日本政治学会 2015 年度年次大会 分科会E-1「アラブ系移民/難民の越境移動:中東と欧州における比較研究」 2015 年 10 月 11 日(日)15:30〜17:30 @千葉大学 なぜ彼らはジハードに向かうのか? ―― 欧州在住アラブ系移民・難民と外国人戦闘員問題 ―― 髙岡 豊 溝渕 正季 (公益財団法人中東調査会) (名古屋商科大学) [email protected] [email protected] はじめに 2011 年 3 月、いわゆる「アラブの春」の流れの中で、東アラブの権威主義国家シリアに おいても市民による抗議運動が発生した。当初は自由や民主主義を求める非暴力デモとし て始まったシリアの騒擾は、周辺諸国が各々の利害や政策的目標に沿ってあからさまな介 入を行ったことにより、中東地域における地政学的攻防の暴力的な「代理戦争」へとその 性質を即座に変化させた。そしてその過程で、バッシャール・アサド体制の崩壊を望む周 辺諸国は反体制派の武装闘争を様々な側面から援助し、「反アサド」を掲げてさえいればい かなる集団であっても――たとえ凶悪な犯罪者や残忍なテロリストであったとしても―― その活動を支援・黙認した。そしてアサド政権は、敵対する者すべてに対して苛烈な暴力 で応えた。 こうしてシリアは破壊と暴力の嵐に飲み込まれていき、とりわけ 2011 年末以降の紛争激 化に伴い、イスラーム過激派勢力1を世界中から惹き付ける強力な磁場となっていったので ある。事実、米国家テロ対策センター(NCTC)の推計(2015 年 2 月)によると、90 以上 の国から 2 万人を超える外国人戦闘員がシリアへと流入し、このうちの少なくとも 3,400 人 が西側諸国出身者だという。そして、全戦闘員に占める外国人戦闘員の比率はかつてない ほど高く、過去 20 年間にアフガニスタンやイラク、イエメン、あるいはソマリアでジハー ドに参加しようとした外国人の比率をはるかに上回っているという[Rasmussen 2015]。そし て、こうした外国人戦闘員の流入は、「紛争をより過激なものに、より残虐なものにしてい る。彼らはまた、恐らく、紛争をより非妥協的なものにもしている。なぜなら、外国人戦 闘員たちは一般に、シリアの典型的な反乱者たちと比べてよりイデオロギー的であるから だ」とも指摘される(トーマス・ヘッグハマー氏へのインタビュー。Holland[2014]より引 用)。 だが、どのような人々が、なぜ、何を目的として、いかにして、わざわざ命の危険を冒 1 「イスラーム過激派」がどのような個人・団体を指すかについて明確な定義はなく、同様の現象にも「イ スラーム急進派」などの異なる名称が用いられる場合もある。本稿では、イスラーム過激派を暫定的に以 下の個人・団体と定義して議論を進める。(1)イスラームの論理と主張する論理に基づき現状分析と問題 解決の考察をするとともに、自らの行動を彼らなりのイスラームによって正当化する。(2)既存の国家、 国境、及び政治制度(君主制、共和制など)に対して否定的な態度を取る。(3)政治的な行動様式としテ ロリズムを採用し、既存の国家・制度の枠内では非合法とされる活動を通じて目的を達成しようとする。 1 日本政治学会 2015 年度年次大会 分科会E-1「アラブ系移民/難民の越境移動:中東と欧州における比較研究」 2015 年 10 月 11 日(日)15:30〜17:30 @千葉大学 してまで遠く異国の地でのジハード2へと赴くのだろうか。本稿の目的は、シリアへのイス ラーム過激派勢力流入の原因とメカニズムを、実態に即して解明することである。 なお、本稿では、ジハードを行うことを目的として 2011 年半ば以降に他国からシリア(あ るいはイラク)に渡航した人々を、便宜的に「ムハージルーン」3と呼ぶこととしたい。 「ム ハージルーン」は大まかに言って戦闘員と非戦闘員の 2 つのカテゴリーに分けることがで きる。前者について本稿では、2015 年 7 月に国連安保理に提出された報告書に従い、 「次の ような目的を持って、自分が居住する国(地域)、あるいは自分が国籍を有する国(地域) 以外の国家に対して、渡航した者か、あるいは渡航を試みた者。その目的とは、テロ行為 の企画や準備、テロ行為への参加、あるいはテロリストとしての訓練を提供したり、訓練 を受けたりすること」[UNSC 2015: 5-6]と定義しておく。後者については、戦闘員の家族・ 親族、文民活動家(医師、看護師、教師、技術師、イスラーム法学者など)、ならびに戦闘 員との結婚を望む女性などが含まれる。上述の安保理報告書でも指摘されているように、 「ムハージルーン」を送り出す側の各国政府 4は、戦闘員についてはある程度その実数や動 向を把握しているようだが、非戦闘員についてはその実態を正確には把握できていないよ うである[UNSC 2015: 5]。 以上を踏まえ、本稿は次のような構成をとる。まず第一節では、このテーマに関する先 行研究を包括的に概観し、これまでに何が、どれだけ明らかにされてきたのか、そしてど のような問題点や課題が残されているのかを検討する。第二節では、「ムハージルーン」の 越境移動に関して、その実態とメカニズムを描き出す。第三節では、シリアを取り巻く地 政学的状況、そして周辺国の対シリア政策、とりわけトルコ政府の対シリア政策について 分析し、中東地域における地政学的攻防がいかにシリア危機に影響を与えているのかを考 察する。 2 なお、「ジハード」という単語は、元来、「奮闘努力すること」という意味のアラビア語であり、必ずし も「不信仰者に対する武装闘争」のみを意味する訳ではない。イスラームの戒律に忠実に生きること、自 らの内面に潜む悪と戦い道徳的に生きること、善行を積んで社会を改善することなどもまた、ジハードの 一部となる。 『オックスフォード現代イスラーム世界百科事典』によると、 「[アラビア語の]基本的な意味 としては、称賛に値する目的への努力を意味する。イスラームの文脈においては、ジハードは多義的な意 味を持つ。各人の悪しき性向への闘い、またはイスラームとウンマのための努力――たとえば、不信仰者 の改宗やイスラーム社会の道徳的改善(「言葉のジハード」、 「ペンのジハード」)――などを意味する。 [イ スラーム]法学においては、不信仰者への戦闘行為を意味し、クルアーンにおける意味も同様である」 [Peters 1995]とされる。 3 「移住者」を意味するアラビア語ムハージルの複数形。622 年、預言者ムハンマドに従ってマッカからマ ディーナに移住(ヒジュラ)した 70 名余がムハージルーンと呼ばれた。現代では「イスラーム国」が他国 からの移住者たちをこのように呼称しており、本稿も暫定的にこれに倣うこととする。 4 なお、過激化研究国際センター(ICSR)の推計によると、サウジアラビア(1,500~2,500 人)、チュニジ ア(1,500~3,000 人)、モロッコ(1,500 人)、ヨルダン(1,500 人)、ロシア(800~1,500 人)、フランス(1,200 人)といった国々が比較的多くの戦闘員を送り出しているとされる[Neumann 2015]。 2 日本政治学会 2015 年度年次大会 分科会E-1「アラブ系移民/難民の越境移動:中東と欧州における比較研究」 2015 年 10 月 11 日(日)15:30〜17:30 @千葉大学 1. 誰が、なぜ、どのように、ジハードに参加するのか?――先行研究の検討 2011 年 3 月に始まったシリア危機を契機として、 「ムハージルーン」については多くの研 究が発表されてきた5。本節の目的はそれらの先行研究を概観し、それらの問題点や残され た課題を検討することである。とはいえ、今次の危機が発生する以前の段階でも、誰が、 なぜ、どのように反乱やテロリズム、あるいは国境を越えて活動するイスラーム過激派勢 力に参加するのか(「プッシュ要因」)、そして、そうした運動や組織の側は人々をどのよう に動員・リクルートするのか(「プル要因」)といったテーマについては、政治学、社会学 の分野でこれまでに数多くの研究がなされてきた。したがって本節では、まずは今次のシ リア危機を直接的には扱っていないそうした既存の先行研究を概観した後に、「ムハージル ーン」を直接扱った 2011 年以降の先行研究を分析し、これまでに何が、どれだけ明らかに されてきたのか、そしてどのような問題点や課題が残されているのかを検討する。 誰が、なぜ、どのように動員されるのか? どのような人が、なぜ、どのように、何を目的として革命や反乱、あるいはテロリズム といった危険を伴う集合行為に参加するのか。こうした問いをめぐっては、これまでに様々 な観点から膨大な研究が蓄積されてきた。たとえば、社会不安や社会的機能不全に対して 心理的要因が累積していく時、様々な形態の集合行為が生み出されるとする Smelser[1963] の「価値付加の論理」の研究、相対的価値剥奪と人々の不満を正当化する信念・理念とい う観点から革命や反乱を分析した Gurr[1971]の研究、数多くの途上国を事例として用いな がら、経済発展と社会的流動化に伴う社会的期待感の増大に対して、政治参加や政治的制 度化が追いつかず、両者のギャップが広がることで革命や反乱といった政治的暴力に繋が るという仮説(「ギャップ仮説」)を打ち出した Huntington[1968]などは、高コストな集合 行為を社会的・構造的要因から説明した古典的な代表例である。他方で、個人に焦点を当 てた研究としては Olson[1965]が古典的な代表例である。彼は合理的選択理論の観点から、 合理的な個人であれば集合財獲得のための貢献の努力をするのではなく、他者の努力によ って獲得された財の利益だけを享受しようと考える、すなわち「フリーライダー」となる だろうと指摘した。