山岳域の強風下における雨量観測に関する考察 株式会社 総合防災システム研究所 ○五代 均、大津洋介、小川達則 国土交通省 北陸地方整備局 松本砂防事務所 植野利康、長谷川賢市、櫟 清彦 8 y = 0.0048x - 6.3163 降雨時 7 R2 = 0.8866 観測期間平均風速(m/s) 無降雨時 6 5 4 降雨時 3 y = 0.0028x - 3.8581 R2 = 0.8701 2 無降雨時 1 0 1000 1500 2000 2500 3000 標高(m) 図-1 標高と平均風速の関係 (2)風速と雨滴捕捉率の関係 すべての観測所の観測全期間の既設雨量計による 1 時間雨 量(垂直雨量)から高標高雨量計による 1 時間雨量(水平雨量) を差し引いたものを差分雨量として、風速との関係を示した ものを図-2に示す。なお、風速は 1m/s ごとの風速階級とし て示している。 5 0 差分雨量(mm/h) 1.はじめに 1.はじめに 松本砂防事務所管内の主な流域は、標高 3000m 以上の北ア ルプスが源頭部となっている。このような高標高部では、樹 林のない高山帯となっており、風当たりが強く、現状の雨量 計による観測では、ジェボンス効果が発生し、雨滴の捕捉率 が低下することが知られている。 平成 18 年度の砂防学会では 姫川上流域の浦川上流観測所の観測結果から、既設の雨量計 では強風の影響で捕捉率低下が認められたこと、検証雨量と 補填雨量(空間雨量)はほぼ一致したことを報告した。 本年は観測箇所を増やし引き続き、6 箇所の観測所で観測 した。その結果、強風による風速と雨滴捕捉率の関係が明ら かとなり、さらに観測結果を警戒避難雨量として利用した場 合について検討したので、あわせて報告する。 2.雨量観測状況 2.雨量観測状況 高標高雨量計による観測を実施した観測所は、姫川上流域、 および信濃川上流域に位置する以下の 6 観測所である。 ①白馬岳(2730m)、②浦川上流(2180m)、③八方山(1840m) ④猿倉(1250m)、⑤西穂(2350m)、⑥上上堀沢(1610m) 各観測所に前年度同様に、高標高雨量計(水平雨量計)、風 向風速計を設置し、データロガにより、データを収集し、既 設雨量計(垂直雨量計)の観測結果と比較検討した。なお、高 標高雨量計の構造等は文献 1)を参照されたい。設置例として 最も標高の高い白馬岳観測所を写真-1に示す。 -5 y = -0.5288x + 3.7995 R2 = 0.6985 -10 高標高雨量計 既設雨量計 n=2032 風向風速計 -15 0 5 10 15 20 25 風速(m/s) 局舎 写真-1 白馬岳観測所の設置状況 3.風速と雨滴捕捉率の関係 (1)風速の標高依存性 各観測所の標高と観測期間の平均風速の関係を降雨時、無 降雨時別に示すと図-1のとおりであった。 標高が高くなるにしたがい平均風速は強くなり、標高依存 性を示した。猿倉、上上堀沢は樹林帯内に位置するため、無 風状態の場合が多く、平均風速は低い。無降雨時より降雨時 のほうが風速が強くなった。 降雨という気象擾乱が原因して、 風速が強くなったものと考えられる。 図-2 差分雨量と風速の関係 風速が強くなると差分雨量は低下し、 風速7m/sでほぼ0mm を示した。それ以上の風速になると差分雨量マイナス値とな り、水平雨量が垂直雨量を上まわった。 雨滴捕捉率と風速の関係を図-3に示す。なお、捕捉率は 理論値による割合で示した。また、補填雨量は 10 分雨量の垂 直雨量と水平雨量を比較し、 卓越する雨量を採用したもので、 実際、地表面に達する雨量と考えられる。 垂直雨量の捕捉率は、風速の上昇とともに捕捉率が低下し、 koschmieder の実験結果と同様な傾向が見られた。一方、水平 雨量は風速の上昇とともに捕捉率が増加し、ほぼ風速 4m/s 以上で垂直雨量の捕捉率より高くなった。なお、風速が強い とばらつきが生じるのは、強風時のデータ数が少ないためで ある。 補填雨量は、ばらつきがみられるものの、ほぼ捕捉率 0 の 付近に集中しており、実際に地表面に到達した降雨量を表し ているものと考えられる。 中の風の状態による観測精度低下に影響されることから次の 2つのケースに分けて検討した。 ケース1:風の影響がない降雨での基準雨量設定では、実 際の降雨時に風の影響があった場合に発生する。この場合の 西穂における垂直雨量と補填雨量のスネーク曲線を示すと図 -6のとおりとなる。垂直雨量による警報発令時間は、補填 雨量による警報発令時間より 1 時間 25 分の差異が発生した。 