ウイルス性肝炎と その治療の実際

2015年1月31日
市民公開講座
沼津市立図書館
B型肝炎もC型肝炎も飲み薬で
治る時代になった!
沼津市立病院 消化器内科
篠崎正美
ホント?!
厳密に言うと、
これはウソ
C型肝炎は1年後には、
ほぼ全員が飲み薬で治る
これはホント
もう少し
正確に言うと
今日の中心
話題
• 現在
1型の人は85%(2種類を6ヶ月)
2型の人は80%(インターフェロン)
• 今春発売される飲み薬(2種類を3ヶ月)
97%
を使うと 2型の人は
• 今秋発売される飲み薬(1種類を3ヶ月)
99%
を使うと 1型の人は
B型肝炎は8年前から
完治はしないが、
完治に近い状態を維持する
飲み薬(バラクルード)が出ている
14年前から同系統の
飲み薬治療(ゼフィックス)
が始まった
B型肝炎とC型肝炎
• ウイルス感染後、30年以上の長い経過で肝臓に
慢性炎症を引き起こし、最後は肝不全・肝臓が
んで人の命を奪う
• B型肝炎はDNAウイルス
C型肝炎はRNAウイルス
• 経口感染せず、体液・血液感染する
• それぞれ日本には約150万人の感染者がいる
B型肝炎
• 殆ど母子感染(90%以上)
• 幼少時の予防注射針からの感染は少ない
• 長く潜伏して、20歳前後で肝炎を起こすが、
その後は一生をかけて治っていく(80%以上)
• 20%弱の方が、慢性肝炎→肝硬変→肝臓がんと
進行していく
• 成人になってかかると(殆ど性交渉)、急性肝炎に
なるが、原則慢性化せずに治る。しかし、最近増
えている遺伝子型Aの急性肝炎では、慢性化する
ことがある。
C型肝炎
• 母子感染は少ない(10%)
• 輸血・予防注射・針治療・刺青・注射針の使いま
わしなどで大人になってから感染する
• 感染すると急性肝炎になり、70%が慢性化する
• 慢性化すると自然治癒はなく、慢性肝炎→肝硬
変→肝臓がんと進行していく
B型肝炎とC型肝炎の比較
B型肝炎
C型肝炎
感染経路
母子感染(幼少時注射な
ど)
輸血・針・注射など
感染時期
出生時(幼少時)
成人
発症
潜在性 一過性肝炎
再活性化
急性肝炎
自然治癒
多い 80%
少ない 30%
慢性肝炎・肝硬変・肝がん
への進行
少ない 20%
多い 70%
肝臓がんの成因
B型C型
1%
2003年~2012年(n=504)
その他
16%
B型肝炎
13%
C型肝炎
69%
C型肝炎もB型肝炎も
殆ど自覚症状がない
肝硬変になっても
肝臓がんになっても
初期では殆ど
自覚症状がない
皆さん
肝炎健診を受けましょう!
生涯、たった1回でよい
無料です
今日これからお話するように
C型肝炎は治り、B型肝炎は
よくなる病気になったから
その肝炎健診とは?
B型肝炎はHBs抗原を測定
C型肝炎はHCV抗体を測定
重要な肝機能検査
項目
GOT(AST)
GPT(ALT)
正常値
40以下
35以下
血小板
14万以上
HBs抗原・HCV抗体 陰性
HBVDNA・HCVRNA 未検出
AFP
13以下
PIVKA-Ⅱ
44以下
意味するもの
炎症の程度
炎症の程度
線維化(硬さ)
診断根拠
ウイルス量
腫瘍マーカー
腫瘍マーカー
健康な人は
30以下
変動する
変動する
変動しない
炎症でも上昇
C型肝炎
C型肝炎の診断
• 既往歴(輸血、針治療、刺青、注射歴など)
• 血液検査
HCV抗体、HCVRNA、遺伝子型、
GOT(AST)/GPT(ALT)、血小板、ZTT
• 腹部エコー、CT
HCV抗体陽性ならば、即C型肝炎か?