そして、集合行為が成立し得る条件として、十分に小規模であること、 あるいは選択的誘因が構成員に提供されることを挙げた。 また、よりミクロ的観点から、集合行為に参加する個々人の社会・経済的背景や心理的 要因に焦点を当てた研究も数多くなされてきた(たとえば Clark[1986]、Horgan[2003]、Hudson [1999]、Lee[2011]、Reinares[2004]、Russell and Miller[1977]など。また、こうした研究を包括的に レヴューした文献として Victoroff[2005]が有益である)。こうした研究により、これまでに多くの ことが明らかとなってきた。たとえば、テロリストとなる人間の多くは高等教育を受けた 5 たとえば Tinnes[2015]は、2015 年 7 月時点での「イスラーム国」関連の(英語)文献を網羅した書誌 目録である。 3 日本政治学会 2015 年度年次大会 分科会E-1「アラブ系移民/難民の越境移動:中東と欧州における比較研究」 2015 年 10 月 11 日(日)15:30〜17:30 @千葉大学 独身男性であり、年齢は概ね 10 代後半から 30 歳前後までである。さらに、テロリストは 精神面で健常者であることが一般的であり、精神的病質者は通常、組織から排除される。 反乱勢力やテロ組織に加わる人々のほとんどは、それ以前には社会に順応していたるのよ うに見えた人々であるという。Russell and Miller[1977]は、その古典的な研究のなかで、1966 年から 76 年にかけて活動したヨーロッパ、中東、南米、そして日本の計 18 のテロ組織、 のべ 350 人の調査を行った。その結果、各組織の平均年齢は 23.2 歳から 31.3 歳まで幅があ ったものの、ほとんどの構成員は中・上流階層出身者であり、その多くが大学を卒業して いたことを突き止めた。 2001 年の 9.11 事件を境として、それ以前は全体として民族独立運動や急進的左派勢力に 当てられていたテロリズム研究の焦点が、イスラーム過激派勢力、とりわけ国境を越えて 活動するグローバル・ジハード勢力に移って以降も、同様の傾向が確認されている(たとえ ば、Bakker[2007]、Fair[2008]、Hegghammer[2006]、Krueger[2007]、Krueger and Maleckova[2003]、 Pedahzur, Weinberg and Perliger[2003]、Sageman[2004]など)。さらに、イスラーム過激派勢力には エンジニアがとりわけ多く含まれていることも良く知られている[Ibrahim 1980; Gambetta and Hertog 2009]6。 その一方で、テロ組織とは異なり、とりわけ紛争地域で活動を行う反乱勢力について言 えば、その戦闘員の多くは貧困層の出身であり低学歴である(そして、しばしば 10 代前半 の少年である)ことも確認されている[Humphreys and Weinstein 2008; Ribetti 2007; Singer 2005]。 また、暴力的な集合行為に参加する理由について、そもそもテロリズムとは、「実際に暴 力を行使すること、あるいは暴力を行使すると威嚇すること」であり、「それは恐怖と不安 の雰囲気を作り出す――文字通り、恐怖によって威嚇する(terrorize)する――よう計算さ れている。そして、それによって、何らかの[彼らが望むような]社会的・政治的変化を 生み出すのである」[Jenkins 1986: 2]。Richardson[2006]は、テロリストの目的は一般に「3 つの R」に整理されるとしている。すなわち、敵の「反応(Reaction)」を引き出すこと、敵 への「復讐(Revenge)」を行うこと、そして支持者たち(潜在的支持者層も含む)のあい だで「名声(Renown)」を獲得することである。 Metz[2012]はこうした議論をさらに発展させ、反乱勢力やテロ組織に参加する個人を心 理的要因から分類し、それぞれ「生存者」、「喪失者」、「暴漢」、「野心家」、「復讐者」、「理 想家」と名付け、それぞれのカテゴリー毎に対応戦略を分析している。「生存者」とは、元 より紛争地に居住し、武装闘争に参加するコストよりも参加しないコストの方が高くなる ような人々である。参加者・支持者には物理的保護を与え、反対者・批判者を虐殺するよ うな武装集団によって支配される地域では、不参加のコストがきわめて高くなることは想 6 ただし、自爆テロ要員やその他の末端戦闘員(いわば「使い捨て戦闘員」)に関して言えば、こうしたモ デルが当てはまらないことも多い。たとえば、パレスチナ・ハマースに関する Stern[2003: 50]の調査に よると、自爆テロ要員は「不安に苛まれ、困惑し、意気消沈した」人々、とりわけ職を持たず、未成熟な 若者たちであることが多い。彼らは、人生は苦痛であり、価値のあるものなど何も存在しないと確信して いるように見えたという。 4 日本政治学会 2015 年度年次大会 分科会E-1「アラブ系移民/難民の越境移動:中東と欧州における比較研究」 2015 年 10 月 11 日(日)15:30〜17:30 @千葉大学 像に難くない7。 「喪失者」とは、人生の意味や自身のアイデンティティを見失い、反乱やテ ロ行為への参加がそうした心の隙間を埋めてくれると信じるに至った人々である。何らか の宗教を基盤とする反乱勢力やテロ集団には、このタイプの参加者が多い[Stern 2003]。 「暴 漢」とは、どのような社会にも存在するような暴力性や攻撃性を生まれ持つ人々で、多く の場合は若い男性である。反乱やテロ組織は彼らを惹き付ける。なぜならそれは、犯罪や 非行と異なり正当で名誉な活動であり、内外の支援を得る機会に恵まれているからである。 「野心家」とは、既存の社会秩序のなかでは社会的上昇の見込みを持てず、物質的利益や 戦利品、地位、名誉、権力などを求めて戦闘に参加する人々である8。 「復讐者」とは、世界 は本質的に不正義に支配されており、そうした不正義は暴力によって打破されなければな らないと考える人々である。「理想家」は「復讐者」と同じように不正義のはびこる世界に 不満を有するが、それよりも自身の理想郷を暴力によって打ち立てたてることは可能であ ると考える人々である。 何が人々と集合行為を媒介するのか? 上記のような背景を持つ人々が反乱やテロリズムといった集合行為に参加するに際して、 個々人が埋め込まれた社会的ネットワークはどのような役割を果たすのか、という点につ いてもこれまで大きな関心が寄せられてきた(たとえば、Emirbayer and Goodwin 1994; Diani and McAdam[2003]、Kitts[1999; 2000]、McAdam and Paulsen[1993]、Smilde[2005]など)。Della Porta[1988] は、1970 年代のイタリアで活動した左派テロ組織に関する古典的な研究のなかで、新規参 入者の多くは以前から組織内部に旧知の友人を持っていたこと、そして彼らはそうした繋 がりを通じて会合へと足を運び、徐々に組織へとコミットメントしていくという実態を明 らかにした。 ただし、個々人が集合行為に参加するに際して、社会ネットワークがどれほど重要な役 割を果たすのか、そしてどのような形態の社会ネットワークが人々を動員する際に有効な のか(あるいは、動員を阻害するのか)、といった点については、依然として様々な議論が なされている。また、社会ネットワークの強弱よりも、個々人と組織とのアイデンティテ ィ的近接性の方がより重要であると指摘する研究もある[Emirbayer and Goodwin 1994; McAdam and Paulsen 1993; Lim 2008]。他方で、社会ネットワークがそこに埋め込まれた個々人の「 (政治 的)社会化(socialization)」、あるいは「過激化(radicalization)」過程でいかなる役割を果た すのか、という点についても、これまでに多くの研究がなされている(たとえば Della Porta[1988]、 Horgan[2008]、Munson[2009]、Silke[2003])。 国境を越えて活動するグローバル・ジハード運動への参加者に焦点を絞った Sageman [2004; 2008]の研究によると、まず重要となるのが既存の友人・親族関係を通じたネットワ ークである(彼の調査対象者の実に 4 分の 3 が、参加以前から既存のメンバーと友人・親 7 8 この点については、Kalyvas and Kocher[2007]、Weinstein[2006: 111-121]などが詳しい。 こうしたタイプについては、Collier and Hoeffler[2004]が詳しい分析を行っている。 5 日本政治学会 2015 年度年次大会 分科会E-1「アラブ系移民/難民の越境移動:中東と欧州における比較研究」 2015 年 10 月 11 日(日)15:30〜17:30 @千葉大学 族関係にあるか、あるいは友人や親族と共に参加したかのいずれであった)。そして、そう したネットワークを通じて過激なイデオロギーを徐々に受容していき、モスクやその他の 核となる施設でイスラーム過激派勢力との接点を持つようになり、その結果(通常、個人 ではなく複数人で)参加するに至るというのが彼の主張である。 これと関連して、近年では、インターネット上に形成されるサイバー・ネットワークが 個々人の社会化、過激化、そして動員過程にどのような影響を与えるのか、という問題も 重要なテーマとなっている。