卯 ウ 浪 ナミ 俳句 ハイク 会報 カイホウ 8 月 ガツ

今
卯
井
浪
肖
集
子 選
見上ぐれば空やや遠く今朝の秋
日盛や僧腕まくり筆をとる
◎引き綱に手応へのなし迎鐘
六波羅に閻王の耳尖りけり
六道の辻に真白き花むくげ
棚経の僧湯呑みには口つけず
涼風と幽霊飴を手土産に
閻王を間近に心静まらず
昼の露地人影もなく秋暑し
迎鐘力加減を計りかね
秋日傘傾げゆく六道の辻
六 道 を 抜 け 新涼 の 大 伽 藍
人見えず蝉しぐれなり昼の園
髪の毛を高めに結つて夕涼み
ビルを抜け角を曲がりて遠花火
突然の雨に濡れつつ墓洗ふ
熊蝉の耳痛きほど鳴き通す
◎流灯や胸元照らす水明り
七歳は七歳のまま霊 送 り
残暑かな 人も 車 も ゆ る ゆ る と
都
小 泉 悦代
〃
中島 慶雄
大黒ひさゑ
〃
辻本 時 子
西村 博子
木村 直子
掃部裕紀子
藤井めぐむ
竹内 恵 子
〃
池田 紬子
長畑 なみ
〃
中 川 金時
〃
小鷲 溪子
〃
高良 楽水
会報第三九号
二○一○年八月
京
京 都
京 都
京 都
京 都
京 都
京 都
京 都
京 都
宮
大 宮
大 宮
大
柏
柏
黄昏の鬼灯横町釣瓶井戸
休憩の庭師見上ぐる夏木立
湖面上弧を 為 し開く大 花火
伸び尽くし自在に揺ら ぐ葛かづ ら
お台場の月影薄し屋形船
浴衣下駄慣れぬ身形で 夜の市
朝顔のう しろ姿を見る窓辺
最北端昆布浜辺に干されをり
蜩の声胸に入るかなかなと
一枚の戦争履歴終戦日
お台場で鯊釣る人に出会ひたり
盆提灯床にとどきし旧 家かな
母の声朝 より高し夏 休 み
墓参見知ら ぬ人に笑み返す
朝市の老婆それぞれ島の秋
故郷の訛り懐かし雲の峰
せせらぎの水と戯る花藻かな
良縁を願の糸に託しをり
一木を大きくしたる蝉一匹
表情の失せたる顔や秋暑し
緑陰へコーヒー豆を煎る響き
湿りたる土ほろほろと花茗荷
◎墓洗ふ体温ほどの御影石
緑陰の心地良き風全身に
そっと来てそっと去り行く蜻蛉かな
はたた神ゆきただ後は 雲の海
◎まつすぐな日焼けの足は水を蹴る
朝顔の四つ咲きたる 安堵感
鳳凰のまだ眠りたる祭前
ほほづきや母の口元まろやかに
朝夕の日差し日に日に秋めいて
最後には 線 香花火旅の 夜
柏
柏
柏
柏
柏
柏
柏
柏
柏
柏
柏
柏
柏
柏
柏
前 橋
前 橋
前 橋
前 橋
前 橋
前 橋
深 川
深 川
深 川
深 川
角田卯の 花
松村季代子
永井 糸 遊
伊藤ミヨ子
村田五百代
曽我部晩成子
吉 井 安里
〃
高貝 敏子
〃
高橋ときこ
大網ゆう子
〃
樺島
祥
石井 恵 茶
斉藤 久野
山口 雅 子
久米 孝子
飯塚 柚花
〃
戸所 理栄
〃
〃
森田 幸子
〃
千明小狐如
神子沢さくら
富所せつ子
海老澤希由
瀧川
純
山田 理恵
堀江
惠
1
炎天の町に茶を煎る匂ひして
石仏の赤き帽子や秋暑し
高原の風草をなで秋となり
◎秋祭りこど も歌舞 伎 の役決まる
もう一年 まだ一年の 門 火焚く
三合の酒と夜風と遠花火
人の背も花もしをれる残暑かな
古民家に長靴一つ蝉時雨
古民家の天井高く秋の風
蝉しぐれ病棟の窓ちよと開ける
烏賊踊あるらし浜の祭りかな
◎海底駅通過中なり昼寝の子
朱を入れて建てし二人の墓洗ふ
◎白桃を少しお行儀悪く食べ
秋暑し早送りしてドラマ見る
地蔵盆赤の前垂新しく
城跡の空堀くづれ草茂る
古民家の青き実の揺れ秋近し
蝉時雨遠く水音聞こえ来る
日焼して坊主頭に帽子あと
よく踊る 老若男女阿波の夏
夏帽子周 遊バスを埋 め 尽くす
父親が仕 切り線香花 火かな
鶏頭の赤き活けあり会議室
木漏れ日の 山 路つくつ く法師かな
先頭の父が手に持つ捕虫網
◎父の忌の音無き花火見てゐたり
眼をこすりラジオ体操夏休み
蠍座を二人で探す夏の夜
朝顔の深い蒼さに引き込まれ
満月の上に一片雲流る
どこ行くもお伴となりて秋日傘
深
深
深
川
川
川
深 川
深 川
多 摩
多 摩
多 摩
多 摩
多 摩
多 摩
多 摩
多 摩
熊 本
熊 本
熊 本
熊 本
熊 本
浜
浜
浜
熊 本
横
横
横
平 井 輝子
〃
植村 美明
池垣真知子
〃
秋 野 裕子
中村 芳子
宮西かりん
〃
堀
洋海
渡辺美夜香
〃
原山
惠
香 川 銀魚
〃
田 中 きよ
能村みずき
大滝有終美
〃
大藪恵美子
北村 睦子
藤井
鴻
〃
小川 房子
眞渕富士子
〃
〃
江上 英子
〃
小原 循子
酒巻
和
桜井 さく
夜明け前大音声の蝉時雨
歓声と揃ひのシャツと夏帽子
まばたきを惜しむ暇に流れ星
夏の雲少年一人旅に出る
残り湯を植木に運ぶ夏の朝
バスの席また譲られる炎暑かな
初秋の遠くの風を見てをりぬ
子ら去りて広き母屋や虫の声
星月夜今宵は山の匂ひ濃し
献木の幹の太さや終戦日
愛称で呼ばれ余生の馬肥ゆる
◎ゆるゆると地を離れけり揚花火
長き夜のひとりのための蛍光灯
花火消えゆつくり帰る二人かな
空蝉の留 まりしままの 葉の揺ら ぎ
蛍火や我が胸熱く点滅す
明け方に蜩聴いてまた眠る
どこからか音だけ聞こゆ遠花火
野 仏 に 百 日 草の 揺 れ て を り
稲妻に向かひの犬の鳴きだしぬ
朝顔や大輪の下つぼみあり
手花火を回して色の輪を描く
草を引く丸まつてゆく団子虫
子供らの歓声に咲く花火かな
窓開けて蜩のこゑ入れにけり
稲光今日もどこかで通り雨
秋暑し首に手ぬぐひ巻いたまま
音のする方を探して遠花火
雨激し残暑の匂ひ消してゆく
いづこより香り来る白粉の花
炊き出しを待つ人の列秋暑し
横
横
横
横
横
青
青
青
浜
浜
浜
浜
浜
山
山
山
原
原
原
原
青
青
原
原
