あら曲る小説はおもしろい の壁

折 人小先 月キ
い。狗飼作品は同じく凝 った設定 のわりに人
間関係が安全で弛緩している。庵原作品 は、
科自際 のテンポが悪 いのと、途中で明かされ
る内情が仕掛けのための仕掛けとしか読めな
ば﹂ は淡 々と丁寧 に死 が
者
集
う
幽
霊
諄 を語り、
いわば無情緒 の情緒 をめざすが、﹁
そ こそ こ﹂
感 は達成 し て いる 一方、作品 として飛び立ち
を放 つ細部がありながら全体 としての完成度
に難があ っただ け に活字化 を急 いだ のが惜 し
まれ る。同誌 のもう 一篇、鈴木善徳 ﹁
じ やあ
る ﹁ミ ック スルー ム﹂ の世界 は意味 づ けから
遠く隔た って、 こちら の方が言葉 を失 いそう
な地点 もあ った。後者 は遠心性過多 で、精彩
と小 さく はな いか。 れ に対 し、 小 笠 原瀧
こ
﹁
夜 の斧﹂ と森井良 ﹁
ミ ツク スルー ム﹂ は受
賞 を逃 した佳作。たし かにどちらも ﹁こり や
あ かん﹂ と思 わず偽 関西弁 で呟きたくな る力
んだ 不器用な表現があり、前者 は意味 不明な
文も多数 、後者 は構成が よろよろと腰砕 け気
味。 ただ、ダ メ親父を めぐ る鼻 を つくような
不潔 で陰惨 で開塞感漂う兄弟 の闘 いを描 いた
﹁
夜 の斧 ﹂ の世 界 には、鼻 を つま みながらも
引き込まれたし、精神病 と同性愛 とが交錯 す
阿部公彦
海と山 のビアノ﹂はいつもながら文章もイメ
﹁
ージも物語もきれ いだが、もう少し汚 い容器
に入れてみたい誘惑が。宮崎誉子 ﹁
笑う門に
は老 い来たる﹂ は これまた介護小説 で、﹁
娘
できな い何かを呼び起 こす試みは立派で、何
らかの体験は得ら れるものの、話 の枠 は案外
ふ つうに近代的では? とも。 いしいしんじ
、珍 し いタ
まりな いが ︵つねりだ けは頻繁︶
イプ の観念小説の試みとして評価したい。小
野正嗣の ﹁
悪 の花﹂ は、老婆 の人生を描き出
す際の マク ロとミク ロの話 の切り替えが絶妙
で、叙情性と物語性とがうまくブ レンドされ、
小さいスペー スなのに実 に陰騎 のある世界が
浮 かぶo﹁
タイ コー﹂ や ﹁
悪 の花﹂を出すタ
イミングも いい。似
顔
絵
を
描
いた罪と罰を主
人公が引き受 ける太田靖久 ﹁
ボデ ィーズ﹂ は、
って人物たちに襲 いかかる妙な心理を、まる
で読者 の腕を つねるよテな意地の悪 い比喩や
キ レのいいやり取りを効 かせて緊張感を生む。
いじめやボ ランテイア集団 の設定 に鼻自みそ
うになるが、また総じて読者サービ スもあん
転落を恐れぬ ﹁
そ こそ こ﹂ の壁 への果敢な挑
戦が目立 った。﹁
泥棒とイーダ﹂ の牧田真有
子は、過去 の ﹁
善行﹂がむしみトラウ マにな
きれな い印象。以下、雑誌
単
位
でいくと、今
回とりわけ元気だ ったのは ﹁
。
早稲田文学﹂
あらゆる小説はおもしろい の壁
本欄 の担当 も最終 回。今後 一生 この欄を担
当 しな いかと思う と 一抹 の寂 しさもあ るが、
とも かく終 わ ってほ つとす る。何度も作 品を
読 んだ書 き手 の方 々には ﹁では、 どきげ んよ
う !﹂的 に、身勝手 な馴 れ馴れし い気分が湧
く。小説 は読者 の興味を引く のがジ ャンルの
根本特性 で、振り返 れば ほとんど の作品がそ
こそ こおもしろく読 めた。 だ、
た
﹁
そ
こ
そ
こ
﹂
以上 かどう かは、やはりきびし い世界だ。 ﹁
そ
こそ こ﹂ ライ ンを越えようとすれば、誤 って
崖 下 に落 下す る危険 も伴う。 そう いう意味 で
今回の ﹁
文學界﹂新入賞 の三
篇
併
置
は興味深
い。受 賞作 は板 垣真 任 ﹁
o も はや
ト レイ ス﹂
文芸誌 の定 番と化 し つつあ る老人介護 のテー
マを扱 った作品 で、す る っとした饒舌 さに物
語 の匂 いをぷ んぷ んとさせる技量があ るが、
あち こち で意味づ け の癖 も日立 って、最終的
には物語 の推進力が意味づ け衝動 に根負 けし
て いる気が した。 よくまとま つたが、ち よ つ
あれよあれよと話 に花が咲く前半 の展開がよ
く、後半、話が大きくなりすぎてやや大味だ
が、十分楽しめる。実写にCGをまぜ こんだ
ような谷崎由依 ﹁
シリカ、 マリリカ﹂も、人
間であ って人間でな いような世界を スマート
に描く。よけいな自意識 に足をとられず に済
んでおり、書き手 に合 った スタイ ルと見た。
こんなに花 の名前がたくさん出る作品は今時
珍しいが、展開にあまりに既視感が漂う。﹁
す
ば る﹂は吉原清隆 ﹁
小説学校 の女﹂が いい。
作家志望 の主人公が老婆 の抱え持 ったかけが
は生理中に不機嫌 で、私は生理前 に不機嫌 に
なる﹂的なブ ログ っぽ い文章が延 々と つづ い
た。谷崎由依研 錫﹂はまさに典型的な ﹁
そこ
はアイド ルのからんだ殺人事件を猛烈な スピ
ードの書簡体 で語る。横組も高速化が狙 い?
