「戦争立法のポイント」神戸市北区原水協ニュース159号

戦争立法のポイント
和田 進
1 国会提出の二法案
5月15日に国会提出された戦争立法は二つの法案である。一つは、自民党がこの間一
貫して追求していた「海外派兵恒久法」たる新法の制定である。
「国際平和共同対処事態に
際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律」という名
称で国際平和支援法と略称している。
もう一つは、
「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一
部を改正する法律」という名称で平和安全法制整備法と略称している。これは何ともべら
ぼうな法律案で、実に10本の軍事関係法の改正を一括して一本の法律案の中に包摂した
ものである。10本の軍事関係法とは以下のとおりである。➊自衛隊法(1954)、❷PKO 等
協力法(1992)、③周辺事態法(1999)、④船舶検査活動法(2000)、⑤武力攻撃事態対処法(2003)、
⑥米軍行動関連措置法(2003)、❼特定公共施設利用法(2004)、⑧海上輸送規制法(2004)、⑨
捕虜取り扱い法(2004)、❿国家安全保障会議設置法(2013)。( )書きの数字は制定された年で
あるが、21世紀に入って軍事法制が整備されてきたことがよくわかる。どれも激しい論
争を巻き起こしたものであった。自衛隊の初の海外出動の法制度を定めた PKO 等協力法で
は4つの国会、263時間の審議時間をかけた。防衛出動の具体化を図った武力攻撃事態
法でも3つの国会、144時間の審議時間をかけた。会期延長をして今国会で強行させよ
うなどということは暴挙以外の何物でもない。
しかもその改正の内容が新規立法に等しいものとなっているのである。白抜き数字の➊
❷❼❿は、法律名に変更はないが、③④⑤⑥⑧⑨の6つは法律名も改正されているのであ
る。法律名に変更ないものは、質的な変化がないということでは決してない。一括改正法
の平和安全法制整備法案は A4 版 88 頁からなるが、➊自衛隊法と❷PKO 等協力法の改正部
分で41頁を占めているのである。
この二法案の全容解明は紙数的にも無理であり、また、国会論戦等を通じての今後の解
明に待たなければならない点も多々存在しており、ここではいくつかのポイント思われる
点を解説しておくこととする。
2
米軍を中核とする他国軍の軍事力行使への全面的な後方支援を可能に…重要影響事態
法、国際平和支援法
①
1954年の自衛隊法以来、自衛隊という軍事組織の合憲化の前提は「日本に対す
る武力攻撃への対応」
、すなわち「専守防衛」にあった。この建前を大きく変更したのが9
9年の周辺事態法であった。これは日本に対する武力攻撃ではなく、
「日本の平和と安全に
重要な影響を与える事態」に対して米軍の軍事行動に支援を行うことを定めたものであっ
た。しかし周辺事態法では憲法上の制約を意識して、その支援は「後方地域支援」という
日本独特の概念を設定することとなった。「後方地域」とは、「我が国領域並びに現に戦闘
行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われる
ことがないと認められる我が国周辺の公海及びその上空の範囲をいう」と定められていた。
時限法であったテロ対策特別措置法(2001)やイラク復興特別措置法(2003)での「非戦闘地域」
という用語も同様のものであった。今回は「後方地域」「非戦闘地域」という用語は使用
せず、「現に戦闘行為を行っている現場」でなければ活動できることとした。すなわち「戦
闘現場」に隣接した地域まで活動範囲とした。戦闘現場になった場合には活動を「休止」
「中断」するとしているが、「捜索救助活動」は継続できるとしている。
②
周辺事態法における「我が国周辺の地域における」という文言は削除され、「我が
国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」と政府が認定すれば、地球規模でグローバ
ルに後方支援活動を展開できる「重要影響事態法」に名称も変更された。
③「後方地域支援(rear area support)」という用語から「後方支援(logistic support)」に変更
され、支援内容が拡充されている。周辺事態法では「弾薬」の提供は含まないとされてい
たが可能となった。また「戦闘作戦行動のために発信準備中の航空機に対する給油及び整
備」も可能とされた。国際平和支援法も含めて後方支援内容で禁止されているのは「武器
の提供」だけとなった。弾薬提供、武器の輸送、兵士の輸送が可能である。
④
周辺事態法では支援は「我が国領域と公海とその上空」に限定されていたが、当該
国の同意があれば外国においても実施できることとしている。国際平和支援法も同様であ
る。
⑤
国際平和支援法は、国連総会または安保理の決議が前提とされるが、重要影響事態
法は必要なく日本独自の判断で可能となる。
⑥周辺事態法では支援の対象はアメリカであったが、重要影響事態法では、アメリカに
加えて「国連憲章の目的の達成に寄与する活動を行う外国の軍隊」にも拡大された。
⑦ 国際平和支援法は、「国際平和共同対処事態」(「国際社会の平和及び安全を脅かす
事態であって、その脅威を除去するために国際社会が国際連合憲章の目的に従い共同して