1.6 1.4 垂直雨量 水平雨量 補填雨量 捕捉率 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 450 200 400 8 350 7 300 6 250 5 200 4 150 3 100 2 50 1 0 0 9 8 10 風速(m/s) 12 14 16 18 6/ 30 ~ 図-3 雨滴捕捉率と風速の関係 (3)補填雨量と垂直雨量の差 実際の降雨時に補填雨量と既設雨量計による垂直雨量の 差について、姫川上流域の 10 月 1 日~2 日の累加雨量で表す と図-4のとおりである。 60 9/ 7 9/ 12 ~ 9/ 14 9/ 16 ~ 9/ 20 10 /1 ~ 10 /2 0 10 /5 ~ 10 /8 10 /2 2~ 10 /2 5 6 9/ 6~ 4 7/ 3 7/ 14 ~ 7/ 19 7/ 23 ~ 7/ 26 2 期間内平均風速(m/s) 0 0 白馬岳 2730m 50 図-5 垂直雨量、補填雨量による実行雨量比較 40 70 垂直雨量(10分間雨量) 補填雨量(10分間雨量) W.L.(仮) W.L.超過点(補填)X軸 W.L.超過点(補填)Y軸 65 60 30 20 浦川上流 2180m 10 猿倉 1250m 八方山 1840m 0 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 実効雨量(mm)(半減期1.5時間) 補填雨量-垂直雨量(mm) 10 垂直雨量による 補填雨量による 期間内平均風速 400 実行雨量(mm) サンプル数 500 600 55 50 垂直雨量 補填雨量 7月1日 2:50am 7月1日 1:25am 20.2mm 13.7mm 33.3mm 43.4mm -1時間25分 - 77.1mm 161.5mm 45 WL超過時刻 1.5h実効雨量 72h実行雨量 WL超過時間差 総実効雨量 40 35 30 25 20 15 標高(m) 10 5 330 320 310 300 290 280 270 260 250 240 230 220 210 200 190 180 170 160 150 140 130 120 110 90 100 80 70 60 50 40 30 0 20 0 10 図-4 補填雨量と垂直雨量の差 標高が高くなると差が大きくなり、標高の最も高い白馬岳 では、差が 50mm にも達した。また、標高の低い猿倉は差が なかった。標高の上昇とともに風速が強くなり、既設雨量計 では強風の影響を大きく受け、雨滴捕捉率が低下したためで ある。 以上の結果より、次のことが明らかとなった。 ①既設雨量計により観測された雨量は、強風の影響により、 雨滴捕捉率が低下し、過小評価される。 ②補填雨量は、地表面に到達した雨量を表す。 4.雨滴捕捉率が警戒避難体制におよぼす影響 降雨事例の多かった西穂観測所の垂直雨量と補填雨量の 観測結果からスネーク直線を用いて警戒避難発令状況をにつ いて試算した。垂直雨量による実効雨量、ならびに補填雨量 による実効雨量の計算結果を図-5に示す。 平均風速が強い期間の降雨は、垂直雨量による実効雨量は 補填雨量による実効雨量より少なくなりことが認められた。 強風の影響により、 雨滴捕捉率が低下することが原因である。 このようなことから、強風の影響により実効雨量が影響を 受け観測精度が低下し、警戒避難発令精度に影響を与えるこ とが懸念される。具体的には次の警報発令精度低下が考えら れる。 ①遅すぎる検知→警報発令の遅れ ②早すぎる検知→警報空振りの可能性大 これらの精度低下は、基準雨量設定時の風の状態と、降雨 実効雨量(mm)(半減期72時間) *基準雨量雨量 W.L は仮に設定 図-6 遅れ発生時のスネーク曲線例 ケース2:風の影響がある降雨での基準雨量設定した場合 で、実際の降雨時に風の影響があった場合に発生する。この ケースでは、早めに基準雨量を超過するため警報空振りの可 能性は大きくなる。しかし基準雨量自体が風の影響を受けて いるため、早めの警戒避難を促す雨量指標として位置づける ことができる。従って、より安全率の高い警報の発令が考え られる。 5.今後の課題 強風の影響により既設雨量計の雨滴捕捉率が低下するこ と、高標高雨量計観測により求めた補填雨量は実際の降雨量 を表すことが明らかとなったが、データ量としては少なく、 今後も観測を継続し、信頼性の向上を図りたい考えている。 [参考文献] 1)日坂勲ら:姫川流域における高標高部の雨量観測と降雨 の標高依存性;平成 18 年度砂防学会研究発表会概要集 2)METHODS OF DEFINITE RAIN MEASUREMENTS 111 DANZIG REPORT(1)By Prof.Dr.H.Koschmieder
© Copyright 2024 ExpyDoc