前回までの「Re:ステージ!」 謡 舞 踊 部 へ の 入 部 を 断 ろうとし て い た 式 宮 舞 菜 だった が 、 市 杵 島 瑞 葉 の 一 言 で 月 坂 紗 由 と 共 に メ イド 喫 茶 で 踊 る こ と に な る 。 ゆ さ つきさ か せ がわ みのり ﹁あ、あなたたちが、プリズムステージに出場するですって ﹂ 谷川実の声が響いた。 は 生徒会室に長 瑞葉、舞菜、紗由の三人がぽかんと実を見つめ返した。 ﹁な、何でもありません! とにかく、五人いなければ部は正式に認められません。近い うち部室も明け渡してもらいます。話は以上です!﹂ ﹁みぃ???﹂ ﹁き、聞いたことがあるだけみぃ! っ⋮⋮です﹂ ﹁え∼、なんや実ちゃん、プリズムステージのこと詳しいんやねえ﹂ よ!﹂ だけでもどれだけ大変か知ってるんですか? 全国から何千というグループがエントリー するんです。あなたたちみたいなできたばかりのグループなんか、音源審査も通りません 作りにアイドル活動をしようなんて、いい加減すぎませんか? それに、あの大会が出る そんな瑞葉の言葉を遮るように、実が机を勢いよく叩いて立ち上がった。 ﹁長・谷・川です。勝手に名前で呼ばないでください。廃部になりそうだからって、実績 ばプロへの道も開けるし、実ちゃんの言う実績作りも叶って万々歳やね﹂ ﹁そうや。プリズムステージ⋮⋮アイドルを目指す中学生みんなの憧れの大会。優勝すれ ﹁プ、プリズムステージって⋮あの大会の⋮?﹂ ﹁そらそうやわあ。昨日の夜決めたんやもん﹂ いたんですけど﹂ ﹁部長、そんなこといつの間に決めたんですか? 私、あの大会に出るなんて、初めて聞 昼休み。謡舞踊部の三人は長谷川実に会いに来ていた。部は活動を止められたままで、 舞菜、紗由、瑞葉の三人はその取り消しを実に頼みに来ていたのだった。 !? 実はそう言うと、瑞葉たち三人をドアまで押しやり、生徒会室から追い出した。 075 ぶ よ う ぶ よ う は し ま み ず き い ち し き み や ま な そこ で 改 め て 歌って 踊 る楽しさを 実 感した 舞 菜 は 謡 舞 踊 部 に 入 部 す る こ と を 決 心 し た ―― 。 「 わたし、 月坂さんと一 緒に夢が見たい 」 思いと想いが重なる瞳 寡黙な少女が見つめる先は││ 「 か え 、夢 を 語 る 」 ﹁プリズム⋮ス テ ー ジ ⋮ か あ ⋮ ﹂ うな⋮⋮﹂ と言って、紗由は﹁ん?﹂と視線を宙にやった。 ﹁ステージ⋮⋮? あっ! ねえ、ミニライブをするのってどう? ライブをすれば一度 にたくさんの人に見てもらえるし、一緒にやりたいって子も出てくるんじゃない?﹂ ﹁えっ、ミニライブを? ⋮⋮でも、わたしにライブなんてできるかなあ⋮﹂ ﹁⋮無理﹂ 舞菜と紗由は二人同時に声がしたほうを振り向いた。 ﹁あ、柊さん。保健室から戻ってきたんですね。具合、大丈夫ですか?﹂ 舞菜に答えずに、かえはおもむろにグラスをかける。 ﹁⋮相変わらず、ミジンコ﹂ そう言ってかえは鞄を手に取り、教室を出て行ってしまった。 ﹁えっ、なに。なんなのよ、ミジンコって﹂ ﹁さあ⋮この前も言ってたんだけど⋮﹂ ﹁変わった子ね⋮⋮﹂ 舞菜と紗由は話し合いを再開した。しばらくすると、廊下を駆けて教室に入ってきた人 がいた。 ﹁ああ∼、やっぱり柊さん帰ってる∼。今日中にこのプリント渡さなきゃいけなかったの ﹁びっくりしたわよねえ。でも、私は夢がアイドルになることだから、プリズムステージ ﹁あ、あの∼、二人とも。