SKYACTIVテクノロジーと その開発を支えたモデルベース開発

SKYACTIVテクノロジーと
その開発を支えたモデルベース開発
マツダ株式会社
パワートレイン開発本部
パワートレインシステム開発部
PT制御システム開発Gr.
矢野 康英
※) MBD=モデルベース開発 の言葉の定義
・・・・・ ここでは、プラントモデルを使った制御開発のみならず
CAEを使った開発などを含め、シミュレーションを使った開発全般を、モデルベース開発と呼ぶ
1
目次
1)はじめに
2) SKYACTIV の技術
3) SKYACTIV を支えたMBD
4)まとめ
2
マツダについて
- 会社設立
- 代表者
- 本社
-従業員数
-研究開発拠点
-生産拠点
1920年1月30日
代表取締役 社長兼CEO 小飼 雅道
〒730-8670
広島県安芸郡府中町新地3番1号
21,286名(2013年3月31日時点)
本社、マツダR&Dセンター横浜、
マツダノースアメリカンオペレーションズ(米国)、
マツダモーターヨーロッパ(ドイツ)、
中国技術支援センター(中国)
国内 本社工場(本社、宇品)、
防府工場(西浦、中関)、三次事業所
海外 中国、タイ、米国、メキシコ、コロンビア、
ジンバブエ、南アフリカ、エクアドル、
台湾、マレーシア、ロシア、ベトナム
本社
三次自動車試験場
3
SKYACTIV TECHNOLOGY
エンジンもトランスミッションも車両も一気に一新
ENGINES
TRANSMISSIONS
PLATFORM
SKYACTIV-G
SKYACTIV-DRIVE
SKYACTIV-BODY
SKYACTIV-D
SKYACTIV-MT SKYACTIV-CHASSIS
4
なぜモデルベース開発?
エンジンもトランスミッションも車両も一気に一新
「高度&複雑な新規製品を
品質を確保しつつ、スピーディーに開発する」
ことが求められた。
モデルベース開発
(Model Based Development)に期待
5
モデルベース開発とは
『開発対象をモデル化して、効率的に最適化する開発手法』
制御モデル
ハードモデル
制御モデルと制御対象モデルの高度化&複雑化
に見合った開発環境も構築した
6
目次
1)はじめに
2) SKYACTIV の技術
3) SKYACTIV を支えたMBD
4)まとめ
7
マツダビルディングブロック戦略
ハイブリッド
減速
エネルギー
回生
内燃機関
内燃機関
内燃機関
アイドリング
ストップ
システム
電気自動車
ハイブリッド
電気デバイス
アイドリング
ストップ
システム
電気自動車
電気デバイス
ハイブリッド
電気デバイス
環境技術の採用拡大予測(∼2020)
減速
エネルギー
回生
アイドリング
ストップ
システム
ベースエンジン
(内燃機関)
ベースエンジン
(内燃機関)
ベースエンジン
(内燃機関)
2009
2015
2020
2020年においても、市場の95%、2030年では70%は内燃機関をベースとした動
力源であると予測されている。→内燃機関に注力
8
内燃機関の効率改善
※Heater CO2:東京の月別気温変化を元に、車速24.4km/h
定常で、室温20℃目標とした際の消費エネルギを算出し、
年間平均値としてCO2を算出
Well-to-Wheel CO2 g-CO2/km
CO2削減レベル
内燃機関
150
B-car想定
(IW1130kg)
124Wh/km
1st step
100
2nd step
50
Final step
EV
HEV
(駆動系、車両軽量化、
転がり&空気抵抗低
減効果を含む)
25.0km/L
目標設定
36.8km/L
w/ Heater
非火力発電38%
非火力発電68%
2009
2030
0
内燃機関主体で電気自動車並みのCO2レベルを目指す
9
SKYACTIV
- エンジンの進化 -
内燃機関の各種損失
Heat Energy Balance
vs Load
Heat Energy Balance(%)
100
輻射、未燃損失
排気損失
80
60
冷却損失
40
機械抵抗損失
20
0
ポンプ損失
有効仕事
0
20
40
60
Load(%)
80
100
内燃機関の効率改善とは排気損失、冷却損失、ポンプ損失、機械抵抗損失低減に他ならない
内燃機関の効率改善とは排気損失、冷却損失、ポンプ損失、機械抵抗損失低減に他ならない
→ 内燃機関には、まだまだ大きな改善しろが残されている!