対処する活動を行い、かつ、我が国が国際社会の一員としてこれに主体的かつ積極的に寄
与する必要があるもの)に際して、国会の事前承認を前提として、「協力支援活動」「捜索
救助活動」を実施することを定めている。国会の事前承認は各院7日以内に議決するよう
努めなければならないとしている。
3 国連が統括しない各種活動への参加…PKO 等協力法の改正
PKO 等協力法に、「国際連合平和維持活動」などの他に新たに、「国際連携平和安全活
動」というジャンルを設定する。これは、「紛争当事者間の武力紛争の再発の防止に関す
る合意の順守の確保、紛争による混乱に伴う切迫した暴力の脅威からの住民の保護、武力
紛争の終了後に行われる民主的な手段による統治組織の設立及び再建の援助」などの活動
を行うものである。
イメージとしてはアフガン戦争における ISAF(国際治安支援部隊)の活動である。ISAF は
国連安保理決議で設定されたが、国連の統括下にはなく、NATOの指揮下にあった。武
力紛争が停止、終了しているとの前提での活動であったが3500人を超える死者を出し
た。後方支援に徹したといわれているドイツも55人の死者を出した。何らかの国連決議
を前提にはするが、非国連統括型の活動である。停戦監視活動、安全確保活動のみ原則国
会の事前承認とされている。
また PKO 等協力法改正では、これまでの「自己保存型」の武器使用の限定を越えて、「任
務遂行」の武器使用、そしていわゆる「駆けつけ警護」での武器使用も認めている。
4 集団的自衛権の「限定」行使
この問題はかなり議論されてきているので簡単に触れておく。
7月1日の閣議決定は、自衛権発動の新たな三要件として次の3点を打ち出した。①我
が
国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する
武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求
の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、②これを排除し、我が国の存
立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、③必要最小限度の実力を行
使すること。この三要件は、下線の部分が存在することによって、集団的自衛権の全面的
容認ではなく、限定的容認となっている。安倍首相が安保法制懇の答申の全面的容認論を
退けたのは国民的批判を警戒したものであるが、政府がまとめた「集団的自衛権などに関
する想定問答」によれば、
「
『新三要件』に該当するか否かは政府が全ての情報を総合して
客観的、合理的に判断する」としている。なぜそうした判断をしたのかについては、「我
が国及び国民の安全の確保にかかわる」特定秘密であるとして、特定秘密保護法によって
明らかにできないとされる危険性が高い。限定的にせよ、集団的自衛権行使の道が開かれ
れば拡大していくことは必至である。
5 自衛隊法改正…武器使用の拡大
2,3,4の問題が大きいので未だほとんど議論されていない重要問題が自衛隊法改正に
存在している。まず、自衛隊法95条に規定されている「武器等の防護のための武器の使
用」を、米軍等の部隊にも可能にしようとしている。「等」というのはオーストラリア軍
などを念頭に置いている。
「自衛隊と連携して我が国の防衛に資する活動」に従事してい
る米軍等の武器の防護のための武器使用を可能にするということは、イメージとしては、
日常的な情報収集、警戒監視活動を共同して展開し、米軍防護の役割を果たすということ
である。
2012年の第三次アーミテージレポートは、「同盟防衛協力の潜在力が増加した二つ
の追加地域は、ペルシャ湾での掃海作業と南シナ海の共同監視である」としていた。米上
院軍事委員会のマケイン委員長は共同通信のインタビューで「ホルムズ海峡での機雷掃海
活動への自衛隊参加に強い期待を表明」し、「南シナ海での哨戒活動も支持した」(沖縄タ
イムス5月2日付)。緊迫している南シナ海での日米共同の警戒監視活動も検討されている
と思われる。
次に、在外邦人等の警護、救出、輸送などの保護措置のために自衛隊を外国に派遣し、
「その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用できるものとする」として
いる。
最後に、私はこれを見てびっくりして、次に「納得」したのが、「国外犯処罰の適用」
である。自衛隊は憲法の制約の下で「専守防衛」とされてきたのであるからその活動の場
として海外は念頭にはおかれていなかった。1990年代以降、自衛隊が海外に出動され
る機会が増大していった。そして今回の安保法制は自衛隊の海外での活動を一層拡大する
ことになる。そのためであろう。
「上官の職務上の命令に対し多数共同して反抗したもの」
などの自衛隊法上の処罰規定を国外の行為でも適用できることとしている。
以上ポイントを見てきたが今回の安保法制を貫く特徴は、安全保障環境の変化を理由と
して自衛隊の軍事活動の場面を一挙に拡大しようとしていることである。軍事的対抗は軍
拡と武力衝突、戦争を引き起こした。武力の行使を否定し、戦力を保持せず、紛争の平和
的解決を国是とした憲法平和主義原理に真っ向から反している。