1 <「校長室便り」53> 才能の多様性 霜降も過ぎ、北国からは雪の便り

<「校長室便り」53>
才能の多様性
霜降も過ぎ、北国からは雪の便りが聞こえる季節となった。
学校では中間テストが終わった。定期試験は始まるまでは問題
作成で忙しいし、終わると採点に忙しい。先生方は問題作成終了
から採点までのわずかな期間、少しだけ気持ちがリラックスする。
但し、入試広報部の先生方にはこの期間を利用して各中学校を訪
問してもらった。
私は問題を作成するわけでもないし、採点するわけでもないの
だが、このテスト期間はやはり少し解放されたような気持ちにな
る。そんなわけで、中間テストの3日目の午後、研修を取らせて
もらって知人たちのやっている書道のグループ展に出かけた。
高校の書道の先生をしていた人が多いが、自分の専門とする書の分野で新たな人生に
漕ぎ出そうとの意図のもとに始めたとのことであった。自分と同年代の人たちであり、
その人たちが新たなものに挑戦しているのを見るのは刺激になった。
メンバーの一人は数点の作品のどれも500回くらいは書いたとのことだった。 私も
2年前手習いを始めたのだが、夏の終わりに2時間ばかり立って書いていたら、腰が痛
くなり、それがそのままぎっくり腰に移行してしまった。治るのにひと月半もかかった。
それだけに一作品に500枚というのは驚いた。
少し遡るが書道と言えば、成田市に新しく出来た文化芸術セ
ンターで開催されていた成田市書道協議会の作品展も拝見し
た。その日は祝日だったが、全く偶然に市長さんにお会いし、
また前会長さん(本校の前書道教諭)、現会長さん(本校の卒業
生)にもお会いし、いろいろ説明を聞くことが出来た。
書は様々な会派があるが、この書展、また母体の協議会も流
派にとらわれず、伝統的なものから前衛的なものまで様々であ
った。しかもレベルが高い。わかりやすく言えば日展等に入選
している方々もおられ、市民としてもこのレベルの高さはうれ
しかったし、個人的にも勉強になった。
実を言うとこの前日、やはり市の芸術文化センターで上演されたオペラを見に行った。
成田でオペラというのは積極的な企画であり、文化芸術センターの担当者、またオペラ
の台本作者、作曲者、演出者等それぞれかなり心に期するものがあったのではないかと
想像した。
曲名は「二天の橋」、能にヒントを得ながら(と思うのだが)、成田の土地に因んだ場
所(印旛沼を想起させる沼)を設定し、楽器構成なども舞台の広さを考慮した意欲的な
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ものと私には思えた。もちろんオリジナル作品である。ハープは、当日気づいたのだが、
本校卒業生で本校の芸術教室にも何度か来てくださった女性奏者だった。パーカッショ
ンは一人で多くの楽器、それも目新しいもの(少なくとも私にとっては)もあって、新
鮮だった。
私は市民として、応援するような気持ちもあったのだが、上演の内容自体大変満足で
きるものであった。本校の建学理念の一つは「地方文化の向上」であるが、成田も新し
い文化創造の時代に入ったかな、などと考えた。
また、中間テスト期間のことに戻るが、私も市内の中学校周りをし、公津の杜中学校
を回った後で、ちょうどお昼だったので、近くのギャラリーに寄った。ここでは、前年
度3学期急遽美術の非常勤講師として来てくださった方が、個展を開催していた。実を
言うとこの方の前に、同じ場所でやはり3学期、本校に来てくださった方が個展を開催
しており、それも見に行っていた。
二人の作風はまったく違うが、伝統的な絵画、工芸彫刻と言ったものとはかなり違い、
その意味では前衛的と言ってもいいのだろう。しかし、前衛ということばから受けるよ
うな、鬼面人を驚かすと言った体のものではない。それでいながら、話を伺うと基本の
コンセプトは実にしっかりと意識しておられ、やはり刺激されるものがあった。
今週の金曜日(10月30日)から本校の美術
教諭が日比谷で個展を開催する。私も案内状をも
らったが、オープニングの日、松戸まである学校
の周年行事式典で出かけるので、ついでに作品を
拝見しようと思っている。
その案内状には一つの作品がプリントされてい
たが、上記ギャラリーのオーナーが言っておられ
たように(本校美術教諭と以前からの知り合い)、確かに一度見たら忘れられないような
絵である。
しかし、絵についてだって、上にも述べたようにどれも忘れられないような個性を持
っている。書についても同様だ。漢字在り、仮名在り、漢字でも甲骨文字から楷行草、
それも中国・日本。中国だって春秋時代から明・清更に現代まである。日本だって同様
だ。音楽も同様。これは芸術だけでなく、スポーツ、研究すべての分野について言える
だろう。突き詰めて行けば、これは人間の多様性に行き着くに違いない。
我が校の生徒たちに限らず、児童生徒は皆自分の得意とするもの、自分の好きなもの
を持っている。世界はそれを受け入れるだけの広さがある。子供たちには自分の個性と
才能を生かし、この広い世界の中でそれぞれ自分の場所を占めて行ってほしい。
そんなことを感じさせた芸術の秋前半であった。
(2015.10.27)
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