宿
宿
宿
宿
宿
山
山
宿
宿
青 山
青 山
原
原 宿
原 宿
原 宿
野上 充 子
真壁 藤子
森 奈保美
八木たみ女
芳 垣 珠華
齊藤 好司
中 里 三句
中里 柚 子
〃
竹内はるか
渡辺 光子
〃
〃
遠 藤 由美
小林 含 香
堀田
葵
鳶 田 美継
〃
川口 水木
〃
服部 萌子
宮 田 珠子
〃
加藤 ち え
〃
三小田 宙
〃
井 上 芙蓉
渡辺
檀
白山 素風
〃
2
天の川またぐ大きな三角形
◎切り売りの西瓜ピラミッドの形
抜け殻になるほど踊り狂ひけり
とりどりの浴衣あふれる駅舎かな
母語るあの日の暑さ終戦日
大木の百日紅燃ゆ炎天下
新生姜風吹き渡る口の 中
だんだんに影伸びて秋近づいて
流れ行く人工衛星星月夜
送火の煙ドアより戻り来し
蜻蛉追ふ足取り吾も子に帰る
炎天の名所旧跡訪ね た る
噴水のしぶ き を 浴 び て 語 り た る
朝涼や渓流翡翠色をして
渓流に遊ぶ家族の夏休
人の輪の大きくなりぬ盆踊
大夕立後の静けさ庭にあり
喧騒を静 寂にする初 嵐
改めて墓誌銘見入る墓参
蜘蛛の囲に捕らはれし羽の動きをり
セスナ機の駆け上がる空秋涼し
田に届くほどに花火の しだれけ り
万人の眼 にほどけゆ く 大花火
道端に落ちてなほ鳴く秋の蝉
万灯の会ふ日今夜の風のあり
風揺れて稲穂は金の波となり
新しきエンジンの音草を刈る
捥ぎたてのトマトで足りる昼餉どき
原
宿
表参道
表参道
表参道
表参道
表参道
田
川
川
表参道
田 川
田
大牟田
大牟田
大牟田
武蔵野
武蔵野
武蔵野
武蔵野
武蔵野
富 山
富 山
岸田 祐子
〃
〃
今泉
晶
〃
堀内みさ子
福室 百野
近見江 身 子
佐藤眞理子
〃
川口 祐子
林
紀子
〃
野田 静香
〃
佐藤 カ ヨ
〃
海谷 育男
前原八寿之
志岐 鈴恵
鈴木 鈴女
下元 夏乃
〃
古賀 文子
新海多恵子
杉江 葉子
藤井 靖人
藤井 佳乃
《特選句評》
墓洗ふ体温ほどの御 影 石
戸所 理栄
墓 洗ふ 、と い う 具体 的な 動き の 見え る 季題と 、 体 温ほど にあ
た た ま っ て し ま っ た 墓 石 。 何 も 説 明 して い ま せ ん が 、 暑 い 中 墓
参 (は か ま ゐり) を し た作者 が、 お墓 に 話 し かけ な がら 何 度 も
水をかけて いる様 子が伝わって 来 ます。 御影石、も効いて ます
ね。
海底駅通過中なり昼寝の子
渡辺美夜香
昼寝の子、は さまざまな状況で 一句になって いますが、この
切 り と り 方 は お も しろ い で す ね。 こ う い う 句 に 出 会 う と 、 俳 句
は、時には写 真よりも くっき りと 思い出の映 像を結 ぶことがあ
る、と実 感 し ます。
白桃を少しお行儀悪く食べ
香川 銀魚
いかにも美味しそうな句。かぷっとかぶりついた白桃の甘さ
とみずみずしさが、伝わってきます。口語口調なので、食べ
(てしまいました)
、という感じでしょうか。
ゆるゆる と地を離れけ り揚花火
渡辺 光 子
こ う い う 揚 花 火 の 詠 み 方 も あ る の か 、 と 感 心 し ま し た 。 確か
に、ゆ るゆ る、で す ね 。 その ゆる ゆるは 、観 衆に見 つめられ な
がら輝 く一瞬へ向 かって いる。ものごと の本質を詠むの に、理
屈も難しい言葉もいらない、とあらためて思いました。
切り売りの西瓜ピラミッドの形
岸田 祐 子
西 瓜 は 球 形で す か ら 、 も ち ろ ん 正 確 に は 、 ピ ラ ミ ッ ド 形 (四
角すい)で はないので すが、ふと した発見を さりげなく 一句に。
切り売 りの 、 の上 五 が 、 説明 に な ら ず に 情 景 を 思い 浮か ば せて
共感を。
3
《近 詠》
今 井 肖 子
新涼の森に何本風の道
竹籠にひとつづつ音虫を売る
森 荘
吉 選
息をするやうに星降る星流る
藤
《ひとこと》
都
都
京
京
都
都
都
京
京
京
小 泉 悦代
〃
〃
〃
〃
中島 慶雄
〃
大黒ひさゑ
〃
〃
〃
辻本 時子
西村 博子
この三句目、はじめは「息をするや
うに星降る島にゐる」でした。でも、
「星降る」は、流れ星のことではなく、
星が たくさん出て いるというこ とな の
で、季題が無いとわかり推敲。結局あま
りうまくいきませんでした。ただ、あき
れるほど の流れ星を 口を 開けて 見なが
ら、ぽっかりうかんだ句を残しておきた
い、と思いまして。ちょっと未練がまし
いかな。
迎鐘思ひの丈や路地の列
見上ぐれば空やや遠く今朝の秋
大寺に新涼の風吹き抜けり
日盛や僧腕まくり筆をとる
親離れせぬまま逝きて夏幾度
引き綱に手応へのなし迎鐘
炎帝をつんざくごとくクレーン伸ぶ
油照白磁の皿をひさぐ人
雲の峰 古 寺の大屋根ゆ るぎなし
六波羅に閻王の耳尖りけり
淡墨の書でしつらへる夏座敷
四文字は 妣と観たり し 大文字
天の川異国の夜空届く程
それぞれに思ふ事ある大文字
寝覚めしや日の出と共に蝉の鳴く
秋立ちぬ嫁ぐ娘と陶器市
迎鐘力加減を計りかね
寺の庭芙蓉の花が艶やかに
打水の昼餉の店に舞妓 かな
迎鐘聞くほどの音鳴らざりし
立秋も太陽真上ギラギラと
髪の毛を高めに結つて夕涼み
炎帝に睨 まれ鈍る歩 み かな
散策の準備完了サングラス
ビルを抜け角を曲がりて遠花火
ふるさとに着くやしきりに稲光
突然の雨に濡れつつ墓洗ふ
炎天下旗色褪せし分譲地
熊蝉の耳痛きほど鳴き通す
皆無口精霊舟を送りけり
◎七歳は七歳のまま霊送
