合戦原遺跡現地説明会資料1(平成27年度) [PDFファイル

―宮城病院地区 防災集団移転促進事業・災害公営住宅建設事業に伴う発掘調査-
かっ せん はら
宮城県山元町
い せき
合戦原遺跡
第2回 発掘調査現地説明会資料
日 時 平成 27 年 7 月 25 日(土)13:00 ~ 主 催 山元町教育委員会
調査要項
味曽野横穴墓群
遺 跡 名:合戦原遺跡(宮城県遺跡登録番号 14014)
常磐自動車道
● 山元 IC
所 在 地:宮城県亘理郡山元町高瀬字合戦原地内
調査原因:宮城病院地区
舘横穴墓群
防災集団移転促進事業・災害公営住宅建設事業
山崎横穴墓群
調査主体:山元町教育委員会
山下中学校
鷲足館跡
調査協力:宮城県教育委員会、宮城病院
谷原遺跡
担 当 者:山田隆博・千尋美紀(山元町)
山下館跡
涌沢遺跡
応援職員:髙橋洋彰・下山貴生・長内祐輔・佐藤則之 ( 宮城県派遣 )
(H27 年度)
長橋至
( 山形県派遣 )・伊藤智樹 ( 千葉県派遣 )
小淵忠司 ( 岐阜県派遣 )・杉山一雄(岡山県派遣)
飯坂盛泰 ( 新潟県派遣 )
内手 B 遺跡
山元町役場
●
内手遺跡
作田山遺跡
山王遺跡
調査期間:試掘・確認調査 平成 25 年度
国
道
6
号
線
合戦原 B 遺跡
中島館跡
舘下窯跡
上宮前北遺跡
本発掘調査 平成 26 年 8 月~
合戦原遺跡
調査面積:平成 26 年度 約 6,350 ㎡
■
平成 27 年度 約 6,400 ㎡
今回の調査箇所
●
北名生東窯跡
宮城病院
はじめに
平成 2 年
発掘調査箇所
東日本大震災により甚大な被害を受けた山元
北権現遺跡
向山遺跡
町では、JR 常磐線の移設工事や防災集団移転
などの復興事業に伴い、町内の各箇所で遺跡の
狐塚遺跡
坂元中学校
熊の作遺跡
坂元支所
影倉 D 遺跡
●
井戸沢横穴墓群
発掘調査が実施されています。
山元町教育委員会では、宮城病院地区の防災
戸花山遺跡
川内遺跡
犬塚遺跡
蓑首城跡
作田横穴墓群
新中永窪遺跡
集団移転促進事業及び災害公営住宅建設事業に
伴い、事業計画地内に所在する合戦原遺跡につ
いて、文化財保護法に基づき、平成 26 年8月
:横穴墓
:製鉄関連遺跡
:今回の調査範囲
:平成 2 年の調査箇所
合戦原遺跡の位置および周辺の主な遺跡
から本格的な発掘調査を実施しています。
発掘調査の実施に当たっては、事業計画に遅
れが生じないよう、発掘調査基準を弾力的に運
用しているほか、他県からの専門職員の応援を
得て調査体制を強化し対応しています。
D区で発見された木炭窯
平成 26 年度は、主に事業用地西半地区
B区で発見された
製鉄炉
(A 区西半・B 区北半・D 区・E 区)の調
よこ あな
ぼ
せい てつ ろ
もく たん がま
査を実施し、横穴墓、製鉄炉、木炭窯など
がみつかりました。平成 27 年度は、事業
用地東半地区の A 区東半・C 区を中心に
調査を進めています。
E区で発見された木炭窯
-1-
いこう
合戦原遺跡 調査区の位置と主な遺構
[ H 27 年度の調査面積 ] A区 2,078 ㎡ B区 1,847 ㎡ C区 2,512 ㎡ 合計 6,437 ㎡
凡 例
製鉄関連遺構
H26年度調査範囲
TM-41-2
16.784
木炭窯 H27年度調査範囲
16.77
16.58
16.24
横穴墓
古 墳
22.18
16.28
16.08
工事範囲
TM-41-1
16.237
25
25.48
15.93
15.76
20.18
15.67
22.84
15.74
15.36
20.29
TM-41
15.620
25.62
TM-42 25.537
15.24
15.35
30.01
35.94
41.52
36.53
35.06
TM-66
34.676
6号墳
33.90
38.30
TM-65
36.509
33.94
32.13
TM-63
34.339
39
34.13
TM-62
34.445
35.75
37.61
5号墳
33.57
33.92
TM-67
41.043
40
39.84
24.49
15.07
国
道
6
号
線
29.23
35
32.67
19.68
21.65
31.05
15.03
TM-44
31.217
20
35.45
33.01
28.82
TM-43
29.003
TM-61 36.519
39.21
24.80
32.04
TM-64
39.156
39.66
38.38
TM-68
39.425
32.97
31.52
30.68
18.78
35.93
36.50
39.55
32.33
TM-45
27.616
28.20
27.33
30
30
14.35
情 報
23.96
36.95
B区
30.84
26.58
35
33.38
製鉄関連遺構
29.74
23.28
31.25
TM-69
38.172
37.09
39.45
36.67
26.78
37.43
35
25.55
32.94
25.87
17.50
31.06
22.37
24.83
33.45
25.20
26.47
32.50
27.14
2号墳