お願いがあるんですけど、これ、柊さんに届けてもらえないか 崎美津子だった。神崎先生は手に持っている それは舞菜たちのクラスの副担任である神 プリントから顔をあげると、舞菜と紗由に申し訳なさそうに近づいてきた。 かんざき み つ こ は本望よ。気合 が 入 る わ ﹂ しら?﹂ に︱︱﹂ ﹁ほんとにすごいなあ、紗由さんは。夢も気持ちもしっかりしていて⋮⋮﹂ 舞菜がため息とともに憂鬱そうにつぶやいた。放課後になり、舞菜は教室で紗由と共に あと二人の部員 を 集 め る た め の 作 戦 を 話 し 合 っ て い た 。 舞菜は紗由のことを感心して見つめた。その視線に紗由の頬が赤くなる。 ﹁もう。これくらいアイドルを目指すなら普通でしょ? 気持ちが強くないと、ステージ の上に立つこと な ん て で き な い わ よ ? ﹂ ﹁でも、まずは部員の数をなんとかしないといけないのよね⋮⋮。はあ⋮どこかに真剣に ﹁ご、ごめんなさい﹂ ﹁⋮突然来るなんて、失礼﹂ ﹁うん⋮⋮、そ う だ よ ね ﹂ アイドルになりたい人っていないかしら⋮。プリズムステージを一緒に目指してくれるよ ﹁もういいじゃない、舞菜。いくら誘っても無駄よ﹂ ﹁無理じゃない! 私は絶対にあのステージをあきらめない。トップアイドルになるため に、ライブを成功させて、私たちの仲間を見つけてみせる!﹂ ﹁⋮絶対無理。時間の無駄﹂ 優勝するつもりなの﹂ 紗由は舞菜の手を引いて玄関に向かった。去り際に足を止め、かえを見る。 ﹁柊さん。私たち、遊びでアイドルを目指してるわけじゃない。プリズムステージに出て ﹁紗由さん﹂ ﹁で、でも⋮⋮﹂ 舞菜と紗由は、一人暮らしをしているというかえのアパートを訪ねていた。最初は拒ん でいたかえだったが、プリントのことを伝えるとドアを開けてくれたのだった。 かえの部屋に入り、舞菜と紗由は大きく目を開いた。部屋の中にはアイドルの、しかも ガールズユニッ ト の グ ッ ズ が た く さ ん 飾 ら れ て い た か ら だ 。 ﹁なんなのこの部屋⋮。どこ見てもアイドルのグッズでいっぱいじゃない! 最近のもの から懐かしい人のものまで⋮。あっ、あのライブDVD! ずっと探してたやつだわ!﹂ ﹁テレビもいっぱい置いてあるね∼。全部で8個もある。すごーい、見放題だね!﹂ ﹁あっ、あの、 も う ち ょ っ と い い で す か ? ﹂ ﹁⋮﹂ ﹁⋮それはモニ タ ー 。 ⋮ 用 が 済 ん だ な ら 帰 っ て ﹂ ﹁⋮﹂ ﹁柊さんもアイドルが好きだったんですね。その⋮もしよかったら、わたしたちと部活し ませんか? 謡舞踊部っていう部なんですけど、アイドルを目指す部活で⋮⋮﹂ ﹁ちょ、ちょっ と 舞 菜 ⋮ っ ﹂ ﹁⋮かえにとってアイドルは、夢の世界の存在。簡単に、一緒に楽しくやろうなんて言え れたのがアイド ル だ っ た こ と 。 校に行くのが辛くなり、ひきこもりになってしまったこと。そして、そんなかえに光をく かえは部屋中に貼られているポスターを指し、アイドルを好きになったきっかけを話し 始めた。かえが小学生の頃、学芸会の舞台に立って、緊張から何もできなかったこと。学 ﹁⋮﹃好き﹄だ け じ ゃ た だ の 遊 び と 同 じ 。 ア イ ド ル は 、 遊 び じ ゃ な い ﹂ ﹁えっ﹂ のがわかるの。舞菜と一緒ならどこまでもうまくなれると思う。舞菜、謡舞踊部に入って ﹁私、舞菜とずっと一緒に踊っていたい。