帰省子の思ひ出残し帰りけり
いつまでも残暑猛暑の声止まず
残暑かな人も車もゆるゆると
猛暑の夜山際赤い月昇る
石鹸玉掴みし小さな掌で
ボランティア済んで一服雲の峰
休憩の庭師見上ぐる夏木立
梔子や友の妹の旅立ちて
絶唱に疲れにじませ秋の蝉
法師蝉わがベランダにゐるらしく
踊見のつもりが踊る人となり
お台場の月影薄し屋形船
鋭きは 猛 禽の目の今 日 の 月
京
京
京
京
大
大
大
柏
柏
柏
柏
柏
柏
柏
都 木村 直子
〃
都 掃部裕紀子
都 藤井めぐむ
〃
都 竹 内 恵子
〃
宮 池田 紬子
宮 長畑 なみ
〃
〃
〃
宮 中川 金 時
〃
〃
〃
小鷲 溪子
〃
高良 楽水
〃
〃
角田卯の花
〃
〃
松村季代子
永 井 糸遊
伊藤ミヨ子
〃
村田五百代
〃
〃
4
日々変る木槿の影やガラス窓
夏盛り古稀過ぐゴルフ高き地へ
朝顔のう しろ姿を見る窓辺
朝食の前に朝顔数へたり
蜩の声胸に入るかなかなと
母よりも二十年生き盆仕度
よろよろと生まれたばかり揚羽蝶
路地ひとつ違へて来たり今朝の秋
夏草の伸びゆくままに越後駒
老猫のただ腹ばひて夏廊下
お台場で鯊釣る人に出会ひたり
盆提灯床にとどきし旧 家かな
母の声朝 より高し夏 休 み
蝉舞つてコンクリートを最後とす
墓参見知ら ぬ人に笑み返す
朝市の老婆それぞれ島の秋
声高く風変はらねど虫の声
これ程に ビールの旨き 年はなし
七年の命をここに蝉時雨
音の無き茶室の木槿凜として
秋桜ゲレンデリフト埋め尽くし
山登り駒草見つけ歩み止め
幼子は身ぶ り 手ぶりの 盆踊
ツンツンと青空つつき木槿かな
表情の失せたる顔や秋暑し
静かなる 夜の外れの 遠 花火
新涼にひと息ついて逝きにけり
緑陰へコーヒー豆を煎る響き
能弁の電話勧誘秋暑し
墓洗ふ体 温ほどの御 影石
緑陰の心地良き風全身に
そつと来てそつと去り行く蜻蛉かな
柏
柏
柏
柏
柏
柏
柏
柏
柏
柏
前 橋
前 橋
前 橋
曽我部晩成子
〃
吉 井 安里
〃
高貝 敏子
〃
〃
〃
高橋ときこ
〃
〃
大網ゆう子
〃
樺島
祥
〃
石井 恵 茶
〃
斉藤 久野
〃
山口 雅 子
〃
〃
久 米 孝子
〃
飯塚 柚花
〃
〃
戸所 理栄
〃
〃
森田 幸子
〃
新涼や背中の嬰は夢の中
◎水着ギャ ル 水着だけ しか着て をらず
はたた神ゆき ただ後は 雲の海
それぞれの間でそれぞれに蝉時雨
その下の変はりなけれど秋の空
◎まつすぐな日焼の足は水を蹴る
始まりは乱れし和音虫の声
小さくて大いなる足蟻の行
滝壺の真 中のやうな蝉 時雨
鳴くことが生の証か蝉時雨
投影の橋を揺らして初嵐
ほほづきや母の口元まろやかに
物陰の風たゆみなし夜の秋
朝顔の目覚めに会へず向かふ駅
初嵐去り行く季節追ひかける
終戦日それぞれ思ひ胸に秘め
背伸びして桃をねだる児一才に
最後には 線 香花火旅の 夜
かはほりや佃小橋のうつくしき
炎天の町に茶を煎る匂ひして
高原の風草をなで秋となり
初嵐塵も憂ひも吹き飛ばせ
秋祭こども歌舞伎の役決まる
◎幾千の静止画像や終戦日
もう一年 まだ一年の 門 火焚く
寝苦しき夜の窓辺に星流る
黒き雲重なりあひて初嵐
昼下がり日傘の美人首美人
古民家の天井高く秋の風
蝉しぐれ病棟の窓ちよと開ける
めまとひの城跡は深き森の中
ぽ つ ぽ つ と 沖の 漁 火 夜 の 秋
前
前
前
深
深
深
深
深
深
深
深
深
多
多
〃
橋 千明小狐如
〃
〃
〃
橋 神子沢さくら
〃
〃
橋 富所せつ子
〃
川 海老澤希由
川 瀧川
純
〃
川 山田 理恵
〃
〃
川 堀江
惠
〃
川 平 井 輝子
〃
川 植村 美明
〃
川 池垣真知子
〃
〃
川 秋 野 裕子
川 中村 芳子
摩 宮西かりん
〃
摩 堀
洋海
〃
渡辺美夜香
多 摩
5
朱を入れて建てし二人の墓洗ふ
白桃を少しお行儀悪く食べ
秋暑し早送りしてドラマ見る
音のして顔半分の遠花火
城跡の空堀くづれ草茂る
蝉時雨遠く水音聞こえ来る
出て見れば少し秋めく風であり
手花火の暮るるを幼待ちにけり
なだらかに 続 く稜線 秋 の雲
水軍の誇りし海の土用波
炎帝や山青々と牧の牛
◎夏帽子周遊バスを埋め尽くす
父親が仕 切り線香花 火かな
落蝉に蟻むらがるや群がるや
先頭の父が手に持つ捕虫網
父の忌の音無き花火見てゐたり
球児等の 夏終りけり 帽 子脱ぐ
厨にて押し合ひながら西瓜食む
眼をこすりラジオ体操夏休
怪しげに何に酔ふのか酔芙蓉
満月の上に一片雲流る
どこ行くもお伴となりて秋日傘
ファイヤーの消えし広場に星月夜
忘れ物抱へてをりし墓 参まだ
いつのまに虫の音すだく秋となり
炎天にひるむ我が身や一歩出す
歓声と揃ひのシャツと夏帽子
気の重い用事の増えて秋暑し
湯 上 が り の 夜風 に 当 り 今 日 の 秋
まばたきを惜しむ暇に流れ星
◎夏の雲少年一人旅に出る
山夕焼最終 バスに乗 り 込みぬ
多 摩 原山
惠
多 摩 香 川 銀魚
〃
多 摩 田 中 きよ
多 摩 能村みずき
多 摩 大滝有終美
〃
熊 本 大藪恵美子
〃
熊 本 北村 睦子
〃
熊 本 藤井
鴻
〃
熊 本 小川 房子
熊 本 眞渕富士子
〃
熊 本 江上 英子
〃
〃
横 浜 小原 循 子
横 浜 酒巻
和
横 浜 桜井 さく
〃
〃
横 浜 野上 充 子
〃
横 浜 真壁 藤子
〃
〃
横 浜 森 奈保美
横 浜 八木たみ女
〃
大花火果てて名残の空しばし
お手軽な避暑地となりし喫茶店
バスの席また譲られる炎暑かな
初秋の遠くの風を見てをりぬ
踊の輪流れるままの手振かな
飼犬の逝き庭広し百日紅
