Nara Women's University Digital Information Repository Title コミュニティ活性化のための「場」における構成員および目的に関 する研究 Author(s) 栁井, 妙子 Citation 奈良女子大学博士論文, 博士(学術), 博課 甲第576号, 平成27年 3月24日学位授与 Issue Date 2015-03-24 Description URL http://hdl.handle.net/10935/4011 Textversion ETD This document is downloaded at: 2016-03-04T15:42:13Z http://nwudir.lib.nara-w.ac.jp/dspace 論 氏 文 の 内 名 論文題目 容 の 要 旨 栁井妙子 コミュニティ活性化のための「場」における構成員および目的に関する研究 内 容 の 要 旨 本論文はコミュニティ活性化を進めるため、地域に設けられた「場」のあり方に注目し、 そのあり方を検討したものである。 「場」で主導的役割を果たしている構成員が専門家か市民 で「場」を二分し、さらに「場」が合意形成を目指したものかそうでないかで二分し、 「場」 を合計四分類し、その各々の典型例を取り上げて分析を進めている。 1 章「研究の背景と目的」では、先行研究の検討を踏まえ、本研究の目的を明記している。 本論の方法論で重要なのは先に挙げた 4 分類である。まず一つめは、合意形成を行う「場」 で専門家が主導的役割を果たすもので、該当する事例を 3 章で分析している。二つめは、合 意形成をしない「場」で専門家が主導的役割を果たすもので、該当する事例を 4 章で分析し ている。三つめは、合意形成を行う「場」で市民が主導的役割を果たすもので、該当する事 例を 5 章~7 章で分析している。四つめは、合意形成をしない「場」で市民が主導的役割を果 たすもので、該当する事例を 8 章で分析している。 2 章「まちづくりの変遷」では、日本における参加型まちづくりの変遷を概観し、中でもネ ットワーキング、プラットフォーム、ソーシャルキャピタルの視点から変遷を整理している。 3 章「専門家集団・NPO の関わるコミュニティ活性化のための場づくり」では、NPO 法人・ 大阪夢まち案内人が東大阪若江岩田地区で展開したまちづくりを調査している。そのまちづ くりに関わった 16 名を対象にヒヤリング調査を実施している。調査期間は 2003 年 9 月から 2004 年 3 月である。この章では初動期のまちづくりにおいて専門家がどのような手法で市民 の参加を促しているかを把握している。また参加者のネットワークがどのように重なり合い ながら、ネットワークが拡大したかを検討している。 4 章「ぎふまちづくりセンターにおける活動期ネットワーキング事例」では、ぎふまちづく りセンターの事例を分析している。調査期間は 2004 年 9 月~11 月である。ぎふまちづくりセ ンターに登録されている「まちづくり交流団体」の会員 29 名と「まちづくり交流団体」が実 施したイベントに参加した市民 25 名に対してヒヤリング調査を実施している。会員が複数の 団体に所属し、それによってネットワークがどのように拡大していったかを把握している。 また、ぎふまちづくりセンターを活動期の事例と位置づけ、3 章で分析した初動期のまちづく りと比較し、コミュニティ活動の段階によって「場」に求められる内容の違いを検討してい る。たとえばキーパーソンの役割、専門屋の役割、行政との関係などが初動期と活動期で異 なることを指摘している。 5 章「自治会連合会が主体となったコミュニティ活性化のための取り組み」では、岐阜県芥 見東自治連合会を事例として分析している。自治連合会役員に対するヒヤリング調査と地域 住民に対するアンケート調査を実施している。調査期間は、各々2012 年 2 月、2012 年 9 月で ある。ヒヤリング対象者は 7 名、アンケートは 300 世帯 900 人に配布し、549 名から回収して いる。ここでは自治会がコミュニティバス運行の取り組みをどのように進めたのか、それが どの程度成功したのかを検討している。そして、各地域団体が事業に対する関わりをどのよ うに広げていったのかを把握している。さらに、自治会が発行する自治会だより、みどりっ こ通信、アンケート調査などを下に、コミュニティバスの取り組みがコミュニティバスの乗 車率向上につながっているだけでなく、地域諸活動の発展に重要な影響を与えていたと分析 している。 