数年前に、インターフェロン治療を行い、治った患者さんが
青い顔をして、私の外来にやってきた
先生!先日健診を受けたら、HCV抗体+で、あなたはC型肝炎
が治っていません、と言われたあ~ 先生うそつき~
治った人でもHCV抗体は+
HCV抗体+ HCVRNA+
C型肝炎・現在感染
HCV抗体+ HCVRNA-
C型肝炎・既感染 or偽陽性
肝炎健診を受けて
HCV抗体陽性
と言われても
即C型肝炎とは
限らない
C型肝炎は
慢性化すると
自然治癒がないので
治療が必要
(感染した約70%の人)
C型肝炎の治療
今まではインターフェロン注射
これからは飲み薬
今までは、ウイルス量と遺伝子型で治療法を
決めていた。
ウイルス量が多いか少ないか?
10万匹/cc以上は多い(高ウイルス)
10万匹/cc未満は少ない(低ウイルス)
遺伝子型は1型か2型か?
今までの常識
1型 高ウイルスは治りにくい
2型や低ウイルスは治りやすい
インターフェロン療法の歴史
1型 高ウイルスの完治率
最近
まで
実施
インターフェロン単独療法(1992年~)
キャンフェロン、スミフェロン、アドバフェロン、フェロン
5%
インターフェロン・リバビリン併用療法(2001年~)
イントロン、レベトール併用
20%
ペグインターフェロン療法(2004年~)
ペガシス単独
ペグイントロン、レベトール併用
ペガシス、コぺガス併用
50%
テラプレビル3剤併用療法(2011年11月~)
ペグイントロン、レベトール、テラビック3剤併用
シメプレビル3剤併用療法(2013年12月~)
ペグイントロン、レベトール、ソブリアード3剤併用
ペガシス、コぺガス、ソブリアード3剤併用
80%
85%
C型肝炎の治療法
(2004年~2011年)
高ウイルス
低ウイルス
1b
2a
2b
1b
2a
2b
ペグイントロン
+レベトール
or
ペガシス
+コペガス
ペグイントロン
+レベトール
ペグイントロン
+レベトール
ペガシス
ペガシス
ペガシス
44%
77%
75%
79%
86%
(91/208)
(50/65)
(27/36)
88%
(23/26)
(38/48)
(6/7)
C型肝炎の治療法
(2012年~2013年)
高ウイルス
低ウイルス
1b
2a
2b
1b
2a
2b
ペグイントロン
+レベトール
+テラビック
ペグイントロン
+レベトール
ペグイントロン
+レベトール
ペガシス
ペガシス
ペガシス
でもテラビックは副作用が強かった!
80%
(28/35)
C型肝炎の治療法
(2014年1月~最近まで)
高ウイルス
低ウイルス
1b
2a
2b
1b
2a
2b
ペグイントロン
+レベトール
+ソブリアード
or
ペガシス
+コペガス
+ソブリアード
ペグイントロン
+レベトール
ペグイントロン
+レベトール
ペガシス
ペガシス
ペガシス
85%
(17/20)
治る確率が、向上した!
治ったかどうかの判定は?
• 治療終了後、半年間ウイルスが血の中に出
てこないこと(SVR24)
• 実際には治療終了後、3ヶ月でおよそ判定で
きる(SVR12)
インターフェロンをやれば
現在80-90%の人が治る
ダクラタスビル・アスナプレビル
併用療法
初めての飲み薬だけの
C型肝炎治療薬
2014年9月に発売された
DAAの分類と作用機序
C型肝炎ウイルスのゲノム
C
E1
E2
NS3/4A
プロテアーゼ阻害薬
第1世代
プロテアーゼ阻害薬
第2世代
プロテアーゼ阻害薬
Telaprevir
Simeprevir
Asunaprevir
ABT-450
MK-5172
プロテアーゼ活性を阻害
p7
NS2
NS3
NS5A
複製複合体阻害薬
Daclatasvir
Ledipasvir
ABT-267
MK-8742
複製複合体形成
を阻害
NS4A
NS4B
NS5A
NS5B
NS5B阻害薬
非核酸型
核酸型
ポリメラーゼ阻害薬
核酸アナログ
BMS-791325
Sofosbuvir
核酸合成酵素
活性を阻害
HCV RNAに取り
込まれ伸長を阻害
赤字=国内承認薬剤(2014年7月現在)
Nakamoto S. et al, World J Gastroenterol . 2014:20(11):2902-2012
32
