苦痛の少ない内視鏡検査の確立に向けた検討

主観的および客観的評価に基づく、苦痛の少ない内視鏡検査の確立に向けた検討
千葉大学医学部附属病院消化器内科 横須賀 收
1)目的
胃がん、大腸がん検診の問題点として、一次検診で異常が指摘された場合、二次精密検査を
受診しない例も多いこともあげられる。これは、上部・下部内視鏡検査が不安・苦痛を伴う事
も大きな要因の一つである。そのため内視鏡検査に伴う苦痛軽减に関する工夫は、今後の胃が
ん・大腸がん検診の受診率の向上、またその有効性を高める上で極めて重要と考えられる。本
研究の目的は、より苦痛の少ない内視鏡検査手法を確立することである。この結果は、がん検
診に対する抵抗感を低下させ、受診率の向上を期待するものである。
2)内容
(1)これまでの報告に基づき作成したアンケートを、被験者、術者の両者に、内視鏡検査終
了後に実施した。また、痛覚定量分析装置を用いて、検査に伴う痛みを客観的に評価した。
(2)
千葉大学医学部附属病院消化器内科、ちば県民保健予防財団において、内視鏡の苦痛緩和に役
立つ設備、装置を統一化した。前述のアンケートについても、両施設の内視鏡医が事前に内容
の検討を行った。
(3)被験者を、送水法と従来の挿入法(以下、送気法)の 2 群にランダムに
分け、検査終了後のアンケート調査を基に、両群の差異を検討した。
3)成果
炎症性腸疾患、緊急内視鏡検査を除外した大腸内視鏡検査の中から 46 例を送気法群(以下 A
群)
、送水法群(以下 W 群)にランダムに割付した。検査終了後に術者、患者にアンケート調
査をし、各項目について比較検討した。患者背景は、A 群、W 群それぞれ 23 例で、男女比、
年齢、身長、体重、腹囲において、両群に有意差は認めなかった。大腸内視鏡の盲腸までの平
均到達時間は、A 群:12.0 分、W 群:9.9 分であり W 群で有意に短かった(P=0.043)
。盲腸
から肛門までの平均抜去時間は A 群:12.9 分、B 群:12.1 分であり両群に有意差を認めなかっ
た。患者アンケートにおいて 10 を最大値とした 0 から 10 の 11 段階評価で、内視鏡挿入中/観
察中/帰宅時の苦痛の平均スコアは A 群:3.9/3.5/2.2、W 群 3.9/3.5/2.9 であり両群に有意差を
認めなかった。送気法と送水法に難易度の差はなく、送水法の方が盲腸へより短い時間で到達
可能な検査法であることが明らかになった。患者の苦痛に関しては前回検査と比較すると送水
法がより苦痛が少ない傾向にあったが、有意差は示せなかった。挿入中、観察中の苦痛のスコ
アも両者で有意差はなかった。客観的評価に基づいて、異なる大腸内視鏡挿入法の差異を検討
した。これらの結果が、より苦痛の少ない内視鏡検査の施行につながることが期待される。