リスクへの挑み方を教えてくれた父、マイク・ヘンリーと、 使命のために生きるとはどういうことか教えてくれた友、ブライアン・トームへ 1 後悔せずにからっぽで死ね 目次 第1 章 後悔せずにからっぽで死ね 仕事に対して新たな意識と危機感をもて ……… 「その場しのぎ」に陥らない 15 「生産的な情熱」をもたらす三つの要因 ……… 喜んで戦いに臨むための三つの問い ……… 70 情熱とは、本来「苦労するかいがある」と思うこと ……… 焦点の定まらない情熱は「その場しのぎ」を助長する ……… 自分の「本線」を決める ……… 臨むべき戦いを見定める― 第4 章 凡庸を招き入れる七つの大罪とは? ……… 凡庸は知らず知らずのうちにやってくる ……… 成功しても、もどかしく思うワナ ……… 凡庸へ堕ちろ、と誘う声にあらがえ 第3 章 評価されるかどうかは関係ない ……… 仕事の三種類と四つのタイプ ……… 仕事にはあなたが何者なのかが表れる ……… これからあなたがやるべきこと 第2 章 この本の効果的な読み方 ……… 「からっぽで死ね」が意味していること ……… 「からっぽで死ね」が意味していないこと ……… 胸の中の思いに気づかないふりをしてはいけない ……… 12 16 18 49 46 2 3 32 39 29 51 75 66 68 23 64 第5 章 いつでも好奇心をもつ― 「多忙なる退屈」に陥っていないか ……… 「マンネリ化」に陥らない 受け身で楽しむか、自分から追求していくか ……… 探索の道筋を作る四つの作戦 ……… 「創造の逆転」はひらめきを枯渇させる ……… 可能性を模索する思考力をもつ ……… 問題の定義を見直す四つの「A」……… 「ぬるま湯志向」に陥らない スランプに陥ったときに問うべき六つの問い ……… 第6 章 安全圏から外へ踏み出せ― ぬるま湯にとどまりたいと思う心に打ち勝つには? ……… 第7 章 大人だって「ヒーローごっこ」をしよう ……… 思い込みを明るみに出すための四つのプロセス ……… 自分の倫理規定を定める ……… 自分を知ること、自分の考えにもとづいて行動すること ……… 「自意識過剰」に陥らない ルールで縛りつけるのは、自意識を満たしたいから ……… 自信をもちつつ、しなやかに― 第8 章 114 「根拠のない自己認識」に陥らない ものごとに遅すぎるということはない ……… 成長するための三つの要素「ステップ」 「スプリント」 「ストレッチ」……… 偶然の展開か、当事者意識か ……… 待つだけの試合は、するな ……… 明かりのついていない部屋に入る ……… 「あなたの一日を観察され、広められるとしたら、どうしますか?」……… 112 167 178 自信のある人は進歩をし、自意識が肥大化した人は保身をする ……… 自信か、肥大化した自意識か ……… 160 152 おのれを知る― 136 145 128 116 自意識にあなたの邪魔をさせないための三つの問い ……… 176 173 4 5 88 85 104 84 99 98 90 126 124 157 いかなるときもサービス精神をもつ ……… 周囲を励まし、評価する ……… 「怖がり」に陥らない パーソナルSWOT分析で現実を知る ……… 第9 章 自分の声を聞け― 聴講するか、責任をもつか ……… 「壁を作る」に陥らない 面倒を避けると、もっと大きな害をもたらす ……… 衝突を握り潰すと、破綻が近づく ……… 人の役に立つために、人の手を借りよう ……… 鏡を見つけるための五つのコツ ……… 問いを発し、掘り下げる会話をする ……… 期待について掘り下げる会話 ……… 「明確さ」について掘り下げる会話 ……… おそれについて掘り下げる会話 ……… 意欲について掘り下げる会話 ……… 212 五つの「治療薬」の効果的な使い方 ……… 「最後の一〇パーセント」を掘り下げる会話 ……… 章 後悔せずにからっぽで生きろ 229 なぜ毎日自分自身をチェックするのか ……… からっぽ(EMPTY)で生きろ ……… プロセスを大切に考える ……… 193 影を追いかける人生は、今すぐやめる ……… 走らず、スキップせず、地道に夢に向かって歩く ……… 矢印が指し示す方向を追いかける ……… 自分の声を探して歩き出せ ……… 章 結びつきを切らない― 第 191 233 第 184 180 197 209 216 220 213 222 226 224 234 6 7 182 190 203 242 208 227 10 11 第 1 章 後悔せずにからっぽで死ね 第 章 その先へ 人生はあなたに何を期待しているか ……… 262 回転木馬にまたがるな ……… 第 1章 謝辞 ……… 出し惜しみをするな ……… グレーゾーンに立ち入るな ……… 260 問題を見つけるか、問題を解決するか ……… 成功/失敗の定義を再度考えてみよう ……… 楽観的姿勢か、希望的観測か ……… 「ラグ」に負けるな ……… 偉大になろうとするな、偉大なことをやれ ……… 248 256 255 253 251 263 250 「死ぬ前に、私は したい」 から空白の入った文章を黒板全体に何行も並べていった。 装 丁 …… 萩原弦一郎+藤塚尚子 (デジカル) カバー写真 …… ©dkey/a.collectionRF/amanaimages 本文組版 …… 山中 央 編集協力 …… 増山雅人 編 集 …… 黒川可奈子 (サンマーク出版) 屋の壁一面を巨大な黒板に仕立てた。黒板の上部に「私が死ぬ前に」という言葉を刻み、それ 生の意義について悩んだりしているんだろうか……そんなささやかな好奇心から、チャンは廃 本当に大事なことは何か、思いをめぐらせていた。他の人もこんなふうに焦りを感じたり、人 アート作品に変えた。チャンは最近大切な人を亡くしたばかりで、命とは何か、自分にとって わるキャンディ・チャンという女性が、ニューオーリンズの自宅近くにあった廃屋を、一つの 二〇一一年二月のこと。アーティストであり、デザイナーであり、都市計画立案にもたずさ ︱ 悲しきかな、胸に音楽を秘めつつ、歌うことなく死にゆく人よ。 オリバー・ウェンデル・ホームズ (詩人) 「 The Voiceless (声をもたず)」より 後悔せずにからっぽで死ね 268 8 9 12 空白を埋めるためのチョークを用意し、期待をこめて待つ。誰か参加してくれるだろうか。 ただの落書きになってしまうだろうか。そもそも気づく人がいるんだろうか。 長く待つ必要はなかった。近所の住民や通行人が、次々に自分の希望、夢、志を書き込みは じめ、このアート作品はたちまち注目の的になったのだ。自分個人とは関係のないことを淡々 と望む文章もある一方で、胸のうちの深い思いをさらけ出した文章も見受けられた。 「死ぬ前に、私はたくさんの人の前で歌ってみたい」 「死ぬ前に、私は本を書きたい」 「死ぬ前に、私はどうしても理解したい」 「死ぬ前に、私は母に愛していると伝えたい」 うわさ 「死ぬ前に、私は誰かを守れる人間になりたい」 噂はあっというまに広がり、近隣から大勢の人が立ち寄っては、独創的な夢や目標をこの壁 に書きしるした。しばらくすると、同じものが他の地域でも作られるようになった。今では世 界中のさまざまな都市に、百以上の「私が死ぬ前に」の壁がある。最初の一つを作ったキャン ディ・チャンはツールを用意し、仲間と共に、プロジェクト拡散をめざして活動している。 いったいなぜ、この試みはこれほど短期間で、これほど広く、世界のメディアで報道される ほど注目が集まったのだろう? 0 0 0 0 おそらく「私が死ぬ前に」の壁は、誰もが自覚しおそれている真実に響いたのだ。私たちが 0 生きられる時間にはかぎりがある。貴重な日々をどう使うか、そこに大きな意味があるのだ。 死ぬ前に一度はしてみたいこと、体験したいことを誰もが意識していて、たいていはその願い を何か月も、もしかしたら何年も心の中に押し込めつづけている。時計の針が時を刻むのを感 じ、 「 私 だ っ て 何 か で き る か も し れ な い の に、 機 会 を み す み す 逃 し て い る ん じ ゃ な い だ ろ う 「知って か」という思いをつのらせる。