ライティング指導事例特集

新 課程時代の英語指導を考え る
◎ベネ ッ セ コ ーポレ ーシ ョ ン
【 GTEC 通信 】
vol.17
GTEC for STUDENTS編集部
http://www.fine.ne.jp/info/english/
◎ GTEC 通信 vol17. 内容
今号はWriting指導 ( Writing を中心 と し た技能統合型指導 も 含む ) の特集です 。
<Writing指導研究 : 大学> Writing力は 「 自己対話力 」
広島大学 ・ 柳瀬陽介助教授
<Writing指導研究 : 高校①>読み手を意識 し た Writing指導
福岡県 ・ 香住丘高等学校
<Writing指導研究 : 高校②>文法を定着 さ せ 、 自由英作文力も 高める Writing指導
熊本県 ・ 熊本高等学校
<技能統合型指導研究 : 高校③>入試突破力養成のための技能統合型指導
大阪府 ・ 帝塚山学院高等学校
< Writing 指導研究・大学>
Writing力は「自己対話力」
広島大学
柳瀬陽介助教授インタビューより
柳瀬 陽介 助教授 Yosuke Yanase
●広島大学大学院教育学研究科助教授 と し て教鞭を と る
●研究分野は (1) 第二言語 コ ミ ュ ニ ケーシ ョ ン力論 (2) 英語教育の哲学的探究 (3) 英語授業の質的分析
●英語教育現場の豊かな知恵を出来 う る 限 り 言語化 し よ う と す る ウ ェ ブサ イ ト 「 英語教育の哲学的研究 」 を
運営 ・ 管理 ※ア ド レ ス : http://ha2.seikyou.ne.jp/home/yanase/
●大学入試の自由英作文で差が出るのは「文法」
「語い」
より「構成・展開」の力
うに、「好きだから好き」としか言えず、自分のエピソードが
書けない。もったいないですね。
―-高校生の Writing をご覧になって、特に差がつくと思わ
れる分野は GTEC for STUDENTS の3分野「文法」「語い」
「構成・展開」のうち、どこでしょうか?
●「構成・展開」の力を伸ばす第一ステップは、
「他人を意識して書く」こと
柳瀬助教授:「構成・展開」の分野の出来不出来で差がつく
ことが多いでしょうね。広島大学教育学部の推薦入試の答
案を見ていても感じますが、「文法」や「語い」は皆それなり
によく出来ています。高等学校での指導努力が良く見える
分野です。ただし、「構成・展開」に関しては、本当に生徒
によってかなりの差が出ますね。
―-確かに、GTEC for STUDENTS で全国の高校生の答案
を見ていても、文法はきちんとしているのに、説得力のない
答案が多くありますね。
柳瀬助教授:帰国生の答案にもよく見られますよ。英語はた
くさん書いているのに、「I like English because I love it.」のよ
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―-具体的に中学生や高校生に Writing を指導する際に、
「構成・展開」分野を伸ばすためには何に留意したらいいで
しょうか?
柳瀬助教授:まず、初期段階にはパラグラフライティングと
は?などと話をしても分からないので、「他人が読む、という
ことを意識した Writing」をさせることが重要ですね。ただし、
ここで言う「他人」とは、「先生」ではありません。先生は、生
徒が書きたいと思っていることを汲んであげようとするため、
生徒の中で「メッセージを伝えなければ、分かりやすく書か
なければ」という気持ちは湧いてきません。ここで言う「他
人」とは、「文章が面白くなかったら読まない、分かりやすく
書かなかったら読み取れない第三者」です。例えば、授業
中に英作文を書く際に、先生に提出することを前提に書く
のではなく、同じ学級の他の生徒や、学校に来ている留学
生が読む、と想定して英文を書いてみる。このように「他人」
を対象としてイメージして英文を書く時には、「分かって欲し
い」という気持ちが湧きます。分かりやすい英文を書くには、
この「伝えたい、分かって欲しい」という気持ちが大事です。
論理と言うのはあくまで、分かって欲しいことを伝えるため
の道具。その道具を使いたいと思う気持ちを先に育てま
す。
―-型を教える前に、その基礎になる「伝えるとは何か」とい
うことを意識させるのが大事なのですね。
柳瀬助教授:はい。特にこの気持ちは、英語学習の初期段
階、つまり中学生の時期から育てておく方がいいです。文
法事項がきちんと身についていないうちに自由に表現させ
てもいいのか?という反対意見もあるかもしれませんが、完
成してから表現させようといっていたのでは、いつまでも完
成しません。簡単な文法でもいいので、伝えるために書い
てみる。そうすることで、文法事項も定着していきますし、伝
えるために必要な文法への学習意欲も高まります。
●「構成・展開」の力を伸ばす第二ステップは、
「なぜ?」
と問いを立てられる「自己対話力」を身につけること
―-伝えたい、という気持ちが育ってきたら、次は何に留意
して指導をしたらいいでしょうか?