Esperance A. et al, Gastroenterology. 2012(142):1340–1350
Pelosi LA. et al, Antimicrob Agents Chemother. 2012 ;56(10):5230-5239
ダクラタスビルとアスナプレビルの
作用機序
ダクラタスビル
ウイルスRNAの複製段階において、NS5Aに結合することにより
NS5Aの二量体形成時に構造上の歪みを生じさせ、複製複合体形
成を阻害すると考えられます。
NS5A
NS5B
NS4A
ダクラタスビル
NS4B
C
E2
E1
ダクラタスビル
p7
NS2
NS3/4A
NS5A
NS5B
アスナプレビル
NS3/4Aプロテアーゼ複合体に結合し、他の非構造蛋白の切断を阻
害することによりHCVの複製過程において重要な初期段階を停止さ
せます。
アスナプレビル
この薬は
誰でも飲めるわけではない
条件付きである
現在、肝臓がんがある人はダメ
(治療でがんが消えた人はよい)
肝不全の人もダメ
要は
インターフェロンが
医学的な理由があって
できない人
効かない人
単に、こわいからとか
辛そうだからイヤはダメ
でも、もうすぐ、この条件は
撤廃される
1.インターフェロン療法が不適格で未治療
インターフェロンをやりたくても、できない
例えば 高齢(65歳以上)
血小板が低い(10万以下)
うつがある
貧血がある
リウマチ・自己免疫病がある
甲状腺の病気がある
眼底出血がある
間質性肺炎がある
2.インターフェロン療法に不耐容
インターフェロンをやったが、副作用で中止した
例えば 強い倦怠感
強い吐き気・食欲低下・やせ
不眠・うつ
貧血・白血球・血小板が下がり過ぎた
リウマチになった
バセドウ病や甲状腺機能低下になった
眼底出血を起こした
間質性肺炎を起こした
3.インターフェロン療法が無効
インターフェロンをやったが、ウイルス
が経過中に消えなかった
主要評価項目: SVR24達成割合
(%)
100
87.4
84.7
80.5
SVR24達成割合
80
60
40
20
0
118/135
70/87
188/222
IFN不適格未治療/
不耐容患者
前治療無効患者
合計
Kumada H, et al. Hepatology. 2014; 59(6): 2083-2091
背景因子別SVR24達成割合
(%)
100
89.9
81.2
83.1 85.5
90.9
93.9
84.0
83.1
84.8
157/189
95/112 91/108
84.3
SVR24達成割合
80
60
40
20
0
108/133
80/89
64/77
124/145
<65歳
≥65歳
男性
女性
年齢
性別
168/200
無
20/22
有
代償性
肝硬変
31/33
<800K ≥800K
開始時
HCV RNA量
TT
TG/GG
IL28B
(rs8099917)
Kumada H, et al. Hepatology. 2014; 59(6): 2083-2091
副作用
国内第2相及び第3相試験でダクルインザ・スンベプラ併用療法が投与された255例に
おいて、255例中158例(62.0%)に副作用が認められました。
主な副作用は、ALT(GPT)増加 45例(17.6%)、AST(GOT)増加 36例(14.1%)、頭痛 33
例(12.9%)、発熱 30例(11.8%)等であった。(承認時)
種類
頻度
5%以上
5%未満
皮膚
血液
全身症状
好酸球増加症(8.3%)
発熱(11.8%)
発疹、そう痒症、脱毛症
血小板減少症、貧血
倦怠感、疲労、悪寒
精神・神経系
頭痛(12.9%)
不眠症
消化器
下痢(6.7%)
肝臓
循環器
筋・骨格系
呼吸器
その他
悪心、食欲減退、腹部不快感、便秘、上腹部
痛、口内炎、腹部膨満、嘔吐
ALT(GPT)増加(17.6%)、AST(GOT)増加 血中ビリルビン増加、γ -GTP増加、血中ALP
(14.1%)
増加
高血圧
関節痛、筋骨格硬直
鼻咽頭炎(5.1%)
口腔咽頭痛
リパーゼ増加、血中アルブミン減少
発現頻度は、ダクラタスビル及びアスナプレビルを併用した国内臨床試験の成績に基づき算出した。
ダクルインザ錠 添付文書(第1版)
Y93H耐性変異の有無別ウイルス学的効果
