マニュアル・マテリアル・ハンドリングにおける 様々な持ち方の人間工学的

マニュアル・マテリアル・ハンドリングにおける
様々な持ち方の人間工学的研究
An Ergonomics Study of Various Holding Postures in
Manual Materials Handling
キーワード:MMH、 対称、持ち方、利き手
人間生活工学研究室: 葉 吉達(ヨウ・キタ)
■Abstract: This study researched about many kinds of holding
あった。日本郵便が提供する郵便用ダンボールを参考し、箱のサイズ
postures in manual materials handling(MMH). Excepting the moving
を決めた。一つは肩幅より広い 3 辺 50cm であった。もう一つは肩幅よ
postures like lifting or lowering, this study focused on various static
り狭い 3 辺 30cm であった。箱の質量は同様に 3.7Kg に統一した。
holding postures. 2 cube boxes with the same weight were used in
experiment. One is wider then shoulder, the other one is narrower
then shoulder. The span of boxes were taken to be one of the factors.
Symmetric holding posture or non-symmetric holding postures, like
dominant hand was up or down, were taken to be one of the factors.
The angle between ground and box was also one of the factors. 8
healthy young men tested. In the experiment of this study used EMG
to evaluate 10 upper limb and back muscles, and 2 items of subjective
evaluation measured by VAS. The result showed that the wider box
図 1 左は大きい箱であり、右は小さい箱である。
箱を運ぶ時、箱の大小、対称性、箱の角度など三つの要因に分け
caused more muscle load on cucullaris muscle. Different from the
られる。水準は両手の持ち方により対称、非対称に分けられ、箱は肩
previous studies, the result of this study showed that putting the
幅より広い箱と狭い箱に二つ分けられ、箱の面は地面との角度は平
non-dominant hand down to hold the box caused less load of all
行と 45
muscles. According to discussion, this holding posture can reform the
決められた。以下の表に参照:
warp body, oppositely make the holding posture becoming symmetric.
表 1 大きい箱のタスクは計 9 個であった。 ※はバランスを崩す危険
に分けられている。要因と水準により、合計 18 個のタスクが
があったため、実施しなかった。
■背景:
技術の発展により、多くの仕事は機械に任せられる。しかしながら、
依然として多くの仕事において人力が積み荷を運搬する状況はまだ
少なくはない。持ち上げる作業、抱きながら移動する作業、下ろす作
業など、日常で手の力で積み荷を運搬する仕事は、全般に MMH
(manual materials handling )と称する。
マニュアル・マテリアル・ハンドリング (manual materials handling ,
MMH)の中で、よく見られている動作は持ち上げ(lifting)、降ろし
(lowering) 、 押 し (pushing) 、 引 き (pulling) 、 運 搬 (carrying) 、 把 持
(holding)がある。
先行研究(Jung ら、2010)では、積み荷を運搬したり、工具を使っ
たりするときの仕事の負担を減らすために、グリップなどを設計し、検
討した。しかしながら、MMH のほとんどを占める段ボールや箱はグリッ
プがない場合が多い。結局、MMH がもたらす傷害と大変さは依然とし
て解決されていない。
■目的
本研究の目的は、様々な MMH の持ち方を人間工学的方法を用い
て分析し、研究することである。
本研究の内容は、まず持ち上げ(lifting)、降ろし(lowering)、押し
(pushing)、引き(pulling)などの作業の動作を除き、静止して保持する
動作、つまり、動的筋作業より疲労を生じやすい静的筋作業について
検討した。
本研究の実験では、肩幅より広い物体と肩幅より狭い物体をそれぞ
れ用意し、被験者に様々な姿勢をタスクとして行わせた。客観評価
(筋電図)と主観評価(VAS 法質問表)を行った。
■方法
被験者は 8 名の成人男性で構成され、全員は健康で、背部と上肢