6 章「限界集落再生のコミュニティ活性化のための取り組み」では、広島県安芸高田市川根 地区を事例として分析している。調査期間は 2008 年 10 月と 2009 年 3 月で、川根地区地域振 興協議会役員に対するヒヤリング調査を行っている。ここでは振興協議会の構成、活動内容 を把握し、役員の主導する地域活動が地域振興にどのような影響を与えているかを分析して いる。 7 章「商店主が主体となった商店街活性化の取り組み」では、新潟県村上市村上地区の事例 を分析している。調査期間は 2007 年 2 月、4 月であり、町屋巡りに参加している 32 商店主に ヒヤリング調査を行っている。ここでは地域で行っているイベントを把握し、それらと地域 諸団体の関係を把握している。また、住民がどのようなプロセスを経て地域活性化を進めた かを把握している。その上で、イベントに参加する中で近隣関係がどのように変化したか、 市民の地域に対する意識がどのように変わったのかを分析している。特にこの地区は地域資 源を生かした諸活動を重視しており、それが市民にどのような肯定的影響を与えたかを分析 している。 8 章「住民を主体とした裾野を広げる場の役割」では、合意形成を目的としない 3 団体を事 例として取り上げ分析している。調査対象としたのは、大阪府八尾市東山本地区まちづくり ラウンドテーブル、大阪府岸和田市まちづくり・ざいせい岸和田委員会、岐阜市岐阜を想う 会の 3 団体である。調査期間は、各々2014 年 4 月、同 5 月、同 5 月である。調査はヒヤリン グ調査で各々の会に所属する市民 18 名、11 名、24 名に行っている。ここでは各団体がどの ように運営されているのか、どのように議論を進めているのかを把握している。そして各団 に所属している市民が、各組織をどのように評価しているのか、組織に所属することで地域 に対する見方がどのように変化したか等を把握している。その上で、三つの組織を比較し、 共通点、異なった点を分析し、相違点が生じた理由を検討している。共通点としてあげてい るのは参加のしやすさ、情報交換の容易さ、参加者属性の多様さ、交流を通じた地域への関 心の高まりなどである。また、このような組織がどのような地域諸活動を誘発しているかも 分析している。 9 章「結論」では、各章の結論をまとめ直すと共に、1 章で示した「場」の四分類に従い、 各々の「場」の特徴をまとめている。また、コミュニティ活動を行う上で各々の「場」がど のようなメリット、デメリットを有しているのか、各々の「場」がどのようなコミュニティ 活動のどの場面、どの段階にふさわしいかを検討している。また、先行研究ではあまり重視 されていない合意形成をしない「場」をコミュニティ活動との関係で整理し、そのような「場」 の重要性を指摘している。 論 氏 文 審 査 名 論文題目 の 結 果 の 要 旨 栁井妙子 コミュニティ活性化のための「場」における構成員および目的に関する研究 要 旨 本論文は参加型まちづくりに関する一連の研究として位置づけられる。参加型まちづくり では、ネットワーキング、ソーシャルキャピタル、プラットフォームという概念をもちいて 議論されることが多い。本論文でもちいている「場」は、プラットフォームに該当する。日 本では林泰義、延藤安弘、久隆浩らが都市計画、まちづくりの視点から参加型まちづくりに 関する考察、プラットフォームについて研究を進めている。本研究はそれらの研究を下記の 点で発展させたものとして位置づけられる。 まず一点目は、 「場」の分類を提案したことである。まちづくりに関連して地域には様々な 「場」が設けられている。それらの違いを考慮せず、同じような視点で「場」を分析し、対 応策を検討しても有益な知見が得られない。一方、多様性を強調し、 「場」ごとの検討に委ね ると、経験の蓄積、教訓化が難しくなる。そこで本論では、まちづくりの視点から、多様な 「場」の分類方法を提起している。その方法は、 「場」の運営、決定で主導的役割を果たして いるのが市民なのか、専門家なのかで「場」をまず二分する。ここで専門家としたのは、ま ちづくりに関する知識、経験などのある技術者、行政職員、NPO 職員などである。そして「場」 が合意形成を目指して設置されたものか、合意形成を目指すものでないのかでさらに二分し ている。合意形成を目指している「場」とは、特定プロジェクトを進めるための「場」 、特定 地域の計画を策定するために設置された「場」 、特定事業に関して地域の意見をまとめるため に設置された「場」などを意味する。