柳瀬助教授:一斉指導ではなかなか難しいのですが、「自
己対話力」の育成に留意することが大切です。私も、卒業
論文指導の際によく面談で指導しているのですが、学生を
研究室に呼んで、「なぜこれを書いたの?どうしてこの順番
で書いたの?なぜこの理由なの?」と事細かく質問します。
そうすることで、学生の中でも「あれ?どうして自分はそう書
いたのだろう?」という疑問を抱く習慣がついてきます。
優れたWritingを書ける人は、自己対話できるもう一人の
他者を自分の中に持っています。「なぜ?どうして?つま
り?」など、読み手が持つと思われる疑問を先回りに自問自
答して説明をしておく。そうすることで、論理的でかつ分か
りやすい文章が書ける。「自己対話力」とWriting力は比例し
ています。
ただし残念ながら、自己対話できる生徒は確実に減って
きています。例えば、私は授業に関して、携帯メールでの
質問を受け付けていますが、自分の受けている授業の名前
や自分の名前を全く名乗らず、いきなり「次回までの宿題は
何ですか?」だけ送ってくる学生がいます。「自分が他者に
とってどんな立ち位置にあるのか」という意識がないんで
す。
どうしてこのように他者意識のない学生が増えてきてい
るかという背景は、中公新書ラクレから出ている「オレ様化
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する子ども達」という本を読んでもらうととてもよく分かります
が、自分を相対化できない学生が増えているからです。独
りよがりで、自分が言いたいことだけを書くというような文章
が結果的に増えています。
自己対話力をつけるのに魔法のような近道はありません
が、授業や普段の会話の場面で、対話をする体験を多く持
たせて、「問いの観点を知る」ことが必要ですね。
●Writing 力向上のためには、日本語、英語に関わらず
「読書量」を増やすこと
―よく、高等学校の現場にお伺いすると「自由英作文指導
に割ける時間が少ない」とお聞きしますが、生徒が家庭学
習で力を伸ばす方法はないでしょうか?
柳瀬助教授:自己対話力のなさ、Writing 力のなさの大きな
要因の1つは「読書量の不足」です。大学でも、パラグラフラ
イティングの定義は言えても、体得していない学生が多い
ので、そういう学生には「新書を読め」と指導します。小説に
比べて比較的固い内容で、パラグラフライティングに近い
構成をしているので、伝わりやすい文章を体得するために
は有効ですね。だから、中学や高校生も、家庭で小説だけ
でなく新書なども含めた色んな本を読むことが Writing 力向
上にもつながると思います。
●Writing の力は、
「社会で生き抜く力」へつながる
―Writing 力を高めるポイントをお聞きしていると、社会で求
められるコミュニケーション力の養成にもつながるポイント
だと感じられるのですが。
柳瀬助教授:そうです。現在は、凝縮した知識を短時間で
伝えなければならない高度情報化社会なので、パラグラフ
ライティング力がとても重要です。大量の情報をただ羅列
するだけでは考えは伝わりません。自分の意見を伝えるの
に必要な情報を整理して、論理的に伝える必要があります。
大学で卒業論文を指導する際には、論文を書く学生に必ず
こう伝えます。「この論文を最後に、これから論文を書くこと
はないかもしれない。でも、社会に出て人に考えを伝える
時に、論理構成は必ず役に立つんだぞ。自分は学者にな
らないんだから、と勝手に考えないで欲しい。論理的に、明
晰に話をするというのは、この時代に必ず必要なんだか
ら。」と。
「私の受験する大学には、自由英作文は必要ないし・・・」
と考えている高校生にも、将来社会でいかに英語が役立つ
か、Writing力が応用できるかを視野に入れて指導にあたっ
ていくことが大事だと思います。
(聞き手:国際教育事業部 牧嶋恭子)
<Writing 指導事例研究・高校①>
読み手を意識した Writing 指導
香住丘高等学校 永末温子先生のお話より
背景
香住丘高校では「人間教育に主眼を置き、豊かな人
