概要 科学技術の発展や社会の変化が見通しにくくなり不確実性が増大しつつある。そのため、将来 社会の在り方を考える予測活動の前提として、科学技術や社会の変化の兆候、微小な変化を見出 し、その将来的なインパクトを想定する必要性が高まっている。 そこで本調査では、科学技術の発展に主要な役割を果たしている米国の研究開発動向、政策 動向、及び社会変化を公開情報から抽出し、研究開発または政策のコミュニティや米国社会全般 の根底にある潮流、及び今後の変化を生み出す可能性のある変化の兆候について分析を行った。 調査期間は、2013年(平成25年)1月から2014年(平成26年)2月の14か月間である。 利用した情報源は、以下の通りである。また文献調査と併せ、科学技術の各分野の専門家への 対面インタビューを実施し、情報及び分析に関する専門的見解を収集した。 政府のプレスリリース 科学技術関連団体のプレスリリース 一般日刊紙、科学技術専門雑誌、一般情報誌、政治専門雑誌等、オンラインで情報が公開 されているもの 1.研究開発・科学技術の変化の根底にある背景 ○イノベーティブな投資モデルの登場 予算拠出を伴わずに効果的に投資・支援を行えるメカニズム、例えば、官民連携、複数組織に よるコンソーシアム、コンペ(連邦政府の負担は賞金拠出のみ)などが増加。 ○議会の承認を得ずに政権が実施できる政策の増加 民主党オバマ政権と、共和党主導の連邦議会下院との対立の影響を受け、議会を通さずに大 統領権限で進められる政策が進められる傾向。 ○職創出を目的とした政策措置の実施 中間層救済を目的として、職の創出につながる製造業支援や海外投資誘致等への取り組み。 ○メイドインアメリカ推進に向けた製造業・投資誘致・輸出の強化 製造業回帰が見られ、製造業イノベーションへの支援や、海外投資の誘致等の立ち上げ。 ○スマートグリッド、通信インフラ最新化 インフラ老朽化への対応として、ナノテクノロジーやマテリアル分野での最新インフラ技術開発、 ブロードバンドアクセス、送配電網インフラ等。 ○教育制度、移民制度の改革 理数系教育強化、実践的スキルトレーニングの拡大、学生ローン改革、留学生の就労ビザ拡大 等。 ○サイバー攻撃対応、アフリカ支援 中国発のサイバー攻撃、中国のアフリカにおけるインフラ等の売り込み等に対応し、アフリカ支 援イニシアチブ「パワー・アフリカ」の立ち上げ、サイバーインフラの強化に向けたフレームワーク 策定。 ○気候活動計画立ち上げ 気候変動に対する取組のため、気候活動計画立ち上げ。ただし、既存の法律枠組み内での規 制、省庁内調整や運営効率化等にとどまる見通し。 ○新しい形のクラスター整備 地域経済支援として、国内投資、国内製造業、国内雇用が結びついた省庁横断型のコミュニテ ィ活性化支援。 ○産学官連携研究、オープンイノベーション、オープンデータの拡大 研究開発の成果をいち早く実用化するための大学・民間コンソーシアム。また、連邦助成を受け た事業に関する成果公開とデータアクセス拡大の試み。 2.今後注目される科学技術 ○製造技術: 3D製造に注目。スキルから知識をベースとする製造への転換、環境へ の影響を低減した製造の促進を目的とした製造高度技術支援策。 ○脳科学: ブレイン・イニシアチブによる加速。高画質な脳細胞や分子レベルでの3 Dマップ、非侵襲のブレイン・コンピュータ・インターフェイス等。 ○合成生物学: 生命学と工学の融合。合成DNAや合成細胞、ゲノム編集等。応用への 期待の一方、安全性、倫理、武器利用への懸念等、規制等の整備が必 要。 ○人体機能強化: 人体機能の制限を一時的または恒久的に克服するための技術。病人や 障害者の治療、超人的なパフォーマンス。ロボティクス、バイオ医療、IT が基盤。 ○先端医療技術: 超低磁場磁気共鳴画像技術、侵襲性デバイスの極小化、脳内出血に対 する新たな画像誘導手術等。 ○ロボット: 生物の行動や生物体の機能にヒントを得た設計・プログラミング、協働ロ ボット(日常的な場でアシストするロボット)開発等 ○ウェラブル技術: 利用者が常時携帯できる形状を持ちつつ、インターネットアクセスや利 用者の状態のモニターを可能にする技術 ○次世代自動車: ITと車の融合(衝突防止、自動ナビゲーション等)、無人自動車、省エネ 自動車(主要部品の軽量化・低コスト化)等 ○エネルギー技術: 包括的な支援を実施する戦略。バイオ燃料、燃料電池、オフショア風力、 火力、地熱、水力、原子力など幅広い分野への投資。スマートハウス実 証。 ○ビッグデータ: スーパーコンピュータなど演算インフラや解析ソフトウェアの開発、ビッグ データを利用した医療研究、工業分野でのビッグデータの利用等 ○サイバーセキュリティ: 脅威の探知・分析、サイバー攻撃に強い技術・システムの開発等 ○新機能材料: 工業・宇宙・医療・エネルギーなど新素材の研究開発、新素材開発のた めの計測・フォトリソグラフィ・ナノスケール操作等のプラットフォーム技 術。
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