投与開始時にY93Hが検出された患者は14.0%(30/214例)でした。 Y93H
が検出された患者で43.3%(13/30例)、Y93Hが検出されなかった患者で
91.3%(168/184例)がSVR24を達成しました。
合計*
(214例)
Y93H耐性変異あり
Y93H耐性変異なし
30(14.0%)
Y93H耐性変異なし
(184例)
SVR24達成
SVR24達成せず
184(86.0%)
Y93H耐性変異あり
(30例)
SVR24達成
SVR24達成せず
16(8.7%)
投与前
168(91.3%)
投与後
13(43.3%)
17(56.7%)
投与後
*未同定の8例を除く
沼津市立病院では
全員この遺伝子変異を
調べてから
治療を開始している
自費で2万円かかります
D168変異(NS3)
PCR invader法(n=117)
80
70
60
50
40
30
20
10
耐性 9%
9
2
0
E
V
弱陽性(EVAT)
変異なし
判定不能
L31変異(NS5A)
PCR invader法(n=117)
100
90
80
70
60
50
40
30
耐性 3%
20
10
0
4
M
0
V
弱陽性(MVF)
変異なし
判定不能
Y93H変異(NS5A)
PCR invader法(n=117)
相対定量
90
80
70
60
50
40
30
耐性 12%
20
10
7
0
99%以上
3
4
50-98%
20-49%
1-19%
1%未満
変異なし
判定不能
Y93とL31に耐性変異が
ない人が第2の条件
この治療のお値段は?
ダクルインザ(60mg)=9186円
スンベプラ(100mg)=3280円
1日=9186円+3280円×2=15746円
1月=472380円
でも、助成制度があるので
月の負担は1万円か2万円
現在までに治療を開始した人
88人
以下、 2014年11月までに開始し、
2ヶ月以上経過した51人の方の
経過を説明します
年齢
(n=51)
40~49歳 (n=1)
80歳以上
(n=11)
50~59歳
(n=7)
60~69歳
70~79歳
(n=22)
男性 20人
女性 31人
理由
(n=51)
その他
(n=7)
無効
不適格未治療
(n=21)
(n=11)
不耐容
(n=12)
進行度
(n=51)
慢性肝炎
(n=15)
肝がん治療後
(殆ど肝硬変)
(n=22)
肝硬変
(n=14)
血小板数 (n=51)
10万以上
(n=22)
10万未満
(n=29)
Y93,L31に耐性なし
耐性あり
50人
1人
平均ウイルス量 約80万匹/cc
治療効果
ウイルス消失率 (n=50)
(%)
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
2週
4週
6週
8週
GOT/GPT正常化率 (n=50)
(%)
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
2週
4週
6週
8週
4週間飲むと
80%の人は
肝機能が正常化するか
血中からウイルスが消える
副作用(有害事象)(n=51)
骨折
脳梗塞
くも膜下出血
めまい
気管支炎
その他
(n=5)
1人中止
なし
(n=20)
肝障害
(n=15)
軽症状
5人中止
頭痛 風邪
皮疹 下痢
など
(n=11)
6
5
4
肝障害
発現時期
3
2
1
0
4週
6週
8週
10週
12週
14週
8
7
6
5
4
最大ALT
3
2
1
0
~59
60~99
100~299
300~
インターフェロン療法と比べると
副作用は圧倒的に少ない
1月後には
ウイルスが消えるか
肝機能が正常化し
副作用が少ないから
患者さんの体調は
すごく良くなる
患者さんの声
• 長い間背負っていた荷物が取れた感じ
• 少し頭痛がするくらいで、調子がいいですよ
• 副作用は全くない インターフェロンとは違う
• すぐにウイルスが消えたので、孫を抱けるよ
うになった(偏見であるが・・・)
• 注射に週3回通っていたのがなくなり楽です
• 食道静脈瘤や腹水が溜まったことがある私
(肝硬変)が治るなんて信じられない!
先生、
私はC型肝炎なのですが
治療していません。
すぐにこの治療を受けた方が
いいでしょうか?
