タイトル:内径加工用工具による内部給油事例

タ イ ト ル : 内 径 加 工 用 工具 に よ る 内 部 給 油 事 例
『STICK DUO SPLASH』
日本特殊陶業株式会社
北川
修介
1.は じ め に
NC 旋 盤 に よる 部 品 加 工 は 、品 質 、コ ス ト 、納 期 が
重要視され、さまざまな加工改善が行われている。
しかし、現実は切りくずが製品や工具に絡まれば機
械を停止させ、稼働率の低下、切りくず傷による製
品不良などが発生する。そのため、安定生産には切
りくず処理が重要な要素となる。その中でも、内径
中グリ加工は、切りくず排出スペースが狭くなるた
め、切りくず処理や加工面品位の低下が問題となり
写真 1
従来の切削油の供給方法
やすい。
これらの問題を解決するため、穴の内部へ直接切
削 油 を 供 給 す る 内 部 給 油仕 様 の 「STICK DUO SPLASH」
3. 「 STICK DUO SPLASH」の 特 長
STICK DUO SPLASH は 中 ・ 高 圧 切 削 油 に よ る 切 り く
を開発した。ここでは、その特長と加工事例につい
ず排出を高めた内部給油仕様のスリーブホルダであ
て紹介する。
る 。写 真 2 の よ う に イ ン サ ー ト の 側 面 か ら 切 削 油 を
吐出することで、穴の内部へ直接切削油を供給可能
2. 現 状 と 問 題 点
となる。切りくずの詰まりや切りくずの絡まりを解
多 く の NC 旋 盤 で は 写 真 1 の よ う な ノズ ル を 使 用
決 す る た め 、STICK DUO SPLASH で は 使 用 用 途 に 応 じ
して切削油を外部からインサート周辺に供給してい
て 2 つの吐出位置(刃先給油と背面給油)を選択可
る。穴の中に切削油が供給されることでインサート
能とした。
の冷却効果、潤滑効果による加工面品位の向上は最
低限期待できるが、切削油による切りくず排出能力
は低く、切りくずの詰まりや切りくずの絡まりでチ
ョ コ 停 が 発 生 す る こ と があ る 。
また、中圧や高圧ポンプを使用し、パイプを利用
背面給油
して切削油をインサートの刃先に向けて供給する方
法 が あ る(写 真 1)。こ れ に よ り 、イ ン サー ト の 冷 却
効 果 、潤 滑 効 果 、切 り く ず 排 出 効 果 は 高 ま る 。特 に 、
刃先給油
切りくずがインサートに絡まるような場合には、
中・高圧の切削油の供給は効果的である。しかし、
写 真 2.STICK DUO SPLASH 給 油 状 況
深い内径加工になると切削油を穴の奥まで供給する
ことが難しく、最悪の場合には切りくず詰まりが発
生する。このように、中・高圧の切削油を有効に活
用 で き な い ケ ー ス が 見 受け ら れ る 。
(1)切 削 油 吐 出 位 置 の 切 り 替 え
STICK DUO SPLASH は 1 つ の ホ ル ダ で 刃 先 給 油 と 背
面 給 油 の 吐 出 位 置 が 選 択可 能 で あ る。図 1 の よ う に 、
ス リ ー ブ ホ ル ダ を 180°回 転 さ せ る こ と で 、 給 油 方
法の切り替えができる。例えば、刃先給油を行う際
は、埋め栓ネジ側にインサート切れ刃が向くように
取り付け、上面側のクランプネジを固定することで
対応可能となる。
①刃先給油
①刃先給油
切削油吐出口
埋め栓ネジ
切削油吐出口
切削油吐出口
埋め栓ネジ
ホルダを180°回転
②背面給油
②背面給油
切削油吐出口
切削油吐出口
埋め栓ネジ
埋め栓ネジ
切削油吐出口
図 1. 切 削 油 の 吐 出 位 置 の 切 り 替 え
(2)刃 先 給 油 と 背 面 給 油 の 効 果
刃 先 給 油 と 背 面 給 油 の給 油 イ メ ー ジ を図 2 に 示 す。
①
刃先給油
貫通穴における切りくずの排出を狙う場合は“刃
図 2.刃 先 給油 と 背 面 給 油 の 給 油 イ メ ー ジ
(3)全 長 位 置 決 め 調 整 構 造
STICK DUO SPLASH に は イ ン サ ー ト の 全 長 位 置 決 め
機 構 を 設 け て い る(図 3)。ス リ ー ブ ホ ル ダ の 内 部 に
ある位置決めスクリューを前後退させることで、突
先給油”を推奨している。切削油をインサート刃先
出 し 量 L/D=2.5~7 で 調 整 可 能 で あ る 。 こ れ に よ り、
に直接供給することで、切りくずを貫通穴の奥に排
イ ン サ ー ト 交 換 時 の 全 長 精 度 ば ら つ き を 抑 制 し 、段