は持病と疾患を罹っていなかった。うち 7 名は右利きで、1 人は左利き
であった。
模擬するための積み荷は、3つの辺の長さが等しい立方体の箱で
表 2 小さい箱のタスクも計 9 個であった。 ※はバランスを崩す危険
があったため、実施しなかった。
客観評価の筋電図で測定した筋は、浅指屈筋、上腕二頭筋、僧帽
筋、三角筋、広背筋を右側、左側ともに測り、総合 10 個の筋を測った。
被験者に電極を装着し、筋電図用アンプシステムを介して、パソコン
でデータ収録ソフト(Acqknowledge3.9.0.) を用い、増幅された筋電図
信号の実効値(RMS)を集録した(単位:Volt)。
被験者に箱を渡し、筋電位が安定してから、一つタスクの中で 15 秒
間を測定した。各タスクの間に 2 分間の休憩を与え、VAS 法の質問表
を書いた。評価項目は①動作の難しさ、②負担の程度であった。
データの解析は、各筋の筋電図と VAS 法の主観評価のデータを分
析した。有意水準はすべて 5%とした。
統計ソフト SPSS SPSS11.0J を用い、反復測定二元配置分散分析で
二要因と水準の主効果と交互作用を確認した。
図 3 利き側の僧帽筋の事後比較
エクセル 2007 で一元配置分散分析(3 水準)を行い、事後比較(Holm
法)統計ソフト KaleidaGraphic 4.1J を用いた。
エクセル 2007 で対応のある t 検定(2 水準)を行った。なお、左利き
の被験者のデータは必要に応じて左右を入れ替えた。
■考察
先行研究(S. Kumar 2003)では対称な姿勢と等尺性運動はいつも
非対称な姿勢で等尺性ではない運動より力はピークが出せると指摘
した。これは一番よい結果の非利き手は下を持つ対称ではない持ち
■結果
方の今回の実験結果と違っている。
箱の大小では、t 検定により一番多い有意差があったのは利き側の
人は利き手、非利き手に分けている限り、生活習慣で誰でも無意識
上腕二頭筋と広背筋であった。同じ持ち方と同じ質量では小さい積み
にして体重で骨盤が二つの傾きになり、背骨が曲がる。多くの人は利
荷の筋負担が少なかった。
き手側の右体重癖である。このように両手は対称な持ち方にしても、
箱の角度では、t 検定により浅指屈筋に対して、箱の下面は平行の
必ずしも体の左右はバランスに保っているのは限らないと考えられる。
ほうが負担が小さいが、二頭筋(利き)、三角筋(利き)、広背筋(利き)、
持ち方が対称しても、身体の骨と筋に対して本当に対称はバランスで
二頭筋(非利き)は地面と 45 度のタスクが負担が小さかった。
あるのには限らないと考えられる。今回の結果に踏まえ、利き手は上
両手間の距離 (箱幅 vs 肩幅)では、t 検定により両手は広いほうが浅
に積み荷を持ち、非利き手は下を持ったら、逆に姿勢が矯正され、体
指屈筋、上腕二頭筋、広背筋にとって筋負担が小さかった。逆に両手
のバランスが取れるかもしれないと考えられる。
が狭いほうが僧帽筋にとって筋負担が小さかった。
一元配置分散分析と Holm 法の事後比較では、全ての非利き側が
一元配置分散分析で有意差が出なかった。利き側の浅指屈筋に対
する事後比較により、全般的に利きではない腕の位置は少し下に持
った方が腕に対して負担が少なかった。
図 4 利き側の右体重癖
■まとめ
箱幅 vs 肩幅で肩幅の狭い持ち方が僧帽筋の筋負担が小さかった。
以上をまとめ、最適な持ち方は、両腕の距離は肩幅と近くにし、利き
ではない手は下を持った方が負担が少ないと示唆された。
今回の実験は大胸筋、三頭筋、腹部の筋、下半身の筋は測ってい
なかった。ほかの持ち上げ、降ろし、押し、引きも含まれている多種多
様な作業の MMH に対し、これからはよりいっそうの研究は必要があ
る。
■参考文献
IAPA: A Health and Safety Guideline for Your Workplace Manual
Materials Handling (Industrial Accident Prevention Association 2008)
図 2 浅指屈筋の事後比較
利き側の二頭筋にとって、利き手は下を持たない限り、他の持ち方
Division of Workers
Compensation: Manual Material Handling An
Ergonomic Approach (Texas Department of Insurance)
は負担が少なかった。利き側の僧帽筋にとって、⑦VS⑧VS⑨ではや
S.Kumar: Arm lift strength in work space (Available online 14
はり両手は上に上げない方が負担が少ないと考えられる。タスク⑦は
Februrary 2003 Applied Ergonomics)
最も負担が少ないからであった。先行研究(Ayoub&Mital 1989)では、
Hwa-S.Jung, Hyung-Shik Jung: A survey of the optimal handle
MMH において手が肩より高くないように勧められた。僧帽筋の事後比
position for boxes with different sizes and manual handling positions
較はタスク⑧で利き手が高く持ったのは、負担が大きく、先行研究にも
(2010 Applied Ergonomics 41 115-122)
勧められていなかった。
ナカイ健康研究所: http://health-power.net/hp-sisei_kenkou.html