にもかかわらず、目の前の仕事と生活に追われて、たいていは その衝動に対して無視を決め込んでいる。 ︱ 人生は有限だ。ある日、尽きるときが来る。私の友人はよくこんなふうに言う るか。死亡率は誰でも一〇〇パーセントなんだぜ」 。しかし、私の知るかぎりでも多くの人が、 この事実に目をそむけながら生きているようだ。毎日をぎっちりと予定で埋め、成果はともか くひたすら作業をこなして回る。そして一日の終わりにこんな疑問が残る。「私が今日やった い 仕事は、本当に大切な仕事だったんだろうか」 。あるいは華やかな成功を収めて、高い地位と 報酬を得ていながら、しだいに人生がくすんでいく人もいる。自分の力を活かせることは他に 0 0 もあると思いながら、エンジンがかからない理由が自分でもわからずにいる。もっと人の役に 立てるはず、何か本当に輝かしい成果だって出せるはず、と思いながら、それが何なのか突き 止めるためのロードマップをもっていない。 胸に問うべき問いは明らかだ。生きているうちに自分の最高の成果、最大に価値ある仕事を 世に出すために、どうやって具体的な行動の指針を定めればいいか? 世間には、人生を充実 10 11 DIE EMPTY 第 1 章 後悔せずにからっぽで死ね させる方法、夢を実現する方法、生きる意味を見つける方法についてメッセージがあふれてい るが、たいていは底が浅く、役に立たない凡庸な言葉ばかりだ。しかも、あわただしい日常生 活のさなかでは、締め切りを守ったり昇進をめざしたりするのが最優先で、それ以外のことを 考えるのは無駄に思える。ロードマップのことなどきれいさっぱり忘れて突っ走り、何年も何 年もたってから、ふと見知らぬ土地に立つ自分に気づいて、こう思うのだ。 「本当の私がわからなくなってしまった。どうしてこんな生き方になってしまったんだろう。 どうやってやり直せばいいんだろう」 こんなシナリオに陥りたくなければ、方法は一つ。自分が「これ」と定めた道を確実に進ん でいくために、一貫性のある行動を日々積み重ねていくことだ。時間がたってから大幅な路線 ベ ス ト ワ ー ク 変更を迫られるよりも、今日、迷走を防ぐささやかな努力をすればいい。この本では、自分の 「最高の仕事」を引き出すための考え方と方法を探っていく。めざすのは、人生の最後の日を 迎えたときに、過ごした日々を後悔しない自分になることだ。 仕事に対して新たな意識と危機感をもて 前著『 The Accidental Creative (ア クシデ ンタル・ クリエ イティ ブ)』(未邦 訳)に も書い たのだが、あるとき友人の一人が、奇妙で意表を突くクイズを投げかけた。 「世界で一番価値の高い土地はどこだと思う?」 その場にいた一同は推測をめぐらせた。マンハッタンか、中東の油田か、それとも南アフリ カの金鉱か。どれも違う、と友人はにべもなく切り捨てる。そして少しの間を置き、こう言っ た。 「全部不正解だよ。この世で一番価値の高い土地は、墓場だ。墓場には、書かれなかった小説、 立ち上げられなかったビジネス、和解できなかった人間関係、それ以外にも人が『明日にはや ろう』と思っていたことのすべてが埋まっている。その『明日』が永久に来なくなる日のほう が先に来てしまった、というわけだ」 この話を聞いた日、オフィスに戻った私は手帳に短い言葉を書きとめた。同じ言葉をオフィ スの壁に掲げ、働くうえでの信念として何年も胸に抱きつづけている。 「からっぽで死ね」 今夜床につく自分が、それっきり二度と目覚めないのだとしたら、自分の中にある創造の力 はすべて出し尽くしたと思って死んでいきたいのだ。集中力、時間、エネルギーをどんなふう かな に使ったか、できるかぎり後悔せずに死にたいのだ。そんな死は偶然には訪れない。あくまで か 意識的・持続的な努力のもとに叶う死に方だ。自分の経験からいっても、今まで一緒に仕事を してきた人たちの例からいっても、その努力には賭けるだけの価値がある。 