災害対策 を理 由 とす る国家緊急権 の創設 に反 対す る会長声明 現在 ,与 党 自民党 にお いて ,東 日本大震 災時 の 政府 の 対応 の反省 ,す なわち災害対策 を 理 由 として , 日本国憲法 の 改 正 に 「緊急事態 (国 家緊急権 )」 の規定 の新設 に つい て議論が な され て い る。 国家緊急権 とは ,戦 争 ・ 内乱・ 恐慌 。大規模 な 自然 災害 な ど,平 時 の統治機 構 を も つて は対処で きな い非 常事態 にお いて ,国 家 の存 立 を維持す るために ,立 憲的な憲法秩序 を 一 時停 止 して 非常措置 を とる権 限 を指す。 この権 限 が発 動 され た 場合 ,国 は強大 な権 限 を掌 握 す る こ とがで き るのに対 し,国 民は強 い 人権制約 を強 い られ ることにな る。 災害対策 の 名 目の も とに ,国 家緊急 権 が創設 され る こ とは,非 常 に危険 と言 わ ざるを得 な い。 そ もそ も,大 日本帝国憲法 には ,国 家緊急権 の規定 (戒 厳 大権 (14条 )な ど)が あ り , これ に よ り,権 力分 立が形 骸化 し,あ るい は基本的人権 に重大な制約 が課 された こ とか ら 日本国憲法 には ,国 家緊急権 の規定 をあえて設 けて い な いの であ る。 , 確 かに ,東 日本 大震 災では ,行 政 に よる初動 対応 の遅れ が指摘 され ていた。 しか し,そ れ は ,現 行 の 災害法制 の 不備 のた めでは な く,既 存 の 法制度 で 対応 可能 であった に もかか わ らず ,事 前 の 準備 が不足 して いた ために生 じた事態 に過 ぎない。 そ もそ も,既 に 日本 の 災害法制 は ,諸 外 国 と比 較 して も遜色 の な い 程度 に整備 され てい た。例 えば ,災 害非 常事態 の布告 が行 われ た場合 には ,内 閣 の政令制定権 を認 めてい る し 内閣総理大臣に国民へ の協力要求 を認 める規定 もある (災 害対策基本法 )。 また ,災 害 に限 , らず ,緊 急 事態時 にお いて ,内 閣総理大 臣は ,警 察庁 長官 を指揮 し,警 察官 を管轄 区域外 に派遣 させ る規定 (警 察法 72条 , 防衛 大 臣は部隊 を派遣で きる規定 73条 )も ある し,災 害非 常事態 の布告 がな くとも (自 衛 隊法 83条 )も あ り,災 害時 の対応 は ,既 存法 制 , 度で も対応 が 可能である。 従 って ,国 家緊急権 は ,災 害対策 を理 由 として もそ の必 要性 を見 出す ことはで きな い。 他 方 ,国 家緊急権 はひ とたび創 設 され て しま えば ,大 災害時 だ けに発動 され る とは限 ら な い。 時 の 政府 に とって ,絶 対的 な権力 を掌握 できる こ とは極 めて魅 力的で あ り,非 常事 態 とい う口実 に よ り,国 家緊急権 は濫用 されや す い。 国民 の基本的人 権 の保 障がひ とたび 後退す る と,そ れ を回復 させ るのが容易でな い こ とは歴 史が示 す とお りである。 よつて ,当 会 は ,東 日本大震 災 にお け る被 災地 の弁護 士 会 として ,災 害対策 を理 由 と す る国 家緊急権 の創 設 に理 由がない こ とを強 く指摘 し,さ らに 国家緊急 権 そ の ものが ,国 民 に対 し回復 しがたい重大 な人権 侵 害 とな る危険性 が 高 い ことか ら,国 家緊急権創設 の憲 法 改 正 に強 く反対す るもの である。 2015年 (平 成 27年 )7月 青森 県弁 護 士 会 会 長 竹 本 真 1 3日
© Copyright 2024 ExpyDoc