論 文 内 容 の 要 旨 論文提出者氏名 原 佑 輔 論 文 題 目 Diffusion tensor imaging assesses triceps surae dysfunction after Achilles tenotomy in rats. 論文内容の要旨 アキレス腱断裂は,日常診療で遭遇する頻度の高い外傷であるが,下腿三頭筋の機能低下が 問題となる.骨格筋の機能評価には徒手筋力検査や機器による筋力測定が用いられる.しかし 受傷後急性期に筋力測定を行うと腱の修復に影響を与えるため,骨格筋の形態を観察して機能 を定量的に評価できる画像法が必要とされている.一方,磁気共鳴画像法の中で拡散テンソル 法(diffusion tensor imaging: DTI と略)は,水分子の拡散異方性を定量的に解析することができ る撮像法で,組織の配向性評価に有用である.DTI は病理学的変化に伴う異方性の乱れを非侵 襲的に画像化できるため,異方性の高い線維性の組織である中枢神経領域で応用されてきた. 筋組織も高い異方性を有していることから,近年筋組織における微小内部構造の変化や病態の 評価にも利用されている.骨格筋機能は筋組織の微小内部構造に依存するため,DTI を用いれ ば骨格筋機能を解明できると考えた.本研究の目的は,DTI でアキレス腱断裂後に生じた下腿 三頭筋における異方性の変化を検討し,DTI と骨格筋の構造変化および DTI と骨格筋機能との 関連を解明することである. 実験動物は 12 週齢の雄性 Sprague-Dawley ラットとした. 下腿三頭筋機能不全モデルとして, アキレス腱切腱術を右後肢に施行した.左後肢をコントロールとした.高磁場磁気共鳴装置 (7.04T)を用いて切腱術前,切腱術後 2 週および 4 週に下腿三頭筋のプロトン密度強調画像 および拡散テンソル画像を撮像した.プロトン密度強調画像の横断像で下腿三頭筋筋腹を同定 し,関心領域に設定した.関心領域の DTI パラメータであるλ1,λ2,λ3 および fractional anisotropy を DTI で得られた画像から算出した.組織学的検討として,切腱術後 4 週に下腿三 頭筋筋腹の凍結切片を作製し,ヘマトキシリン・エオジン染色とアザン染色を行った.下腿三 頭筋機能評価として,切腱術後 2 週および 4 週に足関節底屈力を測定した.表面刺激電極を下 腿後面に設置し,電気刺激を与えた.足底にデジタルフォースゲージを設置し,底屈力を測定 した.下腿三頭筋形態評価のために,切腱術後 2 週および 4 週に下腿三頭筋の筋腹長軸長,前 後径および横径を計測した.前後径と横径から横断面積を算出した.DTI パラメータ,機能測 定結果および形態計測結果を経時的に解析した.DTI パラメータと底屈筋力,筋腹長軸長およ び横断面積の経時的変化を統計学的に比較検討した. DTI パラメータの経時的な変化で,λ1 はアキレス腱切腱術後 2 週および 4 週で低下し (P<0.01),λ2 およびλ3 は切腱術後 4 週で低下した(P<0.01).切腱術後 4 週に fractional anisotropy は増加した(P<0.01) .組織学的所見で,筋束の境界は不明瞭となり筋束間は開大し ていたが,筋周膜外に結合組織の増生はみられなかった.切腱術後 2 週以降,足関節底屈力は 患側で低下し(P<0.01) ,下腿三頭筋腹長軸長は患側で短縮し(P<0.01) ,横断面積は減少した (P <0.01) .DTI パラメータと運動機能の関連においては,λ1 と底屈力の間に強い正の相関を 認めた(R=0.89,P<0.01) .DTI パラメータと形態計測結果との間で,λ1 と下腿三頭筋腹長軸 長が相関した(R=0.81,P<0.01) . 実験動物において,アキレス腱切腱術後に下腿三頭筋の筋萎縮がみられるが,筋腹長軸長の 変化は明らかにされていない.骨格筋組織の DTI では,λ1 は筋線維に対して水平方向の異方 性を,λ2 およびλ3 は垂直方向の異方性を示している.本研究で,切腱術後に筋萎縮の所見に 加え,腱の伸長および筋腹長軸長の短縮を確認した.DTI パラメータの中でλ1 と骨格筋機能 が強く相関し,λ1 は筋腹長軸長の変化とも相関していた.λ1 の低下は下腿三頭筋腹長軸長の 短縮による異方性の低下を示し,異方性の低下がアキレス腱切腱後に生じる骨格筋機能低下の 主要素であると考えた.筋機能不全において,λ1 は骨格筋機能を定量的に評価できるパラメ ータであることが明らかになった.DTI は骨格筋機能評価の指標となる可能性を示した. 本研究は,アキレス腱切腱後のラット下腿三頭筋機能が DTI パラメータと相関することを示 した.DTI はアキレス腱切腱後の下腿三頭筋機能不全に対して有用であり,骨格筋機能評価に おいて臨床応用できる可能性がある.
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