「まだ働きたいと思いながら死んでいく人間などいない(だからあまり根を詰めるな)」。よく 12 13 DIE EMPTY 第 1 章 後悔せずにからっぽで死ね 聞く教訓だが、私が思うに、この言い回しは間違いだ。それどころか、意味を考えれば少し危 険な表現かもしれないと思っている。理由の一つは、実際には「もっと努力すればよかった」 と後悔する人が多いこと。死が目の前に迫り、避けられないと思い知ったときになって、やり 直すチャンスをもらえるなら何だってするのに、と痛感する。これまで自分自身の直感、ひら めき、確信がちくりと心を刺すのを感じながら、ずっとそれらを無視してきた自覚がある。お じけづいてリスクを避け、安心を選んできたことを思い返す。勇気を出して夢を追いかけよう ゆううつ とはせず、ただ過去の判断を悔やみながら過ごしてきてしまったのだ。 二つ目の理由は、先の表現が仕事のことを「本質的に憂鬱なこと、意思に反してさせられる こと、真に大切なことや人との時間を奪うもの」と想定している点にある。だが、生活費を稼 ワーク ぐだけが仕事ではない。どんな価値を生み出すにあたっても、時間をかけ、集中し、エネルギ ーを注ぐ必要がある。職業であれ、人間関係であれ、育児であれ、それは「仕事」だ。おそら くヒトという生き物は、骨を折って労働して価値を生み出すことで満たされるようにつくられ ているのだろう。だからこそ、昔から仕事は人のアイデンティティと密接につながり、存在意 義を確かめるよりどころとされている。自己認識と働き方を結びつけて考える人ほど、自分の ねら ささ 働き方そのものに満足を感じ、ひいては人生に喜びを見いだしていく。 この本でめざした最大の狙いは、毎日を、そして人生を捧げる仕事に対して新たな意識と危 機感をもって臨んでほしい、ということかもしれない。本当に大切なことは何か。ただ流され るのではなく、喜びを胸に目標を追いかけていくにはどうしたらいいか。それをあなた自身が 解き明かす一助になればいいと思う。 胸の中の思いに気づかないふりをしてはいけない とはいえ、この本を書くのには苦労した。正直なところ強い抵抗感すらあった。死について 考えたいという人は一人もいないし、死をモチベーションアップのスローガンにしたい人など という光景を想像すると笑ってしまう。 いるわけがない。それはまぎれもない真実だ。カンファレンスのステージで、「からっぽで死 ― ね」と書かれた巨大な横断幕の前に私が立っている 自己を啓発しようとカンファレンスに集まった観客にとって、とてもではないが心温まる言葉 もう とはいえないはずだ。もっとまともな路線にとどまって、イノベーションやコラボレーション について語っていたほうが安全だし、おそらくずっと儲けにつながるだろう。 それでも私は、この本を書かないという道を選ぶわけにはいかない。二年ほど前からこのメ ッセージを何千人という人に伝えているが、 「人生の見方が変わった」「仕事に対してもっと危 あらし 機感を抱かねば、と思うようになった」というメールが世界中から舞い込んでいる。その一方 で、行き詰まったり、どうせ嵐はいつか過ぎると期待したりして、努力をあきらめ、ベストを 尽くすことを放棄する人にも、毎日のように出会っている。彼らにはまだまだ発揮していない 14 15 DIE EMPTY 第 1 章 後悔せずにからっぽで死ね そう考えると、私の胸は痛むのだ。胸 ポテンシャルがあるはずだ。単純な習慣をいくつか日常に取り入れるだけで、非効率が改善さ ― れ、自分のポテンシャルを活かす道へと進めるのに の中の思いに気づかないふりをしてはいけない。それを私自身にもわからせたくて、この本を 書いている。 「からっぽで死ね」が意味していないこと 「からっぽで死ね」というフレーズは、仕事にすべてを捧げつくせ、という意味だと誤解され やすい。悪魔のような笑みを浮かべた意地の悪い上司が、部下の労力を最後の一滴までしぼり とろうと、 「からっぽになって死ぬまで働き抜け」というポスターを掲げて鼓舞している光景 も目に浮かぶ。