子ら去りて広き母屋や虫の声
星月夜今宵は山の匂ひ濃し
神妙に覗く子の眼や西瓜切る
献木の幹の太さや終戦日
暑き日や不戦を胸に黙祷す
愛称で呼ばれ余生の馬肥ゆる
撫でて来し馬の体温露の夜
◎長き夜のひとりのための蛍光灯
姪つ子やゴム縫ひ付けし夏帽子
花火消えゆつくり帰る二人かな
すくと立つ鶏頭の紅の深さかな
空蝉の留 まりしままの 葉の揺ら ぎ
新涼やうなじを通り過ぎし風
初盆や亡き後の日の早さかな
明け方に蜩聴いてまた眠る
どこからか音だけ聞こゆ遠花火
風鈴のち んと鳴りたる暑さかな
留まらぬ川面に映えし小さき秋
白桃の匂いかかえて帰宅せり
手花火を回して色の輪を描く
草を引く丸まつてゆく団子虫
子供らの歓声に咲く花火かな
音届くまで 数へをり遠花火
窓開けて蜩のこゑ入れにけり
宿題のあさがほの鉢枯れてをり
◎父母も子供なるかな墓参
〃
横 浜 芳垣 珠華
青 山 齊藤 好司
青 山 中 里 三句
〃
青 山 中里 柚子
〃
〃
〃
青 山 竹内はるか
〃
青 山 渡辺 光子
〃
〃
青 山 遠 藤 由美
〃
〃
青 山 小林 含 香
〃
原 宿 堀田
葵
原 宿 鳶 田 美継
〃
原 宿 川口 水木
原 宿 服部 萌子
〃
原 宿 宮 田 珠子
〃
原 宿 加藤 ち え
〃
〃
〃
〃
6
門火焚く母の背中の寂しさよ
稲光今日もどこかで通り雨
秋めくや水まく庭に風走り
秋暑し首に手ぬぐい巻いたまま
蜩や旅の疲れも癒されて
願ふこと子の事ばかり星祭る
どんと来て寝転んで見る花火かな
音のする方を探して遠花火
山百合の強過ぎる香や眠き朝
雨激し残暑の匂ひ消してゆく
新涼の風と お にぎり 頬 張れり
とんぼうの朝はのんびり風まかせ
亡き父母に話しかけつつ墓掃除
切り売りの西瓜ピラミッドの形
仰向けに乾いて死ぬる秋の蝉
とりどりの浴衣あふれる駅舎かな
君ゆきし空を仰ぎて秋を知る
地に落ちて 妖 しく朱き 凌霄花
母語るあの日の暑さ終戦日
蝉が言ふ朝からごめんねうるさくて
残暑暮れああいい風と一人言ふ
新生姜風吹き渡る口の 中
一瞬が一生と散る大 花 火
忙しなきものの極みや法師蝉
叢の声夜毎 増し秋を 呼 ぶ
だんだんに影伸びて秋近づいて
夏の蝉役目を終へて潔し
打水に心優しき人思ふ
送火の煙ドアより戻り来し
繋ぐ手にヨーヨー孫と夏祭り
蜻蛉追ふ足取り吾も子に帰る
日焼止め海に流れて大火傷
原
原
原
原
原
宿
宿
宿
宿
宿
表参道
表参道
表参道
表参道
表参道
表参道
三小田 宙
〃
〃
〃
〃
井上 芙蓉
〃
〃
〃
渡辺
檀
〃
〃
白山 素風
岸田 祐子
〃
今泉
晶
〃
〃
〃
堀内みさ子
〃
福室 百野
〃
〃
〃
近見江 身 子
〃
〃
佐藤眞理子
〃
川口 祐子
〃
燈籠の流るる川に泪 落 ち
盆太鼓ドンドンドンガラガッカ響かせて
クレパスで描いたやうな虹の立つ
旅の汗流して浸る露天風呂
暫くは瀧の流れを眺めをり
清流のあり蜻蛉の飛ぶところ
吾子の目に輝いてをり天の川
まどろみて微笑む吾子の大暑かな
◎鮮やかに夕餉を染める西瓜かな
朝一の蝉の声には力あり
喧騒を静 寂にする初 嵐
紅白の枝先揺らす百日紅
さまざまの雨戸の裏の虫の声
蜘蛛の囲に捕らはれし羽の動きをり
照り返す打水むなしアスファルト
寂れゆく故郷ありて盆の月
◎あれこ れを語りかけ つつ墓洗ふ
面取りの 南瓜が映え る 赤絵鉢
セスナ機の駆け上がる空秋涼し
幼子の疲れ知らずや水鉄砲
田に届くほどに花火の しだれけ り
外に出れば襲ひ来るかに夏の雲
万人の眼 にほどけゆ く 大花火
幼子にいちご色した花 火かな
巻き上がる土のにほひや夏の雨
道端に落ちてなほ鳴く秋の蝉
「長門」のみ帰船とぞ知る終戦日
盆踊静かな町に子らはしやぐ
新築の枯山水の夏座敷
水音を聞き風を聞く夏座敷
猛暑の日若き医師等に助けらる
捥ぎたてのトマトで足りる昼餉どき
田
田
田
川
川
川
大牟田
大牟田
大牟田
武蔵野
武蔵野
武蔵野
武蔵野
武蔵野
富 山
富 山
〃
〃
林
紀子
〃
野田 静香
〃
佐藤 カ ヨ
〃
海谷 育男
〃
〃
前原八寿之
〃
志岐 鈴恵
〃
鈴木 鈴女
〃
〃
〃
下元 夏乃
〃
〃
〃
〃
古賀 文子
〃
新海多恵子
杉江 葉子
藤井 靖人
〃
藤井 佳乃
〃
7
《特選句評》
七歳は七歳のまま霊送
小鷲 溪 子
夭逝とは、いくつ位までのことをいうのだろうか。亡く
なった時のままの容姿が残された人たちの心に今も甦る。
「時」を上手く詠みおおせた句である。
水着ギャル水着だけしか着てをらず 千明小狐如
ま さ に 読 ん で 字 の 如 く 、 そ の ま ん まの 句 。 何 の こ と は な い 、
「そりゃ そうなんです なぁ」としか言い よう がないが、で も、
こういう句、なかなか思いつかないですねぇ。
幾千の静止画像や終戦日
池垣真知子
面 影と か、 情 景 と か 言わ ず に 「 静 止 画 像 」 と 言 っ て いる 。
セ ピ アに 色 あ せ た光 景 、 様 々 な 人 の 表 情 、 ニ ュ ー ス 映 像 のひ
と こ ま 、 遺 影 、 胸 に し の ば せ た 家 族写 真 、 幾 千 万 の 戦 争 記 憶 。
「もう二度と・・・」という心も込められている。
長き夜のひとりのための蛍光灯
渡辺 光 子
ちょっと早く秋の夜を 詠みましたね。少し黄色味がかっ た
電球 の 灯 火で は な く、 白く、ち ょ っと 冷 た く輝 く 蛍光 灯。陰
翳 が 少 な く 、 孤 独感 を 退け て く れ る か 。ひ と り に 付 き 合 っ て