25.44
22.75
26.47
TM-72
31.053
27.39
23.38
26.15
27.60
22.60
1号墳
27.46
32.37
24.70
TM-54
27.202
22.61
27.08
22.94
27.96
26.84
26.36
TM-55
27.341
24.50
25.45
28.45
35.16
TM-75
36.869
TM-51
21.815
22.42
30.12
13.46
19.28
17.96
TM-39
14.159
TM-48
21.870
15.28
17.45
13.30
22.01
TM-49
25.594
19.84
15.02
15.90
23.24
14.35
13.03
16.86
20.03
19.76
TM-52
23.222
15.62
20.24
20.85
12.
12.98
14.48
21.46
24.65
13.01
B-3
14.349
14.93
B-2
19.590
24.23
26.04
25
26.12
37.50
13.46
15.05
TM-47
19.526
25.49
TM-50
20.062
21.78
TM-53
24.780
25.83
14.34
6
20.07
20.72
25
22.70
20.75
35.97
33.14
14.07
15.98
17.17
15
30
33.55
18.68
20.20
23.29
34.81
36.41
13.99
TM-46
20.260
3号墳
26.27
28.10
25.22
32.11
29.43
14.30
27.19
33.86
36.48
TM-74
36.450
14.28
TM-40-1
14.308
20.78
26.01
TM-71
35.684
38.06
36.78
36.76
TM-40
14.570
19.23
22.54
30.02
33.98
TM-73
37.149
4号墳
25
TM-70
38.598
14.79
14.70
23.87
14.03
20.98
22.73
22.43
18.96
17.48
24.34
12.66
24.44
38.47
14.97
20.03
26.83
TM-56
28.831
23.79
22.47
B-1
21.475
22.53
21.48
16.36
19.68
18.19
22.80
23.17
16.57
22.24
22.52
22.55
20.85
TM-10
12.433
2
1
TM-12
14.754
15.67
38.92
12.63
製鉄関連遺構
木炭窯
15.19
21.97
13.46
1
20
TM-76
37.842
28.84
C区
20.84
34.67
17.09
16.45
35
14.58
TM-57
29.391
12.36
TM-13
16.162
20.38
26.79
16.45
TM-14
16.316
TM-77
38.627
13.61
16.29
22.60
38.46
14.38
14.92
15.26
15.79
22.67
22.49
22.37
22.51
TM-15
20.911
20.94
14.09
12.30
13.77
14.60
16.53
32.32
12.26
TM-58
30.678
38.44
TM-16
23.406
22.47
13.92
13.49
15.75
22.75
12.81
22.54
H24-3NO.12
22.693
34.51
TM-78
38.378
22.43
22.72
元
12.14
13.37
町
11.75
12.61
15.58
17.16
TM-59
29.268
H
1
22.61
37.73
高 瀬 字 合 戦
22.55
28.35
31.53
16.28
16.52
22.59
山
12.18
12.80
21.10
17.88
TM-60
22.680
22.58
29.51
15
38.19
18.05
原
11.39
15.17
22.72
12.64
16.65
22.62
17.27
33.32
15.23
14.67
15.50
B-6
12.635
13.79
12.02
12.39
B-5
16.427
18.50
28.61
つくし保育園
22.71
22.65
36.80
16.79
木 1
22.66
32.75
13.06
22.67
TM-22
12.927
37.50
15.42
30
22.62
18.75
29.39
36.72
13.54
19.37
21.19
21.68
22.65
19.25
20
14.34
17.05
12.87
23.76
27.56
11.99
コ 3
14.37
15
TM-17
21.555
22.39
TM-18
23.706
25.16
30.89
TM-80
37.321
TM-27
14.088
TM-28
16.237
2号井戸
20
36.87
18.68
19.84
B-4
23.458
37.26
16.75
18.07
TM-29
19.241
22.28
22.92
木炭窯