合意形成を目指していない「場」とは、特定地域のま ちづくりについて議論するが、そこで一定の計画や見解を決めたりせず、また特定プロジェ クトの実現などを想定していない「場」を意味する。この二つの視点によって「場」を合計 四つに分類し、その四分類に沿って多様な「場」を分析、検討すべきだとしている。本論は この 4 分類に沿って、典型的な事例を取り上げ、3 章から 8 章で分析する構成を取っている。 地域に存在する多様な「場」を、まちづくりの視点から分類したのが、本論文の特徴である。 二点目は先の四分類に従い、3 章から 8 章の事例分析を踏まえ、各々の「場」の特徴と課題 をまとめたことである。これらは主として本論の 9 章でまとめられており、その内容を簡潔 に記す。①合意形成を行う「場」で専門家が主導的役割を果たす場合、短期間で初動期のま ちづくりが開始できるという長所が認められる。一方、関係する市民に広く関心を持っても らい、コミュニティ活動を広げる工夫が必要である。②合意形成をしない「場」で専門家が 主導的役割を果たす場合、専門家のもつ多様なネットワークを生かした人間関係の広がりに 期待できる。また新たなネットワークが生み出す新たな諸活動の生成も期待できる。一方、 一般市民が「場」に関心を持ち続け、 「場」の諸活動に参加し続けるための工夫が必要である。 ③合意形成を行う「場」で市民が主導的役割を果たす場合、市民が比較的気軽に参加できる ため、参加する市民の数、層を広げやすい。また市民が地元の良さなどを再認識し、まちづ くりの主体形成につながりやすい。一方、活動に問題が生じた場合、問題解決に対する組織 的取り組みが弱くなりがちである。また、合意形成までに時間のかかる場合がある。④合意 形成をしない「場」で市民が主導的役割を果たす場合、同じ立場で参加でき、合意形成も行 わないため、気軽に参加できる。一方、参加者の関心が薄れると組織の維持が困難になった り、組織運営に工夫がない場合、活動がマンネリ化したりする。 三点目は、先の④合意形成をしない「場」で市民が主導的役割を果たす「場」の重要性を コミュニティ活動全体の中に位置づけたことである。実際のコミュニティ活動では、先の① ③もしくは②が重視されている。それに対して④の「場」は理論的、実践的にあまり重視さ れておらず、意識的に組織化されることも稀である。多くのコミュニティ活動は①③の形態 をとり、場合によっては②の形態を採用しがちである。しかし、④の「場」は、①~③の「場」 には代替のきかない機能、特に気軽に市民が参加でき、対等平等に議論できるという大きな 長所を持っている。そこでコミュニティ活動にこの④の「場」を積極的に位置づけるべきと している。具体的には、①~③の「場」に参加していない市民が参加できる「場」として、 コミュニティ諸活動の基盤として④を位置づけるべきとしている。また、 「場」は①~④に分 類されるが、その分類は固定されたものではなく、変化できる。従来のコミュニティ活動の 場合、①はその「場」を設置した課題が解決した場合、消滅する。しかし、コミュニティ活 動の永続性を考えた場合、①が④に移行することも考えられる。また、②として設定された 「場」が市民的広がりを欠いてきた場合、④に移行してその問題解決を図ることができる。 このような「場」の流動性を生かし、①~④を固定的にとらえるのではなく、地域が必要と する変化の中で④を位置づけるべきとしている。 本論文の 3 章は奈良女子大学家政学会家政学研究 Vol.54、No.1(2007)に、4 章も奈良女子 大学家政学会家政学研究 Vol.55、No.2(2009)に、5 章は情報コミュニケーション学会誌 Vol.10、No2(2015)にすでに掲載されている。また 8 章は人間と生活環境学会誌 Vol.22、No.1 に掲載が決定している。これらの四篇は査読付き論文であり、本論文は生活環境計画学講座 の内規を満たしている。 また、本論文の内容は Asian Regional Association for Home Economics で三回 (Malaysia(2007)、India(2009)、Singapore(2013)) 、World Congress of the International Federation for Home Economics で二回(Switzerland(2008)、Melbourne(2012))発表して いる。 よって、本学位論文は、奈良女子大学博士(学術)の学位を授与されるに十分な内容を有 していると判断した。
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