くれる、寄り添ってくれるのは蛍光灯。
父母も子供なるかな 墓 参
加藤 ち え
両親もそのまた両親の子供。故人を 思う感傷から、生命の
バト ンタ ッチ、厳然 たる血 脈に 思いが 及んだ。や っぱりお墓
参りに行くと、色々な事を思いますね。
《近 詠》
藤 森 荘 吉
一向に涼しくならぬ日々ばかり
風少し乾きて夏の終りけり
﨑
貴 子 選
はつとしてバンジージャンプ爽やかに
山
《 ひ と こ と 》
「五百十一句並べて残暑かな
荘
吉 」今 回 は 五 一一句 から 選 びま し た。
い つ も 思 う の は 、「 俳 句 っ て 、 深 い
なぁ、広 いなぁ、海みたいだなぁ 」と
京
京
京
京
都
都
都
都
都
小 泉 悦代
〃
〃
〃
中島 慶雄
〃
大黒ひさゑ
〃
〃
辻本 時子
〃
西村 博子
〃
〃
い うこ と 。で も 大き な 海 を 自由 の泳 ぐ
京
のは楽しいですね。
迎鐘思ひの丈や路地の列
見上ぐれば空やや遠く今朝の秋
大寺に新涼の風吹き抜けり
日盛や僧腕まくり筆をとる
引き綱に手応へのなし迎鐘
炎帝をつんざくごとくクレーン伸ぶ
六道の辻に真白き花むくげ
雲の峰 古 寺の大屋根ゆ るぎなし
淡墨の書でしつらへる夏座敷
迎鐘引きも切らずに鳴りしこと
棚経の僧湯呑みには口つけず
陶器市賑はひ 余所に門 涼み
天の川異国の夜空届く程
◎涼風と幽霊飴を手土産に
8
閻王を間近に心静まらず
それぞれに思ふ事ある大文字
昼の露地人影もなく秋暑し
いざ出番踊浴衣が列をなし
秋立ちぬ嫁ぐ娘と陶器市
迎鐘力加減を計りかね
閻王とどこか似たるや亡き父に
秋日傘傾げゆく六道の辻
六 道 を 抜 け 新涼 の 大 伽 藍
打水の昼餉の店に舞妓 かな
迎鐘聞くほどの音鳴らざりし
我が夫は真菰の馬で帰りけり
◎髪の毛を高めに結つて夕涼み
散策の準備完了サングラス
ビルを抜け角を曲がりて遠花火
ふるさとに着くやしきりに稲光
突然の雨に濡れつつ墓洗ふ
四世代集ひ機嫌の生身魂
皆無口精霊舟を送りけり
流灯や胸元照らす水明り
帰省子の思ひ出残し帰りけり
甚平を着て父と子の男旅
黄昏の鬼灯横町釣瓶井戸
役員のござ干してゐる祭あと
湖面上弧を 為 し開く大 花火
伸び尽くし自在に揺ら ぐ葛かづ ら
法師蝉わがベランダにゐるらしく
◎踊見のつもりが踊る人となり
お台場の月影薄し屋形船
浴衣下駄慣れぬ身形で 夜の市
朝顔のう しろ姿を見る窓辺
最北端昆布浜辺に干されをり
京
京
京
京
大
大
大
柏
柏
柏
柏
柏
柏
柏
柏
柏
都 木村 直子
〃
都 掃部裕紀子
〃
〃
都 藤井めぐむ
〃
都 竹内 恵 子
〃
〃
〃
宮 池田 紬子
宮 長畑 なみ
〃
〃
宮 中川 金 時
〃
〃
小鷲 溪子
〃
高良 楽水
角田卯の花
〃
松村季代子
永井 糸 遊
伊藤ミヨ子
〃
村田五百代
〃
安里
曽我部晩成子
吉井
〃
朝食の前に朝顔数へたり
母よりも二十年生き盆仕度
よろよろと生まれたばかり揚羽蝶
路地ひとつ違へて来たり今朝の秋
お台場で鯊釣る人に出会ひたり
ナイターの席は次第に埋まれけり
ナイターの延長戦に帰る客
◎母の声朝より高し夏休
日盛の入り込む熱動かざる
盆客を田を渡る風もてなして
墓参見知ら ぬ人に笑み返す
朝市の老婆それぞれ島の秋
これ程に ビールの旨き 年はなし
七年の命をここに蝉時雨
せせらぎの水と戯る花藻かな
秋桜ゲレンデリフト埋め尽くし
良縁を願の糸に託しをり
見上ぐれば手に触るるほど星月夜
幼子は身ぶ り 手ぶりの 盆踊
一木を大きくしたる蝉一匹
表情の失せたる顔や秋暑し
静かなる 夜の外れの 遠 花火
新涼にひと息ついて逝きにけり
能弁の電話勧誘秋暑し
緑陰の心地良き風全身に
緑陰の風に命を助けられ
そつと来てそつと去り行く蜻蛉かな
新涼や背中の嬰は夢の中
それぞれの間でそれぞれに蝉時雨
我が庭の木から生まるる油蝉
まつすぐな日焼の足は水を蹴る
始まりは乱れし和音虫の声
柏
柏
柏
柏
柏
柏
柏
柏
前 橋
前 橋
前 橋
前 橋
前 橋
〃
高貝 敏子
〃
〃
高橋ときこ
大網ゆう子
〃
〃
樺島
祥
〃
〃
石井 恵 茶
斉藤 久野
〃
山口 雅 子
〃
久米 孝子
〃
〃
飯塚 柚花
〃
〃
〃
戸所 理栄
森田 幸子
〃
〃
〃
千明小狐如
神子沢さくら
〃
〃
9
鳴くことが生の証か蝉時雨
鳳凰のまだ眠りたる祭前
ほほづきや母の口元まろやかに
物陰の風たゆみなし夜の秋
朝顔の目覚めに会へず向かふ駅
初嵐去り行く季節追ひかける
風まかせ ビルのすき 間 に見る花 火
終戦日それぞれ思ひ胸に秘め
長唄の稽古場前や虫鬼灯
最後には 線 香花火旅の 夜
橋渡り祭支度の町歩く
石仏の赤き帽子や秋暑し
独り居にドーナツ届く今朝の秋
高原の風草をなで秋となり
打ち止めの花火の音のみ残されし
秋祭こども歌舞伎の役決まる
亡祖父に俘虜の記ありし盆の月
雨音のまだ届かずに蝉の杜
もう一年 まだ一年の 門 火焚く
蜩やけふ一日を鳴き納む
寝苦しき夜の窓辺に星流る
人の背も花もしをれる残暑かな
黒き雲重なりあひて初嵐
古民家に長靴一つ蝉時雨
古民家の天井高く秋の風
蝉しぐれ病棟の窓ちよと開ける
髪洗ふ旅の前にも終りにも
烏賊踊あるらし浜の祭かな
ぽ つ ぽ つ と 沖の 漁 火 夜 の 秋
海底駅通過中なり昼寝の子
夏の空姿 佳き山御陵な り
朱を入れて建てし二人の墓洗ふ
川
川
前 橋
深 川
深 川
深
深
川
川
深
深
川
川
川
深
深
深
多 摩
多 摩
多 摩
多 摩