10
SKYACTIV-G
η
- 高圧縮比と熱効率 1
th = 1−
κ-1
ε
熱効率
η
9%
th
9
10
11
12
13
14
15
16
圧縮比 ε
圧縮比を上げれば、燃費は飛躍的に向上する
11
なぜ高圧縮比化は進んでいないのか? (理由その1) -
圧縮比=11.2 (DI)
理論的トルク上昇
トルク
トルク (Nm)
200
180
ノック限界トルク
160
140
1000
圧縮比=15 (DI)
(先行開発テスト値)
2000
3000
4000
5000
エンジン回転数 (rpm)
6000
7000
9
10
11
12
13
14
15
16
圧縮比
圧縮比を上げればトルクが低下するという弊害がある
12
なぜ高圧縮比化は進んでいないのか? (理由その2) ε=11.2
BSFC Improvement @10pts(%)
10
9
ε=15.0
理論的向上率
8
7
6
5
4
3
ε=11.2
実機向上率
2
ε=15.0
1
0
10
11
12
13
14
15
16
Compression Ratio
高圧縮比化するとピストン上面がプラグに近接し、初期の火炎成長が
妨げられるため、期待通りの燃費改善効果が出ない
13
SKYACTIV-G
- その挑戦
超高圧縮比エンジン
・・・・・ 燃焼効率改善 vs 異常燃焼の回避
実機での試行錯誤では、到底越える事はできない、
複雑で難解な頂点を探索しなくてはならなかった。
私たちは、徹底的なカラクリ解明=モデル化を進めた。
14
SKYACTIVの燃焼系開発について
超高圧縮比の世界では、燃焼CAEの精度が極端に悪化した。
形状のわずかな変更が、これまで経験した事ないほど鋭敏に性能変
化となった。このカラクリを解明することが、目標達成の鍵をにぎった。
ガラスのエンジンでの 流動や燃焼の現象観察、高圧リグ装置での噴霧研究、、、、、、、
メカニズム解明を進め、その成果を モデル化した
15
SKYACTIVの燃焼系開発について
燃焼の可視化による精度検証
20BTDC
筒内流動予測の精度改善
TDC
10ATDC
燃焼予測
燃焼予測
燃焼予測
20BTDC
TDC
10ATDC
可視化でも燃焼の予測精度を確認
エンジン内部が見えるようガラスの窓をつけたエンジン作り、
噴霧∼燃焼のカラクリ解明を進めた
モデルベースで、噴霧〜燃焼安定性〜燃焼効率を最適化した
16
SKYACTIVの 燃焼について
S/V比(≒冷却損失)
現行 2.0L PFI
(ボア径 87.5mm)
ベース
SKYACTIV-G 2.0L
(ボア径 83.5mm)
圧縮比
キャビティあり
燃焼室の最適設計
→初期の円滑な火炎成長促進、冷却損失の低減で熱効率大幅改善
17
SKYACTIVの 燃焼について
燃焼特性のコモンアーキテクチャー
燃焼パターンの同体質化
流動特性転写
現行Eng
1500rpm W O T BLD
160
LFG
熱発生率 dQ/dθ ( kJ/m3Deg)
140
2L
J37E ZJV
120
100
80
60
J68C Z6V
J04C
LFN
40
20
0
1.3L
-20
-20
-10
0
10
20
30
40
50
全負荷
C rank angle (deg).