舞菜と踊ると自分がどんどんうまくなっていく ﹁紗由さん⋮﹂ ⋮﹂ ﹁不思議ね。長い間、一緒に練習してたんじゃないかってくらい呼吸がピッタリ合ってて ﹁やっぱり舞菜と踊ると、いつもより体が軽く感じて、上手く踊れてる気がする︱︱﹂ ﹁はい、ここでターン! 次、シンメでステップ!﹂ 翌日から舞菜と紗由はミニライブに向けて猛練習を始めた。 ミニライブは一週間後の放課後、校内にある特設ステージで行うことになり、瑞葉はミ ニライブの宣伝のために校内を駆け回っていた。 驚いて紗由が 小 声 で 舞 菜 に 耳 打 ち を す る 。 ﹁わたしたち、今、部員が足りなくて困ってるんです。でも、柊さんもこんなにアイドル ない﹂ くれて、本当にありがとう!﹂ ﹁⋮断る﹂ のことが好きな ら 、 一 緒 に 楽 し く 部 活 で き る と 思 っ て ﹂ ﹁で、でも、そんな風に真剣に思っているのなら、きっと素敵なアイドルに︱︱﹂ ﹁ううん、お礼を言うのはわたしの方だよ、紗由さん﹂ 食い下がる舞菜に、かえはこれまでで一番はっきりとした声で言った。 ﹁え?﹂ ﹁えっ?﹂ ﹁⋮話は終わっ た 。 帰 っ て ﹂ 076 077 ﹁紗由さん、わたし、本当はプリズムステージに出るって聞いてからずっと不安だった。 でも、この前、紗由さんが、遊びでアイドルを目指してるわけじゃない。プリズムステー ジに出て優勝するつもりだって言ってるのを聞いて、わたしも頑張れるかもって思えてき たの﹂ ﹁舞菜⋮⋮﹂ ﹁ねえ紗由さん 。 も う 少 し だ け 練 習 し て も い い か な ﹂ ﹁うん、わかっ た 。 日 が 落 ち る ま で や る わ よ ! ﹂ ﹁はい!﹂ そして二人が猛練習を始めてから数日が経った放課後。かえが下校しようと校門に向か っていると、近 く の 女 子 生 徒 た ち の 会 話 が 聞 こ え て き た 。 かえは二人の姿をじっと見ていた。二人の笑顔と頑張る姿に、かえはいつまでも釘づけ になっていた。 そしてミニライブ当日。舞菜と紗由は学園の敷地内にある野外ステージに立っていた。 部長がちゃんと宣伝してくれるって言ってたのに⋮⋮﹂ しかし、二人の目の前にあったのは、空っぽの客席だった。 ﹁そんな⋮⋮﹂ ﹁どうして⋮? ﹁今朝もやって た よ ね 。 毎 日 す ご い ね え ∼ ﹂ ﹁へえ∼、昨日 の 昼 も 見 か け た よ ね ﹂ ﹁ちょっと待ってください!﹂ ﹁長谷川さん!﹂ 舞台の傍に控えていた長谷川実が二人の前に歩いてくる。 ﹁やはり、廃部ですね﹂ 茫然とする舞菜と紗由。 かえも女子生徒たちの見ている方を見ると、舞菜と紗由が練習していた。 ﹁あ、またあの 二 人 や っ て る よ ﹂ ﹁はい、ここで タ ー ン ! ﹂ ﹂ ﹁それじゃあ、部長さんが貼ったポスター、誰も見てないってことですか⋮?﹂ 紗由が驚いて瑞葉を見る。答えたのは実だった。 ﹁当然です。生徒会が認めていない部は張り紙も宣伝も告知も許可できませんので﹂ ﹁えっ、どういうことですか 二人が声をあげたと同時に、会場によろよろと瑞葉も入ってきた。 ﹁はあ、参ったわ∼。告知のポスター、全部剥がされてたわ∼﹂ ﹁はいっ!﹂ 二人は掛け声に合わせてポーズを決めた。そしてまた曲の最初から踊り始める。 ﹁⋮ミジンコの く せ に ⋮ ⋮ ﹂ そうして二人を見ていると、ふとかえの脳裏に、あるアイドルが重なって見えた。 ﹁⋮そういえば 、 前 に も 同 じ こ と が あ っ た ⋮ ﹂ ﹁え?