大企業が少ない地方圏には 産業の大きな転換が必要

 2000年代の初めに、大企業が増益傾向を示したことから日本経済は回復に転
じたといわれたが、実はそれは「増収増益」ではなく「減収増益」。市場が膨
らんだわけではないのに利益を増やすというのはどこかに無理がある。その無
理の中に、下請け中小企業の整理や取引の縮小がある。こうして大企業は非効
率な部分を改善し回復したが、中小企業はそのあおりを受けていまだに低迷が
続いている状況にある。
市場は縮小したが、大企業はいち早く対応して回復。いわば大企業が「一人
勝ち」している状態で、多くの中小企業は小さくなった市場を分け合いながら
生き残ろうとしている。日本の場合、大企業は3大都市圏に集中し、地方には
中小企業が集積している。このため都市と地方の格差を主とする地域格差が広
がっているのだ。また、地方中小企業の業績の低迷は、雇用や賃金のカットに
つながり、所得の面でも地域格差が生じている、という悪循環に陥っているの
が現状だ。
大企業が少ない地方圏には
産業の大きな転換が必要
5年ほど前に、地域格差について産業特性の観点から分析したことがある。
※1
当時は「失われた10年」から脱して、緩やかな景気回復期にあるとされてい
た時期だったが、回復の状況について地域による差が大きかったことから、そ
の要因を考察したものだ。
このときの分析でも、大企業が多く立地する3大都市圏の回復スピードが速
く、中小企業が中心のいわゆる地方圏とは差があるという結果が見られた。
※1 「失われた10年」 ある国や地域の経済が10年以上の長期に
わたって不況と停滞に襲われた時代を指す言
葉。日本ではバブル景気崩壊後の1990年代
前半から2000年代前半にかけての景気低迷
の時代を指す。最近ではその後の10年も経
済の停滞が続いていることから「失われた
20年」という言葉が登場している。
さらに地方圏の中でも、輸出が好調だったITや自動車分野などに関連する
製造業を有する地域は回復傾向にあり、そうした製造業に乏しい地域は回復が
遅れていた。前者は北陸、中国、九州・沖縄であり、後者は、北海道、東北、
四国の各地域である。
この6つの地域はいずれも、農林水産業や建設業の依存度が高く、製造業の
比率が低いという、似通った産業構造を持っている。農林水産業は安定的では
あっても地域経済を牽引するだけの力はなく、全国的に建設需要も公共事業も
縮小する中で、地方の建設業は苦境に立たされている。また各地に製造業の集
積はあるが、それが食品やパルプ・製紙などの付加価値性が高くない分野か、
輸出関連分野の集積かどうかで回復に差が生じていたのである。(図2)
北陸の場合には、化学工業、一般機械、電子部品・デバイス等の、輸出関連
で付加価値性の高い製造業の集積があり、これが緩やかではあるが地域経済の
回復を牽引していた。もちろんその陰には、正規雇用、非正規雇用を問わずに
社員を減らすなど、極限までのコスト削減努力があったことはいうまでもない。
※2
しかし2007年のサブプライムローン問題に端を発する、世界的な金融危機の
発生とともに、日本経済は再び低迷を始め、地方は大きな逆風に直面している。
特に、韓国や台湾、中国との競合が激化するITや自動車などの輸出関連産
業の先行きが不透明になる中で、北陸も新たな産業構造への方向転換が求めら
※2 サブプライムローン問題 アメリカでは、優遇金利(プライム金利)
が適用されるような優良客(プライム層)に
対して、それよりも下位の層を「サブプライ
ム 層 」 と 呼 ぶ。 人 口 増 な ど を 背 景 と す る
1990年代の「住宅ブーム(バブル)
」に伴い、
購入する住宅を担保にした低所得者(サブプ
ライム層)向けのローン商品(サブプライム
ローン)が大量に販売。また関連する金融商
品も世界中で販売された。
こうした中2006年頃から住宅価格が低下
を始めローンの延滞者が急増。これに伴い関
連金融商品の信用が急落し、市場で投げ売ら
れ た こ と で、 世 界 的 な 金 融 危 機 が 発 生。
2008年リーマンブラザーズの倒産(リーマ
ンショック)など世界経済に大きなダメージ
を与えた。
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