間性と学問に対する向上心に満ちた、国際社会に貢献
できる生徒を育てる」を教育方針とし、文武両道、現
役進路実現を目指して、日々手厚い学習指導が行われ
ている。また、SELHi2期校として、Speaking、Writing
力など英語での発信力を養成するための指導研究も
熱心に行われている。
課題
同校では、専門学科英語科を有し、1 年次より、英文
エッセイ指導を重視している。従来は、入学段階で既に
高い英語力を持つ生徒が多く、1 年次においても、テー
マを与えれば、150 語程度の英文エッセイを論理的に書
くことができた。しかし、入学段階での学力層が幅広く
なっている新課程生に対応するためには、骨子の作り方
から実際のライティングにいたるステップごとに、丁寧
な指導が求められている。入試で多く課され始めている
自由英作文対策のためにも、低学年からの Writing 指導
の改善の必要性を感じていた。
実行内容
上記の課題を受け、1 年の専門学科英語の授業内容を
統合化し、ピア活動を取り入れたプロセス重視の
Writing 力UP指導が始まった。
(下枠内参照)
<ピア活動を重視した Writing 力アップの取り組み>
★ポイント①:Writing の型を、
「英文を作る⇒つなぎ語
でつなげる」という積み上げ型で指導する
⇒いきなり「何かについて、150 語程度の英文で書きな
さい」というと、とてもハードルが高く感じられてしま
い、生徒はなかなか書かない。ただし、このプロセスで
書いていくと、
「1 つのセンテンスが大体 10 語∼15 語。
それをつなげるだけで、
自然と 150 語程度の英文になる」
と教えられる。生徒もハードルを感じずに、自分の言い
たいことを 150 語程度でまとめられるようになる。
★ポイント②:日本人の先生だけが添削するのではなく、
クラスメートや ALT にも修正してもらう
⇒クラスメートや ALT に英作文を修正してもらい、アド
バイスをもらうことによって、読み手を意識した、わか
りやすい英作文を書く姿勢が身につくようだ。
また逆に、
人の英文を修正、添削することで、英文を分析的に見る
癖がつき、自分の文法定着にもつながる効果もある。
結果
入学時の実力考査の結果や普段の授業の実感では、明
らかに例年の生徒よりも英語力が低かったにも関わらず、
毎年英語力の検証のために受験している GTEC for
STUDENTS の結果では、Total で平均 500 点、Writing で
平均 117 点と、非常に良い結果が出た。
● 実施時期:1 年第 2 学期(4 コマ分活用)
● 実施授業:「総合的な学習の時間」「コンピュータ・LL演習」
● 活用教材:GTEC for STUDENTS ステップアップドリル
GTEC for STUDENTS スコア
600
● Writing テーマ:好きなスポーツ
500
【手順】
400
(1) 予習…予習では、自分の好きなスポーツに関して「なぜ好きなのか」
300
のアイデアを出してくる。(ドリル 12-13 ページ)
(2) 1コマ目授業…予習でのアイデアを元に、自分の考えを 10 個の英文
英語を英語として捉えるよう指導
に直す。その後、つなぎ語の使い方、Writing の型を簡単に学び、1つ
のエッセイにまとめる。(ドリル 14-17 ページ)
(3) 授業後…先生が論理構成の点をチェックし赤字でコメントを返す。
2003年1年
2004年1年
2005年1年
200
100
0
TOTAL
Writing
(4) 2コマ目授業…4人のグループに分かれて、1 コマ目にまとめたエッセ
イを回し読みし、生徒同士で修正やアドバイスを入れる。
(5) 授業後…ALT も修正とアドバイスを書き入れる。
(6) 3コマ目授業…2 コマ目の生徒同士の修正と、ALT からのアドバイスを
ふまえて、書き直す。
(7) 4コマ目授業…Writingを原稿として、Oral Presentationをする。聞いて
いる生徒は、話している内容をメモを取りながら聞く。ALT から最後に
質問があるので、口頭で答える。(コンピュータ・LL演習時のスピーキ
ングクラス)
