機能性流体の話−海外研究生活の話も交えて− 山口 博司

機能性流体の話−海外研究生活の話も交えて−
山口
博司
「機能性流体」とは何か
機能性流体という話は、私たち研究室で話を進めているテーマでございまして、どんな
ことをやっているのかというご紹介と、それと私は結構、海外生活が長かったもので、「海
外での生活はどういうものだ」というのを皆さんになるべく分かりやすくお話ししたいと
思います。気楽に聞いていただければそれでいいかと思います。
まず、機能性流体ということなのですけれども、これは何のことだということになりま
す。突然そういうテーマがでてまいりますとそういうことになるのですが、最も近いとこ
ろの話をしますと血液なんかもそうなのです。その血液を機能性流体と呼ぶかと言います
とまた別の話なのですけれども、例を挙げて言いますと血液みたいなものも機能性流体の
範ちゅうに入るという話くらいから入ろうと思います。皆さん、血液というものは自分の
体に流れているものですから身近なものなのですね。あまり血液のことについて考えるこ
とはないかと思いますが、機能性流体という視点から考えてみますと、皆さんがけがをし
て切ったとなりますと、まず中から血がでます。血とは不思議なのです。どうなるかと言
いますと、まず傷口をふさごうとする。面白いですね。血とはいろんな機能を持っている
のです。酸素を運ぶとか老廃物を運ぶとかいろんな機能を持っています。更に、皮膚を切
ったら中から血管がでてきて血がでる。血とはどんな機能を持たされているかと一言いま
すと、「自分が今、空気中にでましたよ」と、血が感じているのです。面白いですね。血自
身が「今、私が体内からでて皮膚の上で空気を浴びている」。では血はどういうふうな反応
をするかというと、固まろうとして固まりだします。そうでないと血はどんどん流れます。
血が固まらない病気もあるのですが、固まります。まず固まりまして傷口をふさごうとし
ます。やがて傷口をふさぎますと出血は止まります。中からの自然治癒作用です。皮膚が
再生しまして、血管も再生してくるという具合にして非常にうまくできています。という
ように血液は非常に賢いのです。そういう見方ができるのです。機能というものはそうい
うものなのです。どういうことかと言いますと、今、ちょっと私が言いましたように、血
液というのは今、自分が空気中にでているのだということを自分が感じるのです。非常に
賢いものなのです。だから流体自身、自分が置かれている立場を感知しているわけです。
ある意味で。非常に広い意味で言いますと機能性流体と言っていいと思います。そういう
流体を突き詰めていきますと、最近、非常に面白い流体があるのです。どんな役に立つの
かというお話をしてみます。まず、その血液の例をとってお話をしますと、こういうもの
ができたら面白いなと思う考えが及んでくるのです。同じような考えをしますと、皆さん
よく車を運転されています。車というのは非常に重要なものでありまして、毎日そのまま
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走っていれば何の問題もなく走っているのですが、機械物ですから必ず故障をします。そ
の故障の中でも、たとえば車は冷却系というものを積んでいて、あまりご存知ないかも知
れませんけれども、エンジンというのはいつも発熱しているのです。熱を持って走ってい
るのです。その熱を逃がしてやらなければいけない。その熱を逃がすためには中に冷却液
という液体が入っていまして、エンジンが発熱する熱を逃がしてやるラジエターというも
のが一番前にあるのですが、空気を取り込んで冷やすような機械があるのです。そこヘポ
ンプで冷却液を回しているのです。それで、その発熱する熱を車のラジエターで放熱させ
て、エンジンを守ってやっている。エンジンというのは自分で発熱をします。人間の体も
そうなのですが、発熱した熱を冷ましてやる。そういう機構が車にあるのです。故障をよ
くするのはラジエターのホース、血管と同じです。ホースでつながれているのですけれど
も、車が古くなりまして、十年とかなってきますとそういうところが傷んでくる。やがて
裂けて漏れてしまう。そういう故障も非常に多いのです。車だったらいいのですけれども、
航空機で起こったらどういうことになるか。宇宙船で起こったらどうなるか。これは非常
に深刻な問題です。航空機も、皆さんご存知かもしれませんけれども同じような機構を積
んでいるのです。エンジンを冷やす機構もありますし、航空機というのは、ほとんどハイ
ドロリックといいまして中に液体を流して、翼のフラップとかいうのですが、そういうも
のを制御しているのです。制御しながら安全に空を飛んでいるわけです。これもまたやは
り機械物なのです。何かの原因で、たとえば専門用語で油圧系というものが破れますと中
からオイルがでてきます。冷却系や油圧系で中の液がでてしまうということで機能がダウ
ンしてしまう。たとえば車などはどうでしょう。冷却系で液が漏れますと、十分も走って
