新規光触媒Ti アパタイトの精密結晶構造の解明

<トライアルユース制度トピックス>
新規光触媒 Ti アパタイトの精密結晶構造の解明
㈱富士通研究所 若村正人,淡路直樹,土井修一,野村健二,塚田峰春
㈱富士通 山本孝雄
株式会社富士通は、大気中の窒素酸化物やウイ
ルス、細菌などを従来比で2倍以上の吸着・分
解能力を有する光触媒チタンアパタイト
(TiHAP)を世界に先駆けて開発するなど、環境保
全に取り組んでいます。TiHAP はカルシウムヒ
ド ロ キ シ ア パ タ イ ト Ca10(PO4)6(OH)2
(CaHAP)に、Ti イオンをドープしたものです。
光触媒活性を高めるために、TiHAP 材料に微量
の金属元素を添加することにより光触媒効果が
発現する光波長を可視光領域に近づけることを
研究しています.そのためには、TiHAP の精密
な結晶構造を知ることが不可欠です。
光半導体触媒の結晶構造は、伝導帯のバンドギ
ャップ構造に影響を与え、光触媒のラジカル発
生性能に直接関係します。また、TiHAP の結晶
構造については、これまでのX線構造解析から
CaHAP の Ca の約 1 割が Ti に置き換わってい
ると推定されていますが、その詳細は良く分か
っていません。そこで、中性子が軽元素検知能
力に長けていることや、Ca 原子の散乱長が正で
あるのに対して Ti 原子の散乱長は負であること
を活かして、TiHAP の精密構造解析を行いまし
た。
図 1 に TiHAP の母相である CaHAP の結晶構
造を示します。この結晶構造において、Ca は
4f(Ca(A)と表記)と 6h(Ca(B))の 2 つのサイトを
占めています。CaHAP の構造を参考にして、
TiHAP の中性子回折データを Rietveld 解析しま
した。解析結果を表1に示します。Ti イオンは
Ca(A)と Ca(B)の両サイトの Ca イオンと置換し
ていること、特に、Ca(A)サイトの置換率の方が
Ca(A)
O
Ca(B)
P
図 1 TiHAP の母相となる CaHAP の結晶構造
表1 Rietveld 解析結果
サ イ 原
空間群等
占有率
ト
子
P63/m
Ca 0.868(3)
Ca(A)
a = 0.9425
Ti 0.132
nm
Ca 0.921
c = 0.6879 Ca(B)
Ti 0.079
nm
信頼性
因子
Rwp
=
2.12
S
=
1.482
高いことが新たに分かりました。 また、格子定
数は a=0.9425nm と c=0.6879nm であり、Ti イ
オンのドープにより、CaHAP に比べて a 軸がわ
ずかに伸び、c 軸が縮んでいることが分かりまし
た。
本研究は(財)放射線利用振興協会が運営する
文部科学省「中性子利用技術移転推進プログラ
ム」制度の下で実施しました。実施に際しては、
コーディネーターである原子力機構の井川直樹
氏の技術支援をいただきました。この場を借り
て感謝申し上げます。