インターネットの登場は明らかに、国境を越えて活動する非 国家主体やテロ組織に巨大な影響を与えた[Tarrow 2006; Weimann 2006]。たとえば Roy[2004] は、欧米に生きるイスラーム教徒移民 2 世、3 世で、自身の文化的アイデンティティを確立 できないでいる「デラシネ(根無し草)」の若者たちが、インターネットを通じて「新しい イスラーム教徒としてのアイデンティティ」を獲得し、それによって「想像上のウンマ(イ スラーム共同体)」を形成することで、ヨーロッパという領域的概念に代わって国境を越え るグローバルで脱領域的な連帯意識が生み出されるに至ったと論じた。そして、インター ネットを利用すれば誰でも気安く過激な思想にアクセスすることができ、サイバー空間で は現実世界の権威や権力とは無関係に、たとえ伝統的なイスラーム法学者でなくとも、同 調者・支持者さえ集めることができれば誰でも「想像上のウンマ」におけるカリスマにな ることができると指摘した。 ただし、インターネットの重要性を否定する論者はいないとしても、それがどの程度の 変化をもたらしたのかという点についても依然として意見が分かれている。インターネッ ト技術が国際テロ組織を取り巻く状況を根本から変化させたと主張する研究がある一方 [Nacos 2002; Seib and Janbek 2011]、インターネットがテロ組織の活発化や軍事的効率性の向上 をもたらすことはないと指摘する研究[Benson 2014]、あるいは現在でも新規参入者のリクル ートに際してはあくまで「直接的な対面コミュニケーション」こそが最も重要であるとい う点に変化はないと主張する研究もある[Hegghammer forthcoming; Kenney 2011]。 どのように動員するのか? 他方で、参加する側、動員される側の要因(「プッシュ要因」)に焦点を当てた研究とは 別に、こうした背景を持つ人々を動員する組織の側の要因(「プル要因」)についても、社 会運動理論、あるいは「たたかいの政治(contentious politics)」という研究領域において数 多く野研究がなされてきた(たとえば、Edwards[2014]、Tarrow[2011]、McAdam, McCarthy and Zald [1996]McAdam, Tarrow and Tilly[2001]など)。 マクアダムらによると、いかなる条件で、どのような人々が、どのように反乱や運動に 参加するのか、という問題について、社会運動理論はこれまで主として次の 3 つのアプロ ーチ方法を採用してきたという[McAdam, Tarrow and Tilly 1997]。第一に「条件」の研究であり、 集合的動員を形成する政治制度や政治過程がその分析対象となる。第二に「手段」の研究 であり、集合行為を支える動員構造が分析の対象となる。そして、第三に「規範」の研究 6 日本政治学会 2015 年度年次大会 分科会E-1「アラブ系移民/難民の越境移動:中東と欧州における比較研究」 2015 年 10 月 11 日(日)15:30〜17:30 @千葉大学 であり、集合行為が認識され、実行されるフレーミング・プロセスが分析対象となる。 たとえば Weinstein[2005; 2006]は、Olson[1965]の議論をベースに、人々を動員するため の戦略は、端的に言ってその組織の資金力に依存するのだと主張する。そして、豊富な資 金力を有する組織は金銭報酬という「選択的誘因」を頼りに構成員を集める傾向にあると して、短期的利益を求めて多くの構成員が参加するが、彼らの組織に対するコミットメン トは低いものに留まるという。他方で、そのような資源をあまり持たない武装集団は、社 会的紐帯などに依存して構成員を募る傾向があるという。また、Tarrow[2011: 33]は、反乱 や運動の発生メカニズムを次のように説明している。すなわち、反乱や運動は脅威を感じ たり政治的機会を認識したりしたとき、同盟勢力の潜在的可能性を認識したとき、あるい は敵手の脆弱性が明らかになったときに発生する。そして、そうした萌芽的運動は、それ が埋め込まれた社会ネットワークや連接構造を利用し、集合行為を正当化し権威付けるた めのフレームとアイデンティティを創り出すことで自分たちを結晶化していくと共に、運 動へ参加するコストを低減させることになるのである。 シリア危機と「ムハージルーン」に関する研究 ここで、「ムハージルーン」に関する先行研究に話題を移そう。2013 年以降、「イスラー ム国」関連の研究が大量に発表され、2015 年 8 月時点で、論文や著作、研究レポートの数 は 200 を超えている[Tinnes 2015]。なかでも「ムハージルーン」に関する興味深い研究とし て、たとえば Barrett[2014a]を挙げることができる。この研究によると、従来のイスラーム 過激派の平均年齢(25〜35 歳)よりも若干若い年齢層であるとされ、15〜17 歳の者も多く 見受けられるという。また、欧州出身の「ムハージルーン」のおよそ 6%は改宗ムスリムで あるとされ、その他の大部分はイスラーム諸国からの移民 2 世、3 世にあたるとされる。そ して、その多くはシリアと無縁の者たちであった(pp. 16-19)。 「ムハージルーン」に関するこれまでの研究は、主としてインターネット上に残された 声明や文書を取り上げ、「ムハージルーン」の動機や信条といった心理的要因を分析したも の、あるいはそうした動機や信条を醸成した送り出し国側の社会的・構造的要因を分析し たものが大半である(たとえば、Barrett[2014a; 2014b]、Franz[2015]、Hoyle and Alexander[2015]、 Klausen[2015]、Obe and Silverman[2015]、Stern and Berger[2015: 75-99]など)。これは、 「イスラー ム国」をはじめとするイスラーム過激派諸勢力に合流した人々が、合流するまでの過程や 合流してからの状況について SNS を中心にインターネット上に大量の書き込みをしている ため、彼らに関する信頼できるデータがなかなか入手し得ないなかで、それを基に彼らの 動機や信条を解明しようとする試みが多くなされてきたからであろう。 SNS 上の書き込みでは、主としてヨーロッパにおけるイスラーム教徒差別への憤り、社 会的上昇を見込めない状況への絶望感、あるいはシリアでの戦闘でイスラーム教徒が攻撃 されていることへの怒りなどが表明されている。たとえば Barrett[2014a: 21]は、 「ムハージ ルーン」の典型的な動機として、次のようなイギリス人戦闘員の言説を紹介している。 7 日本政治学会 2015 年度年次大会 分科会E-1「アラブ系移民/難民の越境移動:中東と欧州における比較研究」 2015 年 10 月 11 日(日)15:30〜17:30 @千葉大学 私に[イギリスでの]生活を捨てさせ、ここ[シリア]に連れてきた理由はいくつも ある。最初の理由は宗教的なものだ。つまり、イスラーム教徒の血と土地を防衛する ことは、たとえそれが法に背くものであったとしても、個々のすべてのイスラーム教 徒に課せられた義務であるという事実からである。2 番目の理由は人道的なものだ。 私は戦闘に従事すると共に、福祉・援助活動にも同じように参加している。 とはいえ、すべての「ムハージルーン」がこうした宗教的、あるいは政治的動機を持っ ているわけではない。こうした動機を有する者は、Metz[2012]の分類に従うなら、宗教的 に敬虔で「復讐者」と「理想家」の属性を併せ持つ存在である。ヨーロッパからシリアに 渡航する人々のなかに「生存者」の属性を持つものはほぼ皆無であろうが、その他にも、 「喪 失者」や「暴漢」、「野心家」といった属性を持つものが多く存在することも明らかとなっ ている。たとえば Economist[2014]は、「欧米人が『イスラーム国』に惹き付けられる理由 として考えられるのは、祖国での退屈な生活から抜け出し、自らのアイデンティティを見 出したいという願望である。… さえない町で将来性のない職に就いている若者にとって、 兄弟の絆や栄光、銃はゾクゾクするほど魅力的に映る」と指摘している。これは「喪失者」 の典型的な例である。同誌によると、ベルギー出身の戦闘員の多くは、何の娯楽もない、 面白みのない街から来ているとされ、イスラーム過激派勢力はそうした場所で集中的にリ クルート活動を行っているという。また、全体の 10〜15%は女性であるとも指摘されてい る。 また、あるドイツ人の研究によると、ドイツ人「ムハージルーン」のなかでインターネ ットを通じて過激化していった者の割合は 18%に過ぎないと見積もられている。他方で、 それよりも相対的に重要な要因となっているのは、モスクなどでのイマームとの出会い (23%)や、既にシリアに渡航した友人たちの手引き(30%)であるという(Franz[2015: 9-10] から引用)。この調査は、上で触れた既存の社会ネットワークや「対面コミュニケーション」 の重要性を指摘する Hegghammer[Forthcoming]や Kenney[2010]、あるいは Sageman[2004; 2008] の議論を支持するものである。 他方で、なぜイスラーム過激派諸勢力がシリアを活動の場として選び、勢力を伸ばして いるかについて示唆を与える論考として Hafez[2009]や Lund[2012]がある。これらによる と、シリアはアメリカをはじめとする西側諸国と関係が悪い上、「非スンナ派の少数宗派の 政権」が統治しているため、イスラーム過激派がスンナ派の宗派意識を煽って武装闘争を 行っても、国際的に結束した対応がとりにくいという見通しが、イスラーム過激派が活動 の舞台としてシリアを選好した動機である。 