出することが可能である。また、刃先供給による冷
取り時間の大幅な短縮が可能となる。なお、インサ
却効果と潤滑効果をもたらし、インサートの耐摩耗
ートは 2 コーナタイプの超硬ソリッド型のボーリン
性や耐溶着性の向上と、加工面品位の向上が期待で
グ バ ー 「STICK DUO」 を 取 り 付 け て 使 用 す る 。
きる。
②
背面給油
止まり穴における切りくずの排出を狙う場合は”
背面給油”を推奨している。切削油吐出位置をイン
サートの背面側に設けているため、切削油により切
りくずを奥に排出することなく、下穴の壁面から跳
ね返ってくる切削油の圧力を利用して切りくずを穴
か ら 手 前 に 排 出 さ せ る こと が で き る 。
図 3.STICK DUO SPLASH の 構 造
(4)ク ー ラ ン ト ホ ー ス 接 続 方 法
これまでの内部給油ホルダは、クーラントホース
を接続できないことが多くあった。今回は、前方接
続 、 後 方 接 続 、 密 閉 型の 3 種 類 の 接 続 方 法 に 対 応 さ
せ て い る (図 3、 写 真 3)。
①
前方接続
油 で 比 較 し た 加 工 事 例 であ る 。加 工 径 φ 3.1mm、加 工
前方接続は、自動旋盤の対抗刃物台や背面刃物台
深 さ 10mm の 止 ま り 穴 で あ り、切 り く ず の 詰 ま り が 発
のように、後方から接続できない場合に使用するこ
生しやすい加工である。従来の外部給油では、製品
と が で き る。タ ッ プ サ イ ズ は M6×1.0 に な っ て お り、
の内部に切りくず詰まりが発生していた。止まり穴
ネ ジ 変 換 ア ダ プ タ を 使 用す る こ と で、Rc1/8、NPT1/8、
の切りくず排出に効果的な”背面給油”の内部給油
M10×1.0 の サイ ズ に 対 応 可 能 と な る 。
を行うことで、切りくずは製品の内部に残ることな
く 加 工 が 可 能 で あ っ た 。な お 、中 圧 1.3MPa の 圧 力 で
②
後方接続
も 十 分 に 切 り く ず が 排 出で き て い る こ と が わ か る 。
後方接続は、最も一般的な接続方法であり、タレ
ットや自動旋盤、チャッカー機など様々な機械に対
内部給油(背面供給)
外部給油
応可能である。ホルダ後方の端面には管用テーパネ
ジ Rc1/8 が あ り、ク ー ラ ン ト ホ ー ス の メス R1/8 を 使
用 す る こ と で 直 接 接 続 が可 能 と な る 。
③
密閉型
切りくず処理良
切りくず詰まり
密閉型は、刃物台の内部から切削油が供給される
際に、スリーブホルダ後端の一部が丸シャンクにな
っ て い る た め 密 閉 さ れ て内 部 給 油 が 可 能 と な る 。
被削材:SUS304、使用チップ:SHFS030R005S TM4(シャンク径φ3)
切削条件: v c=50m/min、 f =0.02mm/rev、 a p=0.2mm
加工径φ3.2×10L mm 、下穴:φ2.9×12L mm
クーラント圧力:1.3MPa
図 4.内 部 給油 と 外 部 給 油 の 切 屑 処 理 比 較
5.製 品 ラ イ ン ナ ッ プ
スリーブホルダのシャンク外径は、メートルサイ
ズ の φ16、φ20、φ 22、φ25 と 、イ ン チ サ イ ズ の φ
19.05、 φ 25.4 の 6 種 類 あ り 、 自 動 旋 盤 や 汎 用 旋 盤
前方接続
に対応している。インサート取付け可能な内径サイ
ズ は 、φ 2~ φ5 の 6 種 類 で 、イ ンサ ー ト の 最 小 加 工
径 は φ2.2 か ら ラ イ ン ナ ッ プ し て い る 。
※
※
※
以上のように、内径中グリ加工の切りくず排出スペ
ースが狭く、切りくず処理や加工面品位の低下が問
題になる際は、中・高圧切削油を有効に活用するこ
後方接続
図 3.ク ー ラン ト ホ ー ス 接 続 方 法
と で 、STICK DUO SPLASH の 利 点 を 最 大 限 に 利 用 す る
こ と で き る 。 こ の よ う に当 社 の 「STICK DUO SPLASH」
が多くの加工現場の生産性を向上されることを期待
4.加 工 事 例
つ ぎ に STICK DUO SPLASH を 用 い た 加 工 事 例 を 紹 介
する。本工具での加工対象となるワークは、自動車
部品や電子部品などがあり、被削材や加工条件は多
岐にわたっている。
図 4 は ス テ ン レ ス 鋼 SUS304 を 内 部 給 油 と 外 部 給
している。