12.74
15.87
21.16
22.68
26.53
32.07
D区
12.71
13.60
14.42
17.27
TM-79
37.443
13.68
12.0
19.24
20.37
16.57
37.48
25
23.46
井戸ポンプ室
木 1
20.19
22.44
26.67
24.57
22.47
33.69
17.52
38.01
27.86
41.55
27.62
19.49
20.68
14.18
27.62
35
33.51
37.29
27.16
27.41
TM-19
27.202
28.99
25.91
40.11
28.33
32.28
32.97
32
31.50
TM-83
39.627
30.71
29.17
38.39
横穴墓
土坑
TM‑37H
14.34
31.63
TM-37
30.267
34.06
11.88
19.88
23.64
TM-36
31.536
14.24
40
E区
木炭窯
土坑
38.96
12.95
コ 2
16.47
11.77
15
12.95
26.47
22.46
24.77
TM-25
14.292
28.20
34.83
16.79
A区‑BM3
13.42
木 2
25.0
23.09
16.50
20
26.94
39.93
12.73
15.90
24.23
23.25
A区‑BM8
TM-24
12.887
14.58
16.39
25
27.32
30.89
TM-8
11.715
14.37
19.30
27.03
24.85
30.23
12.02
21 . 8 9
24.21
29.01
木 2
木 1
14.40
26.86
30
13.06
TM-30
16.586
16.82
19.71
27.74
TM-20
25.177
TM-87
32.048
31.81
33.82
13.22
14.51
27.48
TM-38
29.505
30.31
28.26
34.11
TM-88
39.160
12.77
コ 2
17.04
26.44
29.94
25.55
TM-86
34.716
36.35
コ 3
18.27
25
32.15
TM-85
35.509
TM-84
37.195
17.52
TM-35
31.535
山上タンク
12.50
13.49
TM-33
23.077
31.65
31.74
39.13
11.91
14.15
28.20
21.92
26.94
30
34.40
41.76
14.24
TM-34
29.574
28.97
31.67
27.14
26.81
17.04
18.35
A区
28.82
29.65
13.13
TM-26
14.113
20.49
30.03
TM-9
11.874
14.32
25.01
29.32
27.36
TM-31
17.183
TM-32
19.674
29
TM-82
40.053
TM-23
12.538
19.63
23.21
26.84
TM-89
40.797
12.47
12.82
22.62
25.27
TM-81
37.178
木 1
木 1
20.52
11.79
14.35
A区‑BM4
TM-21
24.193
18.21
22.56
TM‑21H
コ 3
16.01
25.44
14.52
29.03
36.25
23.08
23.96
32.91
12.97
12.88
16.36
14.39
プ 1
20.40
TM-2
18.318
木 1
35
11.98
23.67
33.38
13.53
15.71
18.25
TM-1
19.595
27.99
B-8
15.547
16.46
19.45
15.19
14.54
25.54
31.61
21.61
TM-3
17.286
38.93
コ 1
コ 1
25
22.24
17.40
17.71
コ 2
21.37
23.20
20.78
23.33
26.10
39.36
B-7
23.021
TM-97
23.395
34.25
19.51
H24-2NO.3
21.265
宮 城
病 院
21.50
29.50
11.93
12.59
コ 1
19.60
17.48
24.69
11.74
12.94
コ 3
28.49
40.09
木 2
TM-5
13.453
13.90
17.45
27.25
29.82
17.42
19.43
19.79
22.55
35.01
TM-4
14.991
16.26
23.60
TM-90
39.381
コ 1
0
50
100m
23.94
40.19
TM-91
40.181
30
23.78
35.82
あすなろ親の家
TM-96
26.152
43.40
31.42
40
TM-94
36.521
46.60
40.86
33.97
50
宮城病院
30.51
43.35
51.41
24.26
28.73
45
TM-93
48.324
48.62
24.47
19.95
コ 1
木 1
27.24
TM-95
31.570
TM-92
45.735
TM-93-1
53.147
TM11.
