木造 2 階建て住宅は構造計算されていない!? 建物の耐震性について注目が集まっていますが、四号建築と呼ばれる木造 2 階建て住宅等の建物は建築確認申請 で構造計算が義務付けておらず、現実に構造計算されていないという実態は、建築業界では常識である一方で一 般消費者の方々にはほとんど知られていないと思います。構造計算されていない木造 2 階建て住宅の耐震性等の 安全性はどうなのでしょうか? 構造計算されない理由 まず、四号建築とは建築基準法第 6 条 1 項四号に当てはまる建物で具体的には ●100 ㎡以下の特殊建築物 ●特殊建築物以外(住宅・事務所)の建物で木造 2 階建て以下かつ延べ面積 500 ㎡以下かつ建物高さ 13m 以下か つ軒の高さ 9m 以下 ●特殊建築物以外(住宅・事務所)の建物で木造以外(鉄骨構造等)で平屋建て以下かつ延べ面積 200 ㎡以下 の条件を満たすものです。 建築基準法第 20 条四号にて木造 2 階建て住宅等の四号建築は耐震性等の構造耐力について イ 当該建築物の安全上必要な構造方法に関して政令で定める技術的基準に適合すること ロ 前三号に定める基準のいずれかに適合すること(=構造計算を行うこと) のいずれかに適合する事を求めています。つまり木造 2 階建て住宅等の四号建築はこのイの方法を採れば建築基 準法上は構造計算書がなくても確認申請が通る事になります。さらに木造 2 階建て住宅等の四号建築は建築基準 法第 6 条の 3 三号にて建築士が設計をすれば後述の壁量計算書や構造関係の図面を確認申請書に添付しなくて良 いとされています(四号特例)。つまり、木造 2 階建て住宅等の四号建築は構造計算が義務付けられていないだけ では無く、耐震性などの構造耐力に関する仕様規定を満たしているかの検討書や図面も確認申請に提出を求めら れず、本当に法律に適合しているかのチェックが誰にもチェックされないのが現状です。 *審査機関によっては壁量計算書等の自主的な提出を求めている機関もあります。 構造計算をしなくて耐震性などは大丈夫なのか? 木造 2 階建て住宅等の四号建築は前述のように構造計算が義務付けられておらず建築基準法施行令 40~49 条等 の仕様規定を満たせば良いとされています。この仕様規定について解説します。 壁量計算: 木造住宅の耐震性の規準で最も有名な規定で、耐震性については床面積に応じて一定以上の筋かい・構造用合板 等の耐力壁を設ける様に決められています。しかし、この壁量の規準を満たした状態の建物でも詳細な構造計算 してみると、強度が不足している物件もあります。これは準耐力壁(雑壁)もある程度地震の力を受け止めてくれ る事を前提にしているためですが、最近のリビング等の広い間取りや採光・動線のために開口部が大きい物件が 多く、雑壁の効果はあまり期待できません。 四分割法: 筋かい等の耐力壁の総量のみを規定していると、採光のための南側の壁が少なく、開口の少ない北側の耐力壁が 多い偏った建物になります。阪神・淡路大震災でこのような偏った耐力壁配置をした住宅が捩れて倒壊する被害 が多く見られました。この対策として告示 1352 号で耐力壁をバランスよく配置する四分割法という規準が定め られました。しかし、この規準は構造計算でいう偏心率 0.3 以下を実現できるよう取り決めされたものですが、 偏心率 0.3 という数値はかなり偏りの大きい建物で構造計算では一般的に半分の偏心率 0.15 以下で設計されます。 偏心率が 0.15~0.3 の場合でも耐力壁を多く設けた場合の方が、耐震に対して有効な場合もあります。 柱頭柱脚金物: 阪神・淡路大震災で木造住宅の多くが柱が土台から引き抜けて倒壊してしまう被害が生じた事を受けて、柱の柱 頭柱脚に引き抜け防止金物を設置する規定が設けられました。告示による規定と N 値計算の 2 種類検討方法があ ります。引き抜き力に応じた金物を選定する事が重要です。 梁の強度: 木造 2 階建て住宅等の四号建築では 2 階床や屋根の重量を支える梁について具体的な規準がありません。スパン 表やプレカット工場任せになっている場合が多いです。しかし、こうした住宅の検討をし、強度やたわみの計算 をすると強度や剛性が不足という結果になる事が少なくありません。木造の場合竣工直後は大丈夫(に見える)で あっても、木材は鉄骨等に比べ、クリープ現象(長期間荷重がかかり続けるとたわみがでる現象)を起こしやすい ため、何年か経ってから 2 階床が傾いたり壁のクロス割れ等の欠陥が生じるリスクがあります。 