ごらんなさい。前のメーターが上って赤いところへきます。そのまま走ってしまいますと
いっぱい煙がでてしまい、その前にラジエターがプシユーと噴いたりします。そういうふ
うにして高い修理代を払わなくてはならないことになるのです。そういうところで今、人
体の話をしていますけれども、もし液体が機能を持ったとしましょう。中に入っている循
環液がもし漏れたとき、
「自分は今、空気中にでちゃったから傷口をふさいであげよう」と
いう機能を持たすことができる。そうしますと車の冷却液は中に流れ外へでないでしょう。
そのままやがてそれが自分で自己修復をしてしまいますと、修理屋さんが皆、飯が食い上
げになり、修理工場が要らなくなってしまうというわけで、車もそのまま走り続けるでし
ょう。たとえば、機械が自分で修復しだすということ、自分の漏れたところ、故障したと
ころ、ちょっと SF がかったかもしれませんが、やがてそういう時代がくるかも分かりませ
ん。というふうに機能性というのは飛行機などもそうです。飛行機なんて今言いましたよ
うに一万メートル上空を飛んでいるのです。そういうところで故障をしたら大変です。大
きな事故につながります。たとえばそういう非常に極限のところで漏れてしまう。ハイド
ロリックをやられたらどうなるか、そういう時は修理するわけにいかないのです。ちょっ
とガレージに寄って直してもらうというわけにはいかない。とにかく下に降りないと、そ
ういうパンと破裂した時に、たとえば、自己修復機能があればとりあえず下まで降りるく
らいの時間を稼げると大きな事故につながることはないという話になるのです。そのよう
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な流体がもしできれば非常に人類の発展に貢献していくわけです。そういうところの視点
で私たちは研究しております。
「機能性流体」の実例
具体的にどういうふうなことをやっているかと言いますと、まだそういう流体はないの
ですが、今、一番近いところでお話ししてみますと、磁性流体というところを私たちはや
っています。また、同じような機能を持った流体は他にもあります。ER 流体、磁性流体、
さらに粘弾性流体、後で少し紹介してみますけれども、そういう流体がございまして、磁
性流体というのは少し血液に似ているところがあります。混ぜものなのです。機能を持っ
ているのは大体、工業的に合成しているものです。いろんなものが混ざっているのです。
血液もご存知のように中に赤血球、白血球いろんなものが混ざっていまして、液体になっ
ていてコロイドの状態になっています。磁性流体というのも後で皆さんにお見せいたしま
しょう。本邦初公開です。たぶん見ることができるのはこれ以外にないと思います。イン
クみたいなものなのですけれども、機能を持っていまして顕微鏡で覗いて見ますと今、流
行の一ナノ」という、十のマイナス九乗の非常に小さい小さい粒子が中に分散されていま
す。そういうふうなオーダーになりますと粒子というのは自分たちでくっついてしまうの
です。くっつくのを防ぐというのが、このテクノロジー、ナノの粒子を作るというのはな
かなか難しいのですが作れます。それを作って分散させておくというのがもっと難しいの
です。ともかくそのナノの粒子がくっつかないで分散されて液体になっているものなので
す。ポイントは何かと言うと、その流体というのは磁場を感じるのです。磁石を感じると
言っていいかも分かりません。ですから「磁石があるか」と聞きますと、「今、磁石がある
よ」と自分で分かるのです。自分で分かつたらどうなるかと言うと自分が反応しようとす
る。何とかしようと磁場の方を向こうとする、そういう機能がある。だからその流体とい
うのは、前の血液と共通性があるでしょう。自分が違った環境、場におかれますと自分が
どういう状況にあるか自分で読める。そういう流体を使っていろんな勉強をしています。
たとえば、どんなご利益があるかと言いますと、いろんなことができるのです。輸送と言
いますが、磁場を使ってエネルギーを輸送したり、A から B に運んだり、さらにそういう
もので私たちも発電をしたらどうかとか、そういうことを提案したりしています。さらに
そういう流体というのは磁場を感じますと自分の粘度が変わるのです。ネバネバとした状
態が変わるのです。流れやすくなったり流れにくくなったり、そういう状況を使いますと
ダンパーとかアクチュエーターとかそういうものを作ったりすることができるのです。ま
だまだ実現には遠いかもしれませんが地道にそういう研究をしております。テクノロジー
というのは大体夢の多い話で非常に面白いです。学生さんたちと一緒に半分遊んでいるよ
うなところもあるかもしれませんけれども、目々そういうところで勉強しているのです。
今、どれだけ磁場に感じるかということを皆さんに回します。中にインクみたいな、黒い
墨みたいなものが入っているのですけれども、なにもバナナの叩き売りをしているわけで
はございません。ちょっと皆さんに回します。これは磁石です。これを下のほうにずっと