プ 1
21.72
22.24
39.42
-2-
(1:2,000)
T
1
< A区 >
よこ あな ぼ
全体で 54 基の横 穴 墓 が検出されました。平成 26 年度はこのうちの西側に分布する
34 基について、27 年度は尾根をはさんで東側に分布する 20 基について調査を行いま
した。
げん しつ
げん もん
せん
横穴墓は、埋葬の場である玄 室、玄室への入り口になる玄 門、儀礼などをおこなう羨
どう
ぼ どう
道、羨道へと続く通路となる墓道で構成されます。本来、羨道から玄室までは斜面をトン
ネル状に掘り、天井がありましたが、本遺跡では羨道部の天井は大半が崩落していました。
へいそくみぞ
玄門と羨道の境界部分の床面には玄門をふさぐ板をはめ込むための閉塞溝、板の下半部を
へいそくせき
固定したとみられる閉塞石が認められるものもあります。玄室の平面形には方形、逆台形、
長方形などがあり、奥行き3mを超える大型のものもあります。天井はドーム型が大半を
よせむねしき
占めますが、26 年度調査では寄棟式の家形のものがありました。
27 年度の調査では全体的に長い墓道(10 ~ 20 m)を有する横穴墓が検出されてい
ます。また、以下のような特徴のある横穴墓が発見されました。
そうしょくつきこんどうせい た
ち
・玄室奥壁に複数の線刻画が描かれ、玄門から装 飾 付金銅製大刀が出土した横穴墓(38
号墓)
す
え
き
は
じ
き
つぼあぶみ
・大量の須恵器や土師器と共に墓道から銅製の壺鐙が出土した横穴墓(53 号墓)
・玄室の壁に釘が打ち込まれた横穴墓(36 号墓:奥壁に2ヶ所 48 号墓:南側に4ヶ所)
・馬具や直刀、鉄鏃などの鉄製品等が多く出土した横穴墓(36・49・50 号墓 馬具
てつせい わ あぶみ
おびかな ぐ
てつ じ こんどうばり
はながたぎょうよう
には鉄製輪鐙、帯金具、鉄地金銅張の花形 杏 葉などがあります。)
まがたま
すいしょうせいきり こ だま
へきぎょくせいくだたま
せきせいぼうすいしゃ
この他、メノウ製の勾玉、水 晶 製切子玉、碧 玉 製管玉、石製紡錘車などが出土してい
ます。
墓道がある程度埋まったところで遺物がま
天井
側面図
とまって出土する横穴墓が多いことから、埋
葬後に追葬や墓前での儀礼がおこなわれたこ
とも考えられます。本遺跡の横穴墓は、出土
平面図
墓道
羨道
玄門
玄室
した遺物の年代や横穴墓の形態などから7世
紀代から8世紀にかけてつくられ、使用され
たものと考えられます。
馬具の名称
閉塞石 閉塞溝 排水溝
第●図 横穴墓の模式図と各部名称
横穴墓の模式図と各部名称
右から 44 ~ 47 号墓完掘状況(東から)
48 号墓閉塞石(東から)
-3-
27.62
20.68
27.62
23.21
A区 遺構配置図
26.84
29
27.16
27.41
TM-19
27.202
28.99
25.91
35号墓
25.01
29.32
27.36
20.49
30.03
TM-34
29.574
28.82
28.97
31.67
28.33
34号墓
27.14
26.81
32.28
32号墓3 1 . 5 0 31号墓
30号墓
26.94
TM-35
31.535
32
43号墓
29号墓
山上タンク
34.06
28.26
34.11
31.74
TM-37
30.267
21号墓
1号墓 2 9 . 5 0 5
10号墓
9号墓2 9 . 9 4
20号墓
14号墓
27.48
TM-38
30
3号墓
土坑
7号墓
24.77
4号墓
28.20
27.32
8号墓
6号墓
24.21
47号墓
46号墓
21.89
18号墓
2 6 . 4 7 22号墓
12号墓
49号墓
23.09
19号墓
26号墓
土坑
52号墓
54号墓
25号墓
③
27号墓
横穴墓
18.21
10
プ 1
21.72
木 1
16.50
H27年度調査範囲
20
0
23.08
20.40
H26年度調査範囲
53号墓
22.56
20m
(1:500)
22.24
①
22.46
51号墓
25.07
23号墓
23.96
19.30
16.79
24号墓
24.23
