覚えておきたい、 介護のちょ っとしたコツ !

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ょ
ち
の
護
介
症例
医療法人明和病院
訪問看護センター明和
中島 淳美先生
A氏:80歳代、女性、
アルツハイマー型認知症、要介護4
■経 過 約7年前より不眠症、不安神経症にて神経内科受診。
60歳代の長女夫婦と1戸建て同居。
H23年腰椎圧迫骨折にて入院加療。
退院後不定愁訴強く、家族に依存的となり訪問看護開始となる。
■日常生活自立度 認知症の状況Ⅲb、寝たきり度B2
週1回デイサービス利用。訪問看護週1回、状態観察と入浴介助を行う。
私の財布盗まれたのよ!
ある日訪問に行くと、A氏は娘に対してとても怒っている。
訪問の帰り際A氏のいないところで、娘は「私は悔しい。
こんなにお世話している私が疑われるのが本当に悔し
い。」
と涙を流しながら看護師に訴えた。
A氏:
「看護婦さん、娘が私の財布を盗んだのよ。そんな子
に育てた覚えがないのに!あー情けない。情けない。」
娘:
「お母さん、私が盗むわけないやん!いい加減にして。
思う妄想である。身の回りの世話をしている身近な人を犯人
またどこかに隠して分からんようになったんやろ。」
にすることが多い。本人以外が見つけた時は、必ず本人に見
娘もまたすごく怒った様子で答えていた。探すこと約
つけてもらうことを行う。例えば、
「あっちの方探して。私はこっ
3分。
ちの方を探すから」
と明らかに分かりやすい所に置き
(何もな
娘:
「見てみ、押し入れの布団の間に入れてるやん。ほ
いテーブルの上など)本人が発見することを誘導する。
ら。」
と財布をA氏の足元に投げた。A氏:財布を拾
本症例でも、なくしたものを繰り返しA氏本人が見つけて
い上げ中身を確認しながら、
「看護婦さんみてみ、娘
いくうちに、A氏が娘を泥棒と呼ぶことはなくなった。
が盗んだから、言うたら出したやろ。」
と娘を睨んだ。
他にも同様に療養者から泥棒と言われ悩んでいたヘル
娘:
「はー、探してもらって何それ」
と更にイライラした様
パーがいたが、
この方法を実践することで良好な関係が再
子でその場を立ち去った。
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認知症の『物とられ妄想』は、自分の物を他人にとられたと
構築できている。
トイレでおむつを流す
表1 認知症における基本姿勢とコミュニケーション技法
娘:
「母が尿取りパットをトイレに流してしまうんです。
ト
イレが詰まると業者を呼んで約1万円の修理が必要
返すのではないかと不安なんです。」
基本姿勢
となって大変。1度ならず2度ともなると、今後も繰り
他の療養者の家族からもこのような相談を受ける。解決
策のひとつとして、
トイレにごみ箱の設置を促している。分か
りやすい視覚的な工夫は、認知能力を高め行動につなげる
ことができる。
A氏には汚物入れの小さいものではなくバケツ大のごみ
箱を用意してもらい『ごみ』
と大きめに表示した。汚染した
尿パットはこのごみ箱に捨てられるようになり、その後業者
話しかけると不機嫌になる
娘:
「最近、私が話かけると、だんだん不機嫌になってい
くことが多いのです。」
娘はA氏の脳のトレーニングをしようと考えたが、話かけ
ていた内容は質問だった。
娘:
「今日は何月何日?」
「私の名前は?」
「孫の名前は?」
A氏が答えられないとA氏も娘もお互い不安になり、
A氏は次第に不機嫌になっていった。
コミュニケーション技法
を呼ぶことはなかった。
・ 人生の先輩として敬意をもつこと
・ 自信・プライドを持ってもらう(自信を踏みにじるような態度をとらない)
・「自分は何かの役に立っている」という気持ちを大切にする
・ 常にあいさつ、声かけをする
・ 笑顔を忘れない
・ 相手の目をみる
・ 自分の価値観で判断しない
・ 相手を批判せずそのまま受容する
・ 相手に関心を示しているという姿勢をとる
・ 動き、言葉、声のトーンを相手のペースに合わせる
・ 相手の気持ちを大切にする
・ 秘密や約束を守る
・ 相手の言葉を辛抱強く待つ
…相手が黙っているからといって自分からぺらぺら話さない
・ 相手の話に共感しながらよく耳を傾ける
…うなずいたり、返事をしたり、言葉を促したり、一生懸命聞く姿勢をとる
・ 相手が間違ったことを語ってもすぐに訂正しない
…相手の言葉を受け入れながら、ゆっくり納得してもらう
・ 相手の話をさえぎらない
…相手の話を打ち切る必要があるときは、その理由を説明して、
「この続きは次の楽しみにします」など、相手の気持ちを害さない
ようにして止める
・ 話したくないことはムリに聞かない
・ 安易に慰めの言葉をかけない
・ 簡単で短く、わかりやすい言葉を使う
…難しい言葉は、短い言葉に言い換える
・ はっきり言葉を句切って話す
・ 言葉だけではなく全身でコミュニケーションする
…相手の気持ちに添う声のトーン、しぐさなどを工夫するほか、歌、絵
などさまざまな手段を使って「共感」を表現する
・ 大きな声を出さない
…相手の耳が遠くても、なるべく大きな声を出さない。どうすればよく
聞こえるのか、声のトーン、話しかける方向、言葉づかいなど、話しか
け方を工夫する
長谷川和夫著、よくわかる認知症の教科書、朝日新聞出版、2013、P89より
時間や場所、人が理解できなくなる見当識障害には「今
日は何月何日だよ。」
と、
こちらから答えを出し現実を強化し
ション技法には認知症ならではのコツがある
(表1)。
ていく現実見当識訓練(Reality Orientation)が有効であ
認知症になっても、脳の全ての機能が失われるわけでな
る。例えば季節の花を見ながら、
「桜が咲きましたね。春です
く、進行しても残りやすく障害されにくい機能がたくさんあ
ね。」
とさりげなく現実に導くよう促す。
る。
『なにができないのか』
ということ以上に『なにができる
見当識障害によりA氏は時々作話がみられていた。
それに
のか』を考え、
『できることを生かす援助の方法』を見つけて
対し、娘には強く否定するのではなく、
そこで表現されている
いくことが大切である。
また、認知症の各症状への対処方法
感情に理解を示すことを心がけていただいた。A氏の不機嫌
は個別に違いがあり、その方の認知症を正しく理解して、効
な時間は少しずつ減少し、以前はデイケアの日以外は1日中
果のあった方法を共有しケアに活かすことが重要である。
自宅のベッドでテレビを見て過ごしていたが、今は野菜を
家族介護者は孤独になりがちで鬱になる方もいる。認知
切る簡単な調理も見守りでできるようになり、時折笑顔も見
症ケアは決して一人ではできない。認知症は『介護の病気』
られ、娘と一緒に近所を散歩することもある。
と言われるように、療養者と家族が長くつきあっていく疾患で
認知症を理解する
あり、医療者、介護者、家族、
ケアマネジャーなど、多くの連携
が必要である。
認知症ケアは認知症療養者の心の声を聴き信頼関係を
認知症の入院患者が増え続けている現在、今後病棟看護
築くことが基本である。そのための基本姿勢とコミュニケー
師と訪問看護師との連携も一層深めていきたい。
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