ジュニアNISAに思うこと 代表取締役社長 澤上 龍

2015.10.30
さわかみファンド 月次レポート
ジュニアNISAに思うこと 代表取締役社長 澤上 龍
来年1月から始動するジュニア NISA、さわかみ投信で
■経済成長に必要な成長資金の供給を拡大
は導入を見送る方針です。本制度がファンド仲間の皆様に
確かに、広くお金が回ることによって経済は活性化しま
資するとは言い難いと判断したからです。
す。が、同時に疑問も生じます。成長資金の供給とは聞こ
「貯蓄から投資へ」という政府の大方針の下、英国の
えがよいのですが、資金提供者が自らの資産増大のみを
ISA に倣い日本に導入されたのが NISA です。少額の投資
考えるような風潮・制度導入だけで、何をもって経済成長
であれば分配金、譲渡益等が非課税となる制度ですが、現
と言えるのでしょうか。経済は伸張こそすれ成長には近づ
行 NISA に恒久性はなく、またややもすれば短期投資を促
きません。それこそ国家予算のバラマキに似ており、資
す状況となっています。
「残っている非課税枠を無駄にせず、
金量をもって経済を膨張させようとしているだけにすぎな
年内に株の買い替えをした方が有利ですよ」と。そのよう
いのです。
な未熟制度である NISA を弊社で導入したのは、制度改善
常々申し上げていることですが、投資とは資金の出し手
を傍観せず当事者として参加するためでした。
がいる一方で受け手が必ず存在します。一般的な上場企
さて今回のジュニア NISA は現行 NISA の未成年版です。
業への投資の場合、その受け手は元株主となってしまい
った見方をすれば、政府は大人だけでなく子どもから
ます。しかし企業から見れば、発行する株式の所有者(株
(実際には親御さんが資金提供者となろうが)もお金を出
主)が重要です。現状のような株主意識のない投資家が
させようとしているようです。広く国民からお金を世に回
多い環境では、受け手である企業は誰と共に歩んでいる
させるのは悪いことではありませんが、この方法では日本
のかわかりません。ジュニア NISA も現行 NISA もどのよ
の投資環境も今しばらく変わらないかと考えています。
うな企業に投資をしようとは議論されず、市場にお金さえ
回してくれれば税優遇しますよ、といった制度なのです。
その考え方では本当に必要な経済成長を投資家が支える
■未成年者口座内の少額上場株式等に係る
配当所得及び譲渡所得等の非課税措置
ことは難しいと思います。これは「貯蓄から投資へ」の根
仰々しい名称が表現している通り、ジュニア NISA はか
本論にも通じるところです。
なり複雑な制度です。主目的に家計の安定的な資産形成
■家計の安定的な資産形成の支援
の支援、経済成長に必要な成長資金の供給を拡大、とあ
りますが、本格的な資産形成は現状制度のままでは難しい
でしょう。期間や額の定め、引き出し制限、運用されな
い期間の存在など諸問題を抱えるジュニア NISA を無理に
利用するよりも、敢えて申し上げると「さわかみファンド」
を定期定額購入でじっくり積み立てていった方が皆様の資
産形成には役立てられると確信しております。
現在も多くの方にご利用いただいている「さわかみファ
ンド」の定期定額購入サービスは、積み立て・引き出し
自由の貯蓄預金のようなものです。資産形成において最
も大切なことは、資産を企業の利益成長に乗せてやるこ
とです。自分も頑張って働く、そしてお金にも働いてもらう。
しかし生活をしていると突発的な資金の入用が生じます。
そういった際は一時的にファンドを引き出してご使用いた
だき、逆に余裕ができた際にはまた積み立てておく…こ
れが理想のサービス利用方法で、皆様とは期間や額の定
めなく生涯お付き合いできればと願っております。
本当に家計の安定的な資産形成の支援を目的としてい
るならば、以前の軽減税率を恒久化するか、長期投資減
税などを導入すればよいと思います。NISA が軽減税率終
了時に置き換わって導入された制度であるが故に無理を
感じます。お金を出させる制度を作るだけでなく、生活者
本位の運用会社の育成、例えばスチュワードシップ・コー
ドやフィデューシャリー・デューティーの本質的な議論を
促し、そこに個人投資家が参加できる仕組みがあれば面
白いかもしれません。
弊社では一般生活者の財産形成のお手伝いをさせてい
ただくという理念があります。個々人が経済的自立を果た
し豊かな世の中づくりにカッコよくお金を使ってもらうと
いう文化形成のためです。故に、経済の現場にお金を投
じる際にも世の中を豊かにしてくれるだろう企業を厳選し
長期投資を行います。資産運用成った後、豊かな世の中
がないとお金も使い道がありません。家計の安定的な資
産形成、それは豊かな世の中があってこそ成り立つ話だ
と思うのです。 【2015 年 10 月 27 日記】
※さわかみファンドにおけるリスク・手数料については、最終ページに記載の「ご留意事項」をご覧ください。
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