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6. 放射光粉末法による結晶構造解析
6.1. Rietveld と MEM
粉末 X 線は多結晶のサンプルに対して行われている。多くの場合、単結晶と異なり、様々
な逆空間からの回折が一次元方向に集約されるため、それを解析することで、構造データ
を得ることは難しく、指数付け、格子定数の決定や単純の構造解析に限られてきた。近年、
モデル構造を仮定して、強度を合わせる Rietveld 法が発達したため、粉末回折のデータか
ら、原子位置の決定ができるようになった。Rietveld 法では、
( 6.1-1)
ここで、 yi B (c), y i (c) はそれぞれ、ブラッグ反射強度、およびバックグラウンドの強度を
表す。
2
ここで、Sk はスケール因子、 Fk は散乱強度、mkは多重度、Pk、Lk、Gkは選択配向因
子、ローレンツ因子、ピーク形状因子である。これらを適当な仮定できめる。
一方、
としてバックグラウンドを得る。
こうして、 f i (c) と f o (c) の残差が最小になるまで合わせる。
坂田らは、さらに、情報理論であるマキシマムエントロピーメソードMEMを応用した。
MEM では、与えられた情報(回折線のピーク位置、高さ)を満足し、得られていない情報
に関して、そのエントロピー(不確かさ)が最大になるように原子位置を決定する方法と
考えることができる。坂田、高田らは、この MEM と Rietveld 法を組み合わせた構造解析
法を開発した。
金属内包フラーレンの Sc2@C84 の構造解析を行った。
(Phys.Rev.Lett.,78,3330(1997))フ
ラーレン(Fullerene)は 60 個以上の炭素原子が強く結合して球状になったものを言う。フ
ラーレンの代表選手であるC60 はサッカーボールと同じ形をした球形分子で、直径は約 0.7
ナノメートルである。C60 は、1985 年にクロトー博士(サセックス大学教授)
・スモーリー
博士(ライス大学教授)
・カール博士(ライス大学教授)の 3 名により発見。1990 年にホフ
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マン博士(アリゾナ大学教授)・クレッチュマー博士(マックスプランク研究所)の共同開
発チームが単離することに成功し、
1991 年に米国のATTベル研究所がフラーレン薄膜に金
属カリウムをドープして 18K という高い転移温度を持つ超伝導体を作り出してから世界中
の科学技術者が注目した。.
図 6.1-1
C60 と C70
図 6.1-2 Sc2@C82 の粉末パターン(a)は Rietveld 法による fitting および(b)は MEM 法による最
適化
このフラーレン骨格の中に金属が入ったのが金属内包フラーレンである。その構造につい
ては、過去にもいろいろな研究があったが、Rietveld 法と MEM 法を組み合わせることで、
その位置を決定することができた。
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図 6.1-3 決定された構造
中央にあるのが Sc である。Sc は回転が止まっていることがわかる。
その結果 Sc2 はフラーレンの中央付近にあり、その回転は固定されている。また、Sc-Sc
の結合距離は 0.39nm であり、Sc-C は 0.24nm である。また、電荷は(Sc2+)2C844-であるこ
とがわかった。
さて、C60 の次に大きなフラーレンは C70 であるといわれてきた。これは、フラーレン
は5員環と6員環によりできているが、5員環は必ず6員環に囲まれていないといけない
という孤立5員環則(IPR)に従っているためである。この規則に従うと、C60 の次は C7
0になる。ところで、Sc2C66 というのが単離された。このフラーレンでは、5 員環が二つ
つながっており、IPR 則を満たしていない。これは、Sc から C66 への電子移動により、5
員環のダイマーが安定化したためと考えられる。
(Nature 408,426(2000))
図 6.1-4 Sc22C66 フラーレンの構造
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