こまで引 っ張れるか見物 で、最後まで読むと
案外な骨太さがな いではな い。ただし、長す
毒とたくらみに満ちた話術は光 った。 いろい
ろできそうな書き手だ。天埜裕文 ﹁
ママなん
て呼んだことな いぜ﹂ は、
マザ コンネタでど
えのな い物語と出会うと いう展開 はま さに
﹁
小説学校的﹂おとぎ話風美談だが、前半 の
ストーリーには つきあえなか ったが、ぱらば
ら漫画的な新しい言語 への挑戦。早慶戦的流
ぎ
が るとはち ょ っとした発見
?
で
も
乳
出
男
でした。上村渉ヨ 一
月と五月の欠けた夢﹂は火
。
後
写が何 力所 か ︵一四七頁、一五五頁など︶
は芯となる物語にもうち ょいひねりがあれば。
豚 に生まれ変わ った豚守 のことを描く堀井拓
いつかさよならに良 い日まで﹂は、荒唐
馬 ﹁
無稽ながら豚 っ鼻 の娘が生まれると ころなど
やはり楽しい。最果タヒ ﹁
星か獣になる季節﹂
れで言うと、 ラ バ ル ﹁
三田文學﹂は全体 に
イ
足場固めが目に つく。石田千 ﹁
夏 の終わり﹂
事を発端 に家族のきしみが明らかになる話で、
最終的 には介護小説 に落ち着く。想像以上に
湿り気過多だ った。喜多ふありは以前 の ﹁
す
そこ﹂小説。カ ップ ルの葛藤も、
最後 の変身諄
の仄めかしも、それほどどき っとせず。﹁
群
無名事 の夜﹂は伝聞調風の枠を
像﹂ の宮下遼 ﹁
駆使してアラビアンナイト的世界を現代 によ
みがえらせる。何より著者 の表現力 には敬服。
はやわらかで端正なたたずま いから漏れ出る
思意や嫌悪感をとらえた作品で、ぎ ゅ っと緊
張し赤らむ主人公 の感じがよく出 ている。そ
、上
祈り﹂ 翁群し、高橋弘希 ﹁
指 の骨﹂ ﹁型︶
村亮平 ﹁
みずう みのほう へ﹂ 翁すし。
と いうわけで、
恒例 の下半期五本は、
小谷野敦
﹁
ヌエのいた家﹂ 翁學し、朝比奈あすか フ ビ
九年前 の
エルが欲し い﹂ 翁群し、小野正嗣 ﹁
言葉がぎ っしり つまる快楽 に流れる冒頭部 の
語りからはじまり、きめの細 かい文章 の読み
心地が いい。後半部 にかけてもすばらしい描
の彼氏があまりに無臭なのは、あるいは同著
者 の他作品で補足が可能 かもしれな い。狗飼
、村松真理 ﹁
恭子 ﹁
天国を掃除﹂
野薔薇と青
もも太郎﹂がすばらしく期待したが、今回の
﹁
堀江に住むという男﹂はギ ャグが滑り気味 で
少し残念。﹁
新潮﹂は高尾長良 ﹁
影媛﹂が話題。
ち ゃんと 後 で読んだ ど、 い
最
ま
け
た
へ
ん
でし
た。古代的なリズ ムを通して今 の日本一
語では
、鷹原高子 ﹁
空﹂
源平小菊﹂ は小説世界を守
ろうとする姿勢はよく伝わるが、村松作品は
新 人小 説 月評
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