どうかわかっていただきたいのだが、私はこの本でそんな世界をめざしたいわ けではないのだ。 ●「何が何でも今日すべてをやれ」ということではない 日本語には、働きすぎによる死を意味する「カロウシ(過労死)」という言葉がある。第二 次世界大戦で生活すべてに生産効率が重視されるようになってから、ここ数十年ほどで、「カ ロウシ」は日本文化にめずらしくない現象になった。上の役職に進んだ人の多くが、将来はま だこれからという時期に、過労の他にはこれといった理由もなく命を落とす。私が言う「から っぽで死ね」が示唆しているのは、絶対にこんな状況ではない。仕事をやっつけるためには人 生のすべてをなげうっていい、という話ではない。むしろ猛烈すぎる働き方は往々にして裏目 しん に出る。ベストワークをめざしてからっぽになるというのは、ToDoリストの項目をクリア ちよく するという意味ではない。人生のあらゆる面で、大切なプロジェクトのために毎日安定した進 捗を重ねていくことなのだ。こうした考え方で働いていれば、実現のチャンスが高まるだけで なく、気持ちもはるかにしっかりと満たされる。 ●「明日なんかどうでもいい」ということではない チャンスにはいつでも責任がついてくる。仕事で成果を出していくためには、今日の行動が たた 明日の成果にどう影響するか、自分の仕事が他人の生活にどうかかわってくるか、しっかり意 識しなければならない。今日の選択が明日の後悔にもつながるのだということを、頭に叩き込 んでおかなければならない。 ●「好きなように生きろ」ということではない 自分の情熱、スキル、経験を活用 して誰か、もしくは 何かに貢献するのは、あなたの「責 任」だ。求められている期待にこたえ、成果を出すための資金や給料を出してくれた人には敬 16 17 DIE EMPTY 第 1 章 後悔せずにからっぽで死ね いら だ 意を払わなければならない。自分が信じる意義を追求することと、たとえ自慢にならない仕事 でも上司や顧客の期待にこたえること、その二つのはざまで苛立ちを抱える人は多い。だが、 この本で見ていくとおり、その苛立ちは考え方をちょっと切り替えるだけで解消できる。満足 度も増し、究極的には仕事のクオリティも高まる。 「からっぽで死ね」が意味していること この本では数々の実践方法や守るべき原則を考察していくが、根底には核となる「真実」が ある。仕事への向き合い方を意識するために、次に挙げる真実を理解してほしい。 ●人生はかぎられていて、いつか尽きるときが来る この事実だけは絶対に揺るがない。私たちは「今日の仕事はいつだって明日に回せる」と頑 固に思い込んでいるが、それは幻想だ。今日なすべき仕事に対して危機感を抱いて生きるべき なのだ。今日失われた機会は永遠に戻ってこない。それどころか、そうした幻想を抱いて仕事 をしていると、人生全体に対して同じ幻想で臨むようになってしまう。仕事と真剣に向き合い、 自分自身を律して、毎日の取り組みを通じた成長を続けていれば、その力はあらゆる側面で活 きてくる。そんな大事なチャンスを逃してはいけない。 ●あなたが世界のためにできることがある うそ よくある自己啓発のおべんちゃらではない。真実だ。この真実を引き受けず、行動を起こそ うとせず、 「世界のためにできることがあるなんて、噓だ」と言いながら生きていくこともで きるだろう。だが、あなたと同じ情熱、スキル、経験の組み合わせをもつ人はいない。その組 み合わせこそ、他には誰もできない「何か」をなす力だ。手放してしまえば、眠れる可能性は 決して日の目を見ず、あなたは永遠に「もし……だったら?」と思いつづけていくことになる。 後悔という代償は計り知れない。 ●あなたがすべき貢献は、他の誰も代わってくれない 許可を待つだけの人生は簡単だ。だが、誰でも自分の手札で勝負しなければならない。責任 ひきよう を他になすりつけ、誰かを叩き、文句ばかり言う癖をのさばらせてはいけない。そのままでい ると、多少は自責の念を感じたとしても、やがて人生のあらゆる場面で同じ卑怯な癖が出てく るようになる。