9月所感 本歌取り 狭山市立教育センター 所長 澤 田 剛 「おもてなし」で開催が決まり、日本中が笑顔になった東京オリンピックですが、新国立 競技場に続いて、大会の象徴であるはずのエンブレムまで白紙に戻るという異常事態になり ました。一方は独創的過ぎて予算オーバー、もう一方は独創性が無かったための撤回という 皮肉な結末でした。今後、また笑顔で語れる話題が出てくれると良いのですが…。 エンブレムで問題になったのは「模倣か否か」ということで、これは芸術の世界ではしば しば話題になることです。 ゴッホが浮世絵に傾倒し、模写したり人物画の背景に使ったりしたことは有名ですし、音 楽でも先行作品のメロディを一部取り込んでいることは珍しくありません。映画「スターウ ォーズ」には、黒澤明監督作品の影響が随所に見られるそうです。 これらは「オマージュ」、あるいは最近は「リスペクト」と言うのでしょうが、日本にも 「本歌取」という和歌の手法があるのは御存知の通りです。おもしろいことに、この「本歌 取」を 12 世紀の歌人、藤原清輔(百人一首「ながらへば またこのごろや しのばれむ 憂し と見し世ぞ 今は恋しき」の作者)は「盗古歌」 (こかをとる)ものとして批判的に評価した そうです。「模倣か否か」という問題意識はこのころからあったのですね。 一方、世阿弥は「風姿花伝」などで物まねの重要性を強調しています。物まねによって磨 いた技を種として「花」が咲くのだ、というのです。(「花は心、たねはわざなるべし」) さて若手教員の急増で、学校文化や指導技術の伝承が危惧されています。若手の先生方に は、ベテランの先生の授業や教室経営、行事の計画や準備の仕方などをよく見て、真似て「盗 んで」いただきたいと思います。真似しようとしてしきれないところに個性、独創性が表れ るものだと私は思います。そして、それが美しい花かどうかの評価は、子供(の変容)が示 してくれます。 学校行事、対外行事も多く、中学3年生にとっては、進路決定をしていく大切な2学期が 始まりました。また多くの花が咲き、実りが得られるよう、教育センターも精一杯尽力して いきたいと思っています。よろしく御理解御協力をお願いいたします。
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