化学 II 農学部応用生物化学科 1年次 前期 シラバス 化学は、物質の4つの特徴、結合、反応、構造、性質(機能、物性)を扱う学問であ る。この教科書は、化学を始めるにあたり最も基礎となる、元素の成り立ち、原子 と電子、分子の構成と結合を説明する。 1 章は 化学の目的と歴史で、 「人類の誕生とともに化学は誕生した。生活に不可 欠な食品・材料・薬の開発、精神生活を豊にする芸術・美術における色材、情報伝 達材料 etc. などとノーベル化学賞受賞者の業績の相関は? を紹介する。」 後半に多くの偉大な化学者・物理学者が現れる。彼らの業績を紹介する。大学1 年生にとってなじみの無い重要用語(太字で示す)が頻繁に現れるが、理化学辞典 で調べつつ読了(ななめ読みで良い)することを薦める。中世までの各論的な化学 の進展が、錬金術時代を過ぎ、17 世紀頃より系統化がみられ、知識が蓄積され、化 学の根源である電子、原子の解明が 19 世紀の後半から 20 世紀初めに進んだ。19 世紀の初期まで、化学は錬金術と神学の尾を引きながら牧歌的な進展を示すが、産 業革命が化学にムチを入れ、19 世紀後半、20 世紀の化学は、物理学、生物学、地 学、医学など周辺学問を巻き込み、無節操な拡大を示し、人類社会に貢献する部分 や、人類社会に離反する面を併合しつつ、展開した。 2 章-5章は、「2章 電子・原子、原子構造」、「3章 電子の配置と周期律」、 「4章 原子構造と量子化学」、「5章 化学結合とは」と化学の最も基礎の部分を 扱う。 「2章 化学では、物質を→分子→原子→電子+陽子+中性子に分解するプロセ スの逆をたどって新規分子・物質を作成し、新規反応を見出す。電子・原子・原子 構造・電子配置は化学の出発点であり、それを解説する。」 「3章 原子の性質は周期性を持つ。その周期性を用いてメンデレーフは元素周 期表を作成した。その背景と展開を解説する。原子の第一イオン化エネルギー、電 子親和力を説明する。原子の化学的性質は原子核を取り巻く電子の配置によって変 化することを学習する。」 「4章 原子構造・電子配置は、1930 年代の量子化学の発展により理解され、そ の後の化学は量子化学を駆動力として飛躍する。量子とは? 量子化学とは? を 概説する。電子軌道(s 軌道、p 軌道、d 軌道)を紹介する。」 「5章 本章以降は、結合と構造を主題とする。結合の種類により物質の性質が 支配され、また、結合の形成・交替・切断が反応である。結合をうまく組み合わせ 1 ると新奇な構造・反応・機能を持つ物質の開発ができる。」 原子構造、周期表、粒子と波動を記しているが、粒子と波動の詳しい内容は高学 年の授業に相当する。ここでは、高校では習っていない量子論を勉強する。20 世紀 の科学(化学・物理)の急展開は量子が鍵となっている。物質の性質(機能、物性) は、分子内や分子間の結合、結合形態、また構造(分子構造、結晶構造)などに大 きく依存する。また、化学薬品・医薬品・農薬などはその物質がおかれた環境や生 体内物質との反応で、大きな変化を示す。従って、 「機能と結合」や「機能と構造」、 「機能と反応」の間に見出される関係を、定式化するとか図形化することは、機能 を更に優れたものとしたり、更に新しい機能物質を開発したり、また例外を見出し て新しい機能領域を開発するための出発点である。原子、分子、イオン間の相互作 用や結合の種類と内容が、物質の性質を決定する。例えば、固体を大きく4つ(イ オン結晶、ファンデルワールス結晶、共有結合結晶、金属)に分類することが行われ る。これらを、おのおの6―7章、8-11章、12-13章、14章で記述する。 6章 「イオン結合とイオン結晶」・・ 「原子同士の結合は,結合に関与する電子 殻および電気陰性度によって数種類に分類でき,それぞれに固有の特徴があること を理解する。ここでは、異種原子や分子間で電子の授受が起き、その結果生じた陽 イオンと陰イオンが形成する結合(イオン結合)と、典型的イオン結晶を紹介する。 」 7章「イオン結晶の構造」・・「典型的なイオン結晶の構造を紹介する。 」 イオン結晶は正・負の原子イオンや分子イオンから構成され、高融点、絶縁性で あり、水に易溶な、イオン伝導を示す。無機材料がこれまでの主体であったが、有 機物に拡張すると、低融点、高導電性、水・有機溶媒に易溶などと、機能の大幅な 拡張が可能となる。特に、融点に関係する物質パラメータを操ると液体のイオン性 物質も得られる。 8章 「ファンデルワールス結合とファンデルワールス結晶」 ・・ 「異種原子間ま たは分子間で電子の授受が生じなくとも、原子(分子)間に引力(ファンデルワー ルス結合)が働き液体・固体となる物質がある(液体水素、液体酸素、液体ヘリウ ム、固体炭酸ガス(ドライアイス)、固体ヨウ素、etc.)。その引力の起因、ファン デルワールス結晶、ファンデルワールス原子半径を解説する。 」 ファンデルワールス(分子性)結晶は、手で分子間結合を破壊できるほど柔らか な物質で、原子や分子間の相互作用が弱く、融点が低く、絶縁性に富み、様々な構 造機能材料(液晶、ガラス、ミセル、石鹸、生体膜・組織)が開発されている。 