富所せつ子
海老澤希由
瀧川
純
〃
山田 理恵
〃
〃
〃
堀江
惠
〃
平 井 輝子
〃
〃
植村 美明
〃
池垣真知子
〃
〃
〃
秋 野 裕子
〃
中村 芳子
〃
宮西かりん
〃
堀
洋海
〃
渡辺美夜香
〃
〃
原山
惠
〃
秋の蚊の透けるだんだら模様かな
秋暑し早送りしてドラマ見る
地蔵盆赤の前垂新しく
新涼の通 り過ぎたる 早 さかな
鳳仙花かつて路地裏埋めし花
透き通る青に白雲秋来たる
城跡の空堀くづれ草茂る
蝉時雨遠く水音聞こえ来る
出て見れば少し秋めく風であり
線香花火玉を結びし間の短か
秋団扇握りしめ見る応援席
なだらかに 続 く稜線 秋 の雲
よく踊る 老若男女阿波の夏
水軍の誇りし海の土用波
炎帝や山青々と牧の牛
◎夏帽子周遊バスを埋め尽くす
サングラスまだ青年の匂ひあり
父親が仕 切り線香花 火かな
城の木に数多登りし蝉の殻
朦朧と石垣に添ひ城残暑
木漏れ日の 山 路つくつ く法師かな
◎先頭の父が手に持つ捕虫網
本丸に遺りし磴や草の花
父の忌の音無き花火見てゐたり
球児等の 夏終りけり 帽 子脱ぐ
厨にて押し合いながら西瓜食む
眼をこすりラジオ体操夏休
蠍座を二人で探す夏の夜
朝顔の深い蒼さに引き込まれ
満月の上に一片雲流る
どこ行くもお伴となりて秋日傘
ファイヤーの消えし広場に星月夜
多
多
多
多
熊
熊
熊
熊
熊
熊
横
横
横
摩 香川 銀 魚
〃
摩 田 中 きよ
〃
〃
摩 能村みずき
〃
摩 大滝有終美
〃
本 大藪恵美子
〃
〃
本 北村 睦子
〃
〃
本 藤井
鴻
〃
〃
本 小 川 房子
〃
本 眞渕富士子
〃
〃
〃
本 江上 英子
〃
〃
〃
小原 循子
酒巻
和
桜井 さく
〃
浜
浜
浜
10
炎天にひるむ我が身や一歩出す
歓声と揃ひのシャツと夏帽子
気の重い用事の増えて秋暑し
手花火に笑顔作るも固まる子
送り火の煙たなびく道標
まばたきを惜しむ暇に流れ星
朝涼の山の湯宿に目覚めけり
山夕焼最終 バスに乗 り 込みぬ
大花火果てて名残の空しばし
食べ頃は今日か明日かと桃見ゆる
大和舞奏せば止めり夏の雨
バスの席また譲られる炎暑かな
秋風や卒塔婆五本の新しき
初秋の遠くの風を見てをりぬ
踊の輪流れるままの手振かな
飼犬の逝き庭広し百日紅
子ら去りて広き母屋や虫の声
星月夜今宵は山の匂ひ濃し
神妙に覗く子の眼や西瓜切る
献木の幹の太さや終戦日
愛称で呼ばれ余生の馬肥ゆる
ゆるゆると地を離れけり揚花火
長き夜のひとりのための蛍光灯
鴉鳴き 立 ちて 一葉の 落 ちゆけり
すくと立つ鶏頭の紅の深さかな
◎空蝉の 留 まりしま まの葉の揺ら ぎ
新涼やうなじを通り過ぎし風
打ち上げる花火の間をも粋として
どこからか音だけ聞こゆ遠花火
野 仏 に 百 日 草の 揺 れ て を り
稲妻に向かひの犬の鳴きだしぬ
横
横
横
横
浜
浜
浜
浜
横 浜
青 山
青 山
青 山
青 山
青 山
青 山
青 山
原 宿
原 宿
原 宿
野上 充 子
真壁 藤子
〃
〃
森 奈保美
〃
八木たみ女
〃
〃
芳 垣 珠華
齊藤 好司
〃
中里 三 句
〃
〃
中里 柚子
〃
〃
〃
竹内はるか
渡辺 光子
〃
〃
遠 藤 由美
〃
小林 含 香
〃
堀田
葵
鳶 田 美継
川口 水木
〃
朝顔や大輪の下つぼみあり
白桃の匂ひかかえて帰宅せり
手花火を回して色の輪を描く
草を引く丸まつてゆく団子虫
消え入りてしまはぬうちは虹の空
子供らの歓声に咲く花火かな
音届くまで 数へをり遠花火
窓開けて蜩のこゑ入れにけり
宿題のあさがほの鉢枯れてをり
門火焚く母の背中の寂しさよ
稲光今日もどこかで通り雨
蜩や旅の疲れも癒されて
願ふこと子の事ばかり星祭る
稲妻に飛び 込 んで行 く 母の胸
音のする方を探して遠花火
雨激し残暑の匂ひ消してゆく
◎七夕の大きな願ひ大きな字
新涼の風と お にぎり 頬 張れり
とんぼうの朝はのんびり風まかせ
秋暑し主待つ犬の息荒く
炊き出しを待つ人の列秋暑し
花火見の列かき分けて家路急く
仰向けに乾いて死ぬる秋の蝉
とりどりの浴衣あふれる駅舎かな
母語るあの日の暑さ終戦日
大木の百日紅燃ゆ炎天下
一瞬が一生と散る大 花 火
だんだんに影伸びて秋近づいて
打水に心優しき人思ふ
送火の煙ドアより戻り来し
夕暮れに 白粉の花香 濃 し
蜻蛉追ふ足取り吾も子に帰る
原
原
原
原
原
宿
宿
宿
宿
宿
宿
宿
原
原
原 宿
表参道
表参道
表参道
表参道
表参道
表参道
服部 萌子
〃
宮 田 珠子
〃
〃
加藤 ち え
〃
〃
〃
三小田 宙
〃
〃
井上 芙蓉
〃
〃
渡辺
檀
〃
〃
〃
白山 素風
〃
〃
岸田 祐子
今泉
晶
〃
堀内みさ子
福室 百野
近見江 身 子
〃
佐藤眞理子
〃
川口 祐子
11
炎天の名所旧跡訪ね た る
噴水のしぶ き を 浴 び て 語 り た る
旅の汗流して浸る露天風呂
暫くは瀧の流れを眺めをり
清流のあり蜻蛉の飛ぶところ
渓流に遊ぶ家族の夏休
吾子の目に輝いてをり天の川
人の輪の大きくなりぬ盆踊
大夕立後の静けさ庭にあり
喧騒を静 寂にする初 嵐
さ ま ざ ま の 雨戸 の 裏 の 虫 の 声
かうかうと縁に差し込む今日の月
蜘蛛の囲に捕らはれし羽の動きをり
淡紅の芙蓉やけふを終へにけり
寂れゆく故郷ありて盆の月
あれこれを語りかけつつ墓洗ふ
セスナ機の駆け上がる空秋涼し
幼子の疲れ知らずや水鉄砲
万人の眼 にほどけゆ く 大花火
◎炎天やものみな白くゆらぎをる
巻き上がる土のにほひや夏の雨
万灯の会ふ日今夜の風のあり
風揺れて稲穂は金の波となり