混合気特性転写
WOT_2000rpm NSEvsNME
部分負荷(2000rpm-200kPa)
SKYACTIV-G
140
20
NME
120
2L
15
NSE IR(燃焼位補
正)
NSE Pre-IR(燃焼
位相補正)
10
2L
NSE_IR
NME_IR
100
1.3L
1.3L
80
60
5
40
0
-30
-20
-10
0
10
20
30
40
50
60
20
-5
0
-30
-10
2L
-20
部分負荷
1.3L
排気量によらず、同体質な燃焼特性を実現
-10
0
10
20
30
40
50
60
-20
全負荷
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SKYACTIVの制御について
制御システムも基本から見直して一新
具体的には,
・モデルベースで、 吸排気予測制御 の高精度化
・噴射自由度を上げて最適な混合気を形成する燃料噴射制御
・超高圧縮比を使い切るための異常燃焼検出・抑制制御
・次世代i-stopシステムを含む、燃費最適制御
・「走る歓び」を実現するための駆動力制御
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SKYACTIVの制御について
エンジンの効率改善
(制御因子とそのあり方)
エンジン制御の仕事
 異常燃焼検出抑制制御
• 新デジタルKCS New
• プリイグ抑制制御 New
 燃料噴射制御 New
(分割噴射, …)
 点火制御 New
(過渡点火, …)
 吸排気制御New
(スロットル/S-VT
協調制御, …)
 油圧制御 New
 SKYACTIV-Gエンジンでの改善注力点に対応する制御技術を開発。
 また、世界一の高圧縮比を支える異常燃焼検出抑制制御と、エンジン制御の最初の一
歩となる吸気制御に特に注力。
20
SKYACTIV-Gの制御について
車両での燃費改善
エンジン制御の仕事
SKYACTIV-DRIVE
SKYACTIV-MT
New
 駆動力制御
New
 |-DM
燃費と「意のまま」の走り
の両立
New
 |-stop制御
New
 |-ELOOP制御
New
 燃料ポンプ可変制御
New
 エアコン協調制御
SKYACTIV-BODY
SKYACTIV-CHASSIS
 車両視点でも燃費の制御因子に対応する制御技術を開発、全体では「一新」。
21
SKYACTIV-Gの制御について
プリイグニッションは、着火前に混合気が燃焼を始めてしまう異常燃焼現象であり、高
圧縮比を阻むもう一つの要因である。
 モデルベースプリイグニッション予測、検出/抑制制御を開発
 吸気バルブ閉タイミングを調整することで有効圧縮比を制御する
• ベース:自動イグニッションモデル (Livengood-Wu積分式)
• 補正:シリンダー内のイオン電流を検出するとによって燃焼開始時期を予測
MFB10%[ATDC]
timing
MFB10%
normal
combustion
dQmax
pre-ig indication
pre-ignition
Qmax[kJ/m 3s/deg]
Ion current [ATDC]
Ion current
detection timing
CR-E 1000rpm、WOT、点火時期ATDC20CA
MFB10% timing
MFB10% [ATDC]
イオン電流と燃焼の相関関係
22
目次
1)はじめに
2) SKYACTIV の技術
3) SKYACTIV を支えたMBD
4)まとめ
23
主要共通課題の選択と集中
資源に乏しい私たちは
徹底的な 選択と集中を行った
1)新技術開発; 進むべき方向を定め焦点を絞った技術開発
2)プロセス;モデルを駆使した開発(実機での試行錯誤に頼らない開発)
24
24
モデルベース開発のプロセス
試作無しに、
どんどん技術開発を進める
技術開発
システム開発 →
モデルで目標カスケード
Rapid-ECU
V字開発プロセス
PTシステム
設計検証
構想設計用
制御系
設計検証
MILS
出図前に徹底的に
モデルで動作検証
MILS
納入前に徹底的に
モデルで動作検証
全体
システム確認
MBC
モデルベース
キャリブレーション
キャリブレの短期化
HILS
試作仕様提示
試作検証
試作品の一発動作
25
モデルベース開発のプロセス
モデル化
 制御対象モデル(プラントモデル)〜その2
 モデル化対象
エンジンやセンサ/アクチュエータ、補機
• トランスミッション
• 車両の走行抵抗、など
•
 ハイブリッド構造
〜 扱いやすさと精度を両立
エンジンオイル潤滑
const
Oil Circuit
send
thbat
オイルジェット
Cooling Channel
ウォーター
Water Pump
ポンプ
エンジンのシリンダ内挙動に
ついてはMBCで得た統計モデル
(物理モデル化しにくい系)
電気 トランスミッション
負荷 (AT/MT/CVT)
タイヤ
シャシ
1 •
その他は物理モデル
Buck
•
k=25
吸気/排気VVT位相,
燃料噴射量, 点火時期, など
インテーク・マニフォルド圧力,
充填効率, など
排ガス温度, 空燃比, など.
吸気
シリンダ
排気
物理
モデル
統計
モデル
物理
モデル
current?
LOAD1
LOAD1
LOAD2
エンジン
補機
unitCurrent
p_cons?
GND
resistor1
R=parameter?
A
Cylinder
Block
シリンダ
(Upper)
ブロック
p_generate
resistor
Water
Jacket Wall
シリンダヘッド
current?