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この取り組みを実践された永末先生は、
「事後アンケート
でも、かなり満足度の高い授業だった。生徒はやはり、
先生以外の他人に自分の英文を見てもらうことで、わか
りやすい英文を組み立てる能力が鍛えられたよう。今後
も同じような取り組みを続けていきたい。
」と語る。
(国際教育事業部 牧嶋恭子)
<Writing 指導事例研究・高校②>
文法を定着させ、自由英作文力も高める Writing 指導
熊本高等学校 松田隆治先生のお話より
背景
熊本高校は、今年で創立105周年を迎える県内でも有数
の伝統校である。「士君子」の育成を教育目標に掲げ、
毎年、難関国公立大・難関私大に多数の合格者を出すだ
けでなく、各界で活躍するOB・OGを輩出している。同校
の英語教育は「コミュニケーションの手段としての英語
力の養成」という方針の下実践されており、その結果、
高い進学実績にもつながっている。
課題
今年度 1 年生担当の松田先生は、昨今の国公立大学の
入試で自由英作文を課す大学が増加している中、2 年次
から英作文指導を始めるのでは間に合わないと感じ、1
年次から基礎的な文法力もつけながら、発展的な自由英
作文指導も行い、
両方の力を伸ばしておきたいと考えた。
実行内容
先生が行ったのは、まず「英語Ⅰ、文法、OC の時間で、
教える項目の連携」である。
下記の通り、英語Ⅰの時間では英文読解を通して文法
を理解させ、次の文法の時間に整理をし、ドリル学習を
する。そして、OC の時間にも同じ文法を含んだ文章を扱
うことにより、定着を促した。
★ポイント:
『型を教える前にまねさせてみる』
⇒まずは、和文英訳の基本から、と英作文指導を始める
学校が多い中、非常に斬新な指導方法である。ただ、実
際にやってみると、下記の通り、生徒は整った英文を書
いてくるという。
モデル文
生徒の文
型を教えなくても、自然と
表現をまねし、パラグラフ
の作り方もまねしている
【連携学習のサイクル】
英語Ⅰ
文法
Input
整理
OC
実践
特に OC の時間では、
文法の定着と同時に自由英作文力
をつける取り組みを行った。
(下記参照)
【OC 授業のサイクル】
①
②
③
※単位数:0.5 単位(2週間に1回)
2回の授業を1セットとし、1回目の授業で英作文のモデル
600
となる英文を2回聞かせ、穴埋めディクテーションする。
500
「英作文の中で、各個人の情報として置き換えられる部分に
400
下線を引いておき、その部分を自分に置き換えて書いてごら
300
ん」と宿題を出す。
200
次の授業までの2週間の間に、ALT に1回提出。添削したも
100
のを返して書き直させ、再度添削する。発表の練習をして授
0
次の授業の冒頭 10 分で、再度モデル英文をディクテーショ
ンをさせる。
⑤
1人5分ぐらいとして、5∼6人(30 分)
、ランダムでスピ
ーチをさせる。残りの生徒は声、スピード、アイコンタクト
の3つの観点で5段階評価をつける。その後、内容について
Q&A をさせる。1学期は日本語、2学期は英語で。
⑥
残りの時間で、次回のテーマについて、穴埋めディクテーシ
ョンで導入をする。
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熊本高校・GTEC for STUDENTS 1年12月成績
469 483
・・・繰り返し
2003年1年
2004年1年
2005年1年
501
186 187
191
189 197
198
112
94 98
Total
業に臨むように指示する。
④
結果
この方法で、授業連携・工夫に取り組んだ結果、英語
Ⅰで学んだ文法の定着が良くなるだけでなく、英語ネイ
ティブ・スピーカーが使うような、自然な英語表現が定
着してきた。GTEC for STUDENTS の過年度比較でもその
成果が見える。
Reading
Listening
Writing
松田先生は、
「1 年次は、まずは量を浴びせたらいい。
2 年次の Writing 授業で精度を上げて、3年次には深み