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もって行きますと中が盛り上がってくるのです。きれいなパターンができるのです。くっ
つきますよ。液体がくっつくのです。もちろん中の粒子は分散していますよ。鉄粉が分散
しているだけとは違いますよ。インクみたいです。ずっとこのままで安定な液体です。く
っつく直前を皆さん楽しんでください。きれいなパターンができるのです。つまりこの流
体から見ますと自分が磁場の中におるのだよ、ということを感じているのです。自分が姿
を変えようとしている。何も変なことは全くないのです。服につくと落ちません。という
具合に非常に面白い流体を、また後からもう一つくらいお話ししますけれども、そのよう
な流体で夢の多いことをやっています。一方、工学とは非常に地道なところもあります。
日々の研究の積み重ねなのですが、やはり大きな希望とか夢とかが必ずあるのです。そう
いうことに向かって皆さん楽しんでやっているという一つのモチベーションにもなってい
ると思います。
さらにもう一つお見せします。これも機能性というかどうかは少し分からないのですけ
れども、皆さんゴムをご存知ですね。ゴムというのは引っ張ったらビョーンと伸びるわけ
です。単純に皆さん「ゴム、ゴム」と言って、
「そうか、ゴムか」というようなものなので
すけれども、ゴムというのは伸ばすでしょう。ゴム輪でも結構です。今日、お帰りになっ
てマジマジと見てください。放したらパチッと元へ戻るわけですが、これをゴムの弾性と
いうわけです。よく考えてみると、たかがゴムなのですけれども、ゴムは元の状態を憶え
ているのです。そう見えるでしょう。見方によって、ズーッと伸ばしてピッとやったら弾
けて元へ戻るのです。ものすごく不思議な現象なのです。元へ戻るというのは、初めのゴ
ム輪の状況に戻るということなのです。もとのゴム輪になろうという性質がありましてゴ
ムは自分の状況を憶えているのです。だから変形を加えてもパッと放しますと、自分の憶
えていた状況に戻るのです。戻る機構を弾性というのですけれども、ゴムというのは初め
の自分の形を憶えているのです。記憶効果といいます。すなわちゴムというのは一種の記
憶を持っています。これに対して全く記憶のない物質もあります。塑性といいます。ある
種の材料などはグーッと伸ばしてしまいますとそのまま止まってしまいます。弾性という
のは自分の元の形を憶えているので戻るのです。見方の違いなのですけれども見方の違い
によって元の形に戻るようになる、それを言いたいのです。ゴムはそうなのですけれども、
常温で流れるような流体、そういうものを使うと面白い現象が作れるというふうなことも
私たちのところではやっているのです。どんなものかというと、あまり話をしていても分
からないので、皆さんにちょっとお見せしましょう。これは実は三、四年前に私の研究室
で作ったものですが、回しますから見てください。これはブヨブヨしていますね。実はこ
れ流れるのです。どんどん流れていくのです。どんな状況が起こっているかというとゴム
が流れている状況だと思ってください。流れ方はブヨブヨしているでしょう。これは非常
に強い弾性を持っているのです。だから元の状況に戻ろうとするのですが流れている間に
すぐ忘れてしまいますよ。でも少しメモリーを持っているのです。弾性があり、流れる状
況にあります。それでこうした時(容器を傾ける)にこの状況を覚えているのです。それでだ
んだん流れだすと元の状況を忘れて行くのです。ですから次の状況にどんどん移り変わっ
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ていって元の状況には戻りません。でも見方を変えますと少し前の状態を覚えていますの
でちょっと面白い流れ方をします。毒性もありません。毒性はありませんが蓋を開けない
でください。非常に臭い、クレゾールの臭いがします。ですから手に付いたら火傷とまで
はいきませんがピリピリしますしあまりよろしくありません。その意味で見て楽しんでい
ただければそれでいいかと思います。
このように私たちはいろんな流体、これは私たちの研究分野「流体工学」というのです
けれども、一般的には通常の流体、たとえば水とか空気、そういうものを対象として学問
が成り立っているのですが。私たちはこういう特殊な液体をどのようにして私たちの身の
周りに生かしていけるか、基礎から応用まで研究しています。エンジニアリングですから、
先ほど申しましたように飛行機のところに積んだらいいとか、車に積んだらいいとかいろ
んなところの応用を考えながら基礎的なことを勉強していく、そのようなアプローチで私
たちの研究はなされているわけです。
文化の融合と新しい発想
こういうものというのは「先牛どうしてこういうものが発想で生まれてくるんですか」
というような話になりますね。「先生、これ作るんですか。どういうふうな過程でこういう
ものの発想が生まれてきて、作っていけるんでしょうか」とそういうふうな話になります
と、これは融合なのです。今しきりに私たちの科学技術の分野では融合が進んでいるので