言うまでもなく、こうした既存の研究は、個々人がなぜ、どのようのジハードに参加す るのかという点を解明するにあたって重要な貢献である。ただし、既存の研究が見落とし ている論点、あるいは補強や検証が必要な論点も存在する。 8 日本政治学会 2015 年度年次大会 分科会E-1「アラブ系移民/難民の越境移動:中東と欧州における比較研究」 2015 年 10 月 11 日(日)15:30〜17:30 @千葉大学 たとえば、既にシリアやイラクに密航し、 「イスラーム国」などに合流した者による SNS 上の書き込みには、新たな合流希望者を扇動・勧誘する広報活動としての側面があり、彼 らが書き込みの中で主張する動機や心情、あるいは潜入の出発前・途上・成功後の体験は 「イスラーム国」などによる広報上の作為に強く影響されている。たとえば、複数の外国 人戦闘員が Twitter 上で「イスラーム国」での生活を「五つ星ジハード」と称し、そこでの 生活の快適さを連日書き連ねているが、それなどは典型的な例である。そして、既にイス ラーム過激派の構成員となり、その広報活動の一環として SNS などに書き込みをする人々 の主張をそのまま受け入れてしまうと、必然的にバイアスのかかった結論にならざるを得 ない。つまり、「現場の生の声」と思しき情報に着目し過ぎるあまり、誰が、なぜ、どのよ うにジハードに参加するのか、という問いに対して実態に即した解答を依然として出し得 ていないのである。特に、誰が、なぜという問いに答えるためには、個々の「ムハージル ーン」がイスラーム過激派の思想や活動家に触れる以前の境遇や思想・信条に遡って検討 を加える必要があろうが、この点に関する実証的な研究はほとんど存在しない。 また、「ムハージルーン」や彼らの越境移動に関するこれまでの研究は、そのほとんどが 個別事例に関するジャーナリスティックな叙述的研究、あるいはファクト・ファインディ ング型の研究である。一定数の事例を集めて定量的分析を行った少数の研究にしても、そ の結果を単純に紹介しているのみである。無論、こうした研究は十分に意義のあるもので はあるが、そこからもう一歩進んで、より一般的なモデルを構築する作業は依然としてほ とんどなされていないと言える。 * ここまで本節では、主として「誰が、なぜ、どのように、ジハードに参加するのか」と の問いに関する先行研究を通観した後に、今次の「ムハージルーン」に関する先行研究を 概観してきた。そこから、「誰が、なぜ、どのように、ジハードに参加するのか」という問 いについては、一般的な原理や法則を導くことはそもそも不可能ではあるにしても(結局、 同じような人間関係や社会的・政治的背景を有していても、テロリストになる人間もなら ない人間もいる)、これまでに相当程度の研究が蓄積されてきたことが分かる。他方で、個々 の「ムハージルーン」がイスラーム過激派の思想や活動家に触れる以前の境遇、あるいは 徐々にイスラーム過激派的思想・信条を身に付けていくプロセスについては、データの信 頼性という問題から、実証的な研究は依然としてあまり存在しない。また、「ムハージルー ン」がどのようなメカニズムによってシリアへと潜入するのか、という点についても、実 証的な研究はあまりなされてこなかった。そこで以下では、「ムハージルーン」がどのよう なメカニズムによってシリアへと潜入するのか、という点について分析していく。 9 日本政治学会 2015 年度年次大会 分科会E-1「アラブ系移民/難民の越境移動:中東と欧州における比較研究」 2015 年 10 月 11 日(日)15:30〜17:30 @千葉大学 2. シリアに潜入する「ムハージルーン」の越境移動 国境を越えて活動する外国人戦闘員の問題、とりわけグローバル・ジハード勢力とも称 されることの多いイスラーム過激派勢力の越境移動の実態については、これまでに数多く の研究がなされてきた (たとえば、Gerges[2009]、Hafez[2009]、Hegghammer[2010/2011]、Malat [2013]、Sageman[2004; 2008]、Salehyan[2009]など)。1980 年代、対ソ闘争に参加するためにア フガニスタンに流入した大量のアラブ人戦闘員(「アラブ・アフガン」)は、国境を越えて 活動するイスラーム過激派勢力が顕在化した最初の事例である。彼らのなかには、「イスラ ーム共同体(ウンマ)に対する異教徒・無神論者の侵略」に対する武装闘争(ジハード) は全ムスリムの個人義務であり、居住地や国籍を問わず参加すべきものであるという認識 が存在した。参加の形態については、戦地に赴いて戦闘に直接参加するだけではなく、広 報、資金援助、その他、個々人がその能力に応じてできることをすべきであるとされた。 そして、とりわけ、2005 年から 2007 年頃にかけて盛んに行われたシリア経由でのイラク への外国人戦闘員の潜入という事例は、今次の「ムハージルーン」の越境移動の実態を明 らかにする上で重要である。というのも、両事例は戦闘員の動機、越境移動メカニズム、 そして彼らが合流を試みるイスラーム過激派組織などがほぼ共通しており、後者は前者に 関連する様々な活動や手法を発展させたものと捉えることができるからである。髙岡[2015] は前者のメカニズムを明らかにする試みであるが、本節では、第一にこの研究の要旨を概 観し、その上で第二に、越境移動を試みる今次の「ムハージルーン」の実態について検討 してみたい。 イスラーム過激派勢力の紛争地潜入メカニズム まず、2005〜2007 年頃にシリア経由でイラクに入った外国人戦闘員潜入の事例を基に、 イスラーム過激派の紛争地潜入メカニズムについて検討してみたい。なお、シリアを経由 したイラクへの外国人戦闘員の渡航については、O’Bagy[2012: 15]のように、2003 年 3 月 のイラク戦争時にシリアからイラクへと渡航した多数の戦闘員と、2003 年 5 月のジョージ・ W・ブッシュ大統領による「大規模戦闘終結宣言」以降にイラクへと渡ったイスラーム過激 派勢力とを混同、ないしは同一視する見方がある。しかし、前者は共に世俗主義体制をと るシリアのバッシャール・アサド政権とイラクのサッダーム・フセイン政権による後援の 下、公然と派遣されたものの、戦地でさして活躍することもなくフセイン政権崩壊と共に 雲散霧消した勢力であり、後者のイスラーム過激派とは区別して考えるべきものである。 具体的な潜入のメカニズムについては、イスラーム過激派の支持者や関係者がインター ネットの掲示板に投稿した情報提供の書き込みや、あるいは中東諸国やアメリカの捜査情 報を基にして、そのありようを描写することができる。ある人物が紛争地でのジハードを 希望し、実際に現地への潜入を企てたとする。その際、潜入に直接関与するアクターとし ては、潜入を希望・実行する本人(戦闘員本人:「潜入者」)、そして、現地で彼らを受け入 10 日本政治学会 2015 年度年次大会 分科会E-1「アラブ系移民/難民の越境移動:中東と欧州における比較研究」 2015 年 10 月 11 日(日)15:30〜17:30 @千葉大学 れる武装勢力(「受入者」)が存在することは自明のことである。だが、ただの思いつきで、 何の準備もなしにシリアやイラクに潜入した「潜入者」が、そのまますぐに武装勢力の一 員になれるわけではもちろんない。「潜入者」が何らかの方法で事前に「受入者」を決定し た後、不法越境を行うに当たっての偽造パスポート、路銀、あるいは待機する期間の宿泊 先といった渡航の旅程全般を援助してくれる者(「案内者」)の協力を取り付けておかない と、彼らの潜入の試みはおおむね失敗に終わることになる。実際、インターネット上で出 回った潜入を希望者向けの「指南書」のような投稿では、潜入希望者に対し事前に「受入 者」を決定すること、信頼できる「案内者」を確保すること、インターネット上で金銭的 な見返りを要求する情報提供者を信用しないこと、といった助言がなされており[高岡 2006]、 イスラーム過激派による動員においては対面コミュニケーションによる意思疎通が重要で あるとの主張[Hegghammer forthcoming; Kenney 2011]を裏付けている。 2000 年代前半から、インターネット上ではイスラーム過激派諸勢力による戦果発表のよ うな広報活動や、あるいは潜入についての情報をはじめとする様々な議論が行われており、 各種のサイトに掲載される情報はアラビア語で発信されることが多かった。重要な情報や 読者の関心が高い情報がアラビア語以外の言語に翻訳されることもあったが、翻訳は日常 的に行われていたわけではなかったので、この時期(2005〜2007 年)の情報発信は主にア ラビア語の読解能力がある者のみを対象としていた。そして、インターネットを通じたイ スラーム過激派の広報が活発化すると、武装勢力を騙る虚偽の戦果発表や他の団体が発信 した画像・映像からの剽窃が頻発した。これに対し、サイト管理者や読者の一部が虚報の 情報や剽窃を行う主体を積極的に排斥するという措置をとり、こうしたなかで徐々に信頼 性の高いいくつかのサイトがその評判を確立していった。その一方で、そうしたサイトで は虚偽情報に加えて、管理人と意見の対立する投稿者も排斥の対象となったため、インタ ーネット・サイトを通じたイスラーム過激派の情報発信には強い統制がかかることになっ た。しかし、当然ながら、そうした信頼性が高い有力なサイトは各国政府・情報機関によ る監視や改ざん、その他の攻撃に晒されることにもなり、イスラーム過激派とその支持者 たちがこうしたサイトを経路として資源や情報を入手することのリスクも非常に高まった。 