朝顔を数へる母の日課となり
新しきエンジンの音草を刈る
◎水音を聞き風を聞く夏座敷
捥ぎたてのトマトで足りる昼餉どき
田 川 林
紀子
〃
〃
田 川 野田 静香
〃
〃
田 川 佐藤 カ ヨ
〃
〃
大牟田 海谷 育男
大牟田 前 原 八 寿 之
〃
大牟田 志岐 鈴恵
〃
武蔵野 鈴木 鈴女
〃
〃
武蔵野 下元 夏乃
〃
武 蔵 野 古賀 文 子
〃
武蔵野 新海多恵子
武蔵野 杉江 葉子
〃
富 山 藤井 靖人
〃
藤井 佳乃
富 山
《特選句評》
踊見のつもりが踊る人となり
村田五百代
見 る だ け の つ も りで 行 っ た 盆 踊 。 踊 唄 や 太 鼓 に つら れ て 、体
が自然 と 動 き ます 。 ほ の 暗 さ も あ って 少 しな ら い い かと 、と う
とう踊ってしまいました。
先頭の父 が手に持つ補 虫網
眞渕富士子
夏 休 み 、お 父 さ ん と 一 緒に 虫 と り に 行 き まし た。 お 父 さ ん も
童 心 に 返 っ て う れ し そ うで す 。 先 頭を 行 く お 父 さ ん が 網 を 持 ち 、
子 供 が 籠 を 持 っ て 後 に 続き ます 。 ほ ほ え ま し い情 景 が 目 に 見え
てきます。
空蝉の留まりしままの葉の揺らぎ 小林 含香
蝉の抜け殻は軽いものですが、それで も葉先についてい ると
葉 が 揺 れ ま す 。 細 か い と こ ろ を 見 ら れ た 写 生 の 句 だ と 思 い ます 。
空蝉の足の先まで見えてくるようです。
七夕の大 きな願ひ大 き な字
渡辺
檀
七 夕 の 短 冊 に 願 い 事 を 書 き ま し た 。 子 供 の 夢 は 大 き くふ く ら
み ま す 。 字 も し っ か り 書け ま し た 。 大 き な 字 で 書 い た ら 願 い が
叶 う か も し れ ま せ ん 。「 大 き な 」 を 繰 り 返 す こ と で リ ズ ム が 整
いました。
水音を聞き風を聞く夏座敷
藤井 靖 人
近 く に せ せ ら ぎ が あり 、 そ こ から 涼 し い 風が 吹 い て き ま す 。
開け 放たれ た夏座敷 に いると、 水の音 が聞こえ、 風が吹き渡っ
て い ます 。 水 音 は 涼 感 を 誘 い ま す 。 水 音 だ け で な く 風 も 聞 くと
うまく表現されました。癒されるひとときです。
12
《近 詠》
山 﨑 貴 子
少しある風に残暑を耐へてをり
ここに来て体調崩す残暑かな
句を作ることで残暑を耐へねばと
添削のページ
《 ひ と こ と 》
今 年 の 残 暑は 記 録 的で 、 本 当 に 秋 が
く る のか と 心配 にな って しま い ます 。
で も日が 少し 短 くなっ たり、 秋 めい た
雲 を み つ け た り 、 虫 の 声を 聞 い た り …
と 、わず かな季 節 の移ろいに 敏感にな
る のも 俳 人 の 醍 醐 味で は な い で し ょ う
か。
・閻王とどこか似たるや亡き父に
おもしろいと思いますが、ちょっとおかしいですよね。「閻王
の」となされば、違和感がなくなるのでは。
・浴衣下駄慣れぬ身形で夜の市
言 い た い こ と は わ か る の で す が 、 浴 衣 な ら 下 駄 と 言わ な くて も 。
ま た 、 わ ざ わ ざ 身 形 ( み な り ) と 説明 す る まで も な い で し ょ う か
ら「浴衣着て慣れぬ足取り夜の市」
などとしてはいかがでしょう。
・子ら去りて広き母屋や虫の声
・夕闇に湖面きらめき立秋や
いずれも、「や」という切れ字をお使いですが、切れ字を使えば
俳 句 ら し く な る 、 と い う わ け で は な い 事 は よ くご 存 じ と 思い ま す。
肖子】
一句目は、 声に出すと 「おもやや」と なり、あまり調べ がよくな
いので「母屋に」「母屋の」でどうでしょう。
また、二句目のように、最後に「や」はなかなか難しいですね。
「湖面きらめき秋立ちぬ」
「湖面きらめき秋の立つ」などとされてはいかがでしょう。
【以上
・開けるなり舞ひ込む朝と蝉しぐれ
象徴的な何かを「開ける」のだろうか。「窓開けて舞ひ込む朝と
蝉しぐれ」でも良いように思います。
・蝉の声ゆ つ くり眠れ ず恨めし く
やはり五七五の語調に整えたいなあ。「眠らせてくれず恨めし蝉
の声」あたりではどうでしょうか。
・公園に親子三人の花火かな
これもやはり五七五にならないかと考えました。「公園に親子三
人花火かな」ならどうかと。でも「親子三人の」と、「の」がある
方 が 肩 寄 せ あ う 三 人 家 族 の 温 か み が 強 調 で き る か と も 思 い ま し た。
「公園で 花 火三人家族 かな」と し ましょうか。 皆さんど うお考え
でしょうか。
荘吉】
・一木を大きくしたる蝉一匹
なかなか上手い表現の一句と思います。でも、「蝉一匹」の六音
がまた気になりました。「一木を大きくしたる蝉ひとつ」
【以上
13
・鬼灯の赤のきはだつ御玄関
御 玄 関 と い う の は 、 五 音 に す る た め の 苦 労 で し ょ う か 。 そ れと
も豪邸?こういうときは、上五に持ってきて調子をととのえま
しょう。
玄関に鬼灯の赤きはだちて
・おはぐろ の 蜻蛉城跡の水に殖ゆ
おはぐろ蜻蛉というのは名詞ですので、「の」を入れないほうが
いいと 思い ます。 また 「蜻蛉生る 」と いう季題がありますので 、