﹂ ﹁なあ実ちゃん、なんか、うちらのこと目の敵にしてへん? うちらのこと嫌いなん?﹂ 瑞葉に言われてむっとした実が小声でつぶやく。 ﹁だって、今さらアイドルの部活ができて、プリズムステージを目指すだなんて⋮⋮﹂ 二人組のそのアイドルは、今はもう解散してしまって存在しない。でも、持ち前の明る さと勢いでファンを魅了し、どんなアイドルよりも一番輝こうと一生懸命に歌って踊る姿 ﹁何でもありません。とにかく、あなた方の廃部は決定です﹂ 二人のステージを見つめるかえの頬は染まっていた。 そう言って瑞葉は舞菜と紗由を見て微笑む。 かえも客席から笑顔で二人に拍手を送っていた。 廃部になんかさせへんよ。だって、あの子ら、すっごくいいステージやってるんやもん﹂ 実はそう言ってその場を去っていった。 ﹁ほんま、実ちゃんて、かわいいのにしっかりしてるなあ∼。けどな、絶対、ぜーったい、 ﹁⋮⋮当たり前です。あと一人、足りませんから⋮⋮っ!﹂ 瑞葉が舞台の傍で茫然と立ち尽くしていた実に話しかける。 ﹁なあ実ちゃん、まだ廃部って言う?﹂ ﹁もう少し待ってください! 必ずあと二人入れますから!﹂ がかえは大好き だ っ た 。 かえの目に、今目の前で踊っている舞菜と紗由の笑顔が飛び込んでくる。 ﹁そ、そんな⋮っ!﹂ それはかえがアイドルを好きになったきっかけのアイドルであり、今でもかえが一番好 きで忘れられな い ア イ ド ル の 姿 。 !? ﹁⋮あの子たちもミジンコだった。⋮でも⋮⋮いつもきらきらしてた⋮⋮﹂ 舞菜と紗由が 再 び 声 を あ げ た 。 し か し 実 は 冷 た く 笑 っ て 、 ﹁待つだけ無駄です。こんな、いい加減な部活に、入ってくれる人なんているわけが︱︱﹂ ない。と、実 が 言 お う と し た と き ︱ ︱ 。 ﹁⋮ここにいる ﹂ ﹁えっ?﹂ ﹂ 実が振り返ると、そこには息荒く、走って会場に入ってきた一人の生徒がいた。 ﹁⋮かえが入部 す る ﹂ ﹁柊さん ﹁⋮すごく、き ら き ら し て る 。 ⋮ か え も 夢 を 見 て 、 い い の か な ⋮ ⋮ ﹂ 舞菜と紗由はステージに戻って音楽をスタートさせた。二人はこれまで練習してきたダ ンスを踊る。たった一人かもしれないが、それでも見に来てくれた人のために。 ﹁任せなさい! ﹂ ﹁もちろんだよ ! ﹂ ﹁⋮知ってる。何回も見たから。⋮だから見せて。今日までの練習の成果﹂ ﹁うん! 一緒 に や ろ う 、 か え ち ゃ ん ! ﹂ ﹁言っておくけ ど 、 練 習 は 厳 し い わ よ ! ﹂ 舞菜も紗由も瞬間的に駆け出していた。ステージを降りてかえのところまで走り、二人 で同時にかえの 手 を 握 る 。 かえも、アイド ル を ⋮ ⋮ ! ﹂ 舞菜と紗由は笑顔でかえを見つめた。そんな二人にかえがまた訴える。 ﹁⋮解散なんてさせない。これからも二人のことを見ていたい。だから、二人と一緒に、 ﹁柊さん⋮﹂ れる⋮﹂ テージの上で輝けるのは、一生懸命頑張ってるから。だからアイドルは、みんなの光にな 実がかえに向かって言い放つ。しかし、かえはゆっくりと息を整えて、実を見据えた。 ﹁⋮二人とも毎日頑張ってた。遊びじゃなかった。⋮二人を見てわかった。アイドルがス 舞菜と紗由が か え を 見 て 目 を 見 開 く 。 ﹁あなた、何を 言 っ て る の ﹂ !? 078 079 !?
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