2005 年から 2007 年頃にかけて外国人戦闘員の主要な供給源となっていたサウジアラビア の事例で言えば、「潜入者」はサウジアラビア国内の最寄りのモスクなどでの勧誘・選抜を 経て、潜入を決意するに至っている[Obaid and Cordesman 2005]。この過程には、「潜入者」と なるべき人々が集うモスクなどで、彼らを選抜・教化し、「案内者」や「受入者」と潜入の 段取りをつけるアクターが介在する。ここから、 「潜入者」を勧誘・選抜する者(「勧誘者」) の存在も明らかになる。「勧誘者」は、「潜入者」と「案内者」や「受入者」と連絡する手 段を持つとともに、「受入者」と思想・信条を共有し、それに基づいて「潜入者」の候補と なる人物を教化するのである。潜入の過程全体を見渡すと、潜入の成否は「潜入者」個人 の意思や資質によって決まるのではなく、「勧誘者」・「案内者」・「受入者」間の連携の巧拙 にかかっていた。このようなアクター間の連携については、主要な「受入者」であった「イ 11 日本政治学会 2015 年度年次大会 分科会E-1「アラブ系移民/難民の越境移動:中東と欧州における比較研究」 2015 年 10 月 11 日(日)15:30〜17:30 @千葉大学 ラク・イスラーム国」9が受入れた外国人戦闘員について取りまとめた台帳(いわゆる「シ ンジャール台帳」10)によると、同組織はシリアからイラクへの越境の際に「案内者」が「潜 入者」に多額の現金を請求することに不信感・不快感を募らせていたことが明らかとなっ ている[Felter and Fishman 2007: 25]。ここから、 「案内者」は、潜入に関与する他のアクターと イスラーム主義やジハードという思想・信条や目的意識を共有せず、報酬のような経済的 誘因を動機として潜入の過程に参加するアクターである可能性が高いことが判明した。実 際、「案内者」の役割を担っていたのはシリアとイラクとの国境を跨いで分布する部族や、 両国間の密輸を生業とする者などの地元住民だと考えられていた。そのため、シリア経由 でのイラクへの潜入は、イラクの地元住民と「受入者」にあたるイスラーム過激派諸勢力 との関係が経済的権益の争奪や後者による極端な宗教実践の押し付けなどの理由で悪化す ると、急速に衰退した。すなわち、潜入の成否に決定的な影響を及ぼす「勧誘者」・「案内 者」・「受入者」間の連携が成り立たなくなったのである。 この時点での潜入のメカニズムを図示すると以下のようになる。重要な点は、潜入のメ カニズムにおいては諸アクター間の直接的な人間関係や信頼感、そして連携の巧拙が潜入 を成功させるための決め手となっていたことである。なお、このメカニズムへのシリア政 府の関与は、イラクにおけるアメリカの成功を妨げるという地政学的な意図だけではなく、 同政府がアラブ民族主義を信奉し、アラブ諸国の国民の入国にほとんど査証を科していな かったという、同国の出入国管理政策にも留意して考察すべきである。この時点での潜入 の大半はアラブ人だったのだが、シリア政府が彼らの入国に査証を科していなかった以上、 当時年間で数十万人以上に上ったアラブ人の入国者の素性や意図を精査し、「潜入者」を割 り出すことはほとんど不可能であった。 図 1. イスラーム過激派による勧誘、戦闘員の移動のアクターと相関 不信感 案内者 不信感 出身国での人間関係 勧誘・選抜 潜入者 勧誘者 組織的関与 受入者 思想・信条的共鳴 出典:髙岡[2015: 21] 9 「イスラーム国」の前身となった組織で、2013 年 4 月に「イラクとシャームのイスラーム国」、2014 年 6 月に「イスラーム国」と改称して現在に至る。 10 「シンジャール台帳」については、アラビア語原典 (http://permanent.access.gpo.gov/lps91830/Foreign_Fighter_Bios-Orig.pdf)、そしてその英訳版 (http://permanent.access.gpo.gov/lps91831/FF-Bios-Trans.pdf)のいずれも、インターネット上で入手可能であ る(2015 年 9 月 14 日最終閲覧)。 12 日本政治学会 2015 年度年次大会 分科会E-1「アラブ系移民/難民の越境移動:中東と欧州における比較研究」 2015 年 10 月 11 日(日)15:30〜17:30 @千葉大学 「ムハージルーン」の越境移動メカニズム 本稿が分析の対象とするシリアへの「ムハージルーン」の越境移動についても、諸アク ターとその機能、そして移動の成功に必要な事前の準備や対面式・直接的な人間関係の重 要性などはほとんど変わっていない。これは、「受入者」側がスパイの浸透を極度に警戒し ていること、そして戦闘経験やその他の組織運営に必要な技術を持つ人材を求めているこ となどから、極力素性や身元の明らかな人物を勧誘したいと考えているためである。その 一方で、今次の事例においては、インターネット上での SNS のやり取りだけを頼りに、事 前の準備をほとんどせずに「イスラーム国」などへの合流に成功した者の事例も無視でき ないほどに増加している模様である。このような事例では、 「ムハージルーン」は「勧誘者」 と直接対面することがない上、主な経由地であるトルコでの移動や滞在についての情報も SNS やメールを通じて得るため、 「案内者」との接触するのもシリアへ不法入国するその場 限りとなる。事実、レバノンの日刊紙『ナハール』は、ヨーロッパ人の「ムハージルーン」 の多くがトルコからシリアへと密航する地点に到着して初めて「勧誘者」や「案内者」と 接触すると指摘している[al-Nahar, September 17, 2014]。 以上が事実であるとするなら、前項で分析した潜入のメカニズムにおける「勧誘者」や 「案内者」の位置づけにも変化が生ずるものと考えられる。ゆえに、図 1 のモデルに修正 を加える必要が生じるが、主な修正点は次の 2 点である。第 1 に、潜在的な「ムハージル ーン」に対して、彼らが潜入を決意するに至るような情報を誰が提供するのか、という点。 イスラーム過激派の情報発信の経路として SNS の使用が広まると、そこでの情報のやり取 りは有力掲示板サイト上で科されていた統制から離れ、自由な情報発信がされるようにな った。しかしながら、これにより、SNS 上に質や信頼性について裏付けのない雑多な情報 が氾濫することになり、イスラーム過激派やジハードの戦場に通暁しない者が独力で適切 な情報を取得することがきわめて困難となった。第 2 に、スパイなどの浸透を最も警戒す ると共に、戦場や広報の舞台で戦力として役に立たない者、思想・信条を共有しない者を 迎え入れることも嫌っているはずの「受入者」が、SNS を通じて集まった選抜や教化とい う過程をまったくと言って良いほど経験していない「ムハージルーン」をどのように受け 入れるのか、という点である。 第 1 の点については、インターネット上でイスラーム過激派諸勢力やその構成員が発信 する情報を取りまとめ、(アラビア語から英語など)他の言語に翻訳し、場合によっては読 者の疑問に答える解説まで施す活動をしている者(「拡散者」)の存在が明らかになってい る。上述のように、これまでは個々の「受入者」が設置した公式サイト・アカウントや、 「受 入者」かそれと親しい管理者が運営する会員制の有力掲示板サイトがイスラーム過激派の 情報発信の基盤となっていた。しかし最近では、潜在的な「ムハージルーン」はそのよう なサイトではなく、専ら「拡散者」のサイト・アカウントを閲覧して情報を取得する傾向 が強まっている。今次の危機において「イスラーム国」などに加わろうとする人々の多く 13 日本政治学会 2015 年度年次大会 分科会E-1「アラブ系移民/難民の越境移動:中東と欧州における比較研究」 2015 年 10 月 11 日(日)15:30〜17:30 @千葉大学 は、シリアにもイラクにも地縁・血縁はおろか方言などの文化的な接点すら持たない者が 多く、中にはそもそもアラビア語を全く解さない者すらいる。そうした者たちにとって、 「勧 誘者」や「受入者」が発信する情報を翻訳したり、単一の SNS アカウント上に取りまとめ たりする「拡散者」は情報を得る経路として非常に重要である。その一方で、「拡散者」は 「受入者」の思想信条に共鳴し、彼らが発信するメッセージを相当程度理解するものの、 「拡 散者」のほとんどは「受入者」にあたる組織の構成員ではなく、「受入者」の構成員の中に 知己がいるわけでもない人々である。 第 2 の点のついては、「受入者」側が組織の構成員や関係者による保証・推薦がない「潜 入者」を直接組織に迎え入れないという対応をとることによって解消される。「受入者」は そのような保証・推薦のない「ムハージルーン」をいったん末端の関連組織(「仮の受入者」) に配属して戦闘や訓練に従事させ、そこで示した能力や活動実績に応じて、直接組織に迎 え入れるための保証・推薦を与えている模様である。つまり、 「ムハージルーン」のなかに、 潜入の旅に出発する前になされるべき選抜・教化の過程を、潜入が終わった後に受ける者 が多く見られるようになったのである。SNS だけに頼って潜入することは一見安易で手軽 のように感じられるが、潜入後に個々の「ムハージルーン」が体験する選抜・教化は、事 前にそれを済ませた「ムハージルーン」よりも過酷なものとなろう。 以上を踏まえて修正したモデルが、下図である。 