待つ
2型の人は、今年の春まで待つ
ソフォスブビル+リバビリン
この2剤を3ヶ月服用
→完治率 97%
1型の人は、今年の秋まで待つ
ソフォスブビル+レディパスビル
合剤になるので、1剤を3ヶ月服用
→完治率 99%
医学的にみて
待てない人は少ない
治った人でも
がんができることあり
治った人の発がん率 (n=300)
13%
3%
治った人でも
半年~1年に1回の
通院・検査が必要
(肝臓がん検診)
がんになっても
いい治療法がある
ラジオ波焼灼療法
静脈麻酔でやるので全く痛くない
副作用は発熱くらい
最短4日で退院できる
(沼津市立病院の場合)
B型肝炎
B型肝炎の診断と治療
1.診断
2.治療法
3.核酸アナログ治療
1)治療効果と現在
2)耐性
3)臨床的治癒(HBs抗原消失)
4)発がん
5)中止
B型肝炎の診断と治療
1.診断
2.治療法
3.核酸アナログ治療
1)治療効果と現在
2)耐性
3)臨床的治癒(HBs抗原消失)
4)発がん
5)中止
4.再活性化
B型肝炎の診断
• 家族歴(B型肝炎の方がいますか?)
• 血液検査
HBs抗原、HBe抗原、HBe抗体、HBc抗体
HBVDNA、遺伝子型
GOT(AST)/GPT(ALT)、血小板、ZTT
• 腹部エコー、CT
HBs抗原陽性→即B型肝炎○
治ると消える
しかし、痕跡(HBc抗体、
HBs抗体)は残る
あるデータによれば
日本人の4人に1人は
B型肝炎にかかった
痕跡がある(既感染)
日本におけるHBV感染率
日本のHBVキャリアは約130~150万人(全人口の約1%)です
HBVキャリア
HBV既往感染
HBs抗原(+)
HBs抗原(-)
HBc抗体(+) and/or
HBs抗体(+)
S. Kusumoto 2)
(2009)
1.5%
(56/3,874)
23.2%
(899/3,874)
Y. Urata 3)
(2011)
1.4%
(6/428)
31.5%
(135/428)
References
2)
3)
1)
名古屋市立大学病院の輸血前検査データ(2005~2006年の2年間3,874検体)
2008年1月~2009年3月のリウマチ治療患者428例。HBs抗原陰性422例の年齢中央値:62.3歳
1) 慢性肝炎の治療ガイド2008
2) S. Kusumoto et al. Int J Hematol 2009 (90): 13-23
3) Y. Urata et al. Mod Rheumatol 2011 (21):16–23
先生、僕はB型慢性肝炎だけど、家族に誰も
B型肝炎の人はいません。
先生が母子感染だろうと言うから、母も姉も弟
も皆調べたけれど、異常ないって。だから子ど
もの時の予防注射による感染と思うので、訴
訟の原告になるつもり。
これは、殆ど間違い
B型肝炎は自然治癒が多いので
治ってしまうと、HBs抗原が消えてしまう。
この場合、HBc抗体とHBs抗体を調べると
わかる。
痕跡が残っていた
母親も姉も弟も
HBs抗原- HBc抗体+ HBs抗体+
家族で彼以外は全員自然治癒していた
B型肝炎の診断と治療
1.診断
2.治療法
3.核酸アナログ治療
1)治療効果と現在
2)耐性
3)臨床的治癒(HBs抗原消失)
4)発がん
5)中止
4.再活性化
B型肝炎の治療法
重要
〇インターフェロン療法
(ペガシス注射)
〇核酸アナログ療法
(今はバラクルードかテノゼット)
(昔はゼフィックスとヘプセラ)
しかし、B型肝炎は
治療が必要でない
ことが多い
C型肝炎は、原則全員が治療必要
自然治癒があるから
治療が必要か
どうかは
検査してみないと
わからない
調子がいいから、治療が必要ではない、
と自己判断してはいけません
ポイント
年齢
35歳
ALT
30
HBe抗原
陽性/陰性
HBVDNA
4
進行度(PLT・腹部US・肝生検)
F2
インターフェロンを勧める人
•
•
•
•
年齢が若い
ウイルスの勢いが強い(HBe抗原陽性)
ウイルス量が多い(1億-10億匹/cc)
病気が進んでいない(肝硬変ではない)
実際には圧倒的に
飲み薬(バラクルード)を勧める人が多い
B型肝炎の診断と治療
1.診断
2.治療法
3.核酸アナログ治療
1)治療効果と現在
2)耐性
3)臨床的治癒(HBs抗原消失)
4)発がん
5)中止
4.再活性化
治療した人の数
核酸アナログ
数
開始時期
ゼフィックス
213
2000年11月~2007年4月
ヘプセラ
105
2004年12月~
バラクルード
160
2006年11月~
現在の第一選択
ゼフィックスと併用
お値段は?