のある文章が書けるように訓練する。
2 年次から Writing
に取り組んだのでは、このようなゆとりを持ったプラン
では指導できないが、1 年次から始めることによって、
着実に Writing 力を積み上げることができる。
」と語る。
(国際教育事業部 牧嶋恭子)
<技能統合型指導事例研究・高校③>
入試突破力養成のための技能統合指導事例
帝塚山学院高等学校 英語国際コース委員会の先生方のお話より
背景
大阪府にある帝塚山学院高等学校は、89 年の歴史を持
つ伝統ある私立女子校で、6年前より進学指導重視型の
「Ⅰ型(特進コース)」と幅広い人間教育を目指す「Ⅱ型(標
準コース)」という二つのコース制をひいている。
い、下の手順で速読訓練をしている。
【参考:速読訓練の手順】
①100words ぐらいの英文を黙読し、要点理解問題を解き、答えあわせを
する
課題
Ⅱ型(標準コース)の中にある英語国際コースは、英語力
向上に特化したコースとして、異文化理解、英語コミュニケ
ーション力を養成する役割を担っているが、Ⅰ型の特進コ
ース同様、保護者や生徒からの進路保証に対する要望も
高い。その一方で、中学校新課程の影響により入学生の単
語・文法などの基礎力は年々落ちてきており、生徒のモチ
ベーションを高めつつ、いかに効率的に基礎力をつけなが
ら入試突破力まで力を引き上げるかが課題であった。
②音読シート(資料 A)を活用して音読する
※センター試験7割∼8割の得点を取るために必要な 120WPM を目
標として設定する。音読する文章の語数を 120 で割り、目標タイム
を出し、その速さで読めたかどうかを記録する。
③発音できなかった、あるいは発音し間違えた単語は書き出して何度も
読み直す
(資料 A:音読シート)
実行内容
上記の課題を受け、コース担当の先生方は、日々の限ら
れた授業時間の中で効果的に基礎力をつけ、かつ入試に
も対応できる力をつけていくための様々な工夫を行ってい
る。
【語い・文法・読解力向上のための工夫】
∼『和訳先渡し』+『多読』+『音読』
基礎力を補完した上で、昨今の入試で求められている速
読力を養成するため、1年生での英語Ⅰの授業は『全文和
訳させない』『易しい文章を多読・音読させる』と教員間で方
針徹底をしている。
それぞれの先生により方法論は様々だが、英語国際コ
ース1期生ご担当の先生は、教科書は生徒に全文を和訳さ
せずに、和訳プリントを先に渡す、いわゆる『和訳先渡し』
指導をしている。新課程生に足りない基礎的な単語・文法
知識をつけるには一見矛盾するような取り組みに見えるが、
絶対に押さえて欲しい重要な文の和訳部分だけは穴埋め
として空欄にしておき、一緒に文構造を考えながら丁寧に
解説をすることで、逆に最重要項目の定着がより徹底される
という。「すべてを訳さずに大丈夫か?という心配もありまし
たが、そもそも昨今の入試問題では逐一和訳をさせる問題
は減っています。むしろ、大事な文の構造理解にきちんと
集中をさせ、要点理解力をつける方が入試対応力につな
がります。その上で、易しい文章をたくさん読ませるとよく定
着しますよ。」と先生は語る。
また、英語国際コース2期生ご担当の先生は、英語Ⅰの
授業の最初 10 分間に 100words ぐらいの易しい英文を使
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「自分で発音できない単語は聞き取れないし、覚えにく
いですから、この音読活動はリスニングの基礎訓練や単語
学習にもつながります。」と、先生は語る。
このように、和訳先渡し・多読・音読など、先進的な活動
で生徒のモチベーションを高める一方で、読解に必須の文
法事項の押さえは決しておろそかにしていない。英語Ⅰで
扱った文法は、すぐ後の文法の時間に説明し、さらに OC
の時間でその文法事項を使った発信活動をさせることで、
生徒自身が文法をより深く理解し、覚えやすいようカリキュ
ラムを組み、定着を促している。つまり、「英語Ⅰでは多読」
「文法の時間では説明」「OC の時間では発信活動」と効果
