パフォーマンステスト(ライティング)の測定と評価

パフォーマンステスト(ライティング)の測定と評価
山西博之
関西大学
外国語学部
問題と目的
近年、グローバル人材育成を含めた様々な要請にも関連して、発信型の英語運用能
力の必要性が指摘されている。それに伴い、外国語教育、学習の場面においても、発
信型の英語運用能力をいかに高め、そのパフォーマンスをいかに測定し評価するかと
いった事柄が課題となっている。例えば文部科学省初等中等教育局(2013)は、新し
い指導と評価の方法としての「CAN-DO リスト」策定の文脈の中で「多肢選択形式
等の筆記テストのみならず、面接、エッセー、スピーチ等のパフォーマンス評価」を
行うことを提唱しているが、今後、このようなパフォーマンス評価が実施される機会
が増加する傾向はますます加速するものと考えられる。しかしながら、言語(英語)
教育におけるパフォーマンス評価のためのテスト(パフォーマンステスト)について
は、「多肢選択形式等の筆記テスト」と比べて評価に関わる要因が複雑であり、その
あり方に関する十分な議論がなされているとは言い難い。
本発表ではパフォーマンステストのうち、入学試験問題や定期テスト等でも実施さ
れる機会が多いライティングテストに焦点を絞り、さらに日常的な指導の場面と入試
等のハイステークスな場面で行われるライティングテストの違いにも言及しながら、
測定・評価のあり方と改善のための方策について考えていくことを目的とする。
ライティングテストの課題
ライティングテストは、学校英語教育の中では、中学校から大学の英語科目におけ
る日常的な指導場面だけでなく、高等学校や大学の入試問題として出題されることも
多い。しかしながら、指導のあり方が学習者の学習段階、発達段階、指導のポイント
といった目的に応じて変わりうるのと同様に、ライティングテストのあり方もその実
施目的に応じて変わるにもかかわらず、テスト実施においてその点が十分に考慮され
ているとは言いがたい現状がある。とりわけ、日常の指導の場面におけるライティン
グの指導や評価の考え方と、入試のようなハイステークスなライティングテストの考
え方は(一致する部分はあるにせよ)異なる部分があるため、実施に当たっては、例
えば以下に挙げるような事柄について、十分な検討や準備を行うことが望まれる(以
下の挙げた事柄の詳細およびその他の事柄については、発表時に言及する)。
ルーブリック(評価尺度、評価表)
日常の指導場面においては、いわゆる文法シラバスに基づいて特定の文法項目を指
導し、それがライティングにどれほど反映されているかを評価することも可能である。
つまり、特定の項目のみに焦点を当てた(focused)評価を行う方法である。ライテ
ィングの分野において多くの研究が行われている Written Corrective feedback
(WCF) 研究においても、focused WCF の効果が主張されているように(e.g., Lee,
2013)、指導と評価のポイントが対応した評価を行う方法の実施も検討に値する。
一方、ハイステークスな評価においては、Educational Testing Service (2002) で
行われているようにルーブリックを事前に周知し、「この試験では何をどのように評
価するか(評価側が何を求めているか)」を明確にすることが望まれる。しかしなが
ら、高等学校や大学での入試問題でルーブリックを公開しているケースは少なく、そ
のことは、ハイステークスなライティングテストに要求される透明性やアカウンタビ
リティー等の担保を難しくしている一因であると言える。
評定者トレーニング
日常の指導場面であっても、定期試験においてはライティングテストのステークス
は高くなる。複数クラスに共通のライティングテスト問題に対して、それぞれのクラ
スの担当教員が評価することになるが、その際の評価の公平性の確保も課題となる。
定期試験においても入学試験においても、ハイステークスなライティングテストに
おいては、ルーブリックの使用を前提として、何らかの方法で評定者トレーニングや
用いたルーブリックの改良を行うことが重要である。実際に行った評価結果をもとに
して次回以降の評価を改善していく試みとして、多相ラッシュモデルや(多変量)一
般化可能性理論などの統計手法を用いて評価の特徴を把握し、評定者トレーニングや
ルーブリックの改良に反映可能な知見を得る研究が行われている。
参考文献
Educational Testing Service. (2002). LanguEdge courseware: Handbook for
scoring speaking and writing. Princeton, NJ: Educational Testing Service.
Lee, I. (2013). Research into practice: Written corrective feedback. Language
Teaching, 46, 108–119.
文 部 科 学 省 初 等 中 等 教 育 局 (2013). 「 各 中 ・ 高 等 学 校 の 外 国 語 教 育 に お け る
「CAN-DO リスト」の形での学習到達目標設定のための手引き」