•
•
•
•
LAM100mg (ゼフィックス)
ADV10mg (ヘプセラ)
ETV0.5mg (バラクルード)
TDF300mg (テノゼット)
622円
1252円
1032円
996 円
助成制度の前はゼフィックスとヘプセラを
3カ月分処方すると、5万円の支払いだった!
バラクルードを飲み始めた人の
(n=105)
ウイルス消失率
(%)
100
95%
65%
50
38%
0
0
1
2
3
4 (年)
バラクルードを飲み始めた人の
(n=105)
AST/ALT正常化率
(%)
100
98%
90%
73%
50
0
0
1
2
3
4
(年)
バラクルードを飲んでいる人の現在
139例(慢性肝炎・肝硬変)
平均観察期間:1627日
項目
HBVDNA<2.1
ALT正常
服用中止
HBs抗原消失・低下
発癌
頻度
112(81%)
116(83%)
9(6%)
11(8%)
8(6%)
80%の人は
バラクルードを飲んでいると
ウイルスは血中から消失し
肝機能正常
すなわち
ほぼ完治状態が続く
バラクルード診療のポイント
効かない人はいない
大船に乗ったと考えてよい
落ち着いたら、受診は2-3ヶ月に1回でよい
発がんだけは注意を要する
言い忘れたけれど、副作用は殆どない
B型肝炎の診断と治療
1.診断
2.治療法
3.核酸アナログ治療
1)治療効果と現在
2)耐性(薬が効かなくなること)
3)臨床的治癒(HBs抗原消失)
4)発がん
5)中止
4.再活性化
耐性パターン
•
•
•
•
ゼフィックス耐性
ヘプセラ耐性
バラクルード耐性
テノゼット耐性
M204V/I 180M A181T/V
A181V/T N236T
T184 S202 M250V
A194
抗ウイルス薬耐性に対する遺伝学的障壁
<初回治療>
LVD
1ヵ所のアミノ酸変異
で耐性を獲得
204 ± 180
野生型ウイルス
LVD耐性ウイルス
ADV耐性ウイルス
ADV
236 +/または181
1ヵ所のアミノ酸変異
で耐性を獲得
ETV耐性ウイルス
184または202または250
耐性を獲得す
るには3ヵ所の
アミノ酸変異が
必要
180
ETV
204
<ラミブジン耐性例にエンテカビルを使用した場合>
184または202または250
180
180
LVD
204
次にETV
204
あと1ヵ所のアミノ酸
変異で耐性を獲得
US Presc Information : Epivir-HBV®(2004),
Hepsera®(2006年8月), Baraclude®(2006年7月)
対処法
薬を追加したり
替えたりする
しかし
バラクルード耐性で
困った人は、いない
新薬テノゼット
•
•
•
•
•
•
バラクルードとほぼ同等の効果あり
HBs抗原量をバラクルードより低下させる
耐性がバラクルードより、さらに少ない
妊婦にも比較的安全に使用できる
副作用はヘプセラ類似の腎・尿細管障害
今後は第一選択
B型肝炎の診断と治療
1.診断
2.治療法
3.核酸アナログ治療
1)治療効果と現在
2)耐性
3)臨床的治癒(HBs抗原消失)
4)発がん
5)中止
4.再活性化
B型肝炎の臨床的治癒
治療により、HBs抗原が低下し、消える人が出てきている
HBs抗原が消えれば、もう薬は中止できる
これを臨床的治癒という
これはC型肝炎で言う完治とは違う
この状態になっても体の中にはウイルスが少し残るから
再活性化や、まれだが発がんの問題があるので、
その後も定期検査は必要
残念なことに
臨床的治癒は
非常に少ない
HBs抗原が消失・低下した人
(n=275)
HBs抗原消失 HBs抗原量低下
計
ゼフィックス
(n=170)
10(5.9%)
8(4.7%)
18(10.6%)
バラクルード
(n=105)
計
3(2.9%)
3(2.9%)
6(5.7%)
13(4.7%)
11(4.0%)
24 (8.7%)
ゼフィックス・エンテカビルで
HBs抗原が消えた人 (n=275)
100
50
5.6%
12.2%
0.9%
0
0
5
10
15
どんな人が治りやすいか?