図 2. SNS の利用などを考慮に入れた勧誘、戦闘員の移動のアクターの相関 不信感 不信感 案内者 出身国での人間関係 勧誘・選抜 勧誘者 ムハージルーン 組織的関与 真の受入者 選抜・教化を経ない不規則潜入 仮の受入者 心理的影響 拡散者 ネット上での情報の流通 思想・信条的共鳴 出所:髙岡[2015: 27] 「ムハージルーン」の越境移動メカニズムについてのここまでの考察を踏まえると、そ れを「グローバル化の流れのなかでの国際的なヒトの移動」の一類型と捉え、「プッシュ・ 14 日本政治学会 2015 年度年次大会 分科会E-1「アラブ系移民/難民の越境移動:中東と欧州における比較研究」 2015 年 10 月 11 日(日)15:30〜17:30 @千葉大学 プル要因」といった伝統的な経済学的アプローチや国家に注目する制度論的アプローチ、 あるいは社会ネットワークに着目する社会関係資本アプローチなど、国際移民に関する既 存の理論的枠組みを用いて検討することができそうである。 「受入者」側としてはもちろん、今組織に必要なのはどのような人材かという点につい ての明確な見通しを持っている。このため「受入者」側は、潜在的な「ムハージルーン」 が出身地で直面している困難や環境に対応した誘因(インセンティブ)を常に提示しよう と試みている。「イスラーム国」がヨーロッパやアラブ諸国での失業・結婚難・住宅難を考 慮して、 「ムハージルーン」に高額な報酬、結婚や女奴隷の斡旋、あるいは住居の提供など、 魅力的な福利厚生を約束し、「イスラーム国」での理想的な暮らしについての広報を盛んに 行っているのがその好例である。「イスラーム国」は他の武装組織とは比較にならないほど の資金力を有しているとされており[Humud, Pirog and Rosen 2015]、「ムハージルーン」の動員 に際してはこうした「選択的誘因」に大きく依存している。 また、その人物が組織にとって本当に必要で、かつ信用できる人物であるか判断する局 面においても、見極めの際には「勧誘者」、 「受入者」というアクターと「ムハージルーン」 との間に親族・友人・同郷出身者などの縁故がある方が、越境移動が円滑に行われている。 さらに、「ムハージルーン」の越境移動に関わる諸アクターのうち、「受入者」以外のアク ターはすべてシリアとイラク以外の国々で活動するアクターであることも見逃すことはで きない。すなわち、彼らが在住・活動している諸外国において、各国政府がどのような動 機や戦略を有し、それに対してどのような政策を講じているのかといった要素も、越境移 動の実態解明のために明らかにすべきことなのである。 出稼ぎや出稼ぎ者の家族の合流のような経済的な目的に基づいて越境移動を行う主体は、 所得の高低や雇用の有無、能力開発の機会の多寡、社会保障の水準などにとどまらず、移 動先の候補となる諸国の出入国管理政策など様々な要因の組み合わせから、移動をするか 否か、行くならどこに行くかを決定する[EUROSTAT 2000]。このような発想を「ムハージル ーン」の越境移動のメカニズムについての考察にも取り入れるべきである。つまり、「ムハ ージルーン」の越境移動についても所得の高低、能力の開発と発揮の機会の多寡、社会保 障や福利厚生の優劣のようなプッシュ・プル要因、移動先である受入者に既に越境移動を 経験し、後続者を援助することができる親族・友人などがいるか、そして、勧誘の舞台と なる潜入者の出身国と越境移動の際の通過地となる諸国が「ムハージルーン」の越境移動 にどのような態度で臨んでいるのかという諸要素の組み合わせに応じて、諸般の活動が営 まれていると考えるべきである。ある国が「ムハージルーン」の勧誘や移動に対して寛容 であるほど、あるいはそれを取り締まる能力が低いほど、その国で営まれる「ムハージル ーン」の越境移動に関連する活動は盛んになるだろう。 今次のシリア危機に際しては、とりわけ、シリアの置かれた地政学的状況、そして「ム ハージルーン」のほとんどが経由地として選択するトルコの政策とその背景についての分 析に取り組む必要があろう。次節ではこの点に着目して、さらなる検討を加えていく。 15 日本政治学会 2015 年度年次大会 分科会E-1「アラブ系移民/難民の越境移動:中東と欧州における比較研究」 2015 年 10 月 11 日(日)15:30〜17:30 @千葉大学 3. シリアをめぐる中東の地政学的闘争 本節では、前節で検討したような「ムハージルーン」の越境移動メカニズムを運用可能 とするような外部的要因、つまり、シリアのおかれた地政学的状況と経由地としてのトル コについて分析を加えていく。 シリアのおかれた地政学的状況 しばしば指摘されることではあるが、シリアは地理的に中東地域の中心に位置し、政治 的にも中東の要衝国家としてきわめて重要な役割を担ってきた。中東政治の文脈において シリアの重要性を高めているのは、主として次のような要因である。 第 1 に、地図を一瞥すれば明らかなことではあるが、シリアの地理的位置である。シリ アは北にトルコ、東にイラク、南にサウジアラビアとヨルダン、南西にイスラエル、西に はレバノンと、長い陸続きの国境を有している。そもそもアラブ世界において国境とは、 20 世紀前半に、既存の地理的認識や行政区分とは無関係に欧州列強が人為的・恣意的に引 いた単なる境界線に過ぎない。そして現在においても、そうした国境とは無関係のいくつ もの伝統的な社会的紐帯が未だに強固に生き延びている。部族、宗教・宗派、民族などが そうした伝統的な社会的紐帯の主な例であろう。たとえばトルコ、シリア、そしてイラク は共に、「国を持たない最大の民族」とも称されるクルド人を国境内に多く抱えている。ま た、ジュブールやシャンマルといった部族は、シリアとイラクの国境を跨いで居住し、現 在でも依然として強固な社会的紐帯と強い政治的影響力を維持している[髙岡 2011; Felter and Fishman 2007]。したがって、仮にシリアで何か問題が起きた場合、それは即座に周辺諸国へ と波及することになる。またその逆も然りである。つまり、アサド大統領自身が次のよう に述べたことは、あながち誇張とは言えないということである。 シリアは地理的、地政学的、歴史的な側面で特別な地位を占めており、文化、宗教、 宗派、エスニシティなど、中東のほとんどすべての構成要素の結節点である。それは あたかも活断層であり、この活断層の安定を揺るがそうとするいかなる試みも、大地 震をもたらし、地域全体がその被害を受けることになる11。 第 2 に、中東和平問題における中心的な役割である。シリアの重要性は、第一義的には 先代のハーフィズ・アサド前大統領が立ち上げた盤石な統治体制に由来した(少なくとも 2011 年までは、この点に疑問の余地は無いと思われていた)。Ma’oz[1986: 9]が指摘するよ うに、1970 年に全権を掌握した先代のハーフィズ・アサド前大統領の下で、シリアは「脆 弱で不安定な国家から、明らかに強力で安定した国家、さらには中東における地域大国へ 11 2011 年 10 月 30 日の「ロシア国営放送第 1 チャンネル」とのインタビューでの発言。青山[2012: 50] より引用。 16 日本政治学会 2015 年度年次大会 分科会E-1「アラブ系移民/難民の越境移動:中東と欧州における比較研究」 2015 年 10 月 11 日(日)15:30〜17:30 @千葉大学 と変貌を遂げることに成功した」。国内の統治体制を盤石にすることと、国際政治・域内政 治におけるシリアのパワーと影響力を拡大させることの間には有機的な繋がりが存在する ことを、アサド父子は十分に理解していた。こうしてシリアは、イスラエルと対峙する「前 線国家」としての重要性を高めていったのである[Leverett 2005]。加えて、1980 年代以降、 シリア政府はレバノンのヒズブッラー、そしてパレスチナのハマースという、2 つの重要な 対イスラエル抵抗運動組織に対して強い影響力を維持している。 こうしたことから、ウォーレン・クリストファー元米国務長官は次のように述べている。 「アメリカにとってイスラエル・シリア間の和平合意は、イスラエルから主要な脅威を取 り除くことのみならず、この地域におけるアメリカの戦略的地位を改善することにも繋が るだろう。… イスラエルとシリアの間の和解以上に価値のある目標など、恐らく存在しな い」[Christopher 2001: 218-219]。また、こうしたことから、実際、 (任期最終年に限ったことと はいえ)中東和平問題に対して積極的な関与を見せたビル・クリントン米政権は、シリア をその鍵であると認識していた[Ross 2004]。 他方でシリア政府の側もまた、これまでに水面下で幾度もイスラエルとの和平の糸口を 探ってきた。1990 年代においてはクリントン元米大統領の仲介のもとで、和平の目前まで 迫っていた。アサド大統領もまた、大統領就任時には「我々は近代化を進めるべく、[イス ラエルとの]和平を前進させなければならない」 [Le Figaro, June 23, 2001]と述べるなど、和平 への前向きな姿勢を見せていた。ジョージ・W・ブッシュ前米大統領時代にはあまり進展は なかったが、その後、2008 年半ばから 2009 年 1 月のイスラエルによるガザ空爆以前の時期 にかけて、トルコを介して間接交渉が進められていた[今井 2013]。また、2005 年半ば頃か ら国際社会での孤立を深めていたシリアであったが、2008 年頃を境として、同国に対する 欧米諸国の見方も徐々にポジティブな方向へと変化しつつあった[青山 2010; 溝渕 2010]。 そして第 3 に、イランとの強固な同盟関係である。