的に役割分担を行うことで、基礎力と応用力・運用力が同時
に養成されている。
【英作文力向上のための工夫】
∼自己対話力を育てる『紙面ディベート』
英作文力向上のための施策としては、1年∼3年の OC
の時間に『紙面ディベート』に取り組んでいる。ディベートと
いってもすぐに英語を話させるのではなく、プリントを使っ
て下記のように紙面上でディベートを展開する。
【参考:紙面ディベートの手順】
■授業内での活動
①ペア・ディベート・シートを配布し、生徒にペアを組ませる
(資料 B・C 参照)
②賛成側の生徒が左側に賛成の意見を書く
③反対側の生徒が賛成側の文章を写し、その上でその意見に反論、質問
する文章を右側に書く
④賛成側はその文を写し、再度質問に答える。
■授業後
やりとりしたプリントを ALT に提出。ALT が添削をし、返却をする。
(資料 B:ペア・ディベート・シート 1 年次)
(資料 C:ペア・ディベート・シート 3 年次)
【リスニング力向上のための工夫】
∼短期スパンでの目標設定
リスニングに関しては、生徒のリスニング学習に対するモ
チベーションを切らせないために、必ず短いスパンでリス
ニングが必要な行事を設け、その事前に「検定対策」という
時間を設定して、集中的に取り組んでいる。1年生であれ
ば、4月に GTEC 受験、7月に英語キャンプ、10 月に英検
受験、2月に GTEC 受験と、必ず2∼3ヶ月に一回は自分の
リスニング力を試す場を設けている。検定対策ご担当の先
生は「低学年のリスニング学習というと、漠然に多くの演習
をこなすということに終始しがちになります。このように試す
場を定期的に設けると、生徒は目標とやる気をもって勉強し
ますよ。」と語る。リスニングのように継続学習が大事な技能
にとっては、この「生徒の目標・目的意識をいかに維持でき
るか」が伸ばし続けるための指導のポイントだという。
成果
これだけ多くの指導工夫を実践しているが、この工夫を
個々の先生の中だけで留めてしまうと、学年の担当先生に
より差が出てしまい、コースとして安定した進路保証がしづ
らい。そのため、必ず年に1回は GTEC for STUDENTS を
受験し、担当先生同士で英語力がどれぐらいついているか
を確認し、定期的に情報交換をしている。また、コースとし
ての指導を向上、徹底するために、検定対策担当の先生が
コース生を全学年またがって教えることで、3年間を見通し
た具体的な指導が可能になっている。
下記グラフは、英語国際1期、2期の GTEC スコアの伸び
を示している。
帝塚山学院・英語国際コース・GTECスコアの伸び
600
550
500
英語国際1期
英語国際2期
高校生全国平均
547
431
450
455
全国平均
400
350
300
このプリント学習と添削のサイクルを繰り返すことで、英作
文でも使える語い力、文法力が定着するのはもちろん、自
分が書いた意見への質問を予測する「自己対話力」がつき、
分かりやすい文章を書くための論理的思考力につながると
いう。1年が書いた答案は資料 B ぐらいだが、これを3年間
続けると資料 C ぐらい長い文章を書けるようになる。
OC ではとにかく話すことを重視しがちであるが、このよう
に「紙面ディベート」を行うと、コミュニケーション力と共に語
彙力や文法力が定着し、正しい英文を書く能力がつくのは
もちろんのこと、相手の意見を読みとる力がつき、読解力向
上にもつなげることができる。
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February 2006
373
416
340
331
1年
2年
3年
特筆すべきは、入学当初は全国平均には到達しないレベ
ルから、3年次には 550 点程度(=関関同立レベル以上)に
伸びていることである。GTEC データを元に、学年間で指導
法の情報交換を密に行うことにより、大きな学力の伸びとな
っている。
現在同校では、この取り組みを校内のモデルとして、学校
全体の指導方針につなげるべく、さらなる模索をし続けて
いる。
(ベネッセコーポレーション 杉島誠・牧嶋恭子)