知県一宮市)はこのほど、ミャンマーに診療施設を開設すると発表した。現地企業と合弁で、年 内にヤンゴンの大手病院内に設置し、日本人医師を常駐させ在留邦人や日本人観光客らを診療する。医療搬送を手 掛ける国際企業と提携し、患者を国外搬送できる環境も整える。 以上
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