(Outer)
ウォータージャケット
A
R=parameter?
dcdc
LOAD2
acsBus
GND1
battery
バッテリ
+
Cylinder
Head
シリンダヘッド
capacitor
キャパシタ
GND2
EGR
add
+1
+
+1
電気回路
コンバータ
+
Water Jacket
シリンダブロック
(Outer)
ウォータージャケット
電気
負荷
2
スタータ
負荷
DC/DC
ブレーキ
CylinderBlock
ロア
(Lower)
ブロック
キャビンヒータ
Cabin
Heater
itotal
send
伝熱
dummy
Air in
Engine Room
エンジンルーム
トランスミッション、車両
クーリングファン
サーモスタット
Cooling Fan
Thermostat
Radiator
ラジエータ
サーマルシステム
鉛バッテリ、DCDCコンバータ、…
26
物理
モデル
物理
モデル
 モデルベース開発の成否を握るのは「制御対象モデル(プラントモデル)。
今回はエンジン制御の全ての領域で「使える」ものを目指した。
26
モデルベース開発のプロセス
オフィスで、設計から車両評価までできるようになった
例えば、現在、制御構想設計中、制御詳細設計検証中
、、、、、、制御コンピュータ検証中、車両総合評価中、 、、、
27
モデルベース開発のプロセス
試作無しに、
どんどん技術開発を進める
技術開発
システム開発 →
モデルで目標カスケード
Rapid-ECU
V字開発プロセス
PTシステム
設計検証
構想設計用
制御系
設計検証
MILS
出図前に徹底的に
モデルで動作検証
MILS
納入前に徹底的に
モデルで動作検証
全体
システム確認
MBC
モデルベース
キャリブレーション
キャリブレの短期化
HILS
試作仕様提示
試作検証
試作品の一発動作
28
事例) Rapid ECU:
トルクベース制御の技術開発
モデル
で設計
実車につないで即確認テスト
Rapid-ECU
システム
29
モデルベース開発のプロセス
試作無しに、
どんどん技術開発を進める
技術開発
システム開発 →
モデルで目標カスケード
Rapid-ECU
V字開発プロセス
PTシステム
設計検証
構想設計用
制御系
設計検証
MILS
出図前に徹底的に
モデルで動作検証
MILS
納入前に徹底的に
モデルで動作検証
全体
システム確認
MBC
モデルベース
キャリブレーション
キャリブレの短期化
HILS
試作仕様提示
試作検証
試作品の一発動作
30
事例) 構想設計MILS: 走り&燃費の両立
走り&燃費 を両立するための、目標を決める
車の目標
・ユニット目標
・制御目標
・搭載技術選択
機能設計
MILS検証
テストモデル
ドライバー
モデル
車両モデル
解析
BRAKE
SHIFT
アクセル
加速度
エンジン
トランス
ミッション
車両
自動評価
モデル
車速
路面
モデル
エンジン
制御
AT制御
31
事例) 構想設計MILS: 走り&燃費の両立
燃費最適化の事例)
エンジン効率、トランスミッション効率、様々なエネルギー消費デバイス、、、、、
すべてのエネルギー効率を考慮して、最適化する戦略を 机上で徹底的に描く
32
モデルベース開発のプロセス
試作無しに、
どんどん技術開発を進める
技術開発
システム開発 →
モデルで目標カスケード
Rapid-ECU
V字開発プロセス
PTシステム
設計検証
構想設計用
制御系
設計検証
MILS
出図前に徹底的に
モデルで動作検証
MILS
納入前に徹底的に
モデルで動作検証
全体
システム確認
MBC
モデルベース
キャリブレーション
キャリブレの短期化
HILS
試作仕様提示
試作検証
試作品の一発動作
33
高速MILSについて
• MILS(Simulink環境)は実行速度がネック
– →制御モデルをAuto Code GenerationによりC Codeを出力した
上で、プラントモデルと結合
– Real-Time Workshop Embedded Coder(現Embedded Coder)を使用
Virtual
– →プラントモデルもC言語に変換し、独自作成した環境上で実行
プラント
モデル
制御
モデル
変換
C言語
変換(Auto Code Generation)
C言語
コンパイル・統合
→Windowsアプリケーション上で実行
34
高速MILSの活用事例
• i-stopの動作確認など、制御モデルの動作検証に活用
– 実行速度が高速
– ソフトウェアライセンスが不要
– 操作入力が容易
Simulinkの弱い所・・・
アクセル・ブレーキ操作
エンジン回転数
車速
マウスによる
アクセル・ブ
レーキ操作
(自動実行も可
能)
キーポジション
35