床や屋根の計算: 阪神・淡路大震災で木造住宅は筋かいなどの耐力壁が足りていても屋根や床の床面の強度が足りず、耐力壁が地 震に耐える前に建物が大きく損傷してしまう被害が出ました。耐力壁が有効に働くためには、この床面が剛床に なっていることが前提です。これを受けて品確法では床や屋根の検討を行うようになりましたが、建築基準法の 仕様規定(施行令 46 条 3 号)では火打材を設ける、小屋裏に振れ止めを設けるくらいで具体的には書かれていませ ん。2 階床は 24 ㎜~28 ㎜の構造用合板を使った強度の高い根太レス工法が普及していますが、小屋裏も火打材 を多く設けたり、予算との兼ね合いですが小屋裏も 24 ㎜~28 ㎜の構造用合板を使用すれば、地震に対しては有 利になります。 基礎: 基礎についても、必要な地耐力が定められている程度で安全性を確保するための具体的な規定はありません。瑕 疵担保保険の技術規準である程度強度を確保する規定が設けられていますが、点検用の開口部や大きな窓の下、 筋かい等の耐力壁部分の地震時の強度など不足している部分も考えられます。このため震度 6 弱以上の地震の際 にクラックが入る恐れがあります。一般に安全性の検討を簡略に済ませる場合、万が一にも強度不足にならない ように詳細な計算をしたときに比べて高い安全率が設けられています。 ツーバイフォー(枠組壁工法)は大丈夫? 結論から言うと、よほど無茶なプランをしていない限り耐震性については大丈夫です。ツーバイフォー工法の 2 階建ては木造と同様に確認申請で構造計算書の添付が免除されていますが、外壁と中の間仕切り壁そのものが面 として地震に耐える構造で、告示 1540 号で細かく仕様が決められているため、普通にプランをしていれば構造 計算をかけてみても十分な耐震性を持った建物ができあがります。阪神・淡路大震災で木造の脆弱さが指摘され た一方でツーバイフォー工法の耐震性の高さが注目されましたが、これは設計者が意識しなくても十分な耐震性 が確保されるというツーバイフォー工法の利点が発揮されたからと言えます。 自主的に構造計算をしている物件もある 木造 2 階建て等の四号建物の法規制が緩い一方で、設計事務所・工務店・ビルダー等の中には差別化のため自主 的に構造計算を実施し、耐震性の高さを売りにしているところもあります。こういった設計事務所・工務店・ビ ルダーで自主的に耐震等級 2・3 で許容応力度設計が行われている建物は安心していいと思います。耐震等級 3 の住宅は実大振動実験で阪神・淡路大震災の揺れを加えても小さな損傷で済むという実験結果も出ています。 構造計算していると広告しているが構造計算していない住宅 長期優良住宅で構造計算していますと謳っている木造 2 階建て住宅には実は構造計算をしていないものもありま す。どういうことかというと住宅で耐震性の高さを示す耐震等級は品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法 律)でその基準が定められていますが、木造 2 階建てでは許容応力度という鉄骨や鉄筋コンクリート造と同様の 構造計算で行う方法と告示 1347 号第 5 に基づく基準法の壁量計算+α程度の簡易計算を行う仕様規定による方 法の二通りがあるのです。(木造 3 階建ては許容応力度設計が必須) 規定でも法律で認められた安全確認方法で四号建築の検討しかしていない住宅より耐震性は高いですが、あくま で簡易計算であり構造計算は無いのです。しかし、設計事務所・工務店・ビルダー自身が仕様規定による簡易計 算を構造計算だと誤解して「構造計算をしている」と宣伝していることが多いです。構造設計者として甚だ不本 意ですが… 「確認申請が降りた」は安全のお墨付きでは無い 一般消費者だけでなく、建築士や建築関係者の中には「確認申請が降りた=耐震性等の安全性にお墨付きをもら った」と誤解している方が多いのですが、実際は確認申請は法律で定められた必要最小限の規準を満たしている かを“確認”しているだけです。特に木造 2 階建て住宅等の四号建築は設計図書の多くが省略できるため、木造 2 階建て住宅等の四号建築の建物の安全性はそれを設計する建築士が責任を持って確保する事が前提になってい ます。
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