何かの役に立ち、自分のポテンシャルをからっぽになるまで発揮したいと思う なら、真正面から向かい合うこと。被害者面はやめることだ。 ●「貢献する」とは「認められてほめられるか、気づかれずに終わるか」の問題ではない 評価されたいという願望を完全に捨てて行動するのは難しい。たしかに、称賛や褒美をたく 18 19 DIE EMPTY 第 1 章 後悔せずにからっぽで死ね さん得られることもあるかもしれない。あるいは反対に、見事な功績をなしながらも、無名で 生きていくこともあるかもしれない。だが一番可能性が高いのは、その中間くらいに収まるこ ― それが、持続的な貢献をするための とだ。現代の文化は「脚光」や「称賛」に過剰な重きを置きすぎて、結局は私たち自身を苦し 安全地帯は危険地帯である めているのではないだろうか。プロセスを大切にする カギだ。 ︱ ●安寧を求めるな やす 貢献するのが簡単なら、誰でも貢献するだろう。残念ながら、意義のある生き方をするのは 楽ではない。そして人は易きに流れ凡庸に陥りやすい。同僚でも、上司でも、あるいは友人で も、あなたが本気で力を尽くすことを喜ばない人がいるとしたら、それは自分にも同じ貢献が 求められることをいやがっているからだ。あなたが頭一つ抜けようとすれば、彼らが大急ぎで 引きずり下ろそうとするだろう。組織もあなたにそこそこの給料と、すてきな肩書と、安定と いう安心感を与え、あなたをその他大勢の中につなぎとめておこうとするだろう。あなたは 「金ぴかの手錠」で拘束されているのだ。心地よい待遇にくるまっているのも結構だが、たや すい安寧を愛する気持ちがあると、真のポテンシャルは発揮できなくなる。汗を流した副産物 として安定を得るのは悪いことではないが、それ自体を最大の目標にしてはいけない。意義と 映すものではない は、たとえ楽ではない場合でも、常に正しい選択をしつづけていくことで生まれるものだ。 ︱ ●信念は示すもの 仕事と信念の足並みがそろっていれば、価値ある貢献ができる可能性は高い。誰かの主張を 映すだけの鏡になってはいけない。人生を導く核となる信念は、たとえ火の中でも水の中でも、 自分の手で泥をかき分けて探さなければならないのだ。そのうえで、信念を守るという明確な 覚悟をもって、自分の仕事に真っ向から取り組む。新しいものごとに挑戦したり実験したりす るチャンスがいくらあっても、信念を背負って立つ覚悟がないのなら、結局は失敗するだけだ。 ●「スイートスポット」は写真を現像するように見えてくる 野球などの球技に「スイートスポット(最適打球点)」という言葉がある。球がバットに当 たる一番いい接点のことだ。こめる力は同じでも、その接点に球が当たれば、わずかに打点が ずれたときとは比べものにならないほど遠くまで球を飛ばすことができる。これと同じスイー トスポットが人生にもある。自分だけの価値を発揮できるポイントがある。 ほとんどの人は、人生のミッションは最初から与えられているもの、と思いたがる。だが人 スイートスポットで打ちさえすれば、どんな場面でも、きっと は具体的な使命を決められて生まれてくるわけではない。世界に貢献する方法など、数えきれ ― ないほど存在しているのだ 大きな偉業をなせる。ただし、そうした機会は行動を重ねなければ見えてこない。実験や失敗 や成功がヒントとなって、暗室で写真が現像されるように、ゆっくりと自分のスイートスポッ 20 21 DIE EMPTY 第 1 章 後悔せずにからっぽで死ね トが浮かび上がってくる。さまざまなことに挑戦し、スキルと感性を伸ばす努力を続けている うちに、だんだんと自分だけの価値や長所がわかってくるものなのだ。粘り強さが必要だ。長 くかかる試合だが、まずは始めなければならない。 ●未来の収穫のために、種は今日まく 今日まいた種が、明日、もしくはもっと先の未来の収穫になる。自分にとって本当に大切な 土壌に、いつかは花が咲き実がつくと信じて、毎日の行動を通して種をまいていかなければな らない。 