1.始めからHBe抗体陽性の人
(ウイルスの勢いが弱まっている)
2.始めからウイルス量が少ない人
3.長くゼフィックスやバラクルードを飲んでいる人
4.ヘプセラが必要でない人
B型肝炎の診断と治療
1.診断
2.治療法
3.核酸アナログ治療
1)治療効果と現在
2)耐性
3)臨床的治癒(HBs抗原消失)
4)発がん
5)中止
4.再活性化
薬がよく効いていても
がんができることがある
発がん率 (n=275)
7%
7.2%
12%
12.6%
どんな人にがんが出やすいか?
• 50歳以上の人
• 肝硬変の人
• 飲み始めて半年後の肝炎やAFPの
程度
B型肝炎の診断と治療
1.診断
2.治療法
3.核酸アナログ治療
1)治療効果と現在
2)耐性
3)臨床的治癒(HBs抗原消失)
4)発がん
5)中止
4.再活性化
先生、経過はいいし、
バラクルードを
止めたいのですが・・・
中止条件
HBVDNA持続未検出
HBe抗原陰性
かつ
HBs抗原
HBcr抗原
80以下
3以下
この二つを満たせば、中止成功率90%
残念なことに
この中止条件を
満たす人は少ない
バラクルードを止めたいが、中止条件を満たさない人たちのための
シークエンシャル療法
対象
性別
年齢 前治療 HBsAg HBeAb HBcrAg
DNA
遺伝子型
F
59
ETV
469
+
3.4
未検出
C
F
52
ETV
2600
+
2.9↓
未検出
C
M
64
ADV
442
+
2.9↓
未検出
B
M
54
ETV
1230
+
3.4
未検出
C
ペガシス 180µgを週1回皮下注 1年間
全例治療終了
ALTの推移
90
(U/L)
PegIFNα2a 180µg週1回
80
70
60
50
40
30
20
10
0
開始時
3月後
6月後
9月後
終了時
終了3月
終了6月
終了9月
終了12月
終了15月
終了18月
終了21月
HBVDNAの推移
7(LC/ml)
PegIFNα2a 180µg週1回
6
5
4
3
2
1
0
開始時
3月後
6月後
9月後
終了時
終了3月
終了6月
終了9月
終了12月
終了15月
終了18月
終了21月
HBs抗原の推移
3000
(IU/ml)
PegIFNα2a 180µg週1回
2500
2000
1500
1000
500
0
開始時
3月後
6月後
9月後
終了時
終了3月
終了6月
終了9月
終了12月 終了15月 終了18月 終了21月
インターフェロンは
HBs抗原量を低下させる
臨床的治癒への近道になる
でも患者さんに勧めても断られることが多い
これからのB型肝炎の
治療目標
HBs抗原消失を目指す
飲み薬のみでは困難
インターフェロンとの併用
などが試みられている
ウイルス性肝炎の治療目標
治療目標
目標達成後の
体内ウイルス
目標達成後の
発がん
目的達成後の
再活性化
B型肝炎
(核酸アナ
ログ・IFN)
HBs抗原消失
=臨床的治癒
(15年で12%)
微量遺残
まれ
あり
C型肝炎
(DAA)
ウイルス
持続消失
(90-100%)
消失
あり
なし
最終目標は、肝不全と肝臓がんで
命を奪われないこと
皆さん
肝炎健診を受けましょう!
生涯、たった1回でよい
無料です
今日お話ししたように
C型肝炎は治り、B型肝炎は
よくなる病気になったから
ご清聴ありがとう
ございました