す。元々、こういう融合という言葉はあるのですけれども、文明にしてもそうです。皆さ
んご存知のように、文明というのは文化の融合なのです。あるところでいろんな違った人
たち、毛並みの違った人たち、違う考えを持った人たち、そういう人たちがあるところに
何かの形で集まってくる。メソポタミアもそうです。そういうところにいろんな形で人が
集まってきまして、文化が融合していくのです。そうしますと、人類というのは発展する
のです。すなわち、そこで文明が生まれて文明が発展していく、科学技術というのもそう
いう側面があるのです。あるところ、たとえばイギリスがあります。フランスがあります。
いろんなところでいろんな考え方がでてくるのです。それらの考え方が、やがて次の考え
にどんどん移っていくのです。たとえば今、私がここに居て私たちの研究室でいろんなこ
とを勉強をしているのですけれども、同じようなことを、世界中のどこかで誰かがやって
いるのです。そういう可能性があるのです。それでそういう人たちはまた違う方向で物を
考えているかもしれない、でもやっていることは非常に似通ったことをやっているのです
ね。違うアプローチでやっています。そういう人たちがどこかで会って、「この研究で何や
ってんの?」、「こんなことやっているんだよ」ということで融合ができていくのです。考
え方を取り入れていくのです。そうしますと新しいものがまたできてくるのです。こうい
うのは非常に重要でして、科学技術というのは単に自分たちの研究室だけ、自分のアイデ
アだけではないのです。必ずどこかから取り入れて、人と人が会うということが非常に重
要なのです。人間から人間に移っていくのです。そういう意味でも、私は海外での研究生
活が長かったものですから、特にイギリスでトータルすると七年くらいおりました。若い
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頃です。そういう融合というのを肌身に感じておりました。今でもそうなのです。非常に
考え方が違います。たとえば私は目本人です。行くまでは目本で教育を受けて目本の考え
方をしていくわけです。向こうへ行きますと、特に文化の発達しているところは、いろん
な人が集まって違う考えの人がたくさんおります。非常に活発で、「お前、そんなん違う」
とケンカもやります。取っ組み合いのケンカとは違いますよ。考え方の違いによるディス
カッションです。その中から「これは違うね。こういう方法の方がいいんと違うか」とか、
そういうことをどんどんと自分で吸収していくことができるわけです。やがて違った考え
方が取り込めて、また新しい考え方がでてくるように思うのです。これから今言いました
ように科学技術の融合というのは、いろんなレベルで非常に重要だと思います。特に若い
人たちには。同志杜大学には、国際化、国際交流という非常にすばらしいポリシーがあり
ます。建学の精神もそうです。国際化、皆で一緒にやろう。皆で一緒のいろんな考え方を
ぶつけてみよう。ぜひ自分でチャンスを作ってください。なかなかチャンスというのは待
っていてくるものではありません。自分でチャンスを作って積極的にでていって、積極的
に外国の人といろんなディスカッションして意見を交えていきますと、自分のためにもな
りますし、また自分のやっている仕事に非常に大きな弾みになるのです。そういうことは
皆さんもぜひ心がけてこれからやっていただきたいと思います。特に科学技術では私たち
が考えている以上に、向こうにはたくさん研究者がおります。そういう方とディスカッシ
ョンを重ねてやっていきますと、非常にまた新しいアイデアが生まれます。そういうこと
が非常に重要なのです。研究室にこもってやるのも重要なのですが、そのようにして自分
の視野を開いて、いろんな意味で海外の人と交わる。更にまた逆にいろんな人に来てもら
ったらいいと思うのです。私も、身を持って、できる限り呼ばれたらどこへでも行くつも
りにしておりますし、逆に機会があれば来てくださいと言っています。私が行きますと私
一人で、向こうの人は複数、ただし来ていただきますと逆なのです。向こうの人は一人で
すがわれわれの方はたくさんいるのです。同志杜のたくさんの人たちに、その人を中心に
いろんな視野が広がります。面白いアイデアが入ってくるのです。また同志社文化から言
いますと、そういう人たちの影響でいろいろと発展していく。私の私見ばかりになってし
まいますが、私は海外生活が長かったので、そういう人たちとの交わりは、研究も大切な
のですが、非常に宝にしています。これからも自分の身が動く限り先ほども少し言いまし
たけれども、いろんなところへ出かけて行きまして、いろんな人と意見を交換して、自分
の仕事のことばかりではなくて、文化の話もこういうところで皆さんに話すいい機会だと
思います。こういう方向で皆さんも考えたらどうですかという話ができれば非常にハッピ
ーであります。
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