TM-21
24.193
29.03
48号墓
50号墓
26.94
25.44
16.82
19.71
25
5号墓
23.25
17号墓
27.03
24.85
30.23
19.88
23.64
27.74
16号墓
11号墓
38号墓
45号墓
15号墓
2号墓
29.01
44号墓
TM-36
31.536
13号墓
26.86
TM-20
25.177
41号墓
31.63
30.31
TM-87
32.048
18.27
39号墓
26.44
31.65
30
28号墓
33号墓
25.55
21.92
25
29.17
TM-86
34.716
TM-33
23.077
37号墓
42号墓
30.71
32.15
36号墓
28.20
プ 1
34号墓
TM-2
18.318
23.67
⑤
⑦
27.99
TM-1
19.595
⑨
19.45
18.25
16.46
【写真】
①調査前現況
②横穴墓検出状況
③ 43 号墓敷石
④ 51 号墓遺物出土状況
②
④
⑧
➉
⑤ 53 号墓出土壺鐙
⑥ 48 号墓鉄製釘
⑦ 53 号墓遺物出土状況
⑥
⑧出土須恵器
⑨出土土師器
⑥
-4-
➉出土玉類・紡錘車
-5-
< C区 >
C
せい てつ かん れん い こう
せい てつ ろ
はい さい ば
ち
区は南東向き斜面部にあり、現在のところ製鉄関連遺構 ( 製鉄炉・排滓場 ) 2基、地
か しきもくたんがま
たてあなたてもの
ど こう
下式木炭窯 (13 基 )、竪穴建物 ( 2軒 )、土坑 (17 基 ) などが見つかっています。
ちょう ほう けい はこ がた ろ
製鉄炉は、 長 方形箱形炉と考えられ、操業終了後に炉体は壊されており、炉床と下部
構造のみが残っています。昨年度、本遺跡 B 区で調査した箱形炉とは異なり、炉背部に
ふ
ふいご
は ぐち
踏み鞴 ( 送風装置 ) が付かないタイプです。炉長辺両側から、複数の羽口を使用して炉内
へ送風していたと考えられますが、送風装置は不明です。
製鉄炉の下方には排滓場 ( 操業により生じた不要品の集積場 ) が広がっており、多数の
てっさい
ろ へき
鉄滓 ( 操業時にできる不純物 ) や羽口片、炉壁などが集積していました。
製鉄炉から土器などの遺物は1点も見つかっていませんが、炉跡の形態的特徴などから
奈良・平安時代頃に操業していたものと考えられます。
N
遺構略号
土坑・
・
・
・
・
・
・
・
・
・土
木炭窯・
・
・
・
・
・
・
・窯
竪穴建物・
・
・
・
・
・建
製鉄炉・
・
・
・
・
・
・
・炉
排滓場・
・
・
・
・
・
・
・排
性格不明遺構・・不
1号土
4号土
2号土
凡例
南半部遺構群検出状況 ( 南東から )
木炭窯の焼成室
木炭のあった範囲
製鉄炉還元範囲
製鉄炉酸化範囲
排滓場
3号土
5号土
12号土
2号窯
13号土
6号土
5号窯
7号土
4号窯
8号土
16号土
10号窯
6号窯
1号製鉄炉検出状況 ( 南東から )
9号窯
1号窯
7号窯
2号排
10号土
9号土
13号窯
3号窯
8号窯
15号土
1号炉
1号排
12号窯
11号窯
1号建
1号不
17号土
2号建
0
10
20m
箱形炉製鉄操業実験 ( 愛媛大学 20 号炉 )
C区遺構配置模式図
-6-
しょう せい しつ
奥壁
焚口
1.75 m、長さ 4.52 ~ 6.35 mを測ります。いずれの木
[ 平面 ]
前庭部
木炭窯はすべて地下式のもので、焼 成 室 の幅 1.25 ~
焼成室
炭窯も焼成室の木炭層の枚数から、複数回の操業をしてい
たものと考えられます。
煙出し
新しい木炭窯 ( 4~7号 ) は古い段階の木炭窯 ( 9~
[ 断面 ]
ています。
天井
焼成室
たきぐち
位置が近い木炭窯や重なっている木炭窯があるので何回
焚口→
かに分けてこの場所を利用していたものと考えられます。
4~6号木炭窯最終操業面 ( 北西から )
床面
前庭部
窯の構造
7号木炭窯の断面 ( 北西から )
木炭窯が発掘されるまで
完全には埋まりきらず
くぼんでいます
天井が崩れずに
残ることもあります
かき出された
炭の残り
①斜面をトンネル状に掘って