1979 年のイラン革命を契機に、主と してイラクに対するバランシング戦略として始まったシリアとイランの同盟関係は、世俗 的なバアス主義を掲げるバアス党政権と、「イスラーム法学者による統治」を標榜するイス ラーム主義体制という、全く異なる体制同士の「奇妙なカップル」 [Hirschfeld 1986]ではあっ たが、それでも現在までに「地域における最も耐久性の高い同盟の 1 つ」 [Goodarzi 2006: 12]、 あるいは時に悪意を込めて「シリア・イラン枢軸」とも称されるほどの強固な同盟関係へ と発展してきた。 この同盟関係は、2003 年のイラク戦争以降、イランを湾岸地域における最大の地政学的 ライバルであると考えるサウジアラビア、そして「テロとの闘い」と「ならず者国家の体 制転換」とのスローガンの下で、中東民主化やイラク安定化を悲願としていたブッシュ前 米政権にとって最大の障害であり続けた。シリアとイランは、アメリカ(そして、その重 要な同盟国であるサウジアラビアとイスラエル)に対して脅威を感じれば感じるほど、そ の同盟関係をより強固なものとしていった。Walt[2009: 102]が指摘するように、 「この種の 結託は標準的なバランシングの定義に当てはまる。イラクにおける反乱を煽ることで、シ 17 日本政治学会 2015 年度年次大会 分科会E-1「アラブ系移民/難民の越境移動:中東と欧州における比較研究」 2015 年 10 月 11 日(日)15:30〜17:30 @千葉大学 リアとイランはアメリカを泥沼にはめ込み、自分たちに対して直接的な軍事的脅威を向け られないように仕向けたのである」。 また、レバノン・ヒズブッラーとイランとの間の地政学的結節点という意味においても、 シリアは重要な役割を担っている。ヒズブッラーとイランの間の密接な関係はしばしば指 摘されるところであるが[Chehabi 2006]、その関係もシリアの仲介があってこそ成り立つも のである。実際、2010 年 2 月には、マフムード・アフマディネジャード・イラン大統領(当 時)がシリアを訪問し、それに合わせてハサン・ナスルッラー・ヒズブッラー書記長もダ マスカスを訪問、アサド大統領も交えた三者会談はあたかも「首脳会談」などと評され、 その結束の強さを内外に強く誇示した。今次のシリア紛争においても三者の同盟関係は依 然として強固であり、イランとヒズブッラーの軍事支援は戦局を左右するほど大きな影響 を与えている。 以上のような地政学的状況を背景として、シリアはこれまで、中東政治において中心的 な役割を演じてきた。しかし、今次のシリア紛争では、シリアのこうした地政学的重要性 ゆえに、周辺諸国や欧米諸国は第一義的に、パワー・ポリティクスというレンズを通して 紛争を見ることになった[溝渕 2014]。湾岸地域の地政学的ライバル同士であるサウジアラ ビアとイランは、その最たる例である12。一方でサウジアラビアは、中東地域におけるイラ ンの影響力を削ぐべく、その盟友であるアサド政権の打倒を 2012 年初頭頃から公言し始め た。そして、シリア反体制武装勢力を軍事・政治・外交的側面で積極的に支援すると共に、 自国民が個人的に行う反体制派支援や、あるいは自国の若者たちが「ムハージルーン」と して紛争に参加することを黙認してきたのである [Guardian, June 22; Gause 2014: 15; al-Hayat, February 25, 2013; June 23, 2013; Reuters, October 1, 2013; Sayigh 2013]。ここからは、自国にいれば、と もすれば反体制運動の予備軍ともなり得るような急進的な若者たちをシリアに追い出すこ とで「一時しのぎ」をしたいという、国内的な安全保障への懸念も透けて見えた(実際、 サウジ王室によるこうした「追い出し」政策は 2000 年代を通じて、国内の治安維持という 面において一定の成果を収めていた[Hegghammer 2010: chap. 10])。また、シリアにおいて「イ スラーム国家の建設」と「カリフ制の再興」を目指すサラフィー主義者を支援することで、 国内のイスラーム主義者を懐柔・慰撫し、体制基盤を強化したいという狙いもあったもの と思われる。加えて、もとよりサウジ王室は、レバノンの利権をめぐってアサド政権とは ライバル関係にあった[溝渕 2013; Hersh 2007]。 他方で、イランにとってアサド政権の存続は、譲ることのできない「核心的利益」であ 12 Gause[2014]は、現在のこうしたサウジアラビアとイランのライバル関係を「中東新冷戦」と呼び、そ こでは「地域大国としての成功は、脆弱な周辺アラブ諸国の国内的政治闘争の次元において、クライアン トたる他国の非国家主体や同盟者を効果的に支援し得る能力に左右される。軍事力はこのゲームにおいて はそれほど有益なツールではない」と指摘する。 「域内同盟者とのあいだに効果的なパトロネージを成立さ せるためには、無論、カネや武器が必要となる。だが、同時に、超国家的なイデオロギー的・政治的繋が りも必要となる。これにより、潜在的なクライアントがパトロンとのあいだで関係を構築できるようにな るのである。そうした繋がりは、域内政治の行方を左右する上で、現在では通常兵力よりも一層重要なも のである」(p. 19)。 18 日本政治学会 2015 年度年次大会 分科会E-1「アラブ系移民/難民の越境移動:中東と欧州における比較研究」 2015 年 10 月 11 日(日)15:30〜17:30 @千葉大学 る。上述のように、イラン、レバノン・ヒズブッラー、そしてアサド政権は強固な同盟関 係によって結ばれており、イラン政府は今次のシリア危機でも政治的・外交的・軍事的側 面においてアサド政権を一貫して強力に支援している[Terrill 2015]。 だが、「ムハージルーン」の越境移動という観点からすれば、周辺諸国のなかで最も重要 な役割を担っているのがトルコである。トルコもまた、シリア紛争を純粋にパワー・ポリ ティクスというレンズを通して見ていた。次にそうしたトルコ政府の意図と政策について 見ていきたい。 経由地としてのトルコ 2011 年 3 月にシリアでの紛争が始まって以降、トルコの公正発展党政権は強硬な弾圧を 止めるようアサド大統領を幾度も説得し、軟着陸の道を探ってきた。だが、そうした試み は悉く失敗に終わった。その結果、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は 2011 年 11 月、 「さらなる流血の事態を招く前に[アサド大統領]は退陣すべきだ」と述べ、それま での対シリア友好政策を一変させて「反アサド」の立場を明確に打ち出すと共に、シリア の反体制武装勢力を陰に陽に支援するようになっていった[今井 2013a; Hokayem 2013: 110-119]。 トルコ政府によるシリア反体制武装勢力支援の実態については、これまでに様々な報道 記事や研究レポートによって明らかにされてきた。たとえば 2014 年 1 月、トルコ南部のシ リア国境付近において、トルコ国家情報局(MIT)のトラックを検察当局が停止させ、積み 荷を検査したところ、シリア反体制武装勢力に送り届けるための武器・弾薬が大量に発見 された。その後の捜査の結果、MIT はこれと同様の軍事支援を最低でも 2,000 回以上繰り返 してきたこと、そしてこうしたシリア反体制派支援計画にはアフメット・ダーヴォトオー ル首相を始めとする幾人もの大物政治家や軍高官が含まれていたことが明らかとなった [al-Monitor, January 15, 2015; International Business Times, March 27, 2014; Today’s Zaman, May 13, 2015]。ト ルコ政府はその後、トルコ・シリア国境線を閉鎖し、ヒト、モノ、カネの流れを遮断する ことを宣言していたが、にもかかわらず 2015 年 5 月には、膨大な量の爆弾の原料(硝酸ア ンモニウム肥料)がトルコ国境を超えてシリアに運び込まれている様子が報じられた[New York Times, May 4, 2015]。 「2011 年以来、シリアでのジハード主義諸勢力の伸張に際して、880 キロものシリア・トルコ国境を縦横無尽に越境する能力がきわめて重要であったことは疑 いようがない」と Independent[July 22, 2015]のパトリック・コバーン記者は論じている。 「多 くの側面においてトルコは、「イスラーム国」や「ヌスラ戦線」に対し安全な聖域を提供し ている。これはパキスタンがアフガニスタンのターリバーンに安全な聖域を提供している のと同様の役割である」。 その他にも、こうしたトルコ政府の積極的なシリア反体制派支援政策とは別に、犯罪組 織や買収された国境警備隊員に約 25 ドルの現金さえ支払えば、誰でも簡単に国境を越えて シリアに入れるとの報道もある。密入国案内人たちは、国境警備隊を支配下に置く「イス ラーム国のアミール(指揮官)」と呼ばれる人物から国境の特定の部分を、1 回 30 分間あた 19 日本政治学会 2015 年度年次大会 分科会E-1「アラブ系移民/難民の越境移動:中東と欧州における比較研究」 2015 年 10 月 11 日(日)15:30〜17:30 @千葉大学 りの支払い方式で「購入」するという。「その男は、元々はトルコ人の、アブー・アリーと いう人物だ」と彼は言う。「兵士たちは、みんなアブー・アリーを恐れている。何かに腹を 立てたというだけの理由で、アブー・アリーが国境を 10 日間閉鎖したこともあったくらい だ。とにかく、この人物がすべてを取り仕切って密入国をさせることで大金を稼ぎ、ダー イシュ[イスラーム国]のために武器や弾薬を購入しているのだ」[Huffington Post, February 27, 2015]。 