ここに紹介した「真実」は、いってみれば当たり前のことなので、それほど強調するつもり はない。だが、この本が提示する具体的な習慣や活動は、これらの真実にもとづいている。私 が最終的に望むのは、あなたが「今」の大切さに気づくこと。楽な生き方を誘う誘惑、不安、 なれあい、そしてエゴに邪魔されてはいけない。そんな落とし穴には背を向け、夢のために今、 行動を起こすのだ。 この本の効果的な読み方 本書は三つのセクションに分かれている。最初の三つの章では、「なぜ仕事が大切なのか」 章から第 章では、自分のベストワークを解き放つ考え方と手法につい 「あなたにできることとは何か」 「なぜ才能あふれる人が能力を発揮できないのか」というテー マを探っていく。第 10 いができるかのような約束をするわけにはいかない。 いと思うが) 。楽観的な姿勢は、心が折れないための大事な要素だと思うが、労せずにいい思 などというタイトルの本を手に取ったあなたは、甘いアメやすてきな絵空事など期待していな がたちまち見えてくるカンフル剤も入っていない(もちろん、『後悔せずにからっぽで死ね』 ただし、一つ注意がある。このあとの章には、お手軽な問題解決手段も、人生の明るい側面 に働く人とぜひ共有してほしい。誰かに伝えるというのは理解を深める最善の道だからだ。 がないと思える章もよく理解していただけるだろう。また、この本で得られた気づきを、一緒 かけを実践してから、他の章にも手を広げていってほしい。そうすれば、自分にはさほど関係 自分に近い章があると感じる場合は、ぜひそこを重点的に読み、提示している取り組みや問い この本全般にわたって具体的かつ即座に実行しやすい内容を書いていくつもりだが、とくに 活用して、人生の意義とつながりをより深く見いだしていくための戦略を提示したい。 て、守るべき原則を見ていく。最後の二つの章では、こうした原則を毎日の生活に織り込み、 4 22 23 DIE EMPTY 第 1 章 後悔せずにからっぽで死ね 私がめざすのは、私がもつノウハウを可能なかぎりストレートに伝えることだ。あなたには まだまだ発揮していないポテンシャルがある。あなたのベストワークはこの先に眠っている。 だが、どんなに考え方がポジティブでも、断固とした行動が伴わなければ何も生まれない。行 動しなければ! さもないと、あなた自身も、同僚も、家族、組織、そして世界も、あなたが なしえるすばらしい貢献を享受できないままに終わってしまう。 行動しないことの代償は大きい。ベストワークを胸に抱えたまま墓に入ってはいけない。か らっぽで死ぬ道を選ぶのだ。 第 2章 ︱ 人生でみずからがなすべきことを知らぬ、つまらぬ人間にかぎって、永遠の命を望んでいる。 アナトール・フランス (詩人) これからあなたがやるべきこと 忘れるな 自分が大切にしている「何か」が、自分の仕事や作品に反映されて いるか。 あなたは一日のうち何時間を、将来の自分が誇れる仕事のために費やしているだろうか。 二〇〇五年、スタンフォード大学でスピーチをしたアップル創業者・CEOの故スティー ブ・ジョブズは、卒業生にこんな言葉を送っている。 「私は毎朝、鏡を見て問いかけます。 『 も し 今 日 が 人 生 最 後 の 日 だ と し た ら、 今 日 の 予 定 に あ ることを私はするだろうか』と。答えが『ノー』の日があまりにも続くようなら、何かを変え 24 25 DIE EMPTY 第 2 章 これからあなたがやるべきこと 一章分まるごと読める﹁サキ読み﹂ ﹁立ち読み﹂のサービスをご利用いただき、 ありがとうございました。 お読みいただきました書籍の タイトル・本文は、本サービス掲載時のものです。 実際の刊行書籍とは、一部異なる場合がございます。 あらかじめご了承ください。 株式会社 サンマーク出版 / p j . o c . k r a m n u s . w w w / / : p t t h
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