窯を造ります。
②焼成室に原木を詰め、炭を作り
ます。壁は熱で変色し、硬くな
ります。
③現在、天井は崩れ落ち、くぼ地
に土がたまったところを発掘し
ます。
しょうせい
土坑のうち、13 基は焼成土坑と呼ばれる
もので、堆積土には炭や焼土が多く含まれ
ていました。大きさは 0.5 ~1m程で平面
形は方形のものが多く認められます。壁面
に焼けた部分があることからその場で火を
焚いたことがわかります。木炭を作ってい
た可能性があります。
8号土坑断面 ( 東から )
-7-
奥壁
12 号 ) の焼成室天井を破壊、整地したのち斜面上方に造っ
2軒の竪穴建物は、1 辺3~4m前後を測
ります。いずれもカマドが付いています。製
鉄炉や木炭窯との位置や重複関係から、工人
たちの生活の場であった可能性があります
が、検討が必要です。
1号竪穴建物のカマド袖部から、土師器の
つき
坏が見つかっており、時期は古代と考えられ
ます。
1号竪穴建物全景 ( 南西から )
まとめ
平成 26・27 年度の調査では、古墳時代終末期から奈良時代にかけての横穴墓 54 基、
古代の竪穴建物 2 軒、製鉄炉 3 基、木炭窯 20 基、焼成土坑・土坑 60 基などが発見さ
れました。
横穴墓については、昨年度の調査箇所を含め、横穴墓の分布範囲すべてを発掘する形
となっており、その支群構成などを考える上で学術的に貴重な調査となっています。また、
今年度の調査では、玄室奥壁に「線刻画」が描かれた横穴墓が見つかり、遺物についても、
昨年度の調査ではみられなかった鉄製・銅製馬具や金銅製大刀などの豊富な副葬品が出
関
土 し、横 穴 墓 の 被 葬 者 像
を考える上で重要な成果
が得られました。製鉄炉・
木 炭 窯・竪 穴 建 物 は、古
年代
日本・世界の出来事
・土器・弓矢の使用が始まる
縄
草創期
16000 年前
文
早期
12000 年前
時
前期
7000 年前
・気候が温暖化、海水面が上昇する
代
中期
5500 年前
・三内丸山遺跡で大集落が営まれる
西石山原遺跡(高瀬)
後期
4500 年前
・黄河文明・エジプト文明・インダス文明
谷原遺跡(山寺)
晩期
3300 年前
・東日本で亀ヶ岡文化が栄える
中島貝塚(鷲足)
弥生時代
2500 年前
・日本に稲作が伝わる
中筋遺跡(鷲足)
しん なか なが くぼ
見されている新中永窪遺
山元町の主な遺跡
旧石器時代
代の製鉄に関わる遺構と
考 え ら れ、近 年 町 内 で 発
連 年 表
北経塚遺跡(小平)
・邪馬台国の卑弥呼が魏に使いを送る(239 年) 上台遺跡(真庭)
古
前期
1700 年前
跡・犬 塚 遺 跡 な ど の 製 鉄
墳
中期
1600 年前
時
後期
1500 年前
・仏教が伝わる(538 年)
狐塚遺跡(町)
遺 跡 群 と の 関 連 が 窺 え、
代
終末期
1400 年前
・大化の改新(645 年)
井戸沢横穴墓群(下郷)
陸奥国南部の古代鉄生産
古
奈良時代
1300 年前
・平城京 遷都(710 年)
熊の作遺跡(町)
・多賀城がつくられる(724 年)
谷原・涌沢遺跡(山寺)
平安時代
1200 年前
・平安京 遷都(794 年)
新中永窪遺跡(中浜)
・陸奥国大地震(869 年)
合戦原遺跡(合戦原)
中
鎌倉時代
800 年前
・源頼朝が鎌倉幕府を開く(1192 年)
谷原遺跡(山寺)
世
室町時代
600 年前
・足利尊氏が室町幕府を開く(1336 年)
涌沢遺跡(山寺)
・応仁の乱(1467 年)
日向遺跡(山寺)
・織田信長入京(1568 年)
愛宕山館跡(下郷)
いぬ づか
今 後 も 発 掘 調 査 は 継 続
し て 行 う 予 定 で す。ぜ ひ
ご注目ください。
合戦原遺跡(合戦原)
代
戦国時代
近
江戸時代
石垣・的場遺跡(山寺)
合戦原遺跡(合戦原)
(飛鳥時代)
の様相を探る上で重要な
発見となりました。
・近畿地方に前方後円墳がつくられはじめる
500 年前
400 年前
・豊臣秀吉全国統一(1590 年)
山下館跡(山下)
・徳川家康、江戸幕府を開く(1603 年)
蓑首城跡(下郷)
涌沢遺跡(山寺)
世
-8-