それを使ってみましょう。
城跡の水におはぐろ蜻蛉生れ
・ 亡 き 父 母 に話 し か け つ つ 墓 掃 除
墓 掃除 を して い る ので す から 、わ ざわ ざ 「亡き 」と い う 必 要は
ないと思います。「ちちはは」と読ませて意味は通じると思います。
父母に話しかけつつ墓掃除
※
よ
涼風と夜の秋
だ
り
風鈴と暑さ
など
【以上
貴子】
以前にも言ったと思いますが、「夏休」や「盆踊」は季題ですので
送り仮 名は いりません。 また今 回 も季重なり の句が少し ありまし
た。
句 会
〈 柏 句 会〉
平成二十二年八月一○日(火)
吟行地・柏の葉公園
句会場・さわやかちば県民プラザ
当 日 は 、 立 秋 を 過 ぎ た と は い え 、 と て も暑 く蝉 時 雨 の 中で の 吟 行 と
なりました。
八月の声援ここも試合中
蝉の羽揺らして運ぶものの居り
せみ穴を出でたる後の小さき穴
日焼した足諦めず球を追ひ
溪
恵
茶
五百代
楽
子
ゆう子
一 一 時 、 千 種 先 生 を 中 心 に 一 四 名は 県 民 プラ ザを 出 発 し 隣 接 す る 柏
の葉公園へ向かいました。
柏 の 葉公 園は 各スポ ー ツ施 設を 併 設す る 広 大 な 場 所で 、 その 日 も テ
ニスコートで 大会 が行わ れて い ました。 真っ 黒 に 日 焼け した若者を眩
し く横 目で 見 な が ら 進む と ボー ト 池 が あ り 、 そこ に は 私 た ち の 句 に た
び た び 登 場 す る 通 し 鴨 が 居 ます 。 しば し そ の 周辺で 各自 の 五 感 を 研ぎ
澄まし(?)句材探しに没頭。時折、千種先生に季題になるものを提
供 して い た だ き 、 草 木 に 詳 し い 方 に は そ の 名を 教 え て い た だ き な がら
賑 や か なひ と 時 を 。 木の 上 を 見上 げ る と 蝉 の 抜 け 殻 が び っ し り と 、 葉
と い う 葉に まるで 生きて い る かの よう に 付 いて い ま し た。 な ぜ 蝉 は草
むらで もいいのにあのような高いところで蝉になったのかとて も不思
議。自然の神秘に触れた思いでした。
感 動 し な が ら 歩 いて い くと 、 五 感 のひ と つ の 嗅 覚 が バ ー ベ キ ュ ー グ
ル ー プ を キ ャ ッ チ 。 そろ そろ 一 二 時 と な り 県 民 プラ ザ へ 戻 る こ と にな
りました。
皆で 、 七 句 の プ レ ッ シ ャ ー を 心 の 隅 に 押 しや り 楽 し くラ ン チ を 堪 能、
二時からの選句、句評に臨みました。
その日の句会には、はるば る群馬教室からのお 客さまがあり、と て
も新鮮で 少し緊張感のある楽しい句会になりました。群馬教室の小狐
如さん、ありがとうございました。またいらして下さいね。
他教室の皆様もぜひ柏教室に遊びにいらしてください。
(大網ゆう子記)
団子焼く炭火の跳ねて秋暑し
小狐如
水
その下の変りなけれど秋の空
14
朝顔の虫が飛び込む青き宙
向日葵の今日もこちらを向いてをり
じいじいとまだまだ鳴くぞ秋の蝉
羽引きてヨットのごとく蟻進む
八月の重き光に沼眠る
ひまはりの葉の垂れてをり町静か
梢揺れ少し呼び込む秋の風
千
糸
遊
敏 子
安
種
ミヨ子
と きこ
季代子
晩成子
里
スケジュール表へ突つ伏し昼寝かな
『俳句入門』
(稲畑汀子)より
心の深い句に触れる
はんぶんはだまされて買ふ夏蜜柑
という句をかつて私は朝日俳壇で選んだことがある。
「酸っぱいのは閉口だと 思って いる者にとって 甘夏蜜柑は有難い。言
う ほ ど 甘 く な い か も 知 れ な い と 思 い つ つ 買 う 」 と い う 評 を つ け た ので
あるが、読者より一通の投書が来た。
「この句も、解釈も面白く読ませてもらった。しかし自分は昔から
すっぱい夏蜜柑が好きで買う時にこれは酸っぱい本当の夏蜜柑かと確
かめて買う。句の作者もそうではないだろうか」というのである。
私はどちらで もいいと 思う。 また同じ句を二人以上の人が解釈した
時 に 違 っ た 解 釈 に な る こ と も あ る 。 更 に 私 自 身 句 評 を 書 い て い る うち
に そ の 句 か ら 新 し い 発 見 を す る こ と が あ る 。 心 の深 い句 は 何 度 も 舌の
上で転がして いるうちに十七音の裏に省略されたものが深 い余韻とし
て伝わって くるのに気づ く。それは作者の意図を或いは離れて いるか
も 知 れ な い 。 し か し そ れ は 作 品 の 広 が り と して い い の で は な い だろ う
か。
お 知 ら せ
■ 関東地区合同吟行会を開催いたします。多数のご参加をお待ちして
います。
・平成二十二年十一月二十三日(火)
・さいた ま市大宮氷 川 神社吟行
・高鼻コミュニティセンター句会
日本伝統俳句協会
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社団法人
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三田三丁目ビル六階
(○三)三四五四 五一九一
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