9章 「気体・液体・固体」 ・・ 「物質の三態と原子(分子)の運動や原子(分子) 間の引力との関係を理解する。融解、蒸発、昇華、理想気体(分子間力をゼロと仮 定した気体)における基礎法則を復習する。」 2 10章 「水素結合」 ・・ 「弱い分子間力である水素結合は生体機能、機能性色素・ 電子材料に幅広く重要な働きをなしている。また、ここでは水素原子(H●)やプロ トン(H+)のほか、ヒドリド(H‒)を紹介する。 水素結合を持つ物質では、分子性結合、イオン結合、共有結合が複合的に働いて いる。 11章「酸と塩基」・・・ 「酸と塩基は化学における偉大なコンセプトの一つであ る。幾つかの「酸・塩基」の定義が提案されており、ここでは, ブレーンシュテッ ド・ローリー、ルイス、ピアソンの酸・塩基の定義と応用を学習する。 」 12章 「共有結合と混成軌道」 ・・「電子の性質を学習し,電子の軌道が方向性 を持つことで化学結合に方向性が生まれることを理解する。分子の形状が,混成軌 道の方向性によってほぼ決定され,その混成のしかたによって様々な分子物性が表 れることを学習する。」 13章 「共有結合材料」・・「炭素を用いて、メタン、ベンゼン、黒鉛、ダイア モンドなど旧知の物質のほかに、ポリアセチレン、フラーレン、カーボンナノチュ ーブ、グラフェンなど新規な先端材料が開発されている。それらの紹介と、電子の 軌道の方向性、共有結合、材料の性質がどのようにして生じるのかを概説する。 」 結晶では、各成分原子や分子から一つずつ出た二個の電子が一つの結合軌道を形 成して固体を作る。成分原子や分子間の電子対結合は方向性が強く、融点は高く、 堅固なのが特徴である。光や電場で特徴的な優れた機能を示すシリコン半導体、 IIIV 族半導体などの一大分野(エレクトロニクスなど)が基礎応用で進められている。 14章 「金属結合」・・金属結合の特性と金属物質の性質を概説する。 電子が結晶の中を動きやすい状態にあり、金属の種類によって柔らかさや融点に 大きな幅がある。Bi や Te のような半金属は金属と共有結合結晶の中間である。 1 年生の授業に即したテキストは、私の研究室 HP に掲載する(現在掲載されて いるのは高学年用教科書、ppは昨年度一年生に用いたもの)。 (http://saitolab.meijo-u.ac.jp/index.html) 3 略歴 生年月日 現住所 昭和 20 年 3 月 10 日、 京都市北区西賀茂 北海道 小樽市 昭和 38 年 4 月 北海道大学 入学 昭和 42 年 3 月 北海道大学 理学部卒業 (理学士) 昭和 44 年 3 月 北海道大学 理学研究科 修士卒業 (理学修士) 昭和 47 年 3 月 北海道大学 理学研究科 博士課程修了 (理学博士) 昭和 48 年 1 月-昭和 49 年 12 月 Chemistry, Emory University, Atlanta, Georgia, U.S.A. 昭和 50 年 1 月-昭和 51 年 12 月 Chemistry, University of Guelph, Guelph, Ontario, Canada 昭和 52 年 1 月-昭和 54 年 4 月 Chemistry, University of Texas at Dallas, Richardson, Texas, U.S.A 昭和 54 年5月 岡崎国立共同研究機構 分子科学研究所 助手 昭和 59 年2月 東京大学 物性研究所 助教授 平成元年 9 月 京都大学 理学部化学科 教授 平成 7 年 4 月-平成 20 年 3 月 京都大学大学院理学研究科 教授 平成 18 年 4 月-平成 20 年 3 月 京都大学 低温物質科学研究センター センター長 平成 20 年 4 月名城大学 総合研究所 教授、 京都大学 名誉教授 平成 24 年 4 月名城大学 農学部 教授 客員教授 平成 10, 14, 15, 17, 18, 19, 21 年 フランス RennesⅠ大学 研究分野:有機物性化学、有機導電体・超伝導体の化学、機能性有機材料の開発 著書: 化学・物理ジャーナル 英文原著・総説 835 編、邦文解説・総説 77 編 教科書 1 "Organic Superconductors 2nd Edition", T.Ishiguro, K.Yamaji, G.Saito, Springer, pp1-522 2 3 4 (1998) ”有機導電体の化学 -半導体、金属、超伝導体-”、斎藤軍治、丸善(2003) “有機物性化学の基礎”、齋藤軍治、㈱化学同人(2006) “分子エレクトロニクスの話” 齋藤軍治 編著 ㈱化学同人(2008). 賞 昭和 63 年 昭和 63 年 平成 3 年 平成 16 年 平成 17 年 平成 20 年 平成 21 年 第 4 回 井上学術賞 第 34 回 仁科記念賞 日本表面科学論文賞 日本化学会賞 日本化学会論文賞 日本化学会論文賞 紫綬褒章 4
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