24.川原 隆「ごみ焼却処理に思うこと」

ASEE レポート(No,24)
ごみ焼却処理に思うこと
一般社団法人 シニア・環境技術支援協会
理事・事務局長 川原 隆
1.はじめに
ごみ処理施設の整備に関しては昭和 47 年に制定された廃棄物処理施設整備緊急措置
法に基づき策定された 5 ヵ年計画により、補助金(交付金)が公布されて 40 年間で 5
兆円もの巨費が投入されている。
技術的に云えば、ダイオキシン類対策とそれから派生したガス化溶融技術が成果を上
げて以来、大きな技術開発は進んでいない状況にある。
施設の発注方式は公設民営方式(DBO)が増えつつあるが、そこに含まれる技術的お
よび運転管理の問題点について述べてみたい。
2.公設民営方式(DBO)の問題点について
ごみ処理事業の方式については、かつての公設公営方式に対し、公設民営方式(DBO)
または公設+長期包括運営業務委託方式が増えつつある。
特に近年では公設民営方式(DBO)の占める割合が増加している。ライフサイクルコ
スト(LCC)を下げるには最もふさわしい方式と言える。
しかしながら、このライフサイクルトータルのコスト削減が必ずしも成功していると
は言えない事例が多く見られる。
ごみ処理(ごみ焼却)施設のプラントに使われている材料の材質は腐食環境が過酷で
あるにも関わらずほとんど一般炭素鋼である。これは、化学プラント、石油プラントま
たは石油化学プラントが温度、圧力、取り扱う物質ごとにそれぞれの使用条件に応じた
材質を選定していることに較べ、大きな差異である。
そこで、ごみ処理(ごみ焼却)施設では操業圧力が低く、石油プラント等程、爆発事
故などのリスクがそれほど高くないために、腐食は織り込み済みで、腐食したら更新す
るという思想で設計がなされている。イニシャルコストを下げる意味では効果的である。
例外的に低温腐食を避ける目的で、煙突の内筒などで耐硫酸腐食鋼が使われている。
筆者がかつて携わった石油プラントなどではステンレス鋼を始め、様々な合金鋼が使
われている。しかも、1970 年代に建設したプラントは、合金鋼がふんだんに使われて
おり、定期的に充分なメンテナンスされてるとはいえ、40 年以上経過したにもかかわ
らず、未だ現役で稼働し続けている。
20 年程度で更新していたごみ処理施設も長寿命化の思想が導入され、30 年以上使わ
れるケースが今後増えてくることが予想される。
筆者が以前視察した米国の発電付きのごみ焼却施設では長期包括契約で運転・維持管
理が行われていたが、高温・高圧の操業で腐食が激しいため、スーパーヒータの伝熱管
にハイNi 鋼のインコネルの肉盛を施しているとのことであった。後のメンテナンスコ
ストを考えれば、その費用は充分ペイすると言っていた。
そこで、今までの様に炭素鋼を基本にイニシャルコスト下げるだけでなく、耐食鋼を
使用することによりメンテナンスフリーを目指すようにしたら、イニシャルコストが高
くとも、DBO の特質を生かして、ライフサイクルコストを下げることが可能となるので
はないか。
また、耐食鋼を使わなくても、腐食代を多めにすれば、それだけで延命化を図ること
も可能である。厚めの材料を使ってもイニシャルのコストアップはわずかであり、延命
化の効果は大きいのでライフサイクルコストの削減に寄与できるはずである。
3.公設民営方式(DBO)における運転管理費について
近年、新設のごみ処理(ごみ焼却)施設物件が少なくなり、DBO の入札も競争が激し
く、当然ながらイニシャルコストである設計建設費の削減をするものの、不確定要素の
多いメンテナンスコストは余り削減が出来ない。そうすると圧迫されるのはほとんどが
人件費である運転管理費であり、人件費の単価は現状ではすでに低く抑えられているこ
とから、運転人員数が圧迫されることになり、少人数での運転を余儀なくされ、運転・
維持管理の質の低下が懸念される。特にボイラ・タービン付きのプラントでは自動運転
が可能となっても、注意深く監視盤のデータチェックを行わなければならず、五感を使
った現場巡視も安全面から 2 人での作業が不可欠である。また、ごみの搬入が行われる
昼間では、クレーン作業は自動でなく、有人の操作が望ましい。クレーンは毎日の点検
清掃が必要であり、それまで、自動という訳にはいかない。
公益社団法人全国都市清掃会議が作成した廃棄物処理施設維持管理業務積算要領で
は適切に運転人員の算出要領が示されており、その数字を下回ることは避けたい。
さらに、ごく最近では、ごみ処理(ごみ焼却)施設の建設の土木建築を担当するゼネ
コンの繁忙が原因で、建設費が高騰し、不調となるケースが急増しているとのことであ
る。そのため、例え入札が成立しても、DBO 物件では、更に、運転・維持管理費が圧迫
され、結果として、運転人員が削減されることを危惧するものである。
況してや、ごみ処理(ごみ焼却)施設の運転員の待遇は良いとは言えず、景気が回復
し、既に人手不足が顕在化していることから、優秀な作業員の確保が更に困難になるこ
とが予想される。しかし、現在の自治体の財政状況から運転管理費の予算を単純に増額
することは困難である。
このような状況を解決する一つに、発電能力を最大限にし、売電で運転管理費の増額
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をカバーすることがある。CO₂削減にも寄与することであるし、高効率発電を採用
し、積極的な発電設備の整備を望みたい。
4.おわりに
ごみ焼却処理施設で使われる材質は従来ほとんど一般炭素鋼であったが、腐食環境の
厳しい設備である上に、延命化により長期に使用されることを考えると、今後は材質的
配慮が必要ではないか。特に高効率発電でのスーパーヒータの伝熱管を一般炭素鋼から、
耐食鋼に変え、延命を図ればメンテナンスコストを大幅に下げることが可能となるので
はないか。発電を止めることによる機会損失を含めたライフサイクルコストの比較は試
みる価値があると思われる。
また、昨今のゼネコンの土木建築建設費の高騰により DBO 方式の際に運転管理部分の
費用捻出が困難であるが、売電の費用を当てることで解決したらどうか。そのために高
効率化を含め、発電能力を最大化する必要がある。
以上は筆者が個人的に感じたままを述べた見解であり、具体的な検証がなされた事例
ではないが、第三者の意見として、ご検討頂ければ幸いである。
ASEE レポート
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