こうしたことから、米国務省が 2015 年 6 月に発表した『テロリズムに関する国家レポー ト 2014』は、トルコを名指しし、「2014 年を通じて、シリアにおける上記の組織[「イスラ ーム国」、ヌスラ戦線、その他のイスラーム過激派諸組織]、またはその他の組織への参加 を希望する外国人テロリストの経由国として、あるいはその供給地として、トルコは機能 し続けていた」[U.S. Department of State, Bureau of Counterterrorism 2015: 148]と指摘している。こう したトルコ政府の姿勢についての政策的な適否の判断の問題はさておき、これによってシ リアの紛争が激化し、犠牲者数を大幅に増加させていることは事実である。 トルコ政府とエルドアン大統領の意図については、依然として判然としない部分が多い。 まず、紛争勃発から 1 年も経たないうちに、なぜエルドアン大統領は家族ぐるみで休暇を 一緒に過ごすほど親密な関係にあったはずアサド大統領に急に背を向け、その退陣に強く 拘るようになったのだろうか。この点については、たとえば、エルドアンのアサドに対す る反感は、2011 年秋頃、ムスリム同胞団を政権に取り込み、軟着陸を目指して政策を変え るようトルコ政府が説得したにもかかわらず、アサドがこれを無下に拒否したことに端を 発する。つまり、トルコの国益というよりは、恥をかかされたことによるエルドアンの個 人的な恨みである、との見方はしばしばなされてきた(たとえば、Today’s Zaman[October 19, 2014])。 こうした主張が事実か否かはさておき、トルコ政府高官のあいだに、アサド政権はエジ プトのホスニー・ムバーラク政権やリビアのムアンマル・カッザーフィー政権と同様、早 期に(少なくとも 6 ヶ月以内に)瓦解するとの予測・共通認識があったことは事実である [Barkey 2014: 117]。つまり、アサド政権か反体制勢力かという二者択一の賭けにおいて、ト ルコ政府は反体制勢力の側にすべてのチップを賭けたのである。しかし、アサド政権は予 想以上にしぶとく生き残り、その賭けは失敗だったとする声が国内外で多く聞かれるよう になってきた。それにより、自分たちの正しさを証明するために、トルコ政府はより一層、 アサド政権の退陣、そして(たとえそれがイスラーム過激派勢力であったとしても)反体 制武装勢力への支援に強硬に拘るようになっていったと考えられる。 加えて、トルコ政府にとって安全保障上の一番の懸念要因は、一貫してクルド人による 分離独立運動である[Gunter 2015: 106-108]。上述のようにクルド人は「国を持たない最大の民 族」とも言われ、全体でおよそ 3,000 万人、そのうちトルコには 1,450 万人、イラクには 5 〜600 万人、シリアには 200 万人程度が居住しているとされる。したがって、トルコ政府は シリアでの紛争が始まった直後から、シリアにおけるクルド人独立運動の動きに注意を払 っており、自らが支援する反体制武装勢力やイスラーム過激派諸勢力がクルド人武装組織 20 日本政治学会 2015 年度年次大会 分科会E-1「アラブ系移民/難民の越境移動:中東と欧州における比較研究」 2015 年 10 月 11 日(日)15:30〜17:30 @千葉大学 と衝突するという事態を歓迎した。2013 年初頭以降、 「イスラーム国」がシリア紛争におい て急激に台頭していくなかで、欧米諸国の優先事項は「イスラーム国」の打倒へと徐々に シフトしていったが、トルコ政府はあくまでアサド政権とクルド人勢力を最大の脅威とす る認識に固執し続けた。 ただ、2015 年 7 月 20 日にトルコ南東部スルチで「イスラーム国」の関与が疑われる自爆 テロ事件(死者 32 人、負傷者約 100 人)が発生し、これがトルコ政府の姿勢を転換させる 契機となった。これ以降、アメリカからの強い圧力も加わり、トルコ政府は対「イスラー ム国」軍事作戦に重い腰を上げ、トルコ南部のインジルリク軍事基地を米軍主導の有志連 合が使用する許可を与えた。だが、その一方でエルドアンは同年 6 月 26 日、「我々は北シ リア、我々の国境南部に[クルド人の]国家が建設されることを決して認めない」と強く 宣言している[Hurriyet Daily News, June 27, 2015]。本稿執筆時点(2015 年 8 月)でも、依然とし てトルコ政府は、11 月に実施予定のやり直し総選挙に向けて世論の動向を探りつつも、 「イ スラーム国」とクルド勢力のどちらを優先課題すべきか決めかねており、結果として双方 を攻撃するという政策をとっている[The Daily Beast, June 28; Reuters, July 25, 2015]。 * ここまで本節では、「ムハージルーン」の越境移動メカニズムを運用可能とするような外 部的要因、つまり、シリアのおかれた地政学的状況と経由地としてのトルコについて分析 してきた。ここから、シリアを第一義的にパワー・ポリティクスというレンズを通して認 識する周辺諸国・国際社会、そして何よりトルコ政府の政策こそが「ムハージルーン」の 越境移動に拍車を掛けていることは明らかであろう。そしてこれは、シリアの紛争をより 一層残虐で妥協困難なものとしているのである。 おわりに 以上、本稿では、国境を越えて活動する外国人戦闘員の問題、とりわけ今次のシリア危 機に際して顕在化した「ムハージルーン」の問題に関して、このテーマに関する先行研究 を包括的に概観した上で、残された課題について分析・考察を進めてきた。その結果、「ム ハージルーン」の越境移動に関して、その実態とメカニズムを描き出すと共に、中東地域 における地政学的攻防がいかにシリア危機に影響を与えているのかを明らかにしてきた。 今後は、個々の「ムハージルーン」についてもさらなるデータを蓄積し、本稿で提示し た仮説を検証していく作業が必要となろう。そのためには、対面式の聞き取り調査を積み 重ねることが無論重要となるが、こうした質的調査に加え、「ムハージルーン」を輩出する 国・地域や社会集団を対象とした量的調査(世論調査)を実施することも有効であろう。 そうした量的調査において適切な設問をすることができれば、彼らがイスラーム過激派の 21 日本政治学会 2015 年度年次大会 分科会E-1「アラブ系移民/難民の越境移動:中東と欧州における比較研究」 2015 年 10 月 11 日(日)15:30〜17:30 @千葉大学 プロパガンダに影響される以前の心理状態や、越境移動についての彼らの考え方について のより詳細な情報を得ることが可能となる。現時点では、国境を越えて活動するイスラー ム過激派の実態や、あるいは彼らの越境移動のプロセスについては、依然として研究と分 析は分析の途上にある。 また、こうしたテーマに関する研究は、かねてより「ある人にとってのテロリストは、 他の人にとっての『自由の戦士』である」としばしば言われてきたように、研究者自身の 立ち位置や価値観の影響を大きく受けがちである。このため、このような要素を極力排し、 質的調査と量的調査を組み合わせ、外国人戦闘員の越境移動という課題を客観的かつ多面 的に分析することが今後の課題となろう。 参考文献 青山弘之 2010.「パクス・シリアーナへのさらなる挑戦」『季刊アラブ』第 133 号、2-4 頁。 ―――― 2012.『混迷するシリア:歴史と政治構造から読み解く』岩波書店。 今井宏平 2013a.「混迷するトルコの対シリア外交」『中東研究』第 516 号、69-82 頁。 ―――― 2013b.「中東地域におけるトルコとの仲介政策:シリア・イスラエルの間接協議 とイランの核開発問題を事例として」 『中央大学社会科学研究所紀要』第 17 号、171-190 頁。 ―――― 2015.「『イスラーム国』に翻弄されるトルコ:『ダーヴォトオール・ドクトリン』 の誤算と国際社会との認識ギャップ」『中東研究』第 522 号、32-43 頁 髙岡豊 2006.「シリアからイラクへの『ムジャーヒドゥーン』潜入の経路と手法」『現代の 中東』第 41 号、47-64 頁。 ―――― 2011.『現代シリアの部族と政治・社会:ユーフラテス河沿岸地域・ジャジーラ地 域の部族の政治・社会的役割分析』三元社。 ―――― 2015.「『イスラーム国』とシステムとしての外国人戦闘員潜入」『中東研究』第 522 号、18-31 頁。 保坂修司 2014.「『イスラーム国』とアルカーイダ:液状化するサイクス・ピコ体制とカリ フ国家の幻影」吉岡明子・山尾大編『「イスラーム国」の脅威とイラク』岩波書店。 溝渕正季 2010.「帰ってきた『パワー・ブローカー』」『季刊アラブ』第 133 号、5-6 頁。 ―――― 2013.「シリア危機と混迷のレバノン:激化する権力闘争、分裂する社会、台頭す るサラフィー主義」『中東研究』第 517 号、14-26 頁。 ―――― 2014.「シリア危機はなぜ長期化しているのか?変容する反体制勢力と地政学的攻 防」『国際安全保障』第 41 巻 4 号、85-101 頁。 Bakker, Edwin. 2007. “Jihadi Terrorists in Europe: Their Characteristics and the Circumstances in which They Joined the